ミラーモンスターたちと征く、俺のヒーローアカデミア ~七人のヤンデレを添えて~ 作:グランドスタン
「眠れねえ……」
夜勤を終え、夏ならば日が差し込んでいるであろう時間帯。
シャワーを済ませ、ベッドに飛び込んでから一時間が過ぎたが、俺はまだ寝つけずにいた。
今年で三十五になり、若い頃と比べたら睡眠の質は落ちている自覚はある。
それでも、眠らない訳にはいかない。人間、きちんと眠らなければ仕事もプライベートも充実しない。
健康的な生活のためにも眠りたいのだが、意識すればするほど却って目が冴えてしまう。
「ツーリングでもするか……」
幸いな事に、今日は土曜日だ。
溜まった洗濯物の片づけや、部屋の掃除以外特にやることはない。だから久しぶりに趣味に没頭することにした。
この寒さなら目が冴えるだろうし、道中でコーヒーでも買えば居眠り運転の心配もない。
「ほんじゃ……『善は急げ』と言いますし、行きますか」
東の空が薄明りに染まり始めるのを尻目に、愛車に跨った。
「頼むぜ」と心の中で呟き、キーを捻るとバイクは眠気にムチを入れられたように一度咳き込み、アクセルを開けば素直に前へ出た。
「行くぜ相棒!」
二十歳の誕生日から十五年。人生の半分近くを共にした愛車は、変わらぬ唸り声を上げて路面を蹴り、俺を高速の世界へと誘う。
何度繰り返しても、この瞬間だけは胸の高まりが抑えられない。
思わず口元が緩み、二月の朝の冷気が肺の奥まで染み渡った。
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「一体どうなってんだ……」
愛車と駆け出してから二時間が経っていた。もう朝日が顔を出してる時間のはずなのに、空は未だに暗いままだ。
山道を走っているにしても、雲一つないこの天気なら山頂付近ならいち早く朝日を拝めてもおかしくない。なのに空は、出発した頃の薄暗さをそのまま保っているようだった。
「携帯も繋がらないとか……こんなこと今までなかったのに」
携帯の画面端には無情にも『圏外』と表示され、衛星通信も繋がらない。地図アプリも開けず、「今日は厄日か……」と愚痴をこぼす。
少し前から外に出る権利を主張していた尿意を無視できなくなり、俺は愛車から降りて用を足そうとした。
その瞬間、まるでそれを待っていたかのように霧が濃くなり始める。周囲を見渡す間に世界が白く染まり、腕を伸ばした先さえ見えなくなってしまった。
「待ってくれよ!? それだけは勘弁して!」
こんなに視界が悪い状況で、身一つで放り出されることがどれだけ危険か考えるまでもない。
(冗談じゃねえよ……こんな所で命を神様に返すとか、まっぴらごめんだ!)
わずかに残っている足跡を頼りに、愛車の元へと戻る。
走行音が聞こえないか細心の注意を払いながら慎重に歩を進めると、視界の中に見覚えのある影がふっと浮かび上がった。
「あった!」
思わず叫んで駆け出した瞬間、視界が眩い光に包まれる。
あまりの眩しさに瞼を閉じても貫く光が晴れたとき、目の前に広がっていたのは先ほどまでと打って変わって雨に濡れた高架下の景色だった。