【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
ある日の昼ごろのこと。
家で仕事をしていたところ、スマホの方にある人物からメッセージが入っていた。
「ニノ・・・」
メッセージの相手の名をつぶやく。
その内容は『話したいことがあるから、今から以前あなたがつかっていた苺プロの近くのマンションの部屋に来て』だった。
最近、思い詰めていたようだから大事な話がしたいのだろう。
そのような相手に選ばれたことにホッとするべきか、それともこれまで相談されなかった不甲斐なさを嘆くべきか俺にはわからなかった。
「ニノがどうかしたの?」
ちょうど午前はオフだったアイが問いかけてきた。
「話がしたいらしいから出てくる」
今まで使っていたノートパソコンを片付けながら答えるとアイは険しい表情を浮かべた。
そしてふらふらとこちらまできて腕をつかんだ。
その手はひどく震えていた。
「・・・め」
「ん?」
「行っちゃダメ・・・」
アイの声は震えて顔は青ざめていた。
「少し話をしてくるだけだ」
「だめ・・・いかないで」
アイは俺の腕をつかむ手の力を強めた。
時々ある甘えではない。
その感情は恐怖を孕んでおり、何故か昔俺がさりなから逃げようとしたときにアイが俺に連絡をしてきたことを思い出させた。
「ちゃんと帰ってくる。ルビーたちの迎えに行かないといけないしな」
「・・・私の為にもちゃんと帰ってきて」
それはまるで死地に赴く相手にむける言葉だった。
「ああ。ちゃんとアイの為にも帰ってくる」
その言葉が心、ではなく自分の心臓の中に入ってきた気がした。
この言葉を死なせてはならない、と。
「うん、約束」
「約束だ」
そこまで話してアイは手を離してくれた。
「じゃあ、ニノのことお願い」
ちょうど仕事に行かなければいけない時間になったアイはそれだけ言い残して出発した。
アイがあんなことを言いだしたのには何かしら理由があったのだろうが、問い詰める気はしない。
『当然だよ?私はアイトの味方だもん』
昔言われた言葉を思い出す。
それで十分な気がした。
「止めておきながらニノのことお願い、か」
不器用な彼女に苦笑いしてしまう。
「さてと、俺も行くか」
アイに言われたから予定より入念に支度をして俺も出発した。
ニノに指定された俺が以前使用していた現在は事務所に貸し出しているマンションの一室。
そこに到着した俺はインターホンを鳴らした。
しかし、待っていても返事はなかったのでドアに手をやると鍵はかかっておらずすんなりあいた。
「ニノ」
中に入りいるであろう彼女の名前を呼ぶが返事はない。
部屋の中は明かりがついておらず、カーテンも閉め切っているため暗かった。
靴を脱ぎリビングへと向かい、明かりをつけた。
数年ぶりに来たが家具などの配置はほとんど変わっていないが多少小物が増えているという感じだ。
と、考えていると後ろの方でドアが閉まる音と鍵をかける音が聞こえた。
振り返るとうつむき気味で髪の毛で顔は見えないがニノがいた。
ニノは何も言わずそのまま幽鬼のようにふらふらと俺の方に近づいてきた。
「アイトさん・・・」
俺の眼の前で顔を上げた彼女の瞳はいつものようなまぶしい大きな星の光はなく暗く濁っていた。
薄い笑みを浮かべているのに、彼女の感情がわからない。
「来て、くれたんだ」
「呼ばれればくる、というのは今更だと思ってもらえるぐらいの付き合いだとは思っているがな」
「・・・そうだね」
そのまま彼女は俺の胸に飛び込んできて、それと同時に腹に衝撃が走った。
衝撃をうけたところを見ると、銀色のナイフが彼女の手に握られておりそれらは赤い液体に濡れていた。
Side Nino
ずっと、考えていた。
この気持ちをどうしたらよいかと。
ずっと、考えていた。
どうすればこの気持ちに向き合えるかと。
『あの人』が答えをくれた。
こぼれていくならばすべて奪ってしまえばいい、と。
「ふふ・・・」
呼びだしたアイトさんに抱き着くように私は用意しておいたナイフで彼のお腹を刺した。
それと同時に赤い、彼の命がナイフと私の手を染める。
彼はナイフを手で抑えて下がりそのまま私から距離を離した。
こんなに動けるとは思わなくてナイフを離してしまったけど、私からの贈り物を受け取ってもらえたと思えばうれしい。
「ニノ、どういうつもりだ?」
まるでいつも通りの様子で平然と彼は聞いてきた。
その態度に私の中の感情の一部が少しだけ冷静になってしまう。
もっと、感情的になってくれれば私もやりやすいし苦しめなくて済むのに。
「わかんない?」
離れた彼に詰め寄り彼の後ろのソファに押し倒す。
いつもはまぶしい光のある瞳はまるで雨雲に覆われた夜空のように真っ暗だ。
まるで私の今の気持ちを映しているかのようだ。
「奪われる前に、私の手で終わらせてあげたいの」
貴方の命をもらえればきっと私は満たされる。
それが慰めになってくれる。
「アナタがいないと、私はもう輝けない」
「そんなこと」
「否定はしないでね?これは事実だから」
私が一番よくわかっている。
だってアイの子が産まれてから私はもう『B小町の誰か』になってたんだもん。
「私はアイや他のメンバーみたいな、自分で輝ける星じゃない。あなたという太陽に照らされてやっと輝けた月みたいなもの」
そう、それがきっと私だ。
月は太陽がなければ輝けない。
