ミラーモンスターたちと征く、俺のヒーローアカデミア ~七人のヤンデレを添えて~ 作:グランドスタン
季節は巡り、秋の風が心地よく吹き抜ける十月。
ほとんどの中学三年生が志望校へ向けてラストスパートをかけているであろう時期に、俺は雄英高校のゲートをくぐっていた。
なぜなら今日は、一般人が雄英高校の敷地内に入れる数少ないイベントの一つ――『雄英文化祭』の当日だからだ。
校内は生徒や教員問わず様々な出し物であふれており、体育祭ほどの熱気はないものの、お祭り特有の明るい活気に満ちていた。
「先輩との待ち合わせは…ここでよかったはず」
「だ~れだ?」
「……波動先輩、何のつもりですか」
メモ用紙に書かれていた場所で周囲を見渡していた俺の視界は、背後から伸びてきた柔らかな手によって唐突に塞がれた。
背中にぴったりと寄り添う温もりと、甘いシャンプーの香り。大抵の人は犯人特定に少しは時間がかかるだろうが、俺は悩む間もなく犯人の名前を口にする。俺の知る限り、こんな子供っぽい悪戯を仕掛けてくるのは波動先輩くらいしかいないからだ。
「む~……当たり」
「なんでむくれてるんですか。あなたは」
俺から手を離した先輩は、怒ったトラフグみたいに頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
膨らんだほっぺをつついたり、肩を揺さぶってみても頑としてこちらを見ようともしない
「……ねじれ先輩」
「なになに♪」
先ほどまでの聞かざるっぷりが幻だったかのように、パァッと花が咲いたような笑顔で振り向く。
俺が先輩の中学に入学した頃から、他人行儀な呼びかたをするたびにこんな調子だった。
「今日は招待してくれてありがとうございました」
「いいのいいの♪じゃあ、一緒に回ろう!」
ねじれ先輩にギュッと手を引かれ、俺は様々な出し物を見て回ることになった。
体育館での派手な演劇。個性を使ったお化け屋敷。的が動く射的やクイズ大会に、プロヒーローである教師陣によるファッションショー。
『自由』という校風に偽りはないようで、普通の高校の文化祭では絶対に見られない規格外の催し物で目白押しだった。
「ところでねじれ先輩……今更なんですけど、俺にかかりっきりで大丈夫なんですか?」
「私のクラス展示品だから大丈夫。それに、これからミスコンに出るから緋色に衣装選んで欲しいんだ!」
おっとぉ…かなりの大役を任された気がするぞ?
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そんなこんなで始まったミスコン。
ねじれ先輩以外にも誰もが振り返るような美人な雄英生たちが、各々の個性を使ったパフォーマンスで観客にアピールをしている。
なかでも特に目を引いたのは、自身の顔を模したデコトラ(でいいんだよな?)でど派手に現れたサポート科の絢爛崎美々美さんだ。
『名は体を表す』を地でいくような、色んな意味で豪華絢爛としか言い表しようのない圧巻のパフォーマンスだった。
(初見時のインパクトでは絢爛崎さんの圧勝かもしれない。でも……)
そして最後に俺が選んだ衣装に身を包んだねじれ先輩の出番がやってきた。
出番の直前、「美しさだったら、ねじれ先輩だって絶対に負けてませんよ」と送り出した時の、先輩の少し熱を帯びた嬉しそうな瞳を思い出す。
先輩の不思議ちゃんっぷりと、個性を生かした妖精のようなパフォーマンスは、絢爛崎さんのような派手さはないが観客たちの心を確かな魅力で惹きつけていく。
結果は無事、ねじれ先輩がグランプリを勝ち取った。
「ねえねえ緋色、私のパフォーマンスどうだった!?」
「凄くよかったですよ先輩!……にしても最後の投げキッスはよく思いつきましたね。あれでかなりの男性客が骨抜きにされてましたよ」
結果発表を終え、トロフィー片手に真っ直ぐ俺の隣に飛んできたねじれ先輩に素直な感想を伝える。
「緋色がメロメロになってくれなきゃ……意味ないじゃん」
だが先輩は俺の感想が不満だったのか、ぷくっと頬を膨らませて拗ねてしまった。
前世も含めて五十になるけど、未だに乙女の心の機微はよく分からない。
「やったねねじれ!ところで…そこの男子君はどちらさん?」
「俺は――」
「有弓、この子が緋色だよ!」
機嫌を直してもらおうと悪戦苦闘していると、ボーイッシュな女性が話しかけてきた。
名乗ろうとした矢先、ねじれ先輩が俺の名前を被せるように伝える。
口ぶりからして友達なのだろうと思っていると、有弓と呼ばれた人が前触れもなく特大の爆弾を落とした。
「緋色……ああ。この子がねじれが言ってた『彼氏』か!」
「か、彼氏ぃ!? え、先輩恋人出来たんですか!?」
驚愕の事実に、俺は顎が外れそうなほどの大声を出した。
