よみがえれ! ハロウィン・アイドル・リバイバル! ――空き町の歌姫―― 作:春雨シオン
「せ、せ、先輩大変です! コナン・ドイル氏が私の目の前に!」
「気持ちはわかるけど落ち着いてマシュ。すっごい嫌そうな顔してるから本人。」
衝撃のカミングアウトから数秒後。未だ興奮冷めやらぬ様子のマシュは、熱い頬を両手で抑えながらぴょんぴょんと飛び跳ねている。人間は昂った感情を自分の中で処理しきれないとこういう行動をとり始めるものだ。
「……随分と、熱心な読者に見つかってしまったらしい。」
「ちょっと! なんでアタシより先にマネージャーに強火ファンがついてるのよ!」
「引き取ってくれるならぜひそうしたいのだがね。」
嫌味な台詞を吐くコナン・ドイル。立香に宥められ、ようやくマシュが平静を取り戻した。
「し、失礼しました。お恥ずかしいところを……!」
「ごめんドイルさん。でもこの子、本当に人生が変わるくらいホームズのシリーズが好きで―――」
「せ、先輩! ダメです、コナン・ドイル氏にその話は!」
「え、何で?」
きょとんとしている立香と対照的に、マシュは大焦りしている。慎重にドイルの顔を見ると、無理矢理作った笑顔を浮かべている。
「……構わないとも。僕と言えばシャーロック・ホームズであることはもうひっくり返しようがない。こうして座に登録され、サーヴァントとして呼ばれるのもその辺りの事情を汲んでのことだろうからね。」
「なら―――」
どうして話を振ってはいけないのか、と聞きかけた立香の言葉を遮るように、ドイルはきっぱりと言った。
「簡単な話だ。僕はホームズが大嫌いだからだ。憎悪していると言ってもいい。」
「え?」
これ以上話すつもりはないと言わんばかりの態度のコナン・ドイル。戸惑う立香に小声でマシュが補足の説明をしてくれる。
「先輩、コナン・ドイル氏は確かにシャーロックホームズの冒険の作者ではありますが、同時に大のホームズ嫌いなんです。」
「え、代表作なのに?」
「はい……。有名なエピソードとしては、母親に『シャーロックホームズを永遠に片付けてしまおうと思う』と綴った手紙を送ったというものがあります。他にも晩年に答えたインタビューでは、もうシャーロックホームズの作者と呼ばれるのはうんざりだと答えたそうです。」
「ホームズさんの話を書くことそのものが嫌だったというよりも、そのあまりの人気や名声に他の作品が埋もれてしまうのを嫌っていたようです。他にも『白衣の騎士団』や『失われた世界』など、歴史小説やファンタジーなど様々なジャンルに挑戦された方ですから。」
「挑戦しただけで芽は出なかったがね。どんなに書いてもあの忌々しい探偵に向けてうず高く積まれたファンレターの山から出てきて、陽の光を浴びるものはなかった。」
「そ、そんなことは……その、先輩! 『失われた世界』は現代にも影響を与えた作品なんですよ! チャレンジャー教授が南米の密林で恐竜や失われた文明と遭遇するというテーマで、キング・コングやジュラシックパークに続く系譜でもありますから!」
「……本当に熱心な読者らしい。もう十分だレディ。今更ホームズの作者と呼ばれた程度で、いちいち反応していては身が持たない。」
改めてコナン・ドイルは2人に向き直った。
「ついてきたまえ。拠点にしている場所がある。」
「ちょっと! アタシに対しての労いは!?」
「ハバネロドリンクが冷やしてある。とても喉にいいと思えないが、君なら喜んで飛びつくだろう。」
「わかってるじゃない! ほら早く行くわよ子ジカ!」
2人に連れられて拠点という場所に向かう。ひと昔前のアパートみたいな建物だ。カンカンと音を立てる階段を上り、部屋のドアを開ける。中では割烹着を着た終わりのエリザベートが、何かの帳簿に向かってうんうんと唸っている。ドアの開いた音に首を上げ、柔らかな笑みを浮かべる。
「お帰りなさいエリザ、ドイル。それに……ああマスターにマシュさん、迷わずここまで来られたようで何よりだわ。」
「終わエリちゃん! 信じられないくらい割烹着似合うね。」
「ふふ、ありがとうございますマスター。しかしこうしてお母さんスタイルをするのもここまで。さあエリザ、早速今日のライブの反省会をしますよ!」