「そんな人がこちらを向いていなければ、月は輝けない、んだよ」
泣かないと決めたのに、彼を前にしていたら涙がこぼれてきた。
これをぶつけるのつもりはなかったのに言葉が止まらない。
「アナタがいてくれれば私はいくらでがんばれるのに!どれだけ大変な仕事だって笑顔でやりきれるのに!アイトさんが『笑顔が素敵だ』って言ってくれるだけで私は誰よりも輝いてみせるのに!」
ぶつけるつもりではなかった言葉が次から次へとあふれてくる。
「それだけで私は満たされるのに!」
「ニノ・・・」
「うるさい!」
私は黙らせるために彼と唇を重ねていた。
初めてのキスは歯がカチカチとあたって、味などよくわからなかった。
「でも、もう終わり・・・これ以上、私の世界が壊されるのは無理だよ」
だから、貴方を終わらせたら私も一緒にいくから。
「ねぇ、最期にきかせて」
「なんだ?」
その言葉を聞けるのは私だけ、そう思うとほの暗い冷たいなにかが胸の奥を満たしていく。
「なんでアイを選んだの?」
私の言葉に彼はひどく困惑したような表情を浮かべた。
まるで、想定していないかのように。
「どういうことだ?」
「アイトさんの子母親はアイなんでしょ!知ってるわよ!」
あの日、社長室での出来事を思い出すだけで胸の奥が痛くなる。
それに対してアイトさんはあきれたようにため息を吐いた。
「社長達はばれていないつもりだが、お前たちがアイの妊娠に気づかないほど薄情だとも思っていない。そんな浅い関係じゃない」
確認ですらない、確信があるように思えた。
私達のことちゃんとわかってくれるのだと、冷えた胸の奥に少しだけ温度が戻る。
「それなら俺とアイの関係も理解しているはずだ。アイと事務所を守るための偽装の父親だと」
「それが嘘だって、私だけはわかってる」
あの日社長室の前で聞いてしまった真実。
知りたくなかった真実。
「何のことだ?アイの子の父親は俺も知らん」
「え?」
それが嘘だとは思えなかった。
「な、なら、どうして」
「一応アイの兄だから守ってやりたいというのもあるが、事務所とB小町を守りたいというのが大きいな」
そこにはいつも私たちを守ってくれてた優しい夜空があった。
私たちはいつもこの夜空に守られていたのだと思い出せた。
出会ったころから、今に至るまで。
「あ、ああ、ああ!」
なんで忘れていたんだろうか?
私は、本当は手に入れたいんじゃない。
ただそこにいてほしかった。
貴方の中にわたしがいてくれればそれでよかったのに。
それがわかるだけで私は誰よりも輝けると知ってたはずなのに!
冷水をかけられたかのように頭が冷静になりとんでもないことをしでかしてしまったと理解してしまった。
そんな私に気づいたのか彼は私を優しく抱きしめてくれた。
こんな状況なのに喜んでしまいそうになる自分を諫める。
「大丈夫だ、落ち着いて」
「で、でもきゅ、救急車を!」
ナイフであんなに血が!
『あの人』に刺す場所はここなら確実に死ぬって言われて・・・?
『あの人』って誰だっけ?
「平気だ。少しどいてくれ」
アイトさんは私を立たせると平然と自分も立ち上がりナイフを抜いた。
そして、服をめくり黒い衣服と何か破れたふくろのようなものを見せた。
その袋からは赤い液体がこぼれている。
「防刃ベストと血糊だ」
「・・・は?」
言っていることが理解できない。
「刺される想定で念のため支度しておいた」
当然のように彼は言い放った。
「刺した後に血が見えないと刃物対策しているとばれるから、ばれないように血糊も用意し出血を偽装、ナイフを振り回されないように奪いながらな」
用意周到。
そんな言葉が似あうなぁとどこか他人事に思いながら、昔から準備のいい人だったので妙に納得できた。
「で、でも他の場所を刺されたら」
「ニノに殺されるなら構わない、というのが多少あったから問題ない」
「なんで・・・」
「そうだな、お前の笑顔を奪ったのが俺なら俺は死ぬべきだと思ったのかもな」
どこか自虐てきに彼は笑った。
「そんな理由で、ここに来たの?」
「自覚はないが俺はニノ推しらしいから理由はそれで十分だ」
推し、そう言ってもらえた瞬間に胸が高鳴った。
「それに、俺はニノの笑顔が好きだ」
「ば、ばかじゃないの!?」
胸の奥を熱い何かが満たしたのがわかる。
私は彼の胸元に飛び込んで力なくポコポコたたいた。
うれしくて、恥ずかしくて、さっきまでの自分がばからしくて。
自分はそんな言葉だけでこうなってしまうとはなんてちょろいのだろうか、と思ってしまう。
ただ、この気持ちにいや感じはしなかった。
「もう、遠慮しないから」
「どうぞ、ご自由に。まぁ炎上だけは勘弁してくれ」
「わかってるわよ!」
戦わずに負けた思っていた勝負に参加できるのだから充分だ。
「絶対に私を一番推しにさせたげる!」
これまでで一番の笑顔だったと思う。
これでニノちゃん回はいったん終わりです。
一応プロットの予定通りに進行できたかなぁという印象
もう少し、最後の方にいれたかったですがきれいに終わった(気がする)のでその部分は次回以降にアイト君の回想で補うと思います(未定)
主に片付けとニノちゃんとアイさんのキャットファイトの部分は描写したいなぁ
そういえばこの小説タグに『ハーレム』があるらしいっすよ
ものすごい余談になりますが、ニノの話を書いている最中『深海少女』がずっと頭の中でながれていました。