よみがえれ! ハロウィン・アイドル・リバイバル! ――空き町の歌姫――   作:春雨シオン

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ハロウィンイベントが大盛り上がりの果てに終わったはいいものの、結局新しいエリちゃんが登場しなかったのが寂しかったので生まれた作品です。

暖かい目で見守ってくださいますと幸いです。


第一節 エピローグの後の歌姫

 ―――ハロウィン。このカルデアという地にあって、その名は恐怖と震撼とを以て迎えられる。

 

 

 曰く、鮮血と恐怖の祭典。

 

 曰く、狂気渦巻くフェスティバル。

 

 曰く、やって来たり来なかったりする頭痛の種。

 

 

 その大本たる鮮血魔嬢にして激かわドラゴンアイドルのエリザベート・バートリー。誰もが裸足で逃げ出す恐怖の女の子。彼女はハロウィンイベントが行われる度に増殖し、何度も出てきて恥ずかしくないのかとなじられながら幾星霜。今ここに、恐怖の10人目が生まれた!

 

 

 その名も、開闢のエリザベート!

 

 

 恐れるがいい! 慄くがいい! 祈りの言葉を捧げるがいい! カルデアよ、貴様らは今年もまた、トンチキのどん底に突き落とされるのだ―――!

 

 

「もうよくない? そういうの。」

 

 

 ―――え。

 

 

 開闢のエリザベートはどこから持ってきたのか、ポテトチップスとペットボトルのジュースをテーブルに置き、ぐでっとソファーに寝転がる。そこに拷問マニアの殺人鬼の姿も、ハロウィンの化身たるアイドルの姿もなかった。なんというか、普段張りつめている分、実家に帰ってきたら誰に遠慮するでもなく全力でゴロゴロするOLのようだ。

 

 パリッと小気味良い音を立ててポテチをかじり、誰に言うわけでもなく呟く。

 

 

「もうパーフェクト・エリちゃんもやっちゃったし、星5にも昇格したし、ぶっちゃけもうアタシに絞って出る味なんてないわよ。他人の生き血を絞るのは大得意だけど。」

 

「しかも何? 生まれたはいいけど、なんかもうハロウィンイベントやっちゃった後みたいじゃない。ダイダロスとかいうバーサーカーと、どこぞの軍師系サーヴァントに完全に話題奪われちゃったし。」

 

「だからもういいのよ。そろそろ後進に席を譲って、アタシは年1くらいでハロウィン伝説のアイドル1夜限りの復活―――みたいな感じでレジェンド面出来てればいいの。あ、そろそろクリスマスあたりに出張してもいいわね。」

 

 

 やる気の割にかなり図々しいことを言っている。つまらなさそうにパタパタと上下する尻尾を、何者かが強く握った。

 

 

「いたたたた! 何すんのよ! って、母様!?」

 

「……貴女もそう呼んでくれるのは嬉しいですが、今はそれどころではありません。」

 

 

 険しい顔で開闢のエリザベート―――以下、はじエリちゃんを見下ろすのは、巫女のような装いに身を包み、深紅の血のような髪を垂らしたエリザベート・バートリー。終わりのエリザベートと呼ばれる彼女は、9人いるエリザベート族の一番の新入りにして、彼女の母という立場を持った特殊なサーヴァントだ。

 

 

「また新たなエリザベート・バートリーが現れた、真なるハロウィンの始まりだ正常な世界の終わりだと騒ぎになっているのを見かねて、少しでも抑えられないかと様子を見に来てみれば……! 何ですか、そのだらけ切った様子は! それでもエリザベート・バートリーですか!」

 

「う、うるさいわね! 母様だからって実家のオカンみたいなこと言わなくていいのよ! ていうか、アタシが騒ぎを起こさないならそれでいいじゃない!」

 

「ええ、私も最初はそう思っていました……。今年くらいは常識的なイベントにしようと貴女を説得し、誰もが失笑ではなく笑顔になるようなイベントを、と。 ―――しかし!」

 

 

 終わりのエリザベートは一度言葉を切り、くわっと目を見開いた。

 

