【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
「ついに明日だな」
「そうですね」
俺は今社長に連れられて以前一緒に来た居酒屋に来ていた。
名目は明日行われるドームライブの決起会だ。
ちなみに二人だけなのは、男性陣と女性陣で分けてるからで、女性陣は昨日やっている。
一緒にやるとアクアマリンとルビーを連れていかなきゃいけなくなるとかアイとニノがやらかしそうとかいろいろと面倒なことになりかねないのでそれなら俺は参加しないと言った結果である。
わがままではあるがリスクを考えた結果だと思ってほしい。
それと女性陣というかB小町は午前中にリハーサルをやった後は明日に備えて今日はゆっくり休んでもらっている。
「アイトに出資してもらってもう10年か。あっという間だった」
思い出すようにつぶやき社長はお猪口を口に運んだ。
「先輩に紹介してもらったのがガキだったから当時はどうなることかと思ったぜ」
「まぁ、当時は俺も16歳ですから当然ですね」
しかもそのころはかなりぴりついてた時期だ。
「俺が言うのもなんですが良縁に恵まれましたね。俺は出資したことを微塵も後悔していません」
「それは俺もだよ。お前がB小町をまとめてくれなきゃ、きっとアイのワンマンチームになってグループが崩壊してただろうさ」
そう言われて想像してみたが、否定しにくい。
特に最近のニノとの件を考えるとどこかで爆発して、アイが孤立していただろう。
「そのだな、ありがとよ。ついてきてくれて」
「俺はあなたが夢をかなえるのを見るのを夢にしてついてきただけです」
「へ!そうだったな!明日見せてやるから楽しみにしてろ!」
がははと笑い壱護さんは酒をあおった。
「とりあえず、ライブが始まるまではアイのこと頼んだぞ。ここで本当の父親が出てきて暴露、なんてされたらすべてが終わりだ」
アイの妊娠がわかってからずっとつきまとっている問題。
「てか、アイトには話すと思ったんだが聞いてないんだろ?」
「俺は知らないです。知っている相手はわかりますが」
「そうだよな・・・は?」
俺がさらっと言ったことで壱護さんは動きが止まった。
そういえば言ったことなかったな。
「ちょっと待て!なんでそれを言わねえんだよ!?」
「言ったところで結果は変わらないからですよ。俺はアクアマリンとルビーの父親について追及しないと決めましたしそれに」
俺は一口だけ水を飲んだ。
少しだけ熱くなりそうになった頭が少し冷える。
「本当の父親が出てきたところで問題を起こすようだったら、全力で排除するだけです」
それが俺が追及しないと決めた理由だ。
こちらの敵になるのなら排除すればいい。
俺の言葉を聞いて壱護さんの額に汗が流れたようにみえた。
「おっかねえな、おい。まぁ、今更だし父親役やってるお前がそれでいいならまかせる」
「ええ、任せてください」
「・・・お前が味方で本当によかったよ」
「敵に回る予定でもありましたか?全力で叩き潰しますけど」
「だろうな!」
その後も、互いに軽口をたたきながら食事を食べたりした。
Side Ichigo
アイトとの決起会が終わり解散となり俺は帰り道をゆっくりと歩いていた。
それには星が見えており快晴のようだ。
この夜空が明日ドーム内に広がる、そう思うだけで胸が熱くなる。
「よぉ!壱護!」
声をかけられて俺がそっちのほうを向くとそこにはどこかアイトに似た髪色の短髪で真っ黒な目をした俺と同年代ぐらいの男が立っていた。
「なんだ飲んでたのか?」
「あ、ええ。先輩もですか?」
この先輩・星野
「いや、俺はお前がこのあたりにいるって聞いたからな」
「俺に何か用ですか?」
「ああ、大事な用だ。今まで藍斗と飲んでたんだろ?」
「ええ」
先輩の言葉に俺はうなずいた。
そこまでして少し疑問が浮かんだ。
「先輩に藍斗のこと話したことありましたっけ?」
「なんだ、俺と藍斗の関係忘れたのか?」
そう言われて真っ先にとある関係が浮かんだ。
それなのに、その関係はなぜか黒い光に塗りつぶされたような気がした。
「ええ、えっと、代理人で」
飲みすぎたせいなのか頭が痛くてしっかりと頭が動かない。
そうだ、代理人でアイトを紹介してくれた人で・・・
まるで今まで忘れていたかのようになんとか浮かんできた関係だった。
俺がそう答えると先輩は笑顔なのにとんでもなくつまらなそうに見えた。
「正解だよ。ドームライブは明日だっけか?」
「そうです」
「お前の学生の時からの夢だもんな」
先輩はそう言って楽しそうに笑った。
それが何故か俺にはつまらなそうに見えた。
「でも、それは叶えられないな」
「え?」
次の瞬間、視界の端に銀色の何かが見えたと思ったら目の前に誰かが入り込んできた。
「ふぅ、警戒しておいて正解だった」
「ち!なんでてめえがいやがる!」
先輩の舌打ちが聞こえた。
「
「初めまして、父さん」
俺の前に金髪の高校生ぐらいの少年が立っていた。
そいつに俺は見覚えがあった。
確かアイトが初めて出たドラマで共演していた劇団ララライの役者でカミキヒカルとか言ったはず。
カミキは今先輩のことを父さんと呼んだか?
