ミラーモンスターたちと征く、俺のヒーローアカデミア ~七人のヤンデレを添えて~ 作:グランドスタン
6話で判明した三人のヤンデレと再会した時、何が起こるのか起こらないのか
時は流れて四月。
桜の木々が淡い桃色の花弁を咲かせ、美しい花吹雪で人々を魅了する季節。
入学式当日を迎えた俺は、高揚感と緊張感を胸に抱きながら通学路を歩いていた。
(ねじれ先輩の話が本当なら、俺たちは入学式をすっぽかして除籍がかかった個性把握テストをやることになるのか……来るなら来いイレイザー・ヘッド! 通形先輩に勝つと決めた以上、どんな課題だって乗り越えてみせるぞ!)
まだ顔も知らず、会ったこともない相澤先生に対抗心を抱いていると、緑色のもじゃもじゃ髪の少年の後ろ姿が目に入る。
足取りから相当緊張しているのが窺え、張り詰めすぎた気を少し緩めるきっかけを探してた俺自身にとってもちょうどいい相手だと思い声をかける。
「おはよう! 君もヒーロー科かい?」
「えッ!? あ、お…おはよう、ございます……あの、僕もヒーロー科です」
もじゃもじゃ君の緊張っぷりは、こちらの想像以上だった。
これはコミュニケーションが苦手なタイプだなと判断した俺は、初対面の相手ともそれなりに盛り上がれそうな話題を振ってみる。
「君も同じか……あ、俺は筒美緋色。ところで、君はヒーロー誰が好き?」
「え……それは勿論オールマイトだよ! 知ってる? オールマイトって――」
緊張が解けたのか、もじゃもじゃ君はさっきまでのどもりっぷりが嘘のようにマシンガントークを繰り出してくる。
(この感じ……初めて会った時の波動先輩みたいだ)
もじゃもじゃ君の超早口に圧倒されていると、俺がついていけていないことに気付いた彼が申し訳なさそうな顔をする。
俺としても好きなものに熱中して我を忘れてしまう気持ちはよく分かるので、気にするなと伝えて改めて彼の名前を聞き出す。
彼は緑谷出久という名前のようで、さっきのオールマイトトークから察せられた通り筋金入りのヒーローオタクだった。緑谷君は凄いと思ったヒーローのことをノートにまとめており、見せてもらうとびっしりと特徴や分析が書き込まれていてちょっとびっくりした。
「筒美君って、No.7ヒーロー『レディ・ナガン』の息子なんだよね……やっぱり筒美君の個性も、髪の毛を弾丸に使うライフルなのかな?」
「いや、俺の個性は違うな。息子っていっても、俺正確には養子だからさ」
教室に向かう間、俺と緑谷君は家庭や自分の個性の話題で盛り上がった。
「お…大きいね。バリアフリーなのかな?」
「……かもな。このサイズ……縦だけならジェノサイダーも難なく通れそうだな」
話している間に教室の前まで辿り着いた俺たちの目の前には、3メートルほどある大きなスライド式のドアが聳え立っていた。その大きさっぷりに、まだ使ったことのない『ユナイトベント』で生まれるモンスターのことを考えながらドアを開けて教室に入る。
教室にはほとんどの生徒が揃っており、その中でひと際目を引いたのは、机に足を乗せた芥子色の髪をした目つきの悪い男と、その男を注意している眼鏡をかけたTHE・委員長といった感じの男だった。
初日からキャラの濃い奴が2人もいるなと思っていると、後ろにいた緑谷君が「会いたくなかった人が二人も……」と呟き、震えながら俺の背中に隠れる。
「君は、試験の時の!?」
あの二人と何かあったのか聞こうとした矢先、眼鏡をかけた男が俺と緑谷君の元に寄ってくる。震えている緑谷君に代わって話を聞いてみたら、どうやら彼――飯田天哉君は実技試験を緑谷君と同じブロックで受けたようであり、その時現れた0ポイント
