【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない   作:C-RhYme

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第四十八話 斎藤壱護

 

ヒカルに連れられてドーム近くの公園に来た。

 

 

「さてと、何の話からしようか?」

 

「俺から話すことはない」

 

「手厳しいね、兄さん」

 

 

ヒカルに対してはしたことのないような態度をとってもヒカルは気にした様子もなく返してきた。

 

 

「俺はもうやり残したことはない、ここでの会話も蛇足だ」

 

「兄さんは死ぬ気なんだね?」

 

 

ヒカルの問いに俺は声を出さずにうなずく。

 

もう、アイもアクアマリンもルビーもニノもB小町も苺プロも俺がいなくても大丈夫だ。

 

仮に少し気落ちしても持ち直せる。

 

 

「やっぱりそうか」

 

 

聞こえてきたのはヒカルの声ではなく、壱護さんだった。

 

 

 

「思ったより早かったですね」

 

「無理に抜け出してきたんだよ!あとでアイトには一緒に謝ってもらうからな」

 

 

どうやらヒカルが稼いでいたのは彼が来るまでの時間だったようだ。

 

 

「じゃあ、僕は行こうかな。あとは二人でどうぞ」

 

 

そう言ってヒカルは本当に行ってしまった。

 

どこか俺の弟だな、と納得してしまった。

 

 

「それで壱護さんなんですか?」

 

「ああ、それでさっきのは本気なんだな?」

 

「ええ」

 

 

わざわざ聞き返さずにうなずく。

 

 

「理由を聞かせてもらっていいか?」

 

「赤の他人のあなたに話す気はない」

 

 

敬語をやめ突き放す。

 

もう、すでに事務所には退職届を出してある。

 

法律上はまだやめていないが、このあとのことを考えれば些事だ。

 

 

「赤の他人、か。だけどな、俺は頼斗先輩に藍斗を任されてるんだ!」

 

 

その言葉は俺はここから去ろうとした足を止めた。

 

視界に火花が散る。

 

 

「お父さん・・・」

 

「そうだ、お前の父親の頼斗先輩からだ!」

 

「・・・話は聞きます、ふざけた内容だったら歯の何本かは覚悟してください」

 

 

足を完全に止めて社長に向き直る。

 

 

「俺も思い出したのは最近だが、俺はお前が生まれてすぐに会ったことがある」

 

「え・・・」

 

 

想像もしないことを言われて言葉漏れる。

 

 

「あの時の先輩は嬉しそうだった。俺に会うたびにお前の自慢ばかりだった」

 

 

懐かしむように壱護さんは語る。

 

知らないはずなのにその光景が浮かんできた。

 

 

「先輩より俺に懐いちまって先輩がふてくされたこともあるぐらいだ」

 

 

懐かしむだけでなく嬉しそうに社長は語る。

 

道理で、いきなり彼を信じられたはずだ。

 

 

「でよ、先輩に一つだけ頼まれたんだ」

 

 

壱護さんは表情を引き締めた。

 

 

「『俺に何かあったら藍斗を頼む』って」

 

 

どこかありきたりだと聞き流そうと思ったが、その言葉にはまだ続きがあったようで社長はさらに続けた。

 

 

「藍斗は自分をないがしろにして誰かを救おうする、その時支えてやってくれ」

 

 

社長が言っているのにそれが俺の覚えてない男性の声で聞こえた。

 

 

「きっと俺のせいで、満たされることなく義務感で手を伸ばす。だからもし俺がいなかったら代わりに伝えてくれ」

 

 

胸の奥が痛い。

 

 

「『俺はちゃんとお前を愛してる』って」

 

「おとう、さん」

 

 

胸の奥にこれまで受け入れたことのない熱い何かを感じた。

 

割り切っていたつもりだった。

 

何も感じていないと思っていた。

 

でも、違った。

 

俺は、お父さんに捨てられたのを受け入れていないだけだった。

 

誰かを助けていればそれを埋められると思って・・・

 

先ほど流した涙とは違う涙が頬を流れたのがわかった。

 

 

「俺たちは勘違いしてた、アイトは見返りを求めず助けてくれてたと。違ったんだな、本当は誰よりも」

 

「・・・それ以上言わなくて大丈夫です」

 

 

わざわざ言葉にする必要はない。

 

 

「そっか・・・」

 

 

俺はちゃんと愛されていたのか。

 

自覚させてもらったおかげで視界がクリアになったような気がする。

 

 

「壱護さん、人って単純ですね」

 

 

先ほどまで『星野アイト』でいるのに疲れ果てて死のうとしていたのに、今は活力が戻ってきている。

 

 

「複雑なふりをしてるやつが多いだけだ。俺からしたらお前なんて少し生意気なガキだよ」

 

「ガキ、か、そうですね」

 

 

迷子になっていた子供が親に見つけてもらった。

 

きっと、今のはそういうのだろう。

 

ちょっと迷子がながかったけど、お父さんはちゃんと迎えにきてくれた。

 

