【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない   作:C-RhYme

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第四十五話 星野アイ

 

今日はB小町がドームライブを行う記念すべき日だ。

 

 

「なんだかママ妙にそわそわしてるね」

 

「うん・・・」

 

 

アイも普段とは違い緊張しているのか昨日の夜からなにやらピリピリしている。

 

少しだけ気になったのは昨日藍斗君が迎えに来ようという話をしたら断っていたことだ。(藍斗君は引っ越しておらず私たちが引っ越す前のマンションの方で暮らしている)

 

普段なら逆に迎えに来てと頼むのにその時だけは『絶対に来ないで、お願いだから』と必死にお願いしていたのだ。

 

藍斗君も何かしらを感じ取ってそれ以上追及せず了承を伝えていた。

 

 

「ママ、大丈夫?」

 

「うん!全然大丈夫だよ!」

 

 

ルビーが聞くとアイは先ほどまでの雰囲気を一瞬で消していつも通りの笑顔を浮かべて力こぶをつくるポーズをした。

 

残念ながら今日の格好が何故かやたらとダボついた服装なせいで全然わからない。

 

確か数年前に検診に来た時に来ていたパーカーのような気がする。

 

正直、少しくたびれておりなんで捨ててないんだろうと思うほどだ。

 

 

「そろそろかな・・・」

 

 

アイが時計を見てぽつりとつぶやくと同時ピンポーンとインターホンが鳴った。

 

こんな朝からということは社長あたりが迎えに来たのかもしれない。

 

しかし、私の予想とは裏腹にアイの表情に緊張が走り笑顔なのに険しくかんじた。

 

 

「アクア、ルビー、ちょっとママ応対してくるから絶対に部屋から出ちゃだめだよ?」

 

 

普段しないような注意を私たちにしてアイは玄関へと向かった。

 

私とルビーは互いに目を合わせて今の不自然さに少し違和感を感じていた。

 

 

「ママ、何か隠してるよね?」

 

「うん。なんか何かを警戒してるような気がする・・・ちょっと見てよう」

 

 

流石にアイに言われたとはいえ、このままおとなしく待ってるのはちょっとできなかった。

 

いや、正直に言うといやな予感がするのだ。

 

私とルビーはアイが閉めていった玄関に向かう廊下につながる扉を少しだけ開けて玄関の方をのぞいた。

 

ちょうどアイが玄関のドアを開けたところだ。

 

 

「お届け物です」

 

 

アイがドアをあけた先にいたのは帽子をかぶり宅配業者の制服を着た髪の長い3~40代の女性で小さな段ボールを片手で持っていた。

 

ただの宅配だったのかと思うより先にその声がある記憶をフラッシュバックさせた。

 

 

『アナタ、星野アイの担当の雨宮五月?』

 

『ああ、答えなくてもいいわ。その反応で十分だもの』

 

 

あいつ、あの時の・・・

 

目の前がちかちかするような感覚と共にあの時の記憶が鮮明によみがえり体が震えてしまう。

 

もう収まったと思っていた自らの死というトラウマはまだ私の中に残っていた。

 

その反応が遅れが致命的だった。

 

すぐに声を出せていればよかったと私は後悔することになる。

 

アイが段ボールを受け取ろうと手を伸ばした瞬間に、段ボールを持っていないほうの手に銀色の光る何かが見えそれをアイに突きたてた。

 

そして、その何かを引っ張ると銀色の何かには赤い何かが滴っていた。

 

 

「う・・・」

 

 

アイがうめき声をあげて後ろにふらふらと下がりお腹を両手で押さえた。

 

足元に赤い液体が落ちていく。

 

 

「アイ!」「ママ!」

 

「アクア、ルビー、きちゃダメ!」

 

 

扉を開き二人でアイに駆け寄る。

 

アイが声を上げるがそんなこと聞いてられない。

 

 

「星野アイだけでいいって言われたけど、貴方たちも一緒にしてしまえばあの男はより後悔するでしょうね」

 

 

その女がナイフを私たちに向けた瞬間、私たちは動きを止めてしまった。

 

記憶に残る痛みと恐怖で呼吸が浅くなる。

 

 

「ダメ!この子たちに手を出さないで!」

 

 

フラフラとアイが私たちの前に立ち両手を広げた。

 

不覚にもそれに私は雨宮五月の時に感じたことのない愛を感じてしまった。

 

普段から感じていたはずの思いを今は余計に強く感じる。

 

 

「美しい母親の愛ね、じゃあ先に貴女を殺すだけよ」

 

 

アイが殺される・・・

 

そう思うのに体が鎖で縛られたかのように動いてくれない。

 

情けなくて涙がこぼれてくる。

 

生まれ変わったのに推しを守れない、年下の子に守られる自分があまりにもなさけなくて。

 

アイは今すぐ治療しないといけないのに!

 

何のために生まれ変わったんだ!

 

どれだけ叱咤しても体が動いてくれない。

 

 

『無茶を承知で頼みます』

 

 

ふと、頭の中で彼の声が聞こえた。

 

 

『アイをよろしくおねがいします』

 

 

万感の思いがこもったお願い。

 

そうだ、私は約束したんだ。

 

彼女を助けると!

