【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
午後に入っていたCMの仕事を爆速で終えてアイトに今どこにいるか確認したら苺プロにいるから来てほしいとのことで、私は送迎してくれているミヤコさんに苺プロの前でおろしてもらうようにお願いした。
ミヤコさんはこの後に他のメンバーの迎えがあるらしく私をおろしたらすぐに車をだしていってしまった。
確か、今日は佐藤社長もいないとか言ってたはず。
苺プロの休憩スペースのソファに彼は座ってタブレットをいじっていた。
だけど、いたのはアイトだけでなく
「ふふ」
幸せそうに微笑んでアイトの横に座り彼に体重を預けているニノだった。
正直に言うと『だれ?』と思うぐらい、普段と様子が違う。
アイトは私に気が付くとニノを離してタブレットをしまい立ち上がる。
「ニノが二人で話をしたいらしいから、俺は外で待ってる」
そういってアイトは私に特に確認するでもなく私の横を抜けて部屋から出ていった。
横を通った際にした匂いは普段のものと違う。
それと同時に彼の服が私が出発するまえのものと違うことに気がつく。
ただ話をしただけでなく何かしらが起きたのは明白だった。
ニノは笑顔で手を振りながらアイトを見送り、部屋の扉が閉じたとたんに普段の表情に戻った。
切り替え早いなぁ。
「えっと、私に話があるんだって?」
「うん、いったんこっち来て」
そういってニノは自分が座ってるソファとはテーブルをはさんで対面にあるソファを指さした。
正直、最近のニノには嫌われてると思ってたからこういう態度は少し意外に感じる。
私は促された通り向かい合うように座った。
「いろいろ話したいんだけど、今日はちゃんとぶつけたいしアイにもぶつけてもらいたい。そうしないと私たちとんでもなくこじれると思う」
真剣なまなざしが私を貫いた。
最近どこか濁ったように見えていたニノの瞳はどこか吹っ切れたのか昔から見ていた強く大きい星の光を放っているような気がした。
やっと、以前のニノに戻ってくれた。
私を『対等』だと思ってくれたあなたに。
「私ね、アイドルとしてあなたに勝てるものがなにもないってずっと思ってた」
吐き出すようにニノは口を開いた。
「アイのように生まれたかった。アイのように自分で輝きたかった」
「なにそれ、私だってニノのように生まれたらって思ったことあるよ」
これは慰めでもない、本当に思ったことがある。
ニノのファンからの愛され方は私とは違う。
ニノへは親愛なのに私がファンから感じるのは崇拝のような何か。
「今ならわかるよ。アイが手に入れたものと欲しがっているものは私が手に入れたものとほしがっているものとは逆だったんだなって」
「そうだね」
私が欲しいのは上からでも下からでもない、隣から与えられるもので、ニノが欲しがっていたのはきっと私と逆だったのだろう。
それはきっとニノがアイドルという存在を頑張ったからで、アイドルは偶像で嘘でファンの上で輝いて照らすべきものだから。
そこに私が求めているものはなかった。
私は星野アイとして、ニノはアイドルとして求めていたのだからある意味当然なのかもしれない。
「でもさ、私はアイほど器用じゃないからアイドルニノと新野冬子の境目がなくなっちゃってたんだ」
あれほど輝いていたニノからそんなことを言われるとは言われなかった。
昔どこかのアリーナだったかのライブをしたとき横にいるニノがあまりにもまぶしくて、まさに究極のアイドルがそこにいた。
アイドル活動をしていて初めて負けた、勝てないと本気で思わされた。
それがあまりにも
「私ね、ファンを愛そうと思えてないの」
「・・・え?」
傍目に見ててそんなことは感じなかった。
最近はくすぶっていたようだけど、少し前のニノはあふれんばかりの愛を向けていたように感じた。
「当然だよね。だって、私はアイドルニノじゃなくて新野冬子としてステージにあがっちゃってるんだから、知らない人を愛そうと思えない。それがファンでも」
それは悲痛な言葉なはずなのに、ニノの声はどこかそれを喜びを帯びているようだった。
「逆にアイはちゃんとファンを愛そうとしている、素直に勝てないなぁと思ったよ。これが差なんだなって」
それを当然のように受け入れておりニノからは悔しさは感じなかった。
「新野冬子は悔しくなれない、それがアイドルニノとしてあまりにも悔しかった。けどね、満足もしてたの」
「どうして?」
「私を見てもらいたい人がいてくれたから」
それが誰か、だなんて聞くまでもなかった。
「あの人が見てくれるなら私はいくらでも輝ける。だから私はファンを通してその人を見るようにした。ファンが感じるのはその感情のおこぼれってところ」
横で見ていてわからない理由がわかった。
だって、それが違うとわかるのはそれを通されたファンだけ。
それでも自信を通り抜けていく残滓だけで満たしてしまうほどの濃い感情によって自分に向けられていないと誰も気づかない。
「もちろんだましきってみせる。これが嘘だなんて見抜かせない。そうしたらその大本が嘘になっちゃうから」
私と同じ、アイドルとしての矜持。
ファンへの嘘はとびきりの愛。
やっぱり私たちはそっくりだ。
「でもさ、数年前にそれは崩れちゃった」
「・・・そうだよね。みんなに言われたから私は社長にやっと報告したわけだし」
私の妊娠。
それがきっかけになったのだろうことは想像に難くない。
「問題はその相手。私はずっとそれがアイトさんだと思ってた」