「えーっ! もうちょっとゆっくりしてからでもいいじゃない!」
「鉄は熱いうちに打てというでしょう。心と体がステージを覚えているうちに、ほら早く!」
ちゃぶ台のすぐ横に用意された座布団に座らされたエリザベートが、しぶしぶと言った様子でライブの録画らしき動画を見させられ始めた。コナン・ドイルは窓際に立香とマシュを誘導し、壁に背を預けて腰掛けた。
「お茶どころか椅子すら用意できずにすまない。今の我々は見ての通り、大の貧乏でね。」
「まあそんな感じはするけど……どうしてこんなところに?」
「ふむ。では早速だが本題に入ろう。この特異点についてだ。」
コナン・ドイルはゆっくりと口を開いた。
「まずこの特異点にはルールがある。サーヴァント同士、人間同士での戦闘の禁止だ。」
「え、戦っちゃ駄目ってこと?」
「駄目というより、著しく攻撃性が落ちるという感覚に近い。例えばだ。」
懐からおもむろに取り出した万年筆。それをコナン・ドイルは大きく振りかぶり、はじエリちゃんに狙いを定めた。
何を、と止める暇もなくそれを思い切り投げつける。 ……投げつけたはずだった。
「やはり駄目か。日ごろの恨みを晴らしたかったんだが。」
「い、今ペン投げようとしてたよね? エリちゃんに向かって本気で……。」
「ああ。当たっても所詮は筋力Eの文弱の威力しかなかっただろうがね。」
「とにかくだ。この世界では人間やサーヴァント相手に暴力を振るおうとすれば、実行の寸前で著しく力が抜ける。僕が貧弱だからというわけではなく、恐らくはサーヴァントのステータスやスキルに関係なくだ。」
「では、仮に私たちがここで戦闘になったとしても……。」
「戦闘どころか、子供の喧嘩にもならないだろう。それほどまでに暴力というものが弱体化した世界だ。」
万年筆を懐に戻しながら、ドイルは説明を続ける。
「サーヴァントではない相手とは戦闘が成立するのを確認している。町はずれや路地裏に出没する魔本やゴースト、つまりエネミーの類には攻撃が可能だ。文弱ながら肉体労働に励んだとも。」
「そこは他の特異点と同じなんだね。」
「ああ。だが当然ながら、それだけではこの特異点の根本的な解決には至らない。また、聖杯を回収すればそれで終わるというものでもない。」
眉間を揉みながら、コナン・ドイルは顔を顰めた。
「結論から言おう。この世界は、町おこし度を100%にすることで正常に戻る。」
「うん、わかった。それでどうやったら町おこし度が増えるの? 素材集め? それともQP?」
「……慣れたものだな。同情するよ。」
「今更謎ゲージが出てきたくらいで一々動揺してたら身が持たないからね! サーヴァントを殴って落としたカレーを食べたら漫画を上手に描けるようになるってくらい滅茶苦茶やってもらわないと!」
「頼もしい限りだ。説明を続けよう。」
ドイルは言葉を続ける。
「町おこし度を増やす方法は主に二通りある。一つは単純に町を発展させ、この町に訪れる観光客や移住してくる人間を増やすこと。もう一つは彼女らが実践しているように、アイドル活動を行いこの町を宣伝することだ。」
「彼女のアイドルとしての人気がほぼそのまま町おこし度に直結していると言っていい。つまり我々の大きな目的の一つは、彼女をトップアイドルの座に押し上げることだ。」
「うーん、とことんまでエリちゃんに都合のいい世界……。」
カルデアは特異点を攻略し修復せねばならず、そのためには総力をあげてエリザベート・バートリーをトップアイドルにすることに協力する必要がある。
特異点を人質にとったようなものだが、これで本人に悪気が全くないのだから恐ろしい。彼女はそういうサーヴァントなのだ。聖杯を手にしたのならトップアイドルになりたいとでも願えばそれで終わりなのに、地方の駆けだしアイドルからトップスターに駆け上げるというコンセプトを優先し、周りをそれに巻き込む世界を作り上げてしまう。
「それじゃ、エリちゃんをトップアイドルにするにはどうしたらいいの?」
「それは―――いや、よそう。言われるより見た方が早い。ちょうど今はいい時間だしな。」
「いい時間、ですか?」
