【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
それは偶然がきっかけだった。
東京ドームでのライブを前に引っ越しをした直後のこと、仕事から帰ってきて今日は家でお留守番してたアクアとルビーをちょっと驚かそうかなとこっそりリビングに向かっているときアクアとルビーの会話が聞こえてきた。
「なるべく考えないようにしてるけど、私たちの本当の父親って一体誰なんだろう?あ、考えるだけで気が沈む」
アクアのその声が聞こえた瞬間に思わず私は動きが止まりリビングへの扉に手をかけたまま固まってしまった。
「なに?パパが父親で文句があるわけ?」
「いや、それは微塵もないんだけどさ」
ルビーがちょっと怒り気味に言うとさも当然のようにアクアはすぐに否定した。
少しほっとした。
そんなこと言うわけないと思っててもこれで『あの人が父親とかありえない』とか言われたら私の方がショックで倒れてしまう。
というより、何故二人はその話を知っているのだろうか?
私やアイトは二人の前でそんなことを言ったことはないし、その話を知っているのは社長夫妻とB小町メンバーくらいで、メンバーはそもそも二人と話をしたことはない。
そういえば、私が復帰する直後くらいに社長夫妻がそんなことを二人の前で言ってたかもしれないけどもしかして覚えてた?
そこまで考えて天才な二人ならもしかして覚えているかもしれないと納得してしまった。
「そもそもくだらない低次元な疑問ね」
「え?」
「ママは処女受胎で男なんていないし、パパは私たちの父親だけど清い体なの」
「と、父さんはわからないけどまぁ、アイならそれもありえるかぁ」
ありえないよ!?
とんでもない結論にたどり着いてていくら私でもやばいと思ってしまった。
「ただいまー」
それでも、結局私には聞いてないふりをするしかできなかった。
「どうしよー!ヒカえもーん!」
結局一人で消化しきれずヒカル君を以前利用した喫茶店に呼び出して相談することにした。
呼び出されたヒカル君は今にも舌打ちしそうな雰囲気をしている。
「馬鹿じゃない?自業自得でしょ?」
事情を聴いたヒカル君はバッサリと切り捨ててコーヒーを満足げに一口飲み、しかめっ面になっている。
「というか双子に会わせてくれないのにそんなことを相談するなんてムシが良すぎない?」
「う・・・」
あの子たちが産まれて3年たつけど私はヒカル君には会わせたことはない。
まぁ遠目に見る分には許可してるけど。
「そこまで言うなら双子には教えてあげたら?賢いんだから兄さんには黙っててくれるかもよ」
「・・・無理」
あの子たちにそんなこと背負ってほしくない。
今、アイトに何も言わないのはある意味私のわがままなのだから。
「ならその罪悪感抱えたまま我慢すれば?僕の知ったこっちゃない」
「じゃあ、言っちゃうよ?」
「どうぞ。今更言う気もないくせに」
ダメと言われる前提で挑発しようとしたら私の心情をあっさりと読まれてしまう。
そう、ヒカル君に言わないようにされてたのもあるが私自身が伝えたくないと思っているのが大きい。
「今までキミに興味がなかったから聞かなかったけどさ」
「前置きがひどいなぁ。まぁ、私も君自身に興味があるわけじゃないけど」
嫌なところで本当に私たちはそっくりだ。
出会い方が何かしら違えばかみ合った世界もあったのかな?なんて、ありえないことを一瞬考えてすぐに消し去る。
「なんでそんなに兄さんに話したくないわけ?」
これまで聞かれなかったところを聞かれて思わず動きが止まってしまう。
心の中で話すべきか黙っているべきかを議論する。
「正直、あの子たちが産まれて2年もしたらさすがに話すと僕は思っていた。正直ここまで頑なに黙っているとは思ってなかった。なにか深い理由があるんだろう?」
それは先ほどまでのこちらを小ばかにした様子ではなく、こちらを理解しようとする感じだった。
こういうところは本当にアイトに似ていると思ってしまう。
「ねえ、ヒカル君は未来を知ってるとしたらどうする?」
そして、その様子を見て私は話すことに決めた。
