【推しの子】達を包む夜空は星を堕とさせない 作:C-RhYme
横に座るアイとの数年前の出会いを思い出しているとアイは立ち上がりこちらを覗き込んできた。
眼を焦がすほどのまばゆい星が視界いっぱいに広がった。
「あれ?アイト目が赤いけどもしかしてさっき泣いてたの?」
先ほどの雨宮先生とのやりとりを思い出した。
泣いたのなど、記憶にある限り初めてだった気がする。
その跡が残ってしまっていたのだろう。
「まぁ、俺でもそういうことがある」
俺がそう言うと彼女は驚きながら離れた。
「アイトにそんな感情あったんだ!?」
「失礼だな」
世界で一番感情の自然出力が下手なマニュアル感情アイドルのアイにだけは言われたくない。
まぁ振り返ると俺も似たようなものであるので口には出さない。
「壱護さんはまだ来ないのか?」
「佐藤社長?途中までいたはずなんだけどなぁ」
今回の用事の本当の相手である人物について尋ねるとすっとぼけるように彼女は視線をそらした。
どうやら、撒いてきたようだ。
ライブについての相談がしたくてわざわざ壱護さんに来てもらうことになっているのだがその主役が来ないと話ができない。
ちなみにだがアイはこちらに来る予定はなかったのに勝手についてきてしまったとのこと。
「あまり彼に迷惑をかけるな。文句を言われるのは俺なんだ」
本来なら立場的に壱護さんは俺に頭が上がらないから文句を言うことはない。
だが、こいつは契約時に彼にとんでもない条件をつきつけていた。
「大変だね~『兄さん』は」
俺を『アイの兄』として一緒に雇う。
それがアイの出した条件だった。
そんなもの俺が突っぱねたら終わりなのだが、あの面談の際に壱護さんに少し負い目ができてしまい悩んでしまった。
アイに呼ばれてあそこにいかなければそんな条件をのむ必要なかったはずなのだから。
それがアイにも伝わったのかダメ押しとばかりにアイに言われた。
『お母さんは私を捨てたし、お父さんのことなんて何も覚えてない。でも、アイトが・・・兄さんが残ってた。家族が残っているなら私はきっと愛を知ることができると思う。人を愛するということがわかるようになると思うの。だから、そばにいてほしい』
それでうなずいてしまったあたり、俺は家族というものに甘いのだろう。
俺は了承した旨を壱護さんに伝え、手が空き次第雇ってもらうように段取りを組んだ。
その際に俺は事務方希望だったのだがアイがそこでもごねて無理やりマネージャーへとねじ込んだのはあとで聞かされた。
壱護さんもここまできたらどうでもいいとばかりにそれを了承(俺への確認無し)したらしい。
俺をアイの兄として雇う以上その手綱を握るよう厳命された(ここで立場がある意味逆転した)。
そして、何故アイが俺を雇うようにしただけでなく『兄』という役割を求めたのかは割とすぐに少しだけわかった。
『それで、ウチの兄なんだけど、よくライブのことで手伝ってくれてて』
テレビでそれを見た時の俺の心情はどう表現したらいいかわからなかった。
ことあるごとにエピソードトークでアイは当然のように『兄』という存在を表に出している。
理由はわからないがアイは俺を表に出そうとした。
そのためにただ『男』ではなく『兄』とすることでマイルドにしようとしているのだろう。
アイドルなのにほかの男の存在を出すことはマイナスでしかないのだが、『仲の良い他のメンバー』からアイのポンコツエピソードが出るとその『兄』がフォローしているという話になり気が付けばファンの間では『アイのお兄様』という扱いになっていた。
ある意味最初から兄がいることを公言しているからかその事でたたこうとするとその人がにわか扱いされてたたかれている、ということがよく起きているのだとさりなが言っていた。
余談だがさりなが掲示板でアイのお兄様アンチをたたいているのを見たことがあり、そのときはさすがにあきれた。
「まぁまぁ究極的に可愛い妹様のお茶目だと思って」
俺の少し恨みがましい視線に気が付いて、『てへっ』とアイはウィンクをこちらにとばした。
これがライブだったら大歓声が上がるだろうがあいにくここにいるのはB小町アイのファンというわけではないのでそれにあきれることしかできない。
「そういえば壱護さんが来る前に聞きたいことがある」
「・・・スリーサイズとか?それはちょっとなぁ」
俺が改まって聞こうとした瞬間、何かを察したのかふざけて返してきた。
こうなったときアイは基本的に素直に答えてくれない。
それでも聞いてみる必要がある。
「あの日、どうして病院に戻るように言ったんだ?」
さりなが息を引き取った日。
その日の夕方頃東京に行くための空港に到着した俺にアイは連絡をしてきた。
それもいつもの他愛のない内容ではなく『病院に戻って、後悔するから』という普段のやりとりからはかけ離れた忠告だった。
まるで俺が逃げるのを分かっていたかのように。
「俺は妹が入院していることは言ったことがあるが、もう先が短いことは口に出したことがない」
それを誰かに漏らしたことは一度もない。
俺自身が諦めつつも口に出すことを恐れていたからだ。
「キミは何を知ってるんだ?」
俺の言葉に後ろめたそうにすることも、誤魔化そうというような色もなくアイは笑顔を浮かべていた。
その瞳はこれまで見たことがないほど爛々と光り輝いているよう見えた。
「内緒」
口に指をあてて彼女は一言そういった。
「そうか、ならいい」
嘘を言うわけでも、本当のことを言いうわけでもない。
それが今の回答の意味だ。
元々答えてもらえるとも思っていなかったからそれでかまわない。
だた伝えることがあった。
「ありがとう」
あの日、もし逃げてしまっていたら俺はいつまで引きずっていたかわからない。
いや、引きずるどころではないことは容易に予測できた。
俺はおそらく・・・
そこまで考えて思考を中断した。
俺の言葉を受けてアイは満足げに微笑んだ。
「当然だよ?私はアイトの味方だもん」
その言葉に偽りは微塵も感じられず、絶対的な自信を感じた。
それを聞いただけで彼女の俺に対する言動の疑問点を暴く必要性を感じなくなった。
(甘いなぁ、俺も)
思わずため息が漏れた。
彼女は俺に不利益をもたらそうとは微塵も考えていない。
それがわかった以上、聞こうとは思わなかった。
その後、しばらくしてから壱護さんがこのライブハウスへと姿を現した。
かなり怒っており壱護さんを撒いてここに来たアイへは雷が落ちたのは言うまでもない(効いていない)。
BAD END分岐条件
1:さりなちゃんの最期に傍にいない
2:雨宮先生に葬儀に参加しない本当の理由を言わない
3:アイに不信感を抱き無理に追及する
上記3つすべてを満たすと即後追いエンドとなります。
2つを満たすと1~2年後に爆発する時限式のデッドエンドでそこでセーブすると詰みセーブとなりまます。
3以外の1つだけ満たすと特定ハッピーエンドは封鎖されますがノーマルエンドへは到達可能
3だけを満たすと心中エンドとなります。
いやぁ、アイト君無事でよかったです。