【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
「そろそろ出ないと間に合わないぞ?」
「ま、待って!やっぱりこっちのほうが・・・」
「そっちにしたら目立つって昨日自分で言ってただろ」
今日は保護者が見ることができる幼稚園のお遊戯会とその後の軽い面談がありアクアマリンとルビーを幼稚園に送った後、いったん戻り準備をしていたはずのアイを拾っていく予定だった。
それが直前になり服を変えたりアクセアサリーや眼鏡、帽子を変えたりとバタバタしており出発できずにいた。
そんことがないように前日にアクアマリンとルビー相手にアイがファッションショー的に格好をきめていたはずなのだがこのありさまである。
「で、でも、やっぱりママがより美人に見えたほうが」
「あくまで姪の様子を見に来た、というテイは忘れるなよ?それ以上美人に見えるようにしてどうする?」
俺が適当に答えるとアイは服を持ったまま固まり少しもじもじしてから持っていた服を片付けた。
妙に聞き分けがいいが、時間がないから助かる。
結局アイは最初の格好で目立たないが上品な変装に落ち着き、俺も似たような方向性の変装をしている。
「じゃあ、行くぞ」
「う、うん」
妙にしおらしいアイを連れて車に乗り、幼稚園へと出発した。
これなら十分に余裕をもって到着するだろう。
尤も、念のために俺達が中に入るのはギリギリになるようにするが。
「ちゃんと見た目ほめてくれるんだね」
助手席で髪の毛を指でくるくると弄び、こっちをちらちら見ながらアイはつぶやいた。
「美人って、アイト初めて言ってくれたね」
「・・・そうかもな」
さっきは普通に言ったつもりだったが、アイの容姿をそのままほめたことはないかもしれない。
別にそう思ったことがないわけではなく、ただ言葉にしていなかった。
俺が肯定するとアイは少しとろけたように微笑んだ。
「うれしい。アイトってそういうこと言わないんだろうなって思ってたから」
確かに言わないだろうな。
少しだけ考え思考にノイズがはしりそこでやめた。
「ずいぶん今日はしおらしいな」
「ふふ、そうかもね。さっきのもあるし、今日のこともあるから、かな?」
「お遊戯会か?」
俺が聞くとアイは普段の笑顔に戻りうなずいた。
「ありがと、アイト」
「何だ?急に」
「アイトが父親やってくれなかったらこんなに堂々と見に行けなかったと思う。社長たちの子供だっていう建前にしちゃったら見つかるわけにいかないからこっそり見ないといけなかっただろうし」
「そうかもな」
アイに言われて、想像してみたが確かにそうなるだろうな。
「二人のイベント、これからたくさんあるのに私ずっとこっそり見なきゃいけなかったかもしれないんだね」
「それがお前の選んだ道だ」
「うん・・・」
アイドルと母親の両立は簡単なものではない。
事実上、相反するようなものだ。
社長夫妻の子を見に行くとしたら一、二回程度なら問題ないが高頻度になった瞬間違和感に気づくやつがどうしても出てくる。
その違和感に気づかれた瞬間に終わりだ。
「けど、アイトが、兄さんが父親をやってくれたからいけるようになった。もうSNSで私が二人のママだって言っても炎上しないんだよ?」
テレビ、ライブのトーク、ラジオ等で少しずつアクアマリンとルビーの話をした結果、今アイがそう言っても微笑ましく受け止めてもらえている。
もちろん多少焦げ付くときがあるがそれも一部のノイジーマイノリティーが騒いでいるだけで無視されることがほとんどだ。
「ありがと、私にちゃんと母親をやらせてくれて」
「どういたしましてアイ叔母さん」
「あー!言ってはならんことをー!」
湿っぽくなりそうだったのでついからかってしまった。
怒りながらもアイはどこか嬉しそうだった。
そんなこんなで予定通りの時間で幼稚園につき、俺たちは園内の保護者向け案内に従いお遊戯会が行われる多目的ホールについた。
奥のステージを向くように椅子が並べてあり、ほとんど埋まっており入り口側のステージから離れた椅子が少し開いている程度だ。
俺たちがその空いている椅子に腰かけるとちょうど時間になり始まった。
お遊戯会は時間で組が決まっているので、この時間はアクアマリンとルビーのいる組だ。
緊張気味に園児たちがステージの上に上がる。
保護者達は一斉にスマホやカメラを構え我が子を撮影し始めた。
かくいう俺もアイに言われてカメラマン役を任されており、カメラを回している。
ルビーは緊張しているようだが笑顔で、アクアマリンはかなり真顔だ。
「それではチューリップ組のダンスです」
アナウンスが入り音楽が流れ始める。
それに合わせて園児たちが踊り始める。
