【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
暗いお話です
「隔週程度になると思うが、キミたちにダンス・歌・パフォーマンスを指導する天童寺アイトだ。よろしく」
初めて会ったあなたは今とは少し違いメイクで隠しきれないほどの隈があり、腰まで届く少し傷んだ長い黒髪の長身な男性で、その瞳はまるで世の中すべてを恨んでいるかのような光一つない真っ暗な黒だった。
モデルとして苺プロにスカウトされ半年ほどしたら他の二人(タカミー、めいめい)とアイドルグループを組むことを斎藤社長から告げられ、その指導役として紹介されたのが彼だった。
「キミたちに十分な指導をするために人を雇う予算がまだこの苺プロにはないため、俺が最初にすべて覚えてくる。その後君たちに指導するという形をとる」
「それじゃあ私たちあなたがいない間まともにレッスンもできないわけ?」
タカミーが彼に食って掛かった。
それならモデルのままゆるーくやっていた方がマシだから当然だ。
「すでに今日指導する分は覚えてきている。次に来るまでの間に覚えてもらいたいものもすべて映像で残してある。疑問があれば24時間問わず連絡をよこせ。即時返答してやる。学業を言い訳にさせる気はないから、勉強でわからなくても答えてやる。俺の都合を考える必要はない自分を最優先にしろ」
有無を言わさない口調で彼にそう言われ、正直私たちは面倒な自信家な人にあたったと思った。
ただ、その認識はその日のうちに覆されることになった。
見本として見せられたダンス・歌(オリジナル曲2曲)・パフォーマンスは、目の前の人物が星と見紛うばかりのアイドルだと思わされた。
息をのむ、とはまさにこのことを言うのだと初めて思い知らされた。
その時にはもう、私たちはこの人のファンになっていたと思う。
タカミーが彼を試す目的で深夜・早朝・昼間と適当な時間に連絡を入れてもすぐに返事が来たのもそれに拍車をかけた。
私たちはこの人についていけば、あなたのような輝ける星になれるのだと疑う気さえ起きない。
そんな強烈な出会いだった。
アイドルとして初めてのライブには客は7割ほど入っているくらいだった。
あとでしったけど、それでも初ライブとしては十分人がいるほうだったらしい。
それも、ライブ前に彼が宣伝・人集めをしてくれたからとのこと。
これを皮切りにライブのたびに人が増え、数回こなしたころには小さなハコのチケットは完売するようになった。
またアイドルとしての自己レッスンで成績が落ちそうになって連絡を入れたら丁寧に勉強を教えてくれた。
それのおかげでそれまで取れなかった点数を取らしてもらい、学年でも上位の成績をとれた。
そこまでアイドルとして、また学生としてのフォローをされて私が彼に淡い気持ちを抱くのはそう時間がかからなかった。
大切にされているという実感が胸を満たしていくのがわかる。
彼はマネージャーのような存在だから、創作物の世界のようにいつかアイドルを卒業したら結ばれるのかな?なんてことをこのころは考えていた。
あの子が加入するまでは・・・
「星野アイです!」
アイドルグループB小町として活動し始めてから半年以上過ぎたあたり加入した彼女を見た瞬間、私は自分が勝てないと直感的に理解させられた。
今のメンバーでは私がセンターをやっていて、自分に自信が出てきたころだった。
モデルをしていたから容姿には自信があったしアイドルとしても他の二人より上だったと思う。
それでも、彼女には勝てないと思った。
「アイトの妹です。兄さんともどもよろしくね」
続いて告げられた言葉に私は理解が追い付かなかった。
苗字が違う、と思ったけど家庭の事情で離れ離れになっていたらしい。
そんなことより思ってしまったことがある。
私たちはこの子の踏み台として用意されたんだという彼への絶望だった。
成長し始めたグループに身内を入れるなどそんな理由ぐらいしかないだろう。
そう思ってしまうぐらいこの時の私は一瞬で卑屈になっていた。
しかし、その考えとは裏腹に彼はアイを特別扱いしなかった。
むしろ妙にからもうとするアイを少しうっとうしそうにしていたようにさえ見えた。