Side Hikaru
「ねぇ、ヒカル君は未来を知っているとしたらどうする?」
アイのその言葉にこの場でそのようなことを言われると思わず一瞬動きが止まってしまった。
「未来、ね」
誤魔化しつつコーヒーを口に運ぶ。
幸いアイには気づかれなかったようで特に何も言われなかった。
「不都合な未来を知ってるなら変えようとするけど、それがさっきまでの話とどうつながるわけ?」
ある程度予測はできているがあえて問いかける。
「私ねいくつかの未来を知ってるの」
「・・・それで?」
茶化してもいいが話を促す。
いや、これは茶化していいものではないと直感的に理解した。
僕はこれを聞かなければ後悔すると。
「でもその未来は必ず私の死という同じ結末を迎えてる」
「それがどうして兄さんに伝えないことにつながるわけ?」
アイに続きを促すと言葉にするのに勇気がいるのか少し震えて頼んでおいたコーヒーを一口飲んだ。
まるで誰かの温もりをもとめるかのように。
「私の死因は全部自殺」
「・・・まさか」
僕とアイは似ている。
ならば自分が自殺するとなったらそれはいったいどういう状況か、というのは容易に予測できた。
僕が結論にたどり着いたのをアイも分かったようでうなずいた。
「そう、アイトの死に耐えられなくて死を選んだの」
言葉でしか聞いていないのに胸の奥の熱が失われた気がした。
それを補うかのようにコーヒーを一口飲む。
「つまり、双子の親であることを伝えることは兄さんの死につながる、というわけかい?」
僕の問いかけにアイは言葉にせずうなずいた。
これを妄言だと笑い飛ばすことは簡単だろう。
だけど、僕にはそれができない。
いや、ここにいる『カミキヒカル』だけはそれをしてはいけない。
それほど彼女の瞳からは真実しか感じられなかった。
「私の知る未来は私の死の直前の状況しかわからないから経緯はわからない。でも」
「その状況だけでも、それが原因だとわかるようなことが兄さんに起きて死ぬってことだね」
「うん。一番早い奴だと私がアクアとルビーを産んだ直後に殺されてる」
「・・・ん?」
そこまで言われて僕は首をかしげた。
「殺されてる?」
「え、うん。私たちや事務所が追い込まれすぎてアイトが無理をして過労死や病死もあったけど、基本的には他殺かな」
そこまで聞いて僕の中にある一つの疑念が生まれ始めた。
ある程度確定させるために僕は知る必要がある。
「アイ、しんどいだろうけど知ってる未来のパターンをすべて話して」
「え?すべて?」
「うん。きっと僕はそれを知らないといけない」
その後、僕はアイが知る限りの未来のパターンを聞きだしその日はいったん解散にしてもらった。
アイにはとりあえず双子には現状維持でいくよう伝えた。
「おかしい」
アイの知る未来。
確かにパッと聞いて思うのがアイを中心に狙われたのを兄さんがかばって死ぬ、というものだが、それにしてはパターンが多様すぎる。
思考にノイズが走る・・・
まるで『兄さんがかばうのがわかっているから周りを狙っている』かのような気持ち悪さと悪意を感じた。
考えてはいけないと黒い光が覆い隠そうとする・・・
アイ達を狙っているにはあまりにも回りくどいことが多すぎるのだ。
黒いノイズが思考を塗りつぶそうとしてくる・・・
「最初から兄さんを殺すため?」
真実にたどり着かせまいと走っていたノイズが仮説を声に出すことでノイズが消えた。
兄さんの性格を知る者なら一番兄さんを苦しめて死なせるにはこれ以上ない手段なのだから。
そこまで考えて唇を強く噛んでしまい、鉄の味がした。
「奪わせない・・・絶対に」
兄さんに幸せになってほしい。
僕に色彩をくれた兄さんに恩を返したい。
だからこそ
「兄さんの未来を蝕む『お前』は絶対に排除する。もう『お前』の思い通りにはいかない」
まだ見えない『お前』に対して宣言をする。
僕の夜空に輝く一番星は堕とさせない。
ドームイベントが終わるまではしばらく話がシリアスになりそうです。
早く終わらせていちゃいちゃさせたいのでがんばります
いろいろと語りたいことがあるのですがネタバレになりかねないので我慢我慢