【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
「はぁ・・・」
「ひっ・・・」
苺プロの事務室で俺は手元の資料を見て大きくため息を吐いた。
『何故か』俺の横で正座をしている社長が小さく声を上げ大きく肩を震わせる。
「ここまで赤字が大きいと、流石になぁ」
俺が見ているのはドームライブの最終収益だ。
チケット代・物販等から会場代・人件費・機材費・その他諸々を差し引いた結果、とんでもない赤字をたたき出していた。
もちろん最初から黒字に終わるとは思っていなかったので赤字は想定内なのだが、とある項目でとんでもないことになっている。
「い、いや、そのな、あの日にも言ったけどよ演出に妥協するわけには」
「わかってますよ。わかったうえで言ってます」
赤字の大きな要因、それが観客ほぼ『全員』にペンライトを無料で貸し出したことだ。
これは俺が聞かされていなかったことで、最後の曲の演出もそうだが会場の一体感を高めるためにそんな無茶をやったとのこと。
機材リースの会社(複数)を通したレンタル品なので新品をまるまるそろえるよりはましだが返却の際にこちらの検品後の故障品はこちらで補償する契約もしている。
そのまま返せる物が大半だがドームの入場者数からして1%故障になるだけでとんでもない額になるのだ。
その結果が俺の見ている最終決算である。
「やっぱ辞めた方がよかったか・・・」
「それは勘弁してくれ!」
ドームの日にこっそりとおいておいた退職届はその日のうちに社長に破り捨てられた。
まぁ、実際のところあまり意味のないことだが俺自身がそれを了承したので問題は起きていない。
しかし、現状を理解すると悩んでしまうのは仕方ないだろう。
「とりあえず資金はなんとかしますが、しばらくは休む暇はないと思ってください」
「お願いします」
そういって社長は土下座をした。
俺はこの人のこと尊敬していたのだが俺の中の株価がとんでもない速度で下落していくのがわかる。
一応、最後までついていこうとは思ったのだがこんなにあっさりと揺らぐとは思わなかった。
「あれ?アイトさん来てたんだ?」
ふと名前を呼ばれたのでそちらを方を見るとそこにはニノがいた。
確か今日はB小町全員がオフのはずなのだが。
「・・・社長、何やったの?」
俺のそばに来て社長をちらちら見ながら耳打ちしてきた。
あまりに距離が近いせいで吐息が耳にあたりくすぐったい。
「まぁ、俺に頭を下げなきゃいけないことをしたとだけ言っておく」
「ふ~ん」
どこか興味なさそうにそう言ってニノは俺にしだれかかってきた。
「ニノ、こういう場所ではやめろ」
「他のところならいいの?」
俺が注意すると目を輝かせて期待したまなざしを向けてきた。
声も普段のどこか柔らかい感じではなく少しとろけた甘い声になっている。
手を俺の手の上に重ねて指を絡めるように握ってきた。
「ダメとは言わないから今はやめろ」
「言ったからね?」
満足そうにそう言ってニノは離れて近くの椅子に座った。
その様子を土下座をやめて立ち上がっていた社長はきょとんとした表情を浮かべてみていた。
「な、なぁお前ら付き合ってるのか?」
「違います。俺が脅されてるだけです」
「は!?アイトが何やったんだ!?」
社長がニノに詰め寄るとニノは頬を染めて指を口元にたてた。
「内緒」
「いや、それで流していい話じゃねえだろ」
「とりあえず、俺から言えるのは社長に知られると俺が困るので聞き流してください」
今の状況でニノの殺人未遂が漏れると本気で苺プロが沈む。
俺がいくら否定しても本人がしゃべってしまえば隠すのが難しくなる。
表にこの話が出た時点で終わりなのだ。
「大丈夫なんだよな?」
「大丈夫です。とりあえず、さっきの件はおってお伝えするので自分の仕事してください社長」
この場に社長がいるとニノが何を口走るかわからないから社長を社長室へと追い返した。
それを見送るとニノが笑顔でまたこちらに近寄ってきて座っている俺に後ろから抱き着いてきた。
「そんなに私と二人っきりになりたかったの?」
顔は見えないが声が弾んでいるのでかなりうっきうきのようだ。
「違う。それより今日はオフなのにどうしてここに?」
「この後アイとお出かけするからその前に軽くボイトレしよっかなって」
あの日以降、二人はかなり仲良くなったようでよく二人で遊びに出かけている。
SNSでもその様子を投稿しており、一時期はファンの中で不仲説がもちあがっていたが今はそれは否定されている。
「そういえば、約束守ってくれたんだね」
「ドームの時のことか?」
「うん。私の色だけ振ってくれた」
回された腕に力がこもる。
「うれしかった・・・」
「そうか」
「あの歌ね、私が社長にお願いしていれてもらったの」
「ニノが?」
俺が知らされていなかったドームライブでトリを飾った曲。
「あの曲はねもともと私が書き溜めてた歌詞をメンバーみんなで仕上げたの」
だからそれぞれのソロパートが多い曲になってたのか。
ライブ後に見せられた関係者リストで作詞がメンバーで作曲がやっと伸びてきているヒムラだったのは知っていたが、そんな裏事情だったとは思わなかった。
以前もメンバーが新曲の提案をしてきたことがあるが、俺を通さずにそれをするのは初めてだろう。
少なくとも俺はそんなことをしてることに気づけなかった。
「それでどうしてもドームで歌いたいって」
「・・・そうか」
思うところはいくつかあるがわざわざ言う気にはならなかった。
社長が通したのだから俺からわざわざ指摘する必要はないだろう。
歌詞の内容が特定の人間に向けているような気がした、というのは。
「最後の演出ね、アイトさんがやってくれなかったらあのままライトが消えてステージから降りるつもりだったの」
「おい」
「ふふ、でもちゃんと照らしてくれたから問題ないね」
思ったよりあれはギリギリだったようだ。
とりあえず、そのことを説明せず『俺ならわかる』とぶん投げた壱護さんをあとでいびろうと心に決めた。
「あー!ニノ何してるの!?」
事務室の入り口の方から悲鳴に近い声が上がった。
そこにはアイがいた。
どうしてこいつらはここに来るんだ・・・
「そりゃあ、ねえ?」
「なんて顔してんの!?」
俺からは見えないが、ニノがゴクンとのどを鳴らしたのだけは聞こえた。
その後、二人が出かけるまでキャットファイトに巻き込まれ俺は仕事が一切できなかった。
二人が出発してから壱護さんを少しいびって憂さ晴らしをし、ルビーたちを迎えに行く時間まで仕事をするのだった。
ドームライブ後始末編2話目とでもいいましょうかね?
あと1話後始末で書く必要がある部分があるのでそこをやったらアクルビ周りを書きたいなぁ
日常にするか子役話にするかでちょっと悩み中
かなちゃんとあかねちゃんが最初に出会った出来レースオーディションの時期がよくわからないので幼稚園ぐらいか小学校低学年にするか・・・う~ん