「この町で見世物をやっているのは、何も彼女だけではないという意味だ。さっきの広場とは別の方だ。今から向かえばちょうど始まる時間には間に合うだろう。」
ドイルに連れられ、2人はエリちゃんがライブをしていた広場とは反対の方向に向かって歩く。見えてきた建物は、古いながら造りはしっかりしていそうな劇場。ここに何の用があるのかと思っていると、関係者出入り口の方から客席に入るよう案内された。
中に入って最初に感じたのは、この町には不釣り合いなほどの大歓声。それにギラギラと色とりどりに光るド派手な装飾の数々。陽気なBGMと共に、明るく弾むような少女の声が聞こえてくる。
「みんなー! まだまだ、行けるかなー!?」
明るい問いかけに対し、観客からの歓声が返される。ステージの中央に立っているのは、目のやりどころに困るような恰好をした燃えるような赤い髪の女の子。体にぴっちりと密着する、燕尾バニーと呼ぶべき白を基調とした衣裳。赤と黒、それに金色で縁取りをしたゴージャスな上着。左の手首には片側が解放されたままの手錠がつけられているし、露出した脚の付け根を強調するように、派手な色の投げナイフのバンドが太ももに巻き付けられている。
「よーし! それじゃあ早速、本日のメインイベント! スタッフさん、準備して―!」
少女の言葉に応えるように、舞台袖からガラガラと鉄製の檻が運ばれてくる。少女は嬉々として檻の中に入り、スタッフは彼女の体をありとあらゆる手段で拘束していく。
まずは彼女が初めからつけていた手錠を檻に結び付ける。固くて破壊できないことを示すかのように、少女は手錠をひっぱりガチャガチャと音を鳴らした。
次に持ってこられたのは大量の鎖。彼女を後ろ手に縛りながら、全身にグルグルと巻き付けられていく。
「んーダメダメ、もっと強く縛ってくれなくっちゃ! あ♡ そうそう、そういう感じ♡」
無駄にくねくねする少女に、立香はなんだか見てはいけないものを見ているような気分になる。ついドイルの方に視線を逃がすと、彼はこれ以上ないほどのしかめ面をして、眉間に皺を寄せている。
「ん、ギチギチに縛られちゃった……♡ だけどこれじゃ終わらないよ! 最後にこれ、革のベルト! これで手首を完全に封鎖して……完成!」
「皆の気持ちはわかってるよ! 拘束が緩いんじゃないかとか、何か仕掛けがあるんだろってね!」
「だからじっくり見て! もっと見て! 私が縛られてるところ、舐めまわすみたいに見尽くして!」
「なんか趣旨違くない!?」
「昔はあんな風ではなかったんだがね。英霊になるにあたって頭に不具合が生じたらしい。」
「昔……ミスタードイルの生前の友人関係……ま、まさかあの方は……!」
マシュには心当たりがあるらしいが、それを他所にショーは続く。どこか恍惚とした表情の少女が入った檻に真っ赤なカーテンが被せられ、中の様子が全く見えなくなる。
静まり返る劇場と、その静けさの中で異様なほど響くカチャカチャという金属音。檻か手錠か、それとも体中の鎖か。時間にしてたった3秒。一際大きな金属音が響いたかと思えば、一息に赤いカーテンが取り払われる。中には鎖の山に革のベルト、さっきまであったはずの全ての拘束が残されていたが、少女の姿だけはどこにも見えない。
皆がその姿を探して視線をあちこちに彷徨わせる中、上から声が響き渡った。
「サプラーイズ! 脱出王を捕まえておくには、こんなちゃちな拘束じゃ足りないよ!」
少女はいつの間にか天井近くに張り巡らされているワイヤーから逆さにぶら下がっている。そのまま飛び降り、空中で2回転して華麗に着地を決める。彼女のパフォーマンスに拍手喝采が爆発した。立香も自然と拍手してしまう。
それからも色々なパフォーマンスが行われる。縄抜けマジックに始まり、拘束された状態からいつの間にか舞台袖のスタッフと入れ替わるマジック。かわるがわる行われる芸にすっかり魅入ってしまい、公演が終わるころには自然と彼女のファンにさせられてしまっていた。
劇場の外に流れ出していく客を尻目に、ドイルは拍手の一つもなしに立ち上がった。
「行こうか。」
「え、どこに?」
「君たちを連れてきたのは、何もショーを見せたかったからじゃない。楽屋挨拶だ。さっきまで舞台にいた芸人が、僕たちの協力者でね。」