今、思うとこのころの彼は本当に余裕がなかったのだろう。
これる頻度が少ない理由を聞いたら宮崎に彼が引き取られた先の家族の妹が重病で入院しており、その世話をしているからと言っていたのでおそらく、妹さんの具合がよくないのだとは容易に予測できた。
少しでも彼の負担を減らそうとレッスンを頑張ったら、彼がより親身に指導してくれるようになった。
より魅せるには、輝くにはと、教わるたびに自信がつき私はアイを手の届かない存在ではなくライバルだと思えるようになっていった。
アイが加入して半年ほどたったころだろうか、そのころにはさらに3人メンバーが増えB小町は7人グループとなっていた。
そして、センターは全員の意向でアイにまかせた。
満場一致で決まり、不満は感じていない。
自分とアイの差は私が誰よりも理解していたからだ。
このころには私とアイの違いがなんとなくわかってきていた。
私はファンを愛そうとしていない、と。
逆にアイはファンを愛そうとしている、と。
その差が私たちの間にある絶望的な差だと理解していた。
そして、何より、私はそれを悔しいと思うことができないのがアイドルとして悔しくてしょうがなかった。
私はある意味満足してしまった。
彼がこちらを見てくれる、私の笑顔を素敵だと言ってくれた、それだけで満たされてしまったのだから。
このまま、私は一番星の引き立て役として下がるのだろうと思っていた。
そんなある日のいつもと違う少し大きめの場所でのライブで、彼は珍しく舞台裏ではなく観客席の奥の方にいた。
背中にニット帽をかぶった子を背負っているように見えた。
その子が誰かよりも目線の先で私たちを見ているのがわかるとうれしくてしょうがない。
気が付けばそんな彼に私はいつものアイドルスマイルではなく彼に向ける笑顔を向けていた。
これがきっかけらしく、私の人気が急に上がり始めた。
エゴサして、それがあの笑顔のおかげだとわかり彼の言葉の意味がなんとなくわかった。
それからは私はファンを通して彼を見ることで笑顔を振りまけるようになった。
歌もダンスもパフォーマンスも彼に向けるものだと思えばどれもクオリティーがあがっていき、いつのまにかB小町のツートップだと言われるようになった。
もちろん私目線ではまだアイが上だけど、認められてアイドルとしての私が満たされた気がした。
ある日、全国各地でのライブが決まるとアイを除くメンバーに彼からある頼みごとをお願いされた。
それは宮崎ライブでのアイのプレミアチケットの獲得に協力してほしいとのことだった。
胸の奥がズキンと傷んだ気がした。
ただ、話を聞くと知り合いに渡したいのであって自分が使うものではないらしい。
また協力してくれるなら食事をおごってくれるし、チケットを手に入れた人のお願いならなんでも聞いてくれる、とのことだった。
私はメンバーになりふり構わず頭を下げて協力を申し出た。
意外にも全員があっさりと協力してくれたのは拍子抜けだったけど、曰く応援しているとのことだった。
私は他のメンバー(カナンが獲得してくれた)が手に入れたアイのチケットを彼に渡した。
「ありがとう」
その言葉だけで報われたような気さえするのは我ながらちょろすぎると思ってしまう。
「約束、守ってよね?」
「ああ。このライブでは最前列で緑のサイリウムを持つし、『今後ライブでは緑のサイリウム以外は持たない』」
そう、それが私が彼と交わした約束。
ひどい独占欲だと思う。
これまで観客席にいてもサイリウムを持たなかった彼に自分のイメージカラーのサイリウムを持たせたうえで他の色を持たせないように頼んでいる。
ある意味メンバー内で不可侵だったところに手を出した自覚はあった。
それでもライブだけでかまわない、私だけを推してほしい。
それでもライブだけでかまわない、私以外を推さないでほしい。
そんな気持ちを込めた約束だった。
貴方という太陽が照らしてくれるならそれだけで私は誰よりも輝ける気がするから。
宮崎ライブが行われるころには彼は常に東京にいるようになり名前も『星野』に変えていた。
斎藤社長から聞いた話だけど、長年面倒を見ていた妹さんが亡くなったらしい。
事情が事情だけに深いことは聞けず私たちは可能な限り彼に優しく接した。