 

彼の声が聞こえただけで体を縛っていたかのような鎖が消えた気がした。

 

 

「母さんからはなれろおおお!」

 

 

雨宮五月だったときでさえ出したことのないアイの娘アクアマリンとしての声だった。

 

今度こそ、守れなかった約束を守るんだ。

 

体は羽のように軽くなり駆け出した。

 

何も音が聞こえないけど、横でルビーも同じように動いたのだけわかった。

 

 

 

 

 

Side Ruby

 

 

 

 

目の前の光景が私には理解ができなかった。

 

何故、ママは血だらけになっているのか・・・

 

何故、あの女のナイフには赤い液体がついているのか・・・

 

いや、私はわかっているはずだ。

 

あの女がママをナイフで突き刺したのだ、と。

 

 

「アイ!」「ママ!」

 

「アクア、ルビー、来ちゃダメ!」

 

 

慌てて駆け寄ろとするとママに制止されるがそれを無視して私とお姉ちゃんは駆け寄ろうとした。

 

 

「星野アイだけでいいって言われたけど、貴方たちも一緒にしてしまえばあの男はより後悔するでしょうね」

 

 

その女がナイフを私たちに向けた瞬間、私たちは動きを止めてしまった。

 

怖い・・・

 

刃物を向けられるのがこんなに怖いものだとは思わなかった。

 

 

「ダメ!この子たちに手を出さないで!」

 

 

フラフラとママが私たちの前に立ち両手を広げた。

 

どうして、あんな怖いものの前に立てるの・・・?

 

場違いなはずなのにそれに私は喜びを感じてしまった。

 

それはさりなのときに母さん感じてた『はず』の何かとはかけ離れた熱い感情だった。

 

今までも感じていたのに、ことさら強く感じた。

 

 

「美しい母親の愛ね、じゃあ先に貴女を殺すだけよ」

 

 

ママが殺される・・・

 

いやだ!

 

せっかく家族になれたのに!

 

私はまだあなたに美しい輝きを見せてくれた恩返しできてないのに!

 

まだ、ママに『産んでくれてありがとう』って言えてないのに!

 

これから家族でたくさんの『愛』を紡いでいくのに!

 

 

「ママにちかづくなああ!」

 

 

お兄ちゃんに嘘をついたときでさえ出なかった声だった。

 

動かなかった体が羽のように軽くなり駆け出した。

 

何も音が聞こえないけど、横でお姉ちゃんも同じように動いたのだけわかった。

 

 

私たちから『愛(アイ)』は奪わせない!

 

 

 

 

 

 

Side Ai

 

 

 

 

ドームライブ当日。

 

私にとって今日は運命の日だった。

 

 

「今日を乗り切れば・・・」

 

 

私の知る一番未来の時間が今日なのだ。

 

それより先の未来を私は見たことがない。

 

今日さえ乗り切ってしまえばアイトの死の運命はなくなるはず。

 

だからアイトには今日は絶対に迎えに来ないようにお願いしてある。

 

ストーカーと思われる者にナイフで刺されて殺されそうな私をかばって殺される。

 

それを回避するにはここには来させない、それしかない。

 

昨日、アイトに来ないようお願いしたときにはアイトはやさしくうなずいてくれた。

 

何も言わない私に追及せずに受け入れてくれた。

 

昔からそうだ。

 

いつも大切なことを言わない私に対して受け入れてくれている。

 

 

「ママ、大丈夫?」

 

「うん!全然大丈夫だよ!」

 

 

どうやら表情に出てしまったようでルビーに心配をかけてしまったようだ。

 

私は力こぶを作るポーズをとって笑顔を浮かべた。

 

大丈夫、入念に『準備』したんだから。

 

 

「そろそろかな・・・」

 

 

時計を見てぽつりとつぶやくと同時ピンポーンとインターホンが鳴った。

 

私にはそれが死神の音に聞こえた。

 

覚悟を決めないと。

 

 

「アクア、ルビー、ちょっとママ応対してくるから絶対に部屋から出ちゃだめだよ?」

 

 

私は普段通りに言えただろうか?

 

少し自信がなかった。

 

玄関に向かう足取りが重い。

 

そして、深く深呼吸してからドアを開けた。

 

 

「お届け物です」

 

 

そこにいたのは帽子をかぶり宅配業者の制服を着た髪の長い3~40代の女性で小さな段ボールを片手で持っていた。

 

あれ?男の人じゃない?