 

「貴女がだらけにだらけ、何もしないというのは問題です! 頼まれてもいないのに毎回出てきては場を荒らし、敵味方問わず頭痛をまき散らしたエリザベート・バートリーはどこにいったのですか!」

 

「ちょっと言い過ぎじゃない!?」

 

「それに先ほどから聞いていれば、自分はもう絞っても味がしないだの、しゃぶれるところはしゃぶりつくしただの! 情けないったらありはしない!」

 

「あえて強い言葉を使いましょう。私のエリザベート・バートリーは、こんなものではないと!」

 

「っ、母様……!」

 

 

 はじエリちゃんの大きな瞳が揺れる。何でか生まれてしまったから、とりあえずやりたいことをやっていた彼女に、この言葉は特攻だった。

 

 

「で、でもアタシ、パーフェクトエリちゃんの後に何をすればいいかなんてわかんないわよ!」

 

「発想を転換するのです。成長にかまけるあまり、大切な何かを見失ってはいないかと。」

 

 

 終わりのエリザベートは母親らしく、慈愛に満ちた表情で言う。

 

 

「貴女は記念すべき10人目のエリザベート。この節目だからこそ、原点に立ち返るのです。これまで私たちはいろいろやってきましたね。魔女コスに始まり、勇者、ロボ、和ロック、シンデレラ、パンク……ですが私たちが本当にやりたかったのは何か。もう一度見つめなおすのです。」

 

「アタシが、本当にやりたかったこと……!」

 

 

 ルナエリちゃんは力強く立ち上がった。その瞳にもはや迷いはなく、脚にも力が満ちている。

 

 

「アタシ、やるわ! 今こそ王道アイドル路線に立ち返って、拷問マニアとか悪属性アイドルとか、最近奪われがちな属性をこの手に取り戻してみせるわ!」

 

「ええ、ええ! それでこそ私の娘、誇り高きエルジェーベト!」

 

 

 終わエリが彼女の手をとり、感激に震える中、響き渡る野太い声が一つ。

 

 

「デュフフ、話は聞かせてもらったでござる。そこのお嬢さん方、こいつが必要なんじゃあないかい?」

 

 

 2人が部屋の出入り口の方に振りむくと、TシャツにGパンでビシッと決めたオタクスタイルのエドワード・ティーチが、ワイングラスでも傾けるみたいに聖杯を持ち佇んでいる。

 

 

「あ、アンタは! 何度も出てきて恥ずかしくないんですか友達の黒髭!」

 

「その通り! 拙者は夏に、エリザ氏はハロウィンに! もういい加減他の奴に出番を譲ってやれよと思われつつ、引退後も何度も部活に顔を出してくるOBの如く出没する大海賊、黒髭とは拙者のことですぞ!」

 

 

 決してカッコよくはない自己紹介の後、黒髭は手にもった聖杯を掲げる。

 

 

「こいつがあれば微小特異点くらい思うまま! 今こそ拙者たちの手で、ハロウィンイベントを作っちゃおうZE!」

 

「……待ちなさい。いくつか確認します。」

 

 

 終わりのエリザベートは目の前の男を警戒する様子を隠そうともせず、二人の間に立ちふさがるように割り入った。

 

 

「まず貴方は何故その聖杯を手にしているのですか? まさかとは思いますが窃盗など……。」

 

「ノンノン! そりゃあ盗みも奪いも海賊の誉ではありまするがそれはそれ。拙者はマスターガチ勢故、カルデアの損になるようなことは積極的には行いませんぞ!」

 

「……まあいいでしょう。では次に、どうやってそれを?」

 

「拾ったに決まってるでござるよ終わエリ殿。ハロウィンの特異点は拾った聖杯から始まるのが定石!」

 

「あー、そうね。アタシも拾ったし。まあそういうもんなんじゃないの?」

 

「絶対に違うと思いますが……はあ。では最後に、何が貴方の目的ですか?」

 

 

 待ってましたと言わんばかりに目を見開く黒髭。ビシッとポーズを決め、声を張り上げる。

 