中学時代、底なしの好奇心で暴走特急し続けたせいで見事なまでにボッチだった先輩に彼氏。これは大事件だ。戻ったら学校の皆に知らせないと。
そんな事を考えていると有弓さんが「君の事じゃないのか?」と怪訝そうに首を傾げて聞いてきた。
「いやいや、そんな訳ないじゃないですか。俺なんかただの後輩で――痛っ!?」
答えた瞬間、何故かねじれ先輩に乳首を思いっきり抓られた。
「イテテテテッ!!せ、先輩!? 何で俺の乳首抓ってるんですか!? 痛い!痛いですって!」
「フ〜んだ……乙女心の分かんないお馬鹿さんには、当然のペナルティだよ〜」
ニコニコと笑いながらも、その指先には一切の容赦がない。
結局俺は、先輩の誕生日プレゼントとして用意していたニューヨークのプレミアムティーブランドのジャスミンティーを渡してご機嫌を取るまでの三時間、隙あらば乳首を抓られ続けるという地獄の
なお余談ではあるが、プレゼントをたいそう気に入ってくれたねじれ先輩はその後、「一緒にお茶しよ♪」と俺を自身の住まいに強引に連れ込んだ。
甘い匂いが充満する先輩の部屋で、帰りの新幹線の時間ギリギリまで。――というより、新幹線に乗り遅れそうになるほど執拗に引き留められながら、ジャスミンティーを味わう羽目になるのだった。
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「楽しかったな~♪」
文化祭が終わった翌日。私――波動ねじれは、浮き足立つような足取りで自分の教室に向かっていた。
夏休みから数か月ぶりに会えた、かっこよくて可愛くて、大好きな緋色。彼と文化祭でデートできた嬉しさで、我慢しようにもどうしても口角が上がっちゃう。
(でもしかたないよね~)
少し強引だったけど、私の部屋に招き入れるという『既成事実』まで作ることができた。
あんな風に二人きりで、甘い匂いのする部屋で同じ時間を過ごしたんだから、こんなのもう誰がどう見ても恋人同士で間違いない。
「元気にやってるかな……緋色」
教室の窓から空を眺めながら、
出会った時から、皆に嫌われていた私に迷いも偏見も無く接し続けてくれた優しい後輩。
私以外の同級生や一つ下の後輩たちから「関わらない方がいい」と口酸っぱく釘を刺されても、おかまいなしに私と一緒にいてくれた後輩。
私が拗ねて隠れた時も、誰よりも早く見つけ出してくれた後輩。
彼がいるだけで、私の世界は光り輝いて温かくなる。だから、そんな彼といつまでも一緒にいたい。私のことだけをもっと見て欲しい。
でも、彼にも一つだけ困った欠点がある。
「ねえねじれ……昨日一緒にいたあの男の子って、もしかして例の彼氏さん?」
「どんな出会いだったんですか!? 告白はどちらから!?」
休み時間になると、クラスメイトや雄英での後輩たちが我先にと緋色の事を聞きに私の元に集まってきた。
彼の欠点――それは他人に優しすぎることだ。それ故に、たくさんの有象無象を男女問わず引き寄せてしまう。
「そうだけど…気になるの? なんで? 私の彼氏だから? 君にも恋人いるのに…不思議~」
緋色を横取りする気なのかもしれない。
その可能性が僅かにでも脳裏をよぎるだけで、私の心は泥のように冷たくなる。それに呼応するように、声色からも一切の感情が抜け落ちていく。
ヤダ……取られたくない。緋色は私だけの……。
「ち、違いますよ! ねじれ先輩って、誰にも興味ないって感じでしたからびっくりしただけで!」
「な~んだ。そんな事……私にも好きな人くらいいるんだよ♪」
どうやら略奪する気はなかったみたいで、私は心底安心した。
だっていくら知らない有象無象の相手だとしても、もし私の手にかけるようなことがあったら緋色に顔向けできなくなっちゃうし。
何より将来緋色との子供が産まれた時に、汚れた手で抱っこできなくなるのは絶対に避けたいからね。
「でも、それだとちょっと邪魔なんだよね~…養母なのに緋色にあんなに執着するなんて、不思議~」
私の脳裏に、緋色の養母であるプロヒーロー『レディ・ナガン』――もとい筒美火伊那の姿が浮かび上がる。
初対面の頃から敵意を向け続けてきて、私が緋色へ好意を抱いている事を自覚した日から敵意の『理由』がハッキリと分かった相手。
今のところ、私にとって一番目障りな障害物。
「お母さんなんだからお母さんらしく、大好きな息子の恋人くらい祝福してあげたらいいのにね?――ねぇ、ブランウイング」
緋色から貰った、美しい白鳥のようなモンスターが描かれたカード。
その表面を指先で愛おしげに撫でながら漏らした私の火伊那さんへの不満は、誰の耳にも届くことなく、平日の空に溶けていった。
七人のヤンデレの一人目、登場。
次回は二人目に関するエピソードにする予定です