ミラーモンスターたちと征く、俺のヒーローアカデミア ~七人のヤンデレを添えて~ 作:グランドスタン
ねじれ先輩と雄英文化祭を回った翌日。
学校の授業を終えて帰宅した俺は、自宅のキッチンで夕飯のシチューを作っていた。
「今日は三ヶ月ぶりに母さんが帰って来る日だから、腕によりをかけて……っていかんいかん! 家で二人っきりの時は『火伊那』って呼ぶルールだったな」
小学一年の夏頃から、火伊那は俺に自分を名前で呼ぶように求めてきた。
理由を聞いても全く答えてくれず、捨て子だった俺を拾い育ててくれた恩人を呼び捨てにすることには強い抵抗があった。だが激しい押し問答の末に、『家の中かつ、二人っきりの時限定』という妥協案で納得してもらったのだ。
「そういや、あの頃からだったっけ……母さんが、学校で俺に友達ができるのを嫌がるようになったのは」
あの時期から、母さんは仕事の都合なのか家を空ける日が多くなった。
まあ俺自身はそれなりに友達も多かったし、家に居候しないかと誘ってくれるほど親身にしてくれる子がいたおかげで寂しくはなかった。
『ねえヒロ君……ヒロ君がよかったら、アタシの家に来ない?』
母さんが俺の交友関係に嫌悪感を示すようになったのは、三奈ちゃんに誘われた翌日からだっただろうか。
そこまで考えたところで――
コンコンコンと、ドアをノックする音が三回鳴り、二テンポ空けてからトントンと、二回鳴った。
これは小学五年生の頃、近所に
「おかえり母さ…じゃなくて、火伊那」
「ふふ…いい子ね。ただいま、緋色」
ドアを開けた先でそう微笑む火伊那の瞳は、母親が息子に向けるそれとは明らかに違う、ねっとりとした熱を帯びていた。
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三ヶ月ぶりの火伊那との食卓は、俺にとって謎の緊張感を伴うものになった。
火伊那はねじれ先輩に対して、出会った時からいい顔をしない。そしてねじれ先輩も口にこそ出していないが、火伊那のことを嫌っている節がある。
八月の夏休み、マンツーマンでの訓練に付き合ってもらった最終日。忙しい合間を縫ってくれたお礼として、ねじれ先輩のわがままを聞いて一緒に夏祭りに行ったこと。そして先日の雄英文化祭を二人っきりで回ったこと。
これらが火伊那にバレれば、とてつもなく面倒な事態になる。
俺の第六感が、旅客機の
(あ~…びびったぁ。なんで三ヶ月ぶりの親子水入らずの食卓で、こんなにひやひやしなきゃならないんだ?)
片付けと歯磨きを終えた俺は、現在進行形で自室のベッドに横たわり、火伊那の抱き枕にされながら食卓での謎の悪寒について考えていた。
なぜ俺が抱きしめられているのかというと、入浴を済ませた火伊那が「久しぶりにムスコニウムを補充させなさい」と俺の部屋に押しかけてきたからだ。
ちなみに『ムスコニウム』というのは、火伊那が俺を抱きしめている間にのみ生成される特殊粒子らしい。これが補充されると火伊那の体調が劇的に良くなり、肉体スペックが通常時の三倍にまで引き上げられる――という、なんとも都合のいい代物なのだそうだ。
ぶっちゃけただのプラシーボ効果というか、火伊那の思い込み以外の何ものでもないのだが、日々の激務のストレス発散の一助になるならと、小学三年生の頃からずっとこの謎の儀式に付き合っている。
今日も三十分ほど、少し息が苦しくなるくらいの強い力で抱き枕にされた後「……ええ、たっぷり補充できたわ」と妖艶に微笑み、満足げに自分の部屋へ戻っていく火伊那を見送って俺はようやく眠りにつくのだった。
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「寝てる姿も相変わらず可愛いわね……緋色」
暗い寝室で、タブレットに映る緋色の寝姿を眺めながら筒美火伊那は呟く。
画面越しの緋色は、自分が隠しカメラで見守られている事など露知らず、無防備に穏やかな寝息を立てている。そのあどけない寝顔がたまらなく愛しく、いますぐにでも顔を撫でまわしたい衝動に駆られるがグッと我慢する。
「本当に変わらないな……初めて会った日からずっと」
脳裏に、まだ赤子だった緋色を拾った十五年前の光景が蘇る。
公安からの指令で、悪事に手を染めたプロヒーローを協力者の
冷たい雨が降る深夜、電車の通らなくなった高架下のベビーカーに捨て置かれた小さな命。
保護するために動こうと促すヒーローを夢見ていた頃の私と、そんな血塗られた手で純粋無垢な赤子を汚す気かとブレーキをかける暗殺者としての私。
二つの感情に苛まれ、フリーズしていたその時の私は、傍から見たら随分と滑稽な姿だっただろう。そんな私の手を迷う事無く握り、無邪気に笑いかけてくれた赤子。
その瞬間、すり減り、冷え切っていた私の心に小さくも温かい火が灯ったような気がした。
「本当なら真っ当な施設に預けるべきだったんだが、どうしてもできなかった…」
それからも不安が無かった訳ではない。
プロヒーローとしての表の仕事と、公安の暗殺者としての裏の仕事――二重生活に起因する多忙さと、私自身が
私自身、子育ての経験などないゆえに決して容易な道ではなかった。それでも緋色は強く優しく、少しおバカだが逞しく育ってくれた。
だが、それは良い事ばかりではなかった。おかげで有象無象の羽虫がたくさん寄り付く羽目になってしまったのだから。
「波動ねじれ……最近少し調子に乗り過ぎじゃないか? マグナギガに命令する権利が私にあれば、もう三回は撃ち落としてるぞ」
思えば小学生の頃から、緋色の周りには彼の優しさに勘違いして群がる羽虫が一定数存在していた。今までは仕事を言い訳にした転校で引き剥がすことが出来たが、ここ最近は
そのせいで、波動ねじれという羽虫が引っ付くのを邪魔することができず、ストレスが溜まり続けている。
「随分と勘違いしてるようだが、緋色は私のだぞ小娘……きさまなんかに、渡す気は微塵もないからな」
波動ねじれの写真の顔に指で穴を開け、破れた写真を忌々しそうにゴミ箱へ投げ捨てるのだった。