捨てられたことに関しては変わらず何か思うでもないけど、愛してくれていたという事実だけで俺には十分だった。

 

 

「ふぅ、さてとライブの撤収作業ですね」

 

「戻るのか?」

 

「ええ。だって俺は苺プロ所属の星野アイトですから」

 

 

そういってドームの方へ足を向ける。

 

後ろから慌てて社長が走ってきて横に来ると歩き始めた。

 

 

「ところで、確認したいんですが今日観客が全員同一規格のペンライトを持ってましたね?」

 

「う・・・」

 

 

俺が今日のライブで気になったことを聞くと社長は肩を震わせた。

 

 

「さ、最後の演出を考えたらよ・・・」

 

「はぁ」

 

 

できれば肯定してほしくなかったことを肯定されため息がでる。

 

 

「今日のライブ分込みで間違いなく赤字ですね」

 

「だよなぁ」

 

「まぁ、なんとかしますよ。父さん」

 

「俺はてめえの父さんではねえよ!」

 

「冗談です」

 

 

戻る足取りは軽かった。

 

 

 

 

 

 

Side Ichigo

 

 

 

あれはカミキから話を聞かされた時のことだ。

 

 

「頼斗先輩が何度も過去をやり直している?」

 

「ええ、この日記を見てください」

 

「これは?」

 

「父さんの部屋で見つけたものです」

 

「・・・そうか」

 

 

深くつっこまずに俺はカミキから差し出された古びた日記を受け取った。

 

中を開くと最初の方はアイトが産まれたころの幸せそうな文章で埋め尽くされていた。

 

それと同時に俺の記憶にも先輩とアイトとの記憶がよみがえってきた。

 

そして、先輩に頼まれたことも。

 

 

「なんで、俺はアイトのことを・・・?」

 

「僕の予想ですけど過去に記憶を飛ばす術の副作用のようなものみたいですね。父さん周りのことだけ正常に覚えていられない。僕の知る限りの人は全員覚えていないと言ってましたし」

 

 

本当にオカルトだな。

 

日記を読み進めるとアイトが3歳ぐらいころで文章が読めないほど字がぐちゃぐちゃになっていた。

 

その先の文章が読めるところをなんとか読むと何が起きたかわかった。

 

 

「おい、アイトが事故で死んだって、あいつは今」

 

「これは本当に一番最初の過去に記憶を飛ばす術を使う前の記録なんでしょうね。この日記もどうにかして持ち込んだのか、そのあたりはわかりませんが」

 

 

その後の記録はすべて後悔が詰め込まれた失敗の記録だった。

 

なんとかしてアイトを生かそうとしてもすべて別の理由で死んでしまっている。

 

そのたびに文章が荒れていく。

 

そして、最後の方にはこう書いてあった。

 

 

「『あいつを助けるには死ぬ前に殺してやる』・・・助けたいんじゃ」

 

「もう、正常な判断ができないんでしょうね。思い出したかのように試練を与えて成長を促そうとして、それが過剰で兄さんを追い詰めている」

 

 

苦しめて殺そうとしてるというのはそういうことか。

 

わけがわからない。

 

 

「だから、まず兄さんを助けるには父さんを何とかしないといけないんですけど、それは僕が何とかします」

 

「何とかって説得できるのか?」

 

 

俺がそう聞くとカミキは背筋が凍るような笑みを浮かべた。

 

 

「いいえ、ただ母さんは父さんにご執心なのでぶん投げるだけです」

 

「だ、大丈夫なのか?話を聞く限り今の先輩はやばいんだろ?」

 

「問題ありません。おそらくこれが一番確実です。それとこれからは僕の独り言です」

 

 

そう前置きしてからカミキはいったん呼吸を整えてから口を開いた。

 

 

「僕は父さんに退場してもらいたいと思ってます。あいつが生きている限り兄さんが苦しむ可能性がある。だけど、僕や兄さんが排除しようとしたら兄さんの大切にしているものすべてが世間のおもちゃにされるでしょうね」

 

 

いまや有名人となったアイトのスキャンダルとなれば大喜びでメディアは食いつくだろう。

 

そうなればどれだけの被害がでるか想像もつかない。

 

 

「ただ、メディアと世間は真実を求めない。父さんの死は男女間の痴情のもつれというありきたりでその日限りで消費される面白みのないカバーストーリーで覆い隠せばいい。この真実へはたどり着かせない(この嘘は暴かせない)」

 

 

明確にこいつは先輩を殺そうとしている。

 

俺は一体どうすれば・・・

 

 

『俺に何かあったら藍斗を頼む』

 

 

まだ嬉しそうにアイトを抱っこしていたころに先輩に言われた言葉を思い出した。

 

それで心は決まった。

 

 

「俺もそれに協力する」

 

「では、貴方には兄さんをよろしくお願いします」

 

 

これが俺からできる先輩への最後の恩返しだ。

 

 

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