拙いダンスなのにそれが一切気にならないダンスで、一生懸命なのが伝わってきて微笑ましくなる。
その中でもルビーとアクアマリンは何故か妙に目を引き付けられた。
ダンスの完成度が少し違う、というのもあるのだがそれとは違う存在感の強さを感じる。
指先、表情、瞳に目を引き付けられた。
アイの娘であると事あるごとに実感させられてしまう。
気のせいか、二人に感化されてかだんだんと他の子たちも動きよくなってきた。
「っ・・・」
ふと横を見るとアイが目を輝かせながら口元を手で押さえ泣いていた。
カメラを動かさないようにあいている片手でハンカチを取り出しアイに渡す。
アイはハンカチを受け取り、メイクを崩さないようにそっと押し当てながら涙をぬぐった。
その後、ダンスが終わるまでアイは延々と泣き続けた。
「以上で、終わりです」
アナウンスが入り園児たちが頭を下げるとホール内を割れんばかりの拍手が包み込んだ。
保護者達の我が子を呼ぶ声がいたるところで聞こえ、その声のほとんどが震えていた。
「あぐああああ!るびいいい!よがっだよぉぉ!」
横にいる人物の声が周りの声にかき消されたのはある意味不幸中の幸いだろう。
そう思ったところで、俺たちにちゃんと気が付いていたアクアマリンとルビーがこちらにむけて指でハートを作った。
そのファンサにアイは以前のアクアマリンのように崩れ落ちた。
俺はそれを無視して手を軽く振り返してあげた。
むこうも気が付いたようで今日一番の笑顔を返してくれた。
その後、園児達が退場すると保護者も退場するようアナウンスが入ったのでいまだに崩れ落ちて笑顔で泣いているアイを連れていったん外に出た。
「ぐす、すん、よかったよぉ」
まさかここまで大号泣するとは思わなかった。
「とりあえず、落ち着いたら担当している先生のところに行くぞ」
「はぁ~い」
その後、アイが落ち着くまで15分ほどかかった。
落ち着きかけたところで思い出して泣いていたのでやたらと時間がかかった。
「行くぞ」
俺たちは園内の案内に従い応接室へと行った。
「星野さん、ですね?お待ちしておりました。こちらへおかけください」
中に入ると年配の眼鏡をかけた先生が待っていた。
俺たちは頭を下げ軽く挨拶してから促された椅子へと腰かけた。
本来は保護者(基本両親)がくることになっているが、すでに幼稚園側には妹(アイ)が母親代わりをしてくれるということで話を通しているためそのあたりは問題ない。
「アクアマリンちゃんとルビーちゃん、二人ともすごいかしこいですね」
「ありがとうございます。特別な教育をしたわけでないので持って生まれたものですかね」
「ギフテッド、というやつでしょうね。ルビーちゃんは中学生ぐらいの知性がありますし、アクアマリンちゃんはよく本を読んでましたね。父さんが出た作品の原作だと嬉しそうに教えてくれましたよ」
「あ~、そういえばアクアが欲しがってたから本買ってあげたなぁ」
俺の記憶にないと思ったら、アイが買い与えていたらしい。
「ルビーちゃんは活発でいろんな遊具でよく遊んでおりまして、アクアマリンちゃんは最近よく歌ってますよ」
「「歌?」」
あまりに心当たりがないため俺とアイの声が重なった。
そんなそぶりは見せたことなかったと思う。
「えぇ、お遊戯会のお披露目が決まった頃でしょうか?それまでは一人で本を読んでいることが多かったのですけど、そのころからよく歌うようになりましたよ」
「そ、それってどんな曲ですか?」
「そうですね・・・私はあまり詳しくないのですけど、B小町というグループの曲とか他の先生方より少しだけ上ぐらいの年代の曲ですかね?すごく上手でしたよ」
意外な趣味だと思った。
アクアマリンはアクティブな趣味ではなく本当に読書や映画みたいなタイプの趣味かと思っていた。
歌を歌ってると聞いてアイの表情が緩んでいる。
「ルビーは一緒に歌ってたりしませんでしたか?」
願望が若干混じった質問をアイがすると先生は少し困ったように微笑んだ。
「ルビーちゃんはよくアクアマリンちゃんと一緒にいますけど、歌の時は何故か一緒にいないんですよね」
歌を聴くのは楽しそうにしているから歌自体は好きなようだが歌うのはあまり好きではないようだ。
「他にも」
その後も二人の幼稚園での様子を聞き、終わった頃にはアイはとんでもなく満ち足りた表情をしており、俺たちを待っていたアクアマリンとルビーを全力で抱きしめていた。
その後、アクアマリンとルビーに歌のことを聞いてたけど答えてくれずしょんぼりしていたのは別な話。
お遊戯会回です
原作でもアイさんが見た描写がありましたが、おそらくこっそりだろうな、ということでがっつり堂々と見てもらいました。
アクアちゃんの趣味に歌を追加するアプデを入れました。