そうなのかと聞いてみると、緑谷君は「あの時は助けなきゃと思って考える前に体が動いただけで、隠されたルールとかには全く気付いていなかった」と慌てて首を振る。
「でも、だとしてもスゲーじゃん。自分が傷つくことを厭わずに誰かを助けられるって、並大抵の精神力じゃ真似したくても出来ないことだぜ」
「そ……そうかな? 結局あの後動けなくなって、
「自分の限界が分かったんなら、次はそれを押し上げるための努力をすればいいのさ。俺だって、個性発現したばかりの頃は――」
「だ~れだ?」
おどおどしたさっきまでの態度とは裏腹な実技試験の活躍に、前世で大好きだった特撮ヒーローの面影を感じた俺が緑谷君への認識を改めたタイミングで、何者かが背後から俺の視界を塞ぎ、自分が誰かと問いかけてくる。
正直言って誰だかさっぱり分からない。
引っ越しを繰り返したおかげで日本全国に友達はそれなりにいたし、全国から試験を突破した猛者たちが集まるここヒーロー科なら、昔の友達の誰かがいたとしても不思議ではない。
「ごめん……誰だがさっぱり分からない。顔を見せてくれないか?」
素直に分からないと答えた瞬間、目を塞ぐ手がぎゅっと強張るのを肌で感じた。
「うそ…私のこと忘れてるの? そんなことないよね、冗談言ってるだけだよね? だって、ヒロ君が言ったんじゃない……私のこと大好きだって……一緒のクラスになれたらいいなって。ヒロ君がそう言ってくれたから私、どんなに寂しくてもここまで頑張ってこれたのに……なのになんで私のこと忘れるの……?他の女にうつつでも抜かしてたの? あ、そっかぁ……久しぶりの再会だから盛り上げようと思ってちょっと意地悪してるだけかぁ……そうだよね! ヒロ君が私のこと忘れるなんてあり得ないもんね! もう、サプライズが過ぎるよヒロ君。あんまりイジワルしてビックリさせちゃうと……私、酸出しちゃうよ♡」
俺の目を塞ぐ手にぎりぎりと異常なほどの力がこもり、瞼がヒリヒリと熱を帯びてくる。
オールマイトのことで盛り上がっていた時の緑谷君すら霞むほどの超早口で、ブツブツと呪文のように呟き続ける背後の女の子。あまりに早口なせいで一部しか聞き取れなかったが、俺のことを知っているっぽい様子から十中八九昔の友達なのだろう。
強引に目を塞いでいる手をどかして振り返った先には、髪も肌も全身ピンク色で、額から昆虫の触覚のような黄色い角を生やした女の子が立っていた。
どこか瞳のハイライトが消えているようにも見えたが、白目の部分が黒いからそう感じるだけだろうと思考を切り替え、記憶の中の友人たちと目の前の女の子を比較する。
「……もしかして、三奈ちゃん?芦戸三奈ちゃんか!? 幼稚園から小学二年の頃まで一緒だった!」
「! そうだよヒロ君! 会いたかった……ずっと、ずっと会いたかったよぉ!!」
一瞬で瞳の奥に爛々と光を取り戻した少女――芦戸三奈は、目尻に涙を浮かべながら喜びの声をあげて抱きついてきた。しなやかな両脚を俺の腰にがっしりと巻きつけ、二度と引き剥がせないように全身でしがみついてきたおかげで、俺の顔面は彼女の豊かな着脱不可式胸部搭載型マシュマロへと深く埋もれてしまう。
「もがもが……っ、ちょっと三奈ちゃん離れてっ!」
「やだ! 絶対に離れないもん! もう絶対にヒロ君をどこにも行かせないんだからあっ!?」