荒れてくれればまだマシだと思うほど、彼はこれまで通りだった。
変わったことと言えば正式に苺プロのマネージャーとして雇われ、ついでに俳優業もはじめたくらいだった。
これに関してはメンバー全員から社長へクレームを入れたが、あくまでB小町優先ではあるらしいので一応手をひっこめた。
そして、実際に宮崎でのライブが行われた際に彼は変装を一切せずに約束通り緑のサイリウムを持って振ってくれた。
たった1本のサイリウム。
それなのに、他にもたくさんあったはずの光が見えなくなるほど私にはそれがあまりにもまぶしい。
今、この瞬間は彼がこちらだけを見てくれているのが実感できてうれしくて仕方なかった。
その後の1対1のおしゃべりタイムでは、特に何かをしゃべったわけではないけど互いにジッと見つめあっていた。
彼の瞳の中に眩い星が見えた。
なんとなくそれだけで前日に誰かと食事をしていたのがどうでもよくなった。
このライブでの評価だけ、私はアイを上回ったというのはあとでエゴサをして知った。
彼に向ける感情、それがもれでたものが私をアイドルたらしめている。
それをこの時本格的に理解した。
彼さえいてくれれば私はずっと輝ける。
それと同時に彼の夜空のような瞳に輝くのは自分だけであってほしいと思い始めていた。
だけど、それがかなわないのだと私は思い知らされることになった。
数年後、レッスン中のアイを見て私たちは気が付いた。
B小町は他のアイドルグループに比べてメンバー間の仲がいい。
それもこれも彼が私たちのことを気遣って仕事に偏りがでないようにしてくれたからだ。
そのため、メンバーの不調ぐらいならわかるようになっていた。
最近妙にダボついた服を着るようになっていたり『食べ過ぎちゃって』とへたくそな嘘をつくようになっていたアイを見て、全員がある答えにたどり着いている。
ほぼ確信して私たちはアイに私たちに言われたことは必ず隠して社長に報告するよう促した。
理由はアイを思って、というのもあるが、変にこれが漏れたらB小町だけでなく苺プロもやばいからだ。
一応、私たちは気づいていないようにふるまうことにした。
そういえば今日は体調不良で休養していた彼が復帰する日だと思い、私はレッスンスタジオから苺プロの事務所へと向かった。
今思えばその日だけはやめておけばよかった思う。
苺プロの中には誰もおらず、探していると社長室から会話が聞こえてきた。
『その子は俺の』
ちゃんと聞き取れなかったけど中からそんな言葉が聞こえ私はめまいに襲われた。
その後も頭が拒否して彼の言葉が認識できず、飛び飛びにしか聞き取れない。
『お父さんをやってくれるの?』
『 』
『うん!ありがと!うれしい!』
嬉しそうなアイの声だけが妙にハッキリと聞こえた。
アイのお腹の子は・・・彼の?
私はそれ以上聞きたくなくてその場から逃げるように離れた。
そこから、私は彼をちゃんと見れなくなった。
その後、アイの子が産まれると当然だけどアイの子ということは隠して彼の子として公表された。
兄妹なのだから二人の子じゃないと思っているメンバーは父親不明のアイの子だと知っているので、彼がアイや事務所をかばっているのだと思っている。
しかし、私はそれが彼の子だと知っている。
知りたくなかった。
知ってしまったせいで私はアイに対してどす黒い感情を抱くようになった。
踏む込まなかった私が勝手に傷ついているだけだっていうのはわかっている。
元々、彼とはそういう距離感じゃないというのも理解している。
ライブだけで構わないと思っていたくせに。
それでも思考が止まらない。
私の気持ち知ってたくせに!
友達だと思ってたのに!
純粋にライバルだと思ってたのに!
アイドルとして負けてたってかまわない、素直にあなたを認めてあげられた!
アナタはなんでも手に入るのに!
それなのに、アイドルとして以外で私が唯一ほしかったものまでとらないでよ!
私の
涙が止まらない
「どうして・・・」
貴方を嫌いにならせてくれないのよ・・・
「新野冬子、だな?」
そんな時だった、彼と同じ髪色の男性に出会ったのは・・・
ニノ回です
書いててつらくなりましたが、必要だと思ってます
必須タスク
・星は堕とさせない