ミラーモンスターたちと征く、俺のヒーローアカデミア ~七人のヤンデレを添えて~ 作:グランドスタン
窓から差し込む春の陽気が、よほど心地よかったからだろう。
俺――筒美緋色は、一限目の授業が始まる前だというのに猛烈な眠気に襲われ、舟をこいでいた。
(あと三分しかなかったはず……何とかして起きねーと)
中学三年生にもなって、授業中に居眠りなんて許されるはずがない。そう思って必死に意識を引き戻そうとするが、意志とは裏腹に、意識は水面を漂う木片のようにどちらの岸にも寄り切らずに揺れていた。
夢の名残と現実の気配が交互に触れ、足場のない空間を歩いているような曖昧な感覚が続く。
「ぶっちゃけ、筒美は良いよな~」
クラスメイトの羨望を含んだ声がした瞬間、枕代わりにしていた右手がズルッと滑り、机に顎を強打した。
「いってぇ~」
涙目で顎を押さえながら顔を上げると、クラスメイト全員が羨望と呆れが混ざった眼差しで俺を見つめている。
「……何がだ?」
「何がだ?……じゃねえよ! 自覚ねえのかよ!?ホームルームでセンコーも言ってたろ!」
首をかしげる俺に、隣の席の奴を筆頭に数人が指を折りながら、俺の
「母親はチャート10位圏内常連の人気プロヒーロー『レディ・ナガン』。これだけでもうらやま案件なのに、中一の頃から模試でA判定を取り続ける明晰な頭脳」
「運動部全部で助っ人して、大会でも結果を出せる抜群の運動神経にその整った容姿」
「個性だって、『龍の鎧を纏う』『6体のモンスターを使役する』『鏡の世界に入る』……どれか一つでもチートなのに、三つの複合型とか疑う余地もない強個性だろ」
「おかげで二年の時点で推薦枠確定。おまけに長期休みになれば波動先輩のマンツーマン指導までついてくるんだろ? ここまで差を見せつけられちゃ、嫉妬する気も湧かねえよ」
クラスメイトたちの言い分を振り返ってみると、確かに一理はある。後半がただの愚痴漏らしになっている気がしないでもないが、言われっぱなしも癪なので俺は反論を口にする。
「皆買い被りすぎだ。勉強もスポーツも、万が一ヒーローになれなかった時にちゃんとした仕事に就くための備えだし……何より、俺にとっては母さんに恩を返すのが一番なんだよ」
「それに、波動先輩の件だって他の先輩たちの話を鵜呑みにしなければよかっただけの話だ。あの人はちょっと好奇心が強すぎるだけで、根気強く向き合えば他人のことを見下すような人じゃないってすぐ分かる」
そう答えた途端、教室がシーンと静まり返る。
直後、ドッと大きな笑い声が巻き起こる。
「はい出た! 『波動先輩係』のありがたいお言葉いただきましたぁ!!」
「おい、その呼びかたは止めろって言ったろ!!」
「“誰にも止められない暴走特急な先輩をハリセンで唯一止められる後輩”……売り文句としてはインパクト充分かもな!」
「お前らなぁ‥……」
好き放題言ってくるクラスメイトたちに歯噛みしていると、ガラッと扉が開いて担任が入ってきたことでようやく会話が切り上げられた。
結局俺は、二年前に当時の三年生たちから付けられた不名誉なあだ名の件で、丸一日いじられ倒す羽目になるのだった。
~~
放課後。
作り置きしていた夕食を食べ終え、風呂を済ませた俺は自室の机でネットニュースサイトを眺めていた。
「『NEWヒーローMt.レディ、衝撃のデビュー戦』……こういう色気を前面に出したコスチュームって、若い頃は持て囃されるんだろうけど、年齢を重ねてからが悲惨そうだな。お! こっちは『平和の象徴オールマイト ヘドロ
平和の象徴の大活躍に感心しつつも、自他含めた前世の経験から新ヒーローに対してはどうしても辛口な感想が出てしまう。
そんなことを考えていると、机の端に置いていたスマホからピロン、ピロンと続けて通知音が鳴った。
画面を開くと、多忙ゆえにここ一ヶ月ほど帰宅していない養母と、例の騒がしい先輩からのメッセージが表示された。
「雄英体育祭か~…。先輩、去年優勝したんだよな。おかげで学校も大盛り上がりだったし」
前世の記憶がある身としては、国立とはいえ一高校の体育祭がオリンピックに代わるスポーツの祭典となっている事実に、最初は心底驚かされたものだ。
二人に返信を終えた俺は忘れないうちにと思い立ち、三通の手紙を取り出した。
自身のメールアドレスとHINE*1のアカウント。それに一言メッセージを書き足すと、軽く羽織って近所のポストまで投函しに向かう。
「あいつらも雄英目指して頑張ってるみたいだし、俺も負けてられないな」
転校が多かった小学生時代、特に仲が良かった三人――離れ離れになった友人たちの顔を思い浮かべながら、帰宅した俺はベッドへと横になるのだった。