甘い匂いと密着する柔らかさに危うく呼吸が止まりかけたその時、何者かが三奈ちゃんを強引に俺から引き剥がしてくれた。おかげで窒息死を免れた俺は荒い息を吐きながら、三奈ちゃんを引っ剥がしてくれた命の恩人へと視線を向ける。
恩人は緑色っぽい黒髪でカエルっぽい顔立ちの女の子だった。口から伸びた長い舌で三奈ちゃんの胴体をぐるぐる巻きにし、俺から強引に引き剥がしたようだ。そしてその子の正体もまた、俺のよく知る友人だった。
「梅雨ちゃん、久しぶり! 元気だったか?」
「ケロケロ。ええ、貴方も元気そうね……緋色ちゃん」
「ヒロ君……私のことは思い出すのに時間がかかったのに、あんなカエルのことは忘れてないんだ……へえ、ふうん?」
三奈ちゃんをやや乱暴に空いている机に下ろした梅雨ちゃんが、普段あまり崩すことのないポーカーフェイスをふっと崩し、愛おしさに満ちた瞳で俺のもとに寄ってくる。
途中、なにかゾッとするような怨念の声が聞こえた気がしたが、気のせいと片付け、緑谷君と飯田君に梅雨ちゃんのことを紹介する。
「あ、あの時の地味目の……緋色君!? 久しぶりや!」
「お茶子ちゃん! 君も同じクラスなのか!?」
最後に入ってきた茶髪のショートボブの少女――麗日お茶子ちゃんが教室の入口で足を止め、俺の姿を認めた瞬間にぱあっと表情を輝かせた。
狂おしいほどの熱量をその瞳の奥に宿らせながら、彼女は吸い寄せられるように俺へと歩み寄ってくる。
「おい……おいおいおいおい! オメー何なんだよ! 入学初日から女子を三人も侍らせやがって!!」
「羨ましいぞこんチクショー!!」
緑谷君たちに幼馴染み三人の紹介を終えたタイミングで、ブドウのような髪型の小さい男子と金髪に黒いメッシュが入っている男子が血涙を流しながら詰め寄って来る。
何を怒ってるのかよく分からないが、何か誤解をしているようなので訂正するべきだろうと言葉を紡ぐ。
「二人とも誤解だ。俺は侍らせてる訳じゃない……三人ともただの幼馴染みで、受験シーズンの時は互いにHINEで励まし合っただけだ」
「「やっぱテメー侍らせてんじゃねえかコンチクショー!!」」
誤解を解いたつもりが、更に激昂した二人に胸倉を掴まれガクガクとシェイクされる。
緑谷君と飯田君も加わって「深呼吸して落ち着くんだ!」と諭してくれたが、二人が止まる気配はなく、結局梅雨ちゃんが舌で首を絞め、三奈ちゃんが柔道の背負い投げで二人を制圧してくれるまで、俺はシェイクされ続けるのだった。
「大変やね……緋色君」
「うん……めっちゃ疲れた」
「あはは……少し遅くなっちゃったけど、この子も緋色君に会いたいって楽しみにしてたよ」
ヘトヘトになった俺の代わりに、乱れたワイシャツの襟元を整えてくれたお茶子ちゃんが、制服の胸ポケットから大切そうに一枚のカードを取り出す。
俺がそのカードに反応するより先に、過剰なまでの反応を示す者がいた。飯田君だ。
「麗日君!学校におもちゃを持ち込むとはどういう了見だ!? 先生方が来られるまでの間、没収させてもらう」
「待って飯田君、それに触れるな!」
ロボットみたいにお茶子へ近づく飯田君を慌てて制止したが、一歩間に合わず彼の指がカードに接触してしまう。
その瞬間、キィィィインと頭を刺すような金属音とともに、校庭側の窓ガラスが石を投げ込まれた水面のように大きく揺れた。
なんだなんだとクラスメイトたちが不審がった直後、窓ガラスの奥から全身を重装甲の金属で覆った二足歩行の犀型モンスター『メタルゲラス』が、地鳴りのような咆哮と共に突如姿を現し、飯田君へ渾身のタックルを叩き込む。
「うぇえええ!?