 

「よくぞ聞いてくれました! 拙者、このハロウィンイベントに物申したいことがあるのですぞ!」

 

「『くたばれ! パンプキンファーム・スローター』……イベント名にくたばれってついてるのはいいのかな?と史実でもっとヤバいことやって来た拙者も若干心配だけどそれはそれ。問題なのは参加条件ですぞ!」

 

 

 黒髭が指差す先を見れば、燦然と輝く『アフタータイムのはじまりをクリア』の文字。現在公開されているメインストーリーの、最新章までクリアしろということだ。

 

 

「これはいけない。いけませんぞ。参加条件に最新章クリアを要求するのは新人お断りの悪い文明! 拙者これでも古参サーヴァント故、どこぞの秦でどこぞの素手で殴る系アサシンに勝てず、我らがマスターが正月イベントへの参加を逃し枕を濡らした夜が忘れられない!」

 

「そこにこの、マスターのトラウマを抉るような参加条件! 新規には遊ばせてやらないとでもいいたげなイベント! これはもう許してはおけぬと立ち上がり、ハロウィンと言えばということでエリザベート氏を訪ねたわけですな!」

 

「相変わらずわけわかんないこと言ってるわね。」

 

 

 はじエリちゃんは若干あきれ顔だったが、終わエリちゃんは妙に納得した顔で頷いている。

 

 

「……なるほど。新規が入ってこなければ先細りするのはどんなコンテンツでも同じ。貴方はその未来を憂いていると。」

 

「おお! わかってくれますかエリザママ! こいつぁ新たな同志候補!?」

 

「貴方の同志ではありませんが、その理念には共感しましょう。」

 

 

 終わエリは聖杯を受け取り、そのままルナエリに手渡した。

 

 

「創りましょう、エリザベート。私たちの、初心者にも優しいハロウィンを!」

 

「な、なんだかよくわからないけどわかったわ! 私の原点回帰アイドルハロウィンね!」

 

 

 2人のエリザベート、それに黒髭が聖杯の輝きに包まれてどこかに消えていく。騒がしい奴が消えたためか、やけに部屋が静かになった。しかしこれが、嵐の前の静けさであることはもはや、誰にも疑いようがないのであった―――。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 数日後。カルデアで緊急対策会議が開かれた。

 

 メンバーは人類最後のマスターにして、人理崩壊の阻止を2度も成し遂げた少女、藤丸立香。

 

 彼女に付き従い、ともに世界を救った英雄たる少女、マシュ・キリエライト。

 

 万能の天才にして、カルデアの技術力の根幹を担うサーヴァント、レオナルド・ダヴィンチ。

 

 そして何より、このカルデアの所長を務めるオルガマリー・アニムスフィア。

 

 

 本会議の議長を務める彼女は、げっそりとした表情を隠そうともせずに言った。

 

 

「……確認するわよ。事の発端は5日前。ライダー、エドワード・ティーチが突然、『新規が入れないじゃねえか』『新人マスターを何だと思ってやがる』と、突然訳がわからない発言をし始めたことにさかのぼるわ。」

 

「彼が意味不明な言動をするのは今に始まったことじゃない。まあ、『最新章までやってないと理解できないストーリーを書いたライターを引き摺りだして責任を取らせる』という発言には、何故か私たち全員が身の危険を感じて、総出で制圧させてもらったけどね。ヘラクレスの一撃でようやく沈黙したはいいが、床と壁の修復が大変だったよ。」

 

「それで今回の事件は終わりと、そう思ってしまっていたのは私の落ち度よ。カルデアの所長として正式に謝罪します。」

 

「い、いえ所長! 今回のケースはその、予想は出来ないといいますか、予想するだけ無駄といいますか……!」

 

「そうそう。しかも時期的に多分あれでしょ。ハロウィン。」

 

 

 慌てるマシュと、泰然自若とする立香。それに対しオルガマリーは頭を抱えて叫んだ。

 

 