ドイルの後ろについて劇場の後ろに回り、関係者用の通路を進む。木箱やフラフープ、色とりどりの服がかけられた衣裳かけ。雑然と荷物が積まれた通路の一番奥にある楽屋に、ドイルは2回のノックの後に入った。
「せめて返事してから入ってきてよね。オフだったらどーすんの?」
「君が少しでも黙っていてくれるならぜひ見たいものだな。それより、連れてきた。」
「お、君たちが人類最後のマスターちゃん?」
人懐っこい笑顔を浮かべながら、さっきまで舞台に立っていた少女は立ち上がる。立香とマシュをじろじろと見て、中々人気出そうな見た目だねと笑っている。
「なんだよードイル。ちょっと目離した隙にこんな可愛い子ちゃんたち捕まえちゃって! 浮気か? このやろー!」
「一度でも君と恋人だったことはない! くっつくな抱き着くな離れろ殺すぞ!」
この人こんな声量で怒鳴れるんだ、とつい立香が驚いてしまうほど、コナン・ドイルの態度はこれまでと大きく異なっていた。ベタベタと抱き着こうとする少女の顔を無理矢理押しのけようとしているが、筋力の差なのか全く引き剥がせない。
結局腰元にしがみついた少女をなんとかするのをドイルは諦めてしまったらしい。満足げに笑う少女に、立香はつい尋ねた。
「えーと……その、ドイルの恋人さん?」
「いや全然? でもこいつ、顔だけは良いでしょ?」
「顔だけはって。」
「やっぱり今はキャラ単体だけじゃなくて、関係性でも売っていかないとね! 黒髭くんはごついし毛深いし、悪役はこの上なく似合うけど、私みたいな美少女の相手役としてはあんまりね。線の細いイケメンがちょうどいいの。こいつなら昔から知ってるってのもあるし。」
「……いい加減に離れてくれ。生前の君を知っているだけに気分が悪い。頭痛もしてきた。」
「ちっ、もう少しCP人気を煽りたかったのに。まあいいや、それじゃマスターさんはどう? 私と百合営業してみない?」
「営業て。で、結局あなたは?」
「お、名乗りの時間だね! それじゃあ盛大に名乗らせてもらおうか!」
ばっちりとポーズを決め、赤髪の少女は名乗りを上げた。
「ある時はパイロット! またある時は映画監督! 俳優にスタントマン、サイキック・ハンター!」
「しかしてその実態は、ありとあらゆる捕縛から逃れて魅せる脱出王!」
「フーディーニ! キャスター、ハリー・フーディーニ! 名前だけでも覚えて帰ってね!」
すごく様になるウインクと共に、彼女はフーディーニと名乗った。立香の後ろでやはり!とマシュが顔を輝かせている。
「ミスタードイルと交流があったというところから、もしかしてとは思っていましたが……ご本人だったんですね! し、しかしよく考えてみれば、フーディーニ氏は男性だったような……。」
「あーこれ? これね、サーヴァントになる時霊基をちょちょいと弄ってね。だってせっかく縛られるんなら、男の体より女の体の方が見栄えがいいでしょ? 男たちの下卑た視線にさらされるってのも、中々どうして悪くない!」
「え、それだけの理由で?」
「もちろん。芸人にそれ以上の理由が必要かな?」
フーディーニはいたずらっぽく笑う。そのまま自分の体を抱きしめるように腕を回し、滑らかで魅力的なボディラインを惜しげもなく強調する。
「私はね、見られるのが大好き。自分の芸にお客さんが釘付けになって、驚く顔も笑顔も最高。だからいつも脱出芸をやるの。ロープに鎖、手錠ワイヤー猿ぐつわ。ありとあらゆる方法で縛られて、そこから脱出しての大歓声。芸人にとって至上の喜び。」
「でね、それを浴び続けてるうちに気づいたの。縛られているのを見られるの、気持ちいいって。」
「……ん?」
フーディーニの芸人としての矜持と信念に触れ、ちょっぴり感動し始めていた立香。観客のため、芸を磨くためなら自分の性別すら脱ぎ捨てられるフーディーニのプライドに感銘を受けていたはずなのに、突然投げつけられた気持ちいい発言に固まってしまう。
「いやー私も流石に参っちゃったよね。パブロフの犬って言うのかな。縛られてるところを見せた後に、そこから脱出するところを見せたら、お客さんが喜んでくれて嬉しくって気持ちよくなるでしょ? それを何回もやってたら縛られてるところを見られた時点で気持ちよくなっちゃうんだよね。」