状況が理解できず呆然としてしまう。
「このまま続ける?」
「くそ!」
先輩はそう言い捨てて走り去っていった。
それを見送ってから目の前の少年、カミキは安心したように大きくため息を吐いた。
「ふぅ、けがはありませんか?斎藤社長」
「あ、ああ、いやお前の方が!」
こちらを振り返ったカミキの腹にはナイフが刺さっておりそれを抑えていた。
「ああ、下には防刃ベストを着てるので大丈夫です」
そう言ってカミキはナイフを抜くと、ナイフには血がついていなかったので本当に大丈夫だったようだ。
「ならよかったけど・・・いや、その、なんだ」
状況が飲み込めず頭が回らない。
「説明しますので少し落ち着ける場所に行きましょう」
「それなら」
俺はすぐ近くの事務所へとカミキを案内した。
事務所のすぐ近くで飲んでいてよかった。
事務所内には誰も残っていなかったが、念のため社長室で腰を落ち着かせた。
カミキも応接用のソファに腰をかけた。
「とりあえず、助けられたってことでいいんだよな?」
「その認識でいいですよ」
なんとなく、アイトと話をしている気分になる。
雰囲気もなんとなく似ているせいかもしれない。
「まず自己紹介のほうがいいですね。僕は神木輝、さっきの男星野頼斗の息子です」
「息子・・・そうだ、先輩には息子がいるって」
言われてやっと思い出した。
「その息子っていうのは多分僕じゃなくて兄さんのことですね」
「兄がいるのか?」
「アナタもよく知る人物ですよ?星野藍斗が僕の兄です」
昔、先輩が本当に嬉しそうに『息子が産まれた!藍斗って言うんだ!』と言っていたのを思い出した。
なんで俺はこれを忘れてたんだ。
これまで先輩とアイトのつながりなんて代理人だけであることになんの疑問も抱かなかった。
「本題に入ります。今日、父さんがあなたを殺そうとした理由です」
「そうか、そうだよな。さっきのは殺そうとしたんだよな」
どこか現実逃避していたがナイフの使い道なんて殺傷以外ないのだから当然ではある。
「アナタが狙われた理由は兄さんを間接的に殺すためです」
「・・・どういうことだ?」
「あの男は兄さんを苦しめて殺そうとしているんです」
俺はヒカルの言っていることが理解できなかった。
今ヒカルの言っていることが本当なら先輩は自分の息子を殺そうとしているということになる。
嘘だと突っぱねればいいのに、カミキの瞳をみているとなぜか俺はそれを真実にしか思えなかった。
「詳細の説明は難しいのですが、貴方を殺せば兄さんは死ぬ、それだけは真実です」
「いや、なんで俺が死んだだけであいつが死ぬんだよ?」
そこまで心の弱い奴だとは思えない。
それこそ俺が死んだところであいつは鼻で笑うかもしれない。
「それは」
カミキは言うべきか一瞬逡巡したのか口を閉じ目線を泳がせた。
しかし、すぐに口を開いた。
「アナタの夢が兄さんの生きる唯一の支えだからです」
「俺の夢が?」
ドームをサイリウムで埋め尽くすという夢。
アイトはその夢をとなりで見るのが夢だと言っていた。
「ええ。アイでもなく、B小町でもなく、双子でもなく、貴方だけが兄さんを生かしてるんです」
話が飛びすぎて理解が追い付かない。
その言い方ではまるでアイトは死のうとしているみたいではないか。
俺の考えが伝わったのかヒカルはさらに続けた。
「7年ほど前、兄さんの妹さんが亡くなったのは把握してますね?」
「ああ」
長年闘病していた妹が亡くなり、そのころのアイトは見ていてつらかった。
傍目には普通に見えたが、明らかに無理をしていたからだ。
B小町のやつらもいっそのことこちらに当たり散らしてくれた方が気が楽だとまでいってたほど。
「けど、あいつは立ち直った」
「ええ。あなたの夢をかなえる、それだけを支えにね」
「さっきから言ってるが、なんでそれが支えだって言い切れるんだ?あいつの周りには他にも」
「いえ、貴方で間違いないですよ。だって、兄さんの心を焦がしたのはあなただけなんですから」
さっきアイトと飲んだ時に『俺はあなたが夢をかなえるのを見るのを夢にしてついてきただけです』と言っていたのを思い出した。
あれは本気だったってことか。
「そんなあなたが殺されれば兄さんは生きる支えを失う。僕はそれを防ぐためにここ最近はあなたを見張ってたんです」
「・・・さらっとやべえこと言わなかったか?」
「気にしないでください。命の前には些細なことです」
些細、そうかもしれない。
何故かこいつの目を見てるとそう思ってしまう。
なんとなく、先輩と話してるときもこんなだった気がする。
「それでこのあとはどうするんだ?警察に通報するのか?」
「いえ、それでドームが中止になるのもダメです」
「延期になるかもしれねえけど、完全に中止ってわけじゃ」
「通報するならライブ後にしてください。詳しく説明しますので」
その後、俺は夜遅くまでカミキから話を聞かされることになった。
その内容は荒唐無稽、と笑い飛ばせればよかったのだがあまりにも必死なヒカルを見て俺はそれをしんじていた。
いや、違うな。
アイトのためにもそれを信じたいと思っていたのだ。
それが俺にできることだと。