「それよ……! 全ての問題はそれなのよ! ハロウィンに! 新たに出現したエリザベート・バートリーとエドワード・ティーチが消えた! しかも微小な特異点の反応まで見つかった! こんなのもう、嫌な予感しかしないじゃない!」

 

「うぅ……イヤ……イヤよ……。ログを読んでるだけでも頭痛がしたハロウィンに自分が参加するのは絶対に嫌……。」

 

「大丈夫だよ所長。慣れたらクセになるからね。」

 

「慣れたくないわよ! そもそも何よそのパクチーみたいな感想は!」

 

「それにゴルドルフ君が残してくれた所長の心構えは何も夏特異点ばかりではないからね。各宗教の経文を取り揃えている上、頭痛薬に胃薬までバッチリ完備の、ハロウィン編も渡しておくよ。」

 

「何があったのよ! いや理解できるわそりゃあんなものを見ていたら!」

 

 

 ダヴィンチちゃんからやけに分厚い冊子を受け取る。所長は頭を掻きむしり、そのまま机に突っ伏した。本当は彼女もわかってはいるのだ。特異点が発生した以上、自分たちが解決に赴かないわけにはいかないと。

 

 

「し、心中お察しします。しかし所長、ここはグッとこらえていただいて!」

 

「……そうね。いつまでもうだうだ言っていられないわ。」

 

 

 マシュの言葉を頼りに、折れそうな心を無理矢理繋ぎとめ、所長は特異点の攻略を宣言する。

 

 

「藤丸立香、それにマシュ・キリエライト。貴女たちに、この微小特異点の攻略及び修復を要請します。 ……それに今回は、いえ今回もと言うべきかしら。私も同行させてもらうわ。」

 

「え、所長も?」

 

「ええ。嫌だけれど。ほんっとうに嫌だけれど、貴女たちにばかり負担を背負わせていられないわ。それにこれはいわば洗礼。カルデアの所長として、ハロウィンというイベントを避けては通れないということでしょう。」

 

「現地には既にはぐれサーヴァントの気配も確認されているから、現地で協力をお願いすることも出来ると思うよ。いやあいつものことながら、ハロウィンイベントの時は君たちに同行できないのがより一層心苦しいなあ!」

 

「満面の笑みで言っても説得力がないわよ技術顧問。 ……とにかく! さっと行ってぱっと終わらせるわよ! 誰を倒したら終わる特異点なのか秒で突き止めること! いいわね!」

 

「い、イエスマム! 40秒で支度してきます!」

 

 

 所長のこれまでにない迫力に思わず敬礼を返し、立香はマイルームに向かった。文字通り全速力で準備を終え、コフィンに入り目を閉じる。待ち受けているであろう、トンチキな世界に思いを馳せながら―――。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 レイシフトを完了していきなり、目に飛び込んでくるであろう景色に立香は思わず身構えた。なにせチェイテピラミッド姫路城を生み出したあのハロウィンだ。

 

 今回はどんな頭痛の種が建築されているのか、もう想像するのも恐ろしい。理解できるものならまだいいが、大量の候補からダイスを振って何を立てるか決めたような、クレイジーな光景しか頭に浮かばないし、現実はそれをきっと飛び越えるだろうと思っていた。

 

 

「ま、マシュ。もう目開けた?」

 

「すみません先輩もう少し心の準備が必要です!」

 

「だよねわかる! じゃあせーので開けない?」

 

「わ、わかりました……! せーの!」

 

 

 覚悟を決め、両の瞳を開けてあたりの景色を目の当たりにした立香とマシュ。しかし彼女らの瞳に飛び込んできたのは、驚くほど平凡な街並みだった。

 

 どこか拍子抜けしたような気持ちで、2人は辺りを見渡した。

 

 

「これは……なんでしょうか、現代日本の、普通の街のような……。」

 

「田舎っぽい感じだね。シャッター街っていうのかなこういうの。」

 

 

 二人の言葉通り、商店街らしき通りはほとんどの店が閉まっている。開いている店もイマイチやる気がないというか覇気がないというか、どことなく町全体に停滞した空気がある。言葉を選ばず言うのであれば、どんよりしている。