「今ではほら、縛られるだけでちょっと気持ちいいから。一番気持ちいいのは見られることだけどね。特に可愛い女の子の前だと最高だ。今からでもちょっと縛っていいかな?」
「台無しだよぅ……。」
コナン・ドイルは顔を顰めながら言った。
「さっさと話を進めろ、ハリー。君の性癖に関する見解を聞きにきたわけじゃない。」
「はいはい、わかってるって! ドイルからこの特異点については聞いてるんでしょ? それで、あのエリザベートって女の子を人気者にする方法が知りたいわけだ。」
「う、うん。何か方法があるの?」
「これを見てもらえるかな。」
言いながらフーディーニが取り出したのは、何かのポスター。机の上に広げられたそれに、全員の視線が集中する。
「地方の星! ハロウィンフェスティバル……?」
「そう! いわゆるご当地アイドルって奴を集めて、どこが一番が競い合うイベントだよ。3人1組のユニットでしか出場できない代わりに、文字通り全国から応募が殺到する。現地どころかか配信チケットまであっという間に売り切れる盛況っぷりで、注目度は段違いだ。」
「エリザベート嬢にはこのイベントに出場してもらうつもりだ。だが一人だけでは応募資格を満たせない。だからハリーに人を集めさせるついでに、芸人目線で適切な人物をスカウトしてもらう手はずになっていた。」
「成程! 確かに伝説的なパフォーマーにして、映画監督なども務めた経験がおありのフーディーニ氏にはぴったりの役割かと!」
「お、話がわかるね眼鏡ちゃん! それで少し前に、ぴったりの娘を見つけてね。早速だけど紹介させてほしい。」
フーディーニが自信満々と言った様子で、どこかに電話をかける。通話を切り、ニッコリとこちらに笑いかけて言った。
「あと10秒くらいで来てくれるみたい。いやあ、本当に君が来てくれてよかったよカルデアのマスター。」
「え、それはどういう―――」
「マスター! 寂しかったでしょ? でももう大丈夫、僕が来たからね!」
ジェット噴射を派手にふかしながら、上空より飛来する白い影が一つ。絹のように可憐に靡く髪、華奢ながら生命力に満ちた瑞々しい肌、誰もが振り向くあどけなさの残る美しい顔。
そしてそれらを、惜しげもなくたった一人に捧げる竜。メリュジーヌだ。
「メリュジーヌ! フーディーニ、ひょっとしてぴったりの娘って……。」
「ご明察! 少し前に出会ってね。この娘しかいないとビビっと来たわけ。」
「エリちゃんは竜の血が混じってるのか、角も尻尾もあるでしょ? 特異点って隔絶された場所で、可愛いドラゴン娘に2人も出会えたらこれはもう、ドラゴンアイドルで推していくしかないなって。」
「うーんコンセプトはわかるけど……。」
立香の胸には一抹の不安が残る。なにせメリュジーヌといえば、己が最強の種であることを疑わず、何者にも縛られない天衣無縫な女の子。マスターである自分を困らせるようなことはしたくないと自制してくれてはいるが、アイドル活動をしている所はあまり想像が出来ない。
「ふふ、わかってるよマスター。恋人である僕が、君以外に愛想を振り撒くのが嫌なんでしょう?」
「うーん、こっちはわかってないみたい。」
「それに、最近は出番が少なくてただの可愛い君の恋人だと思われてしまってる気がするからね。君のサーヴァントとして、君のために働きたいんだ。ダメかな?」
少しだけ首をかしげる。そのあざとい仕草も絵になるのだから、彼女の美貌と愛嬌はもはや反則だ。立香は少し考えたが、この特異点を攻略しなければならないのは間違いないし、メリュジーヌなら人気は出るだろう。何より本人がやる気だ。それなら自分に止める理由はないように思った。
「……ううん、そんなことないよ。メリュジーヌがいいなら、私はやってほしいな。」
「やった! フーディーニ、これで契約成立でしょ?」
「うん、もちろん! これで3人揃ったね。」
「え?」
満面の笑みを浮かべるフーディーニ。彼女は立香の肩に両手を置き、笑顔のまま告げた。
「歓迎するよ、我らが3人目のメンバー。これでアイドルユニット完成だ。」