【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
『みんなー!今日はありがとー!』
ステージの上でアイがドームを埋め尽くす観客に手を振る。
マイク越しに聞こえた声にこたえるように歓声があがりドームを揺らす。
会場は明るいのに埋め尽くす明かりがあまりにもまぶしく感じた。
「どうだ、アイトすげえだろ」
「・・・ええ」
「あら、アイトさんも感無量なのね」
よこにいる社長夫妻に言われ俺は言葉が出ていなかった。
俺達は観客席の一番後ろでドームの一番高い場所でライブを見ていた。
『次はB小町と言えばのサインはB!』
ニノがそう言うと再び歓声があがる。
先ほどのアイに負けないほどの大歓声だ。
ニノは俺の殺人未遂以来、人気が大爆発した。
昔の輝きを取り戻したという声もあえばそれ以上だという声もある。
そして、それらに共通する意見として『アイと同等以上』というものだった。
かつてB小町のツートップと言われていたが、実際はややアイの方が上だったというのが世間の声だった。
それが今やどちらが上かというのに答えがでない。
それがファンの共通認識だ。
今では正真正銘『B小町のツートップ』となっている。
「それにしても、今ニノ間違えましたよね?サインはBはラストなのに次は、と」
俺が聞いている段取りでは『サインはB』はラストの曲だ。
時間的にもちょうど最後のはず。
俺が聞くと夫妻はニヤニヤとした表情を俺に返してきた。
「間違ってねえよ、なあミヤコ?」
「ええ、そうね」
どうやら俺が聞いていないことがあるらしい。
そういえばドームライブ段取りでは妙に俺に情報が入らないようにしていたな。
ドームに入るのも何やらギリギリになるようにミヤコさんに妙に引っ張られた気もする。
まぁ、別に構わないか。
しばらくして『サインはB』が終わり再び歓声がドームを揺らす。
「さてと・・・」
「ちょっと待て」
そろそろ行こうと思い動き出した瞬間に社長に肩をつかまれた。
まるで俺がここで動くとわかっていたかのように。
「最後まで一緒に見てくれ」
「・・・わかりました」
何か、意図があるのだろうと思い受け入れて元の場所に戻る。
別に急ぎの用事というわけでもないからいいか。
そう考えていると社長が俺にサイリウムではなくペンライトを渡してきた。
「俺は」
「いや、絶対にいる。タイミングもお前ならわかる」
断ろうとすると有無を言わさず握らされた。
そのタイミングで観客席のファンたちが持っているのが普段のサイリウムではなくすべてペンライトであることに気が付いた。
『次が最後の曲だよ!』
アイの言葉にまだ歌ってない曲を思い出すがどれもピンとこない。
それこそトリを飾る曲ではない。
『聞いてください。この日の為に用意した新曲『貴方の一番OSHIに!』』
メンバー全員で曲名を告げた。
俺の知らない曲だった。
ふと横を見ると夫妻が相変わらずニヤニヤしていることから知らないのは俺だけらしい。
曲が始まるとドーム内のライトはステージだけになり観客席側が真っ暗になった。
それこそサイリウムなら消せないはずなので本当に観客全員がペンライトのようだ。
「・・・ソロ?」
「ああ」
俺のつぶやきに社長がうなずいた。
曲が始まると一人ひとりにライトが順番にあたり、ライトが当たっているメンバーのみが歌っている。
そのメンバーのイメージカラーに会わせてドーム内のサイリウムが色を変えている。
その光景に俺は息をのんだ。
ドームという夜空でステージ上の一番星に合わせて輝く星々のようだ、と。
ほほに何かが流れるのを感じた。
昔『藍斗は星が好きだな』と言われたような気がする。
それが誰かは思い出せないが、それに対して俺はなんと答えただろうか?
確か『うん、この夜空の為ならなんでもできる』だったか・・?
『幾千の明かりがなくとも』
ニノのパートになり彼女が照らされる。
しかし、ドーム内で緑のペンライトがついておらず明かりはニノのところにしかない。
『たったひとつでかまわない!』
彼女を照らしているライトがどんどん弱くなっていく。
『貴方が私を照らしてくれるなら、私は誰よりも輝くから!』
泣いているように聞こえる私を見てほしいという悲痛な叫び。
しかし、彼女を表すかのように明かりがどんどん消えていく。
『だからお願い!』
気が付けば俺は緑色のペンライトを掲げていた。
その瞬間、ステージ上のモニターに映る彼女の笑顔が眩いほど輝きその瞳には大きな輝きが見えた。
それと同時に明かりが強くなり会場を照らした。
『私が貴方の一番OSHIになるから!』
ニノがそう歌い上げると今度は明かりがアイに移り、会場は赤いペンライトで埋め尽くされた。
それと同時に俺はペンライトを消して社長に返した。
「アイのはやらないのか?」
「ニノとの約束ですから」
他の色は持たない。
まぁ、サイリウムじゃなくてペンライトだとごねることもできるが無粋だ。
『私を一番OSHIにしてくれるなら、私からBのサインを伝えるよ』
今日のアイはいつもより輝いて見える。
まるで何か吹っ切れたかのように。
『一番BOSHIとしてあなたを照らして伝えるよ』
そこで少し溜めてアイはこちらを見た気がした。
『愛してる』
その瞬間会場は爆発したのかと思うような歓声に包まれその曲は終わった。
俺はそれを見届けてそっとその場から離れた。
今度は止められなかった。
ドームの外に出ても、まだ中からは歓声が聞こえた。
「やぁ、兄さん」
「ヒカル・・・どうしたんだこんな場所で?」
「いやだなぁ。わかってるでしょ?」
「そうだな」
外に出るとまるで待っていたかのようにヒカルがいた。
いや、違う。
俺を待っていた。
「少し、兄さんとはなしたくてさ」
「俺はもうないな」
「だろうね。だから、僕の役目は時間稼ぎだよ」
時間稼ぎと堂々と言われるとは思わなかった。
俺が少し驚いているのが伝わったのかヒカルは小さく笑った。
「そうか、なら最期にそれぐらいは付き合おう」