【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
ドームライブが終わる1時間前。
僕は入念な準備をしてドームの近くの人目につかない場所に来ていた。
別にライブを見に来たわけではなく、ある人物を待つ為だ。
「ちっ!なんでまたいやがる」
僕が待っていた人物は隠そうともせず不機嫌そうに舌打ちをして現れた。
予想通りの場所である意味一安心だ。
「そりゃあ、兄さんを守るためだよ」
「・・・ブラコンか、きもちわりぃな」
父さんはそう吐き捨てて僕をにらみつけた。
「父さん、今更だけどもうやめない?僕だって身内を咎めるのは少しばかり気が引ける」
「思ってもねえこというんじゃねえよ」
僕の父親だけあって僕の微塵も考えていないことはお見通しのようだ。
それもそうか、僕にとってこいつはもうただの害虫なのだから。
「俺の部屋に入ったのはてめえだな?」
「うん、兄さんが調べた情報を教えてもらってて住んでる場所はしってたからね」
それは兄さんが僕のことに気が付いたときの情報だ。
あのとき兄さんは僕じゃなくて『両親』を調べており、そのさいに僕の存在に気が付いた。
その時の情報を僕は兄さんから聞いているため両親の基本的な情報は知っている。
「確信はもててなかったけど、あなたが書いた記録を読んで納得したよ。あなたは兄さんを殺すことで『救おう』としてる」
「・・・そこまでわかってんならどけ」
僕がそう言うと一瞬父さんの目線が泳いだ。
彼の住まいで見つけた記録の内容はアイから話を聞いていなければ信じられない内容だった
「何度繰り返してもあいつは助けられねえ!なら『この世界』では死なせてやるのが親心だ!」
繰り返す。
信じがたい話だが、この人は意識だけを過去へ送り何度もやり直しているらしい。
それも『最初に事故で兄さんを失ってから』ずっと。
何回も何十回も何百回も・・・
「この気持ちだけは嘘であるはずがねえんだ!」
「それが貴方の本心なんだね」
昔から誰も自分を信じてくれない。
いや、なぜかその瞳を見てしまった者はこの人を記憶できない。
いつからか自分自身が嘘だと思い込んでしまった。
そんな中で唯一の救いが兄さんだった。
目を見てもちゃんと父親だと思ってくれた兄さんを。
「俺だってあいつを殺したくねえよ!だが、成長できるように与えた試練で死ぬんなら殺してやらねえといけねえ!」
言ってることがめちゃくちゃだ。
「言っとくが俺は殺されてでもやり切る!」
「だろうね」
「だが俺に手をだしたらお前もあいつも困るだろうさ」
そう、それが僕がすぐに行動を移せなかった理由だ。
警察に突き出してしまうとこいつは兄さんだけでなくアイとの関係をすべてをぶちまけるだろう。
兄さんが守っている存在をぶち壊して兄さんを追い込む。
それで兄さんを殺せることをこいつは知っている(経験している)から。
僕がここでこいつを殺しても同様だ。
僕と兄さんの関係、そこから芋づる式に暴かれては困ることが世間にばれて兄さんを追い込むだろう。
今やかなり有名になっている兄さんとB小町はメディアと世間のおもちゃにされる。
「ちょっと、どういうことよ!」
その時宅配業者の格好をした髪の長い女性が父さんに駆け寄ってきた。
その女に見覚えがあった。
「愛梨・・・さん」
「あら、ヒカル」
モノクロの記憶が僕に恐怖を思い出させる。
まさか、こいつが姫川愛梨と一緒にいるとは思わなかった。
しかし予想とは違い彼女は僕を一瞥すると興味なさげに視線をそらして父さんに再び詰め寄った。
「星野アイ、襲撃される準備してたわよ!」
「・・・は?あいつがそんなことしたことなんてねえよ!なにかへましやがったか!?」
二人が言いあっている。
どうやらアイはうまくやったらしい。
と考えていると何やら大型の車が寄ってきて二人のそばで止まった。
そして、ドアが開いたかと思うと抵抗を一切許さず中に姫川愛梨を引きずり込んだ。
一瞬暴れる音が聞こえたあと、静かになると中から一人の女性が下りてきた。
「・・・雅」
「久しぶりね?頼斗」
神木雅、僕の母親だった。
彼女こそ、僕の切り札だった。
「てめぇが呼んだのか!?」
「ええ、元夫婦水入らずでごゆっくり」
あとがどうなるかなんて見なくてもわかる。
僕の役割はここで父さんを足止めをして母さんが来るのを待つこと。
母さんは手に持っていた包丁で父さんに突き刺したのを見てからその場を離れるように歩き始めた。
「ぐ・・・」
「あのおんなが何かなんて興味がないわ。でも、あんなのと一緒にいて平気ではいられないわ」
「輝!助けてくれ!」
情けなくも僕に助けを求める父さんに僕は振り返らず足を止める。
「お断りだ。ただ、一つだけあなたに感謝することがある。兄さんが産まれたのはあなたのおかげだ。それだけは感謝してるよ」
「輝」
それだけ告げて去ろうと再び歩き始めようとしたところで母さんに呼び止められ足が止まる。
「藍斗と仲良く生きなさい。私たちと会うことはもうないでしょう。それとこれは私が自分で決めたことだから」
それだけ言って母さんは父さんを車に乗せて、車を出した。
こうなるように仕組んだとはいえあまり気分のいいものではない。
僕と兄さんの年齢差、離婚の時期、それらを考えれば離婚後も母さんは父さんに惹かれていたのはすぐにわかった。
そして、兄さんや僕をちゃんと育てられないことも加味するともはや父さんに依存ともいえる強い執着があることも。
兄さんが調べた両親の人となりもそれが間違いではないことを裏付けた。
だから僕は母さんに教えてあげただけだ。
どこに父さんがいるか、父さんが何をしているか、そして、母さんの背中をそっと押してあげただけだ。
ここにきて話し合った方がいいかもしれない、と。
運が良ければ一生の監禁で済むだろう。
姫川愛梨をどうするかはわからないが、ただでは済まないだろう。
「これでいいんだよ」
僕は『キミ』みたいに自分を投げ捨てて、という選択はとれない。
僕もまた兄さんの大切なものである、という自覚があるからだ。
周りが大事なら、その大事なものの中に自分が含まれると知らないといけない。
それがわかっていれば『キミ』は『僕』なんかと天秤にかけなかったはずなのに。
「やぁ、兄さん」
考え事をしていると本当の待ち人が来た。
さて、これからが本番だ。