 

 気持ちばかりのハロウィン要素というか、ところどころにカボチャやオバケっぽい装飾があるが、それ以外にやる気が感じられなくて浮いている印象を受ける。何というか、先生だけ張り切っちゃった小学校の教室みたいでどこか痛々しさすら感じる。

 

 

「何か見てるとちょっと泣きそうになってきちゃうね。」

 

「ど、努力は感じますね……。それより先輩、所長の姿が見当たりません!」

 

「え!? あ、本当だ!」

 

 

 ハロウィンがあまりにも嫌すぎてつい忘れてしまったが、そういえばさっきから所長がいない。レイシフトの座標違いの事故は今に始まったことではなく、こういった事態も経験はあったが、心配なものは心配だ。

 

 

「まずは所長、その後にエリちゃんを探そう!」

 

「了解しました。聞き込みも行えそうですし、いろんなアプローチを試しましょう。」

 

 

 しばらく歩き回り所長を探す。まばらに見かける通行人や、ガラガラのお店の店主なんかにも声をかけた。残念ながら収穫はなかったが、代わりにエリザベート・バートリーの情報は手に入った。

 

 

「ピンクの髪のアイドルの女の子? ああ、それなら知ってるよ。今の時間なら、あっちの広場でまた歌ってるんじゃないかな。」

 

「ありがとうございます! ちなみにまだ救急搬送された人とかはいないですよね!?」

 

「え。ま、まあ個性的な子だけど、頑張ってるのは伝わるから……少なくとも気分が悪くなった人はいないよ。」

 

 

 教えてもらった場所に向かいながら、立香とマシュは話をした。

 

 

「エリちゃん、意外と評判いいみたいだよね。」

 

「はい。アイドル活動に関しては元より真摯な方でしたから……その、クオリティはともかくとしてですね。」

 

「まあそこは……あ、聞こえてきた! 多分あっち!」

 

 

 脳に直接届く、というか響き渡って反響して震え、何枚もガラスが粉砕されるイメージが勝手に頭に浮かぶような歌声を微かに聞きつけ、2人は駆け出した。広場といえば広場なのだろうが、何かを作るつもりもないような、有り体に言えば空き地と呼ぶべきだろう場所で、どこから持ってきたのかもわからない木箱の上に立ち、まばらなご高齢の方たちに向けて彼女は歌っていた。

 

 立香は意図しない殺人事件でも起きたらと気が気でなかったが、意外と受けがいいみたいで一曲歌い終わるとパチパチと拍手が上がる。

 

 

「今日も来てくれてありがとう! 転んでお陀仏にならないよう気を付けて帰りなさいよねー!」

 

「はいはい、エリちゃんも無理したらいけんよ。」

 

 

 ぞろぞろとお客さんたちが帰っていったのを確認して、2人はエリザベートに近づく。向こうも気が付いたのか、ぱぁっと顔を輝かせ、こっちに涙目でパタパタと走って来る。

 

 

「こ、こ、子ジカー! 遅かったじゃないの! いつまで待たせるのかと思ったわよ!」

 

「ごめんごめん。私達もやっと特異点に気づけたからさ。」

 

「うぅ、母様も新人マネージャーも酷いのよ! いくら原点回帰だからって、こんなステージとも呼べないようなところで歌えなんて! アタシのことを何だと思ってるのよ!」

 

 

 マスターに泣きつくエリザベートは、今までからガラっと装いを変えていた。まずは髪型。シンプルに位置が高めのサイドテールにまとめ、小さなリボンで結んでいる。衣裳も白いブラウスに短い薄ピンクのベスト。下も白いプリーツスカートで、フリルも一段だけ。白いショートブーツにビビットピンクの差し色がある。

 

 

「なんかすごい、素朴な感じになったねエリちゃん。かわいいよ。」

 

「そりゃあアタシほどになったらどんな衣裳でも似合うけど、これはちょっと地味すぎるでしょ。もっとド派手にいろいろつけたかったのに。」

 

