インフィニット・ストラトス──TSスネイル概念と一緒 作:赤いポスト
IS学園一年一組『
(これは……想像以上に、キツい……)
「皆さん、入学おめでとう! 私は副担任の、『
上から読んでも下から読んでもヤマダマヤだなぁ。なんてしょうもない事を不意に頭に浮かべてしまうほど、織斑一夏は限界だった。
「この学校は全寮制。学校も放課後も一緒に過ごすことになりますので、みなさん仲良く。楽しい三年間にしましょう、ね?」
背丈は生徒とそう変わらない。その上服がやや大きく……特に男子から見て、胸元がすこし緩い気がする。メガネも大きいのかすこしズレている。
そんな彼女の精一杯の言葉も虚しく、クラスのほぼ全員──織斑一夏
「え、えぇっと、じゃあ……じ、自己紹介お願いしますね? 出席番号順で」
(だいたい、なんで席も最前列ド真ん中なんだよ。めちゃくちゃ目立つし無理にでも視線が集まるじゃんか)
織斑一夏は限界だった。
とにかく限界だった彼は助けを求めて、
薄紫の肩までの髪。前髪を大きくかきあげた髪型の神経質そうな顔つきの少女。ルイネス・
(ウソだろ、ルイ……! それが
今度は視線を窓側へ向ける。
茶髪を大きめのリボンでポニーテールにまとめ上げた少女。
(お前もか、箒! それが六年ぶりに再開した幼馴染の態度かよ……いや、俺が嫌われてるのか!?)
「……くん。織斑一夏くん」
「は、はい!」
「えっと、ごめんなさい。次、織斑くんの番で……ね? 自己紹介、おねがいできますか? ダメかな?」
「いや、自己紹介くらいやりますから……!」
一夏が意を決して立ち上がり後ろを向くと、背中に注がれていた視線が今度は顔に集まってくるのを感じた。
さりげなく向けた視線は、ルイネスには我関せずの様子で受け流され、箒にはまた窓の外に向けて拒絶されてしまう。
(ええい、ままよ……!)
「……織斑一夏です。よろしくおねがいします!」
頭を下げ、上げる。視線は微動だにせず、無言のまま彼に集まっていた。
(……あれ? なんだこの空気。俺なんかした? いや何もしてないからか? でもこれ以上喋ることなんか無いしな……サボテンの話とかする? いや飼ってないけど! とにかく、『暗いやつ』のレッテルを張られる前にここは……!)
「──以上です!」
ずっこける女子生徒達。涙声になる山田先生。
もう一度左右の友人(のはず)と幼馴染に助けを求めようとした彼の脳天に……衝撃。
「ぐぇあッ!?」
「挨拶もまともに出来んのか、お前は」
黒のスーツにタイトスカート。すらりとした長身でありつつもハッキリとした体幹を持つ狼のような女性が、背後から彼に拳骨を叩き込んだ。
「千冬姉!? なんで学校に!」
拳骨の主にして織斑一夏の実姉、織斑千冬の方を向いた彼に、二度目の拳骨が振り上げられ──
「先生。……その辺りで。彼がこれ以上馬鹿になっても困るでしょう」
これまで我関せずの態度だったルイネスが、ため息交じりながらも言葉でそれを制した。
「…………それもそうだな。一夏、学校では『織斑先生』だ。2度は言わん」
未だに頭を抑えている
「私が担任の織斑千冬だ。私の仕事は、お前たちを一年で使い物になるまで育て上げること。逆らってもいいが私の言うことは聞くように。わかってもわからなくても返事をしろ!」
暴力宣言だ。と一夏に名付けられた挨拶は、教室の女子生徒には黄色い声援とともに迎えられた。
どうしてこうなった。と思考が過去に飛びつつある一夏。そしてそれと同様に。
辟易とした感情をかろうじて隠しているルイネス──前世での名を、
『
企業の下、余分な個人戦力の間引きも終わり。コーラルという万能資源を吸い上げ。後は運び出す手筈を整え終わるのを待つばかりだった所に降りかかった火の粉。
飼い主の手配した、コーラルを燃やすための巨大な方舟は、幸いにも直前で離反した
彼自身もまた、その害獣の手にかかり、有人式アーキバス・バルテウスという虎の子を出したにも関わらず撃墜されてしまう。
「最後の……プランを……!」
彼も冷静でない自覚はあった。害獣の実力を見誤っていたという認識もあった。その上で勝算を弾き出し、結果としてさらに上を行かれてしまった。
本来無人機であったバルテウスを強引に有人式に改造した結果、アーキバス・バルテウスには2つの欠陥が生じていた。
1つは、常に展開された高出力パルスアーマーによって緊急離脱装置が実質的に機能しない点。もう1つは、撃墜された際に暴走したパルスアーマーのエネルギーが、コクピットを焼き尽くしてしまう点。
勝ちさえせれば踏み倒せる欠陥ではあったが、負ければ火葬場を兼ねた棺桶になるしかない機体だ。
そして、彼はそれに乗って撃墜されたのだ。
喉から噴き上がる獣のような叫び声と共に、肉体が焼滅していくのと並行して。彼の強化人間として限界まで加速された思考能力が、少しづつその回転速度を落としてくのを感じていた。
やがて熱さすら感じなくなり、思考も停止するかと思われたが……速度の低下は、途中で急激に踏みとどまることになる。
無改造の一般人より多少早い程度。訓練だけで再現可能なレベルで落ち着いた彼の思考は、すわ生き延びたか? という楽観を即座に否定した。
(たしかに私はあの害獣に落とされ、バルテウス諸共ルビコンの塵となった。腹立たしいことこの上ないが、事実は事実として認めなくてはならない……ならば今の私は何だ?)
まるで長い夢から覚めるように、彼は己の意識が浮上していくのを感じる。
体に感じる感触はコクピットではない。もちろん医療用カプセルや、休眠用ポッドのそれでもない。
(これは……もしや、原始的な羽毛布団……? 爆破の勢いで、私だけ未開惑星に漂着したとでも?)
浮上した意識が現実に顔を出す。生まれた時には既に休眠用ポッドが存在していた『彼』には、なんら身に覚えのない半醒半睡の意識を叩き起こし、目を開ける。
当然のように知らない天井。推測通りの羽毛布団を押しのけ、ゆっくりと上体を起こす。
「……ここは……っ!?」
微睡んでいて尚、氷のような印象を与えるハスキーな少女の声が己の肉体から発せられた事に、まず『彼』は困惑し……
そして、その『困惑に対する困惑』もまた、同時に湧き上がってきた。自分は初めからこうだっただろう、という。
彼は他人の体に入り込んでしまったかのような致命的な違和感を覚えながら、この肉体の記憶にある洗面台まで急いで駆け寄った。
そこに映っていたのは、見慣れた壮年の男性ではない。
背丈はこの年代の少女としてはやや高めか。黒い瞳には深い困惑の色が宿っている。
「な……ぁ……?」
彼は頬を摘んだり、手を振ってみたりして……そこに映っているの彼女が、間違いなく己だと。たっぷり時間をかけて確信し……そこで一度思考を止めた。