 

虚を突かれたせいか、私は特に深く考えず荷物を受け取ろうと手を伸ばしてしまった。

 

その瞬間、視界の端に光る何かが見えたかと思うとお腹に鋭い衝撃が走った。

 

それと同時に足元に赤い液体がしたたるのが見えた。

 

 

「う・・・」

 

 

お腹を押さえて距離をとる。

 

女は段ボールをすでに投げ捨てていて手には私に突き刺したであろう赤くそまったナイフが握られている。

 

失敗したな・・・

 

 

「アイ!」「ママ!」

 

 

そんなことを考えていると、部屋から出ちゃダメって言ったのに二人が必死な様子でこっちに駆け寄ろうしていた。

 

 

「アクア、ルビー、来ちゃダメ!」

 

 

制止しようとすると目の前の女がナイフを私ではなく駆け寄ろうとする二人の方へ向けた。

 

ナイフを向けられた二人はその場で固まり、恐怖の表情を浮かべている。

 

その瞬間に心臓がドクンと大きく脈打ったのがわかった。

 

 

「星野アイだけでいいって言われたけど、貴方たちも一緒にしてしまえばあの男はより後悔するでしょうね」

 

「ダメ!この子たちに手を出さないで!」

 

 

二人の前に立ち両手を広げた。

 

胸の奥に何か熱いものを感じる。

 

胸の奥に何か冷たいものを感じる。

 

 

「美しい母親の愛ね、じゃあ先に貴女を殺すだけよ」

 

 

再び私にナイフを向けられる。

 

ああ、ナイフを向けられるってこんなに怖いんだ。

 

二人に心配させたくないから体が震えそうになるのを無理やり抑え込む。

 

こんな怖いのにいつも守ってくれてたんだ。

 

 

『好きが振りきれると何を犠牲にしても惜しくない』

 

 

どれかの未来で誰かに言われたその言葉がやっと私の中でやっと私の一部になってくれた。

 

これが『愛』という熱なんだ。

 

胸の奥からあふれてしょうがない。

 

それを失うかもしれない『恐怖』という寒さを抑え込むほどの大きな熱だった。

 

 

「母さんからはなれろおおお!」

 

「ママにちかづくなああ!」

 

 

突然、そんな声が聞こえると同時に私の横を二つの宝石が駆け抜けていった。

 

そして、その女の足に完全に同じタイミングで体当たりをしてバランスを崩させた。

 

その言葉を聞いて、その様子を見て、ダメなのに胸の奥からこれ以上ないほどの気持ちがあふれてくるのが止められない。

 

 

「なっ!?」

 

「アクア、ルビー!」

 

 

私は急いでその女を押さえ込むためにうごきはじめた。

 

それを見た女は一瞬ニヤッと笑って再び私にナイフをつきたてた。

 

 

「お前さえ、殺してしまえば・・・!?」

 

 

突き刺ささったナイフが抜けなくて女が焦っている。

 

 

「うん、そこを刺されるって知ってる。私が何回それで守られて、何回あの人を死なせてしまったか・・・もう、何も奪わせない!」

 

 

私はこの日の為に入念に準備をしてダボついたパーカーの下にアイトがニノに刺された時に使った防刃ベストと血糊と、ナイフを奪うための厚い雑誌を仕込んでいたんだから。

 

私は女の腕をつかんで教えてもらった護身術で女を投げ飛ばした。

 

 

「ぐぅ・・・くそ!」

 

女はそう言い捨てて逃げていってしまった。

 

私はお腹の雑誌に刺さったナイフを抜き、その場に投げ捨ててすぐにアクアとルビーに駆け寄ってだきしめた。

 

その小さな体は震えており、美しい星の瞳から涙がこぼれていた。

 

 

「大丈夫!?怪我してない!?」

 

 

それが怖くてしょうがなかった。

 

自分が万が一でも死ぬよりも二人がけがをする方が何倍も怖かった。

 

二人は言葉にしなかったけどうなずいてくれた。

 

 

「よかった。本当は、こんな危ないことしたらダメって怒らなくちゃいけないのに・・・ごめんねママ二人から愛されてるってわかってうれしくてしょうがないの」

 

 

あの時二人が駆け出した瞬間に私は恐怖以外に喜びを感じてしまった。

 

二人もまた私のために命がけで動いたのが怖くて、嬉しくて。

 

二人から愛されてると実感できたのだから。

 

やっと理解できた。

 

 

「アクア、ルビー愛してる」

 

 

この胸の奥からあふれ出た言葉が嘘であるはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、二人は私の血の件で改めて大騒ぎとなった。

 

救急車を呼ぼうとした二人に慌てて防刃ベストと血糊であることを説明して、二回目刺された場所も雑誌で守った旨を伝えてやっと落ち着いた。

 

本当は一撃目でナイフを奪えるようにアイトからは学んでいたけどいざ実戦だとうまくできないもんだなぁ。

 

 

「でもアイが無事でよかった?」

 

 

さっきは母さんと呼んでくれたアクアがまた呼び方が戻ってしまった。

 

ちょっとだけ残念。

 

 

「でも、ママ準備良すぎない?」

 

「まぁ有名アイドルですからね!こういうこともあるかもって大事な日は準備してるんだよ」

 

「・・・?」

 

「さっすがママ!」

 

 

この秘密だけは隠す。

 

私もこれより先の未来を知らないのだから。

 

とりあえず、血糊で汚れてしまったのをきれいにしてあとは警察に任せた。

 

実害がでたからやっと動いてもらえる。

 

これでもう大丈夫だから今度こそライブの準備をしないと!

 

 

 

 

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