「母様は『獅子は千尋の谷に我が子を突き落とすものです』って言うし、新人マネは『素朴な衣装から成りあがることによるドラマ性を使わせてもらう』って言うし……。理屈としてはわかるけど、嫌なものは嫌なの!」

 

 

 ムーンキャンサーになってもいつも通りのエリザベートに苦笑しつつ、マシュはふと尋ねた。

 

 

「あの……エリザベートさん。その新人マネージャーさんというのは一体……?」

 

「……あまり気に入っているわけではないから、その名を吹聴しないでくれと頼んだはずだが。君は頼みを聞く気がないのか理解出来ていないのかどっちなんだ?」

 

 

 不機嫌さを隠そうともしない男の声。立香とマシュが振り返ると、神経質そうな印象を受ける長身の男が、硬い靴音を鳴らしながらゆっくりとこちらに歩いて来る。

 

 黒を基調とした、細身の英国紳士風の装い。身体に沿う三つ揃いの上から同じように黒く長い外套を羽織り、肩には片側だけ短いケープが掛かっている。裏地の焦げた緑色や、黒と白のアシンメトリな手袋が印象深い。

 

 彼の方も2人に気づいたようで、ピクリと片方の眉があがる。

 

 

「あそっか、アンタたちは初対面だったわね。こっちが―――」

 

「必要ない。カルデアの人類最後のマスター。それに、その護衛のサーヴァントだろう。」

 

「え。」

 

 

 この程度わかって当然だとでも言いたげに、男は立香の頭のてっぺんからつま先まで見下ろした。

 

 

「まずは靴だ。この町の人間ではないのはわかる。滞在して長いわけではないが、そもそもの人口が少ないからほとんどは把握出来ているし、装備も服もこの辺りで手に入る物ではないからだ。それなのに靴に泥がついていない。町の外から来るには舗装もされていない土の道を歩く必要があるが、2人とも足元にその痕跡はない。」

 

「それでいて服の裏地から覗いている魔術刻印。何らかの魔術的な手段を使って訪れたということになる。となれば魔術師かサーヴァントのどちらかだが、君はどちらにも当てはまらない。魔力の質や身のこなしから明らかだ。」

 

 

 マシュの方に目をやり、そのまま続けた。

 

 

「君は魔力の反応からしてサーヴァントなのがすぐにわかる。今は装備を展開していないが、立ち方に癖がある。僕を見た時、一瞬だけ右に重心を傾けた。それなりに重量のあるものを持つ準備をする時の動きだ。もし僕が敵対する素振りを見せれば、すぐに装備を展開して彼女の前に出る。そういう動きが無意識に染みついている。」

 

「一般人にしか見えないがサーヴァントを従えている少女。そしてこの世界の特殊な状況。総合して考えれば、十中八九君はカルデアのマスター、そしてそのサーヴァントだ。いかがだろうか。」

 

 

 立香は思わず胸の前でパチパチと拍手をしてしまう。マシュはさっきからずっと目を輝かせている。

 

 

「すごい。全部当たってる。」

 

「種明かしをすれば、そこのうるさいアイドルから毎日のように君たちの話を聞かされていただけなんだがね。答えがわかっていれば、証拠と推理は後からいくらでもこじつけられる。」

 

「そ、それでも素晴らしい観察眼と分析だったと思います。まるで、()()()()()()()()()()……!」

 

「それはそうだろう。()()()()()()()()()()()な。」

 

「え―――。」

 

 

 マシュが息を飲んだ。英国紳士はため息をつき、心から不機嫌そうな表情で2人に向き直った。

 

 

「初めまして、レディ。サーヴァント・アヴェンジャー。アーサー・コナン・ドイルだ。」

 

 

 数秒後、マシュの悲鳴が響き渡った。

 

 狂気と恐怖のフェスティバル、ハロウィン。そこで初めて発された悲鳴は恐怖によるものではなく、人生に強く根差すほど愛読した作品の原作者を前にした、ただの純粋なファンによる歓喜の悲鳴だった。

 

 

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