突き飛ばされた飯田君が教室のドアをぶち破って廊下に叩き出されたのを皮切りに、クラスメイトの間に激しい動揺が走る。
ある者は身の安全を守ろうと即座に個性を発動し、またある者はメタルゲラスに飛びかかろうと両手に激しい火花を走らせる。
「待ってくれ皆、こいつは
「なに!? どういうことなんだ筒美君!」
クラスメイトに手助けされ起き上がった飯田君が驚きの声をあげる傍ら、俺はメタルゲラスに落ち着くよう言い聞かせ、鏡の中に戻るよう指示する。
命令に従い、鏡の奥へと消えていったメタルゲラスを見たおかげで、クラスメイトたちはようやく平静を取り戻したようだった。そして、一斉に皆の視線が俺へと集まる。
「さっきのモンスターの名前は、メタルゲラス。俺の個性『ミラーライダー』で使役している十一体のモンスターの内の一体だ……お茶子ちゃんが持っていたのは『契約の証のカード』で、引っ越す時に渡したんだ。『お茶子ちゃんを守ってくれ』って祈りと一緒にね。だから、お茶子ちゃんと俺に無断でカードに触れた飯田君を敵と判断して、排除するために飛び出してきたんだよ」
「そうだったのか……すまない麗日君、筒美君! 知らなかったとはいえ、君たちの大切なものを勝手に……」
事情を理解してくれた飯田君に「気にするな。あと怪我がなくて良かった」と短く告げる。
「へ~、あなたも貰ったんだ……ヒロ君のカード。私も貰ったんだよ? ヒロ君が私だけのためにって」
「あら、あなたも貰ったのね……私も貰ったわよ。緋色ちゃんが私との特別なつながりの証って手渡してくれたの」
お茶子ちゃんに見せつけるように、三奈ちゃんがベノスネーカーのカードを胸ポケットから取り出し、それに続いて梅雨ちゃんもバイオグリーザのカードを取り出す。
二人とも口元こそ笑みを浮かべているものの、瞳からは一切の光が消えており、空間の温度が急降下したかのような不穏な空気が漂い始める。
あまりの重圧に俺が困惑していると、赤いツンツン髪のいかにも熱血な感じの男子が、「すげえな! 他にどんなモンスターがいるんだ?」と身を乗り出して問いかけてきた。
話題を変えるには絶好のチャンスだと思った俺は、ドラグレッダー、ダークウイング、ボルキャンサー、マグナギガ、エビルダイバー、ギガゼールの六枚のアドベントカードを机の上に並べた。
「すっげ~……けど、九枚だけ? あと二枚はどうなってんだ?」
「それはな――」
「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け」
残りの二枚の行方を尋ねてきた金髪君に応えようとした矢先、ボソボソとした低い声が耳に入る。
誰だと思って声がした方へと目を向けると、黄色い寝袋に身を包み、まるで巨大な芋虫みたいに床に横たわっている不審な男がいた。
(なにかいる……)
教室内の全員が同じことを思いつつも、誰も口にしない中は金髪君とブドウ頭君にこっそり耳打ちする。
「なあ二人とも……あれ、どう考えてもお茶子ちゃんたちのスカートの中身見えてるよね」
「「いや、今それ言う!?」」
「角度は調節している……見えてないよ」
(((弁明した……!)))
不審な男はゴソゴソと寝袋を脱ぎ捨てながら起き上がり、「静かになるまでに八秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠けるね」と吐き捨てると、自分が一年A組担任の相澤消太だと名乗る。
その名前に、この人が二年前にねじれ先輩や天喰先輩の担任だった抹消ヒーローなのかと俺が気を引き締め直している間に、相澤先生は袋から取り出した体操着を放り投げ、すぐにグラウンドへ集まるよう指示を出した。
「えっ、入学式やガイダンスは……?」と困惑する声があがるが、「ヒーローを目指す以上、そんなものをしている暇はない」とにべもなく言い切る相澤先生に取り付く島もなく、俺たちは着替えるために更衣室へと向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「久しぶりだね……障子君」
『筒美……緋色君だったな。俺に何の用だ?』
更衣室に向かう道中、俺は腕が六本ある大柄の男子――障子目蔵に声をかける。
本来の口ではなく、複製腕の一つに形成した口から発せられた他人行儀な言葉に寂しさを覚えるが、これは自業自得だと自分に言い聞かせ、長年ずっと伝えたかった想いを口にする。
「あの時は……約束を破ってごめん」
