「おかえり」
日課のお兄ちゃんとの散歩を終えて部屋に戻るとちょうどさつきせんせがサボりにきていた。
そういえばこれから一緒にB小町の3rdライブの映像を見る予定だった。
お兄ちゃんは推し活に理解を示してくれているがさつきせんせほど熱心ではない。
最初に布教してきたのはお兄ちゃんだったと思うのだがせんせとライブ映像で盛り上がっている間お兄ちゃんはただただ穏やかに微笑んでいるだけだった。
あいさつを返して私がベッドに入るとお兄ちゃんは横の椅子に座りポケットからあるものを取り出した。
それを見た私とさつきせんせは言葉を失った。
「二人にクリスマスプレゼント」
お兄ちゃんはもっているものを私とさつきせんせにそれぞれ渡した。
渡されたものが非現実的すぐて私とせんせは目を見合わせてうまく声が出せず口だけが空回りする。
「こ、これ宮崎でやるB小町のワンマンライブの最前席限定チケットだよね?!どうやって手に入れたの?!」
せんせがなんとか言葉をひねりだしてお兄ちゃんに詰め寄る。
私は渡されたチケットをいまだにどこか現実と思えず何度も書かれている内容をお見直してしまう。
『S席・プレミアム/アイ』
確かに以前、お兄ちゃんがリストアップしてくれたグッズやイベントまとめの一覧にあった。
最前列の席でしかもライブ後に特典としてチケットに書かれているメンバーと1対1でおしゃべりできるとんでもないものだと。
ただ、自分には縁がないと思い考えもしなかった。
「東京に行って手に入れただけだ。面会が終わって夜の便で東京行って手に入れてさっさと帰ってきただけだ」
なんとなしに入手方法を言われ頭を抱えそうになってしまう。
そんな簡単に手に入る物でないことは私にだってわかる。
このチケットはネット販売されておらず東京で抽選に参加しないと手に入れることができない。
ただでさえ入手が難しい良い席のチケットでそれもセンターのアイのチケットをそれも2枚だ。
「そ、そんな貴重な物もらえないよ!さりなちゃんと一緒に行ってきなよ!」
せんせはあまり気まずさにチケットを返そうとしているがお兄ちゃんは受け取ろうしない。
お兄ちゃんはポケットに手を入れると同じようなチケットを一枚取り出した。
同じデザインだがカラーリングが違った。
そこに書かれているのは『S席・プレミアム/ニノ』の文字。
「一応俺の分もある」
「あれ?藍斗くんはニノ推しだっけ?」
せんせも同じことを疑問に思ったらしくお兄ちゃんに聞くと少しだけ困ったような表情を浮かべた。
「いや、まぁそういうことにしておいてくれ」
それを聞いた私とせんせは目を見合わせにやっとしてしまった。
「そうだよね!ニノは歌もうまいし笑顔が素敵だもんね!アイとは違った魅力があるしやっぱり最初のセンターってだけあるもんね!」
「興味がないふりしちゃって性格悪いぞ~!じゃあ藍斗君も一緒にライブ見て楽しもう!」
思わず早口でまくし立ててしまう。
そういうことに興味がないと思っていたのにちゃんとお兄ちゃんも男の子なんだなぁと思わずうれしくなる。
でも、少しだけ胸の奥が傷んだ気がした。
「ライブはまだしばらく先だからさりなは体調を最優先にな。担当医の藤堂先生には外出許可はとってあるから、ちょっとでも体調良ければ背負ってでも連れて行ってやる。雨宮先生も休みの予定空けといてください」
「あ、というか私が行くのは確定なんだね?」
「行きたくないんですか?」
「行きたいです!」
外出許可や背負ってでも連れて行ってくれるという言葉にうれしくなる。
でも、せんせと仲良く話すお兄ちゃんを見て少しまた胸の奥が傷んだ。
そして、今の言葉の後にお兄ちゃんの瞳がこれまでにないほど濁った。
そんな気がした。
女の子にした以上当然アクアも救わなければ(義務感)