そう、表立っては言われないけど妊娠を知ってたメンバーの後にアイトが父親だという話がでれば私とアイトの関係に一瞬で気づく。
「ん?思ってた?」
ふとニノが言った言葉が気になった。
まるで今はそう思っていないかのように。
私が考えていることがわかったのかニノはあきれた表情を浮かべた。
「B小町でその話を信じてる人はいないわ。社長は私たちが気が付いていることは知らないだろうけど父親は不明でアイトさんが事務所や私たちを守るために偽物の父親を名乗り出たのだなんて公然の秘密よ」
「うそぉ!?」
思わず変な声が出てしまう。
社長、全然隠せてないじゃん。
というかメンバーがアクアやルビーのことで騒がない理由は事情をある程度汲み取ってくれたからだと今更ながらわかった。
「でも、私はアイが社長に報告したときにアイトさんが自分が父親だって言うのを聞いてしまったの」
「ん?」
「私だけが知ってしまったの。あの双子が二人の子だって」
沈痛な面持ちで言われたが私はそれどころではなかった。
「そこから私はもうわけがわからなくて、アイトさんを見れなくなってしまったの」
「ちょ、ちょ、ちょっとまって!あの日、アイトはそんなこと言ってない」
「でしょうね。さっきそのあたりの誤解は解けたもの」
慌てて訂正しようとするとあっさりと納得された。
アイトに直接そのこと聞いたのだろう。
まぁ、わざわざしゃべるということはアイトもメンバーのみんなが気が付いてるのは知っていたのだろう。
言ってほしかったなぁ。
と、そのあたりでニノが目を細めて訝し気な表情を浮かべた。
「さっきから反応が妙ね。あの子達の父親はアイトさんじゃないのでしょう?本人が言ってたわよ」
「うん、違うよ」
すんなりその言葉は出てきた。
それなのにニノの表情はより険しくなった。
「嘘ね。これでも付き合い長いんだがらその場しのぎの嘘に騙されないわ」
それは確信している声だった。
「何を隠してるの?」
「え、えーっと・・・誰にも絶対言わない?」
「どんだけやばいこと隠してるのよ?今更、そんな薄情なことしないわ。一緒に隠してあげる」
「実は・・・」
これ以上隠せないと思い私はすべて話した。
アクアたちの本当の父親がアイトであること、アイトが睡眠薬で寝てるのをいいことに複製した鍵で家に忍び込みことに及んだことも。
それをアイトには隠していることも。
話し終わるとニノは頭を抱えてソファに体重を預けていた。
「あんた、やばすぎでしょ?ただの性犯罪者じゃない」
「あはは、我慢できなくて」
「こ、こんなのに私は・・・」
ニノは深い溜息を吐いた。
「まぁ、言った以上黙っててあげる」
「ありがとう、まだ言いたくないんだ」
気持ちに整理がついたらちゃんと言わなきゃいけないのはわかってる。
ただ、まだその時じゃないだけで。
「なんか話したい事は全部飛んじゃったからもういいわ」
頭が痛いようでシッシッというようにニノは手を振った。
はなしが終わったなら今度は私が聞く番だ。
「さっきまでアイトと何の話をしてたの?」
今度はニノが気まずそうに視線をそらした。
私が逃がさないとばかりにジーっと見つめるとニノは観念したかのように答えてくれた。
その内容は私が出発前に危惧したもので『未来』の私がたどった結末の一つだった。
違うのは準備をして殺されないようにしたということ。
「驚かないのね?」
「え?まぁ、いつか刺されるかもなぁって」
「違いないわね。で、二人で片づけをしてこっちに来たわけ」
「だからアイトの服と匂いが違ったんだ。シャワー浴びただろうしね」
そういった瞬間、ニノが顔を真っ赤にした。
なに、その反応は?
もしかしてと思い私はニノの隣にいき匂いを嗅いだ。
「や、やったな!?」
こいつら完全に一線を越えてる!
言われたニノはこれ以上ないぐらい顔を赤くした。
「だ、だって、もう、無理だと思ったら、チャンスが、できたから、そのね、断わったら、自首するって言ったら」
明らかに脅迫であった。
アイトの性格上、事務所や私たちを守るためにもともと通報する気はないだろうしそのうえで自首されたら困るから受け入れたのだろう。
元々ニノのことは憎からず思っていたのは知ってるから、それもあって受け入れたのは容易に予想がつく。
「でも、アイの子の父親なら、もうこういうことしないから」
「え?なんで?私気にしないよ」
「はぇ?」
何言ってるんだと思い私がそう言うとニノはぽかんとした表情を浮かべた。
「だって好きな人を共有できるなんて最高じゃん?それともニノは独占したいの?それをされると少し困るんだけど」
「え?いや、いてくれるなら私は満足だけど」
「じゃあ、このままの関係でいいんじゃない?私もニノも幸せ!」
私はニノも好きだからアイトから離れて悲しそうになるのを見たくない。
それに好きな人のことを語れる相手も素敵だと思う。
私たちは『対等』なのだから。
「・・・まぁ、貴方がそれでいいならありがたく受け入れるわ性犯罪者」
「うん、いいよ。殺人未遂犯」
本人のあずかり知らないところで決定した。
でも、私たちの幸せのためならきっとあなたは少し困った笑顔を浮かべて受け入れてくれるだろう。
私たちを狂わせた責任、ちゃんととらせてあげるんだから。
第四十話の後始末です
ほんとうはもっと感情的にガンガンやるキャットファイトにしようとしたのですが、オキシシトシン過剰分泌状態でニノちゃんが妙に落ち着いていて無理でした。
もっとコンパクトにまとめたいけどどんどん長くなってしまう・・・
とりあえず、ドームライブの前に確実にこなしたいのはこれですべてかなぁ