『約束? 何の話だ』
「『明日、また遊ぼう』って……小三のお盆明けに約束しただろ。言い訳にしかならないけど、俺……あのあと体調が急激に悪くなって、都会の病院に緊急搬送されることになったんだ。半年経って退院したあと、君の村にもう一度行ったんだけど、その時には君はもう引っ越したあとで……。ただのガキだった俺じゃあ、引っ越し先を探すこともできなくて……だから、ずっと謝りたかった。友達との大切な約束だったのに……破って本当にごめん」
『……一ついいか。どうして俺だと分かった?』
一切の反応を示すことなく歩いていた障子君だったが、足を止め、背を向けたまま問いかけてきた。話を聞いてくれたことに安堵しながら、俺は彼の背中に向かって答える。
「そんなの、見れば分かるよ。君は君だから」
「……そうか」
何の感慨もないように淡々と応じた障子目蔵だったが、マスクで覆われたその内心は激しく揺さぶられていた。
(裏切られたわけじゃ……なかったのか。俺を置いていったわけじゃあ……なかった)
障子の脳裏に、熱い日差しの中で緋色と過ごした短い日々が鮮明に蘇る。
一週間にも満たない短い時間だったが、この異形の個性ゆえに村の大人たちから忌み嫌われ、迫害されてきた幼い自分にとって、彼と過ごした時間は人生で唯一の救いだった。
彼と最後に会った日の前日、思い切って尋ねた。「何故、自分に優しくしてくれるのか?」「この異形の腕が怖く、醜くないのか?」と。
彼はまっすぐな瞳で笑い、「君が優しい人だからだよ」と答えてくれたのだ。
『そんなの、見れば分かるよ。君は君だから』
あの日くれた言葉と、まったく同じ言葉を添えて。
(お前は……あの時から何一つ変わっていなかったんだな。昔と変わらない…俺の……俺だけの太陽)
制服の胸ポケットに仕舞われた虎のモンスター『デストワイルダー』のカード――また明日と約束した日に、友達の証として貰った宝物にそっと手を添える。
あの時の幸せが嘘ではなかったという歓喜と、目の前の太陽に対する狂おしいほどの独占欲を噛み締めながら、障子は静かに更衣室へと足を進めるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方その頃、女子更衣室。
一年A組に所属している女子は六人しかいないため、男子更衣室と比べてパーソナルスペースにはかなりゆとりがあった。
だがそんな更衣室の一角で、三人の女子が静かにバチバチと火花を散らし、互いを激しく睨み合っていた。芦戸三奈、蛙吹梅雨、麗日お茶子の3人だ。
「ねえあんたたち……ヒロ君の何なの? 随分と馴れ馴れしかったけど」
ハイライトの完全に消え失せた冷ややかな瞳で二人を射殺すように睨みつけながら、芦戸三奈が底冷えするような低い声で問いかける。ロッカーのドアに組み込まれている小さな手鏡の奥には、主の仄暗い殺意に呼応するように、ベノスネーカーが鎌首をもたげ、シャーッと威嚇の声をあげている様子が映し出されていた。
「私は緋色ちゃんの幼馴染よ。でも……ただの幼馴染じゃないわ。彼から特別な誓いと一緒に証を託された、特別な関係よ」
――あなたたちみたいな、後から湧いて出た女と一緒にしないで。と言外に勝ち誇るような冷酷な嘲りを込めて、蛙吹梅雨が静かに挑発する。手鏡の奥に潜むバイオグリーザが、彼女の言葉を全肯定するように静かに擬態を解いて姿を現し、不気味に低く咆哮した。
「違うよ……」
胸の前でメタルゲラスのカードを両手でぎゅっと握りしめた麗日お茶子が、血を吐くような声をあげる。恐怖に震えているというよりは、胸の底から溢れ出す激しい嫉嫉と執着を必死に抑え込んでいるといった風情だ。
「緋色君は、私の特別な人なのっ! メタルゲラスだって、緋色君が私のことを世界で一番大切に思ってくれてるから託してくれたんだよ。私の緋色君に気安く触らないで……邪魔者は引っ込んでてよ!」
鏡の奥に佇むメタルゲラスが、麗日お茶子の重すぎる狂愛と殺気に呼応するように、全身の装甲をギィギィと武者震いさせる。
狂愛を秘めた三人の乙女と、ミラーワールドから主の恋路を見守る三体の契約モンスター。まさに一触即発の危機的空気が更衣室を満たしていたが、相澤先生の告げた制限時間までほとんど残っていなかったため、彼女たちは一旦その殺気を腹の底へと押し込め、校庭へと向かうのだった。
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