ミラーモンスターたちと征く、俺のヒーローアカデミア ~七人のヤンデレを添えて~ 作:グランドスタン
あれからさらに季節が流れて二月。
推薦入試を明後日に控えた俺は、明日の放課後すぐ静岡に向かえるようキャリーケースに着替えを押し込んでいた。
(いよいよ本番……推薦入試なんて、前世じゃ無縁のイベントだったから緊張するなぁ)
そんな時は、過去の努力を思い出すに限る。
そう思い立ち、四月からの出来事を振り返ってみる。
【五月】:ねじれ先輩に招待されて火伊那と見に行った雄英体育祭。生で見る生徒たちと観客の熱狂に圧倒されつつ応援。優勝した先輩はすごく輝いてたけど、火伊那と来てるのに気づいた途端、すこぶる不機嫌になっていた。
【六月】:ヒーロー仮免許試験を合格したねじれ先輩と、リモートで祝杯を上げた。それから先輩のインターン先である、沖縄で活躍するドラグーンヒーロー『リューキュウ』の話題で盛り上がった。
【八月】:合宿を終えて帰省した先輩による、地獄のマンツーマン指導。プロヒーローの下で鍛え上げられた先輩はかなり強くなっており、俺は攻撃をかすらせることさえ叶わなかった。あと、帰省最終日にねじれ先輩と一緒に夏祭りにも行った。浴衣姿の先輩可愛かったなぁ~。
【十月】:雄英文化祭を一緒に回った。誕生日プレゼントに選んだジャスミンティーは気に入ってもらえたようで、新幹線の時間ぎりぎりまでねじれ先輩の部屋で寛ぐことになった。
【十二月】:僅か二日間だったが、今年最後の先輩とのマンツーマン指導。さらに強くなった先輩に俺は手も足も出なかった。
「ちょっと待てよ?」
ここまで振り返って、今年一年の思い出のほとんどにねじれ先輩が関わっている事に気付かされる。
「これじゃあ……クラスメイトが言ってた『ねじれ先輩係』その通りじゃないか」
散々否定していた『ねじれ先輩係』というあだ名が、本当にその通りだったと自ら証明してしまいがっくりと肩を落とす。
いくら見た目が十五の学生だとしても、多少精神が体に引っ張られていようとも、中身は前世も合わせれば五十の爺だ。
女子高生といい雰囲気になるなんて、色んな意味で事案である。
「緋色、準備は大丈夫か?」
この『事案』についてどう言い訳しようかと頭を抱えていると、火伊那がノックもなしに部屋に入って来た。
普通の思春期の子供からしたら「ノックしろよババア!」案件かもしれないが、俺の場合は火伊那に預けたマグナギガや、鏡の中のモンスターたちが伝えてくれるおかげで困った事は無かった。
「大丈夫だよ火伊那。荷物っていっても願書と面接用の着替えくらいだから、大した量じゃないし…それにねじれ先輩がいい宿泊先見つけてくれたからさ」
俺が何気なくそう言うと――火伊那の瞳が僅かに冷たく、鋭さを増す。
「緋色…本当に遠慮しなくて大丈夫だぞ。今からでも私が動けば、ホテルの一室くらい……」
「大丈夫だって。ねじれ先輩だって、フワフワしてるようで締めるところはしっかり締められる人だから」
「そうか……あの小娘の紹介だから安心なんて出来ないのに……変なこと企んでたらただじゃ済まさないぞ」
心配性――で片付けるには些か不穏な空気が生じてるのを察した俺は、部屋から出ようとした火伊那を背中から抱きしめる。
「緋色! なにを」
「ん~……まだ緊張してるから、母さんへのムスコニウム補充と、俺のカアサニウム補充中?」
「何だ『カアサニウム』って……そんな物聞いた事もないぞ」
口では不満そうに言っているが、振り解こうとしないことと満更でもなさそうな声色から、どうやら火伊那の機嫌を良くすることが出来たと分かり俺も安堵する。
なお、ハグ止めようとしたら「もう止めるのか?」と目をウルウルさせ始めたので、結局二時間ほどハグし続けることになったとさ。
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そして翌日。学校が終わった俺は早足で家に戻り、キャリーケース片手に新幹線に乗る。
リニアモーターカー並みの静音性と高速性を有するこの世界の新幹線は、前世だったら早くても五時間はかかったであろう移動時間を、わずか二時間半にまで縮めてくれる。
日が暮れ始めた時間帯に静岡へ着いた俺は、同じく明日の推薦入試に挑むのであろう多数の学生たちとすれ違いながらタクシーを確保し、運転手にねじれ先輩から聞いていた宿泊先の住所を伝えた。
「えっと、運転手さん……本当にここで合ってます?」
三十分ほど揺られて着いた先にあったのは、ホテルではなくただのアパート――それも四ヶ月ほど前の文化祭で、ねじれ先輩に連れ込まれた彼女の家だった。
「合ってますよ」と返事して去っていく運転手に礼を伝えたタイミングで、スマホからピロンと通知音が鳴る。
【ねじれ先輩】:緋色、着いた? 着いたよね!
【ねじれ先輩】:私しばらくインターンで帰らないから、私の部屋好きに使って良いよ!
【ねじれ先輩】:なんならこれから一生暮らしても良いよ!
【ねじれ先輩】:あ、合鍵は一階のポストに入ってるからね! 開錠番号は――
「次会ったら、ハリセン三連打だな……」
ねじれ先輩に嵌められたことを悟った俺は、次会った時絶対ツッコミを入れると決意して合鍵を取り出し、彼女の部屋に入る。
本音を言うと、今からでもホテルを探しに行きたいところだったが、流石に暗くなり過ぎていたためそれは諦めた。
「先輩の部屋……やっぱり甘い匂いがするな。っていかんいかん!急いで母さんに連絡しないと」
以前と変わらない先輩の部屋にどぎまぎしていたら、午後七時三十分を示す掛け時計が目に入る。
出発前にした火伊那との約束を思い出した俺は、急いでスマホを取り出しメールを書き始めた。
火伊那がねじれ先輩を快く思っていないのは分かっている。だから、馬鹿正直にねじれ先輩の部屋に泊まっているとは書かず、駅前の質素なカプセルホテルだと嘘を書いた。
(もしもねじれ先輩の部屋に泊まってるなんてバレたら……沖縄が戦場になるかもな)
コマンドーのメイトリクス大佐よろしく、完全武装した火伊那が沖縄に屍の山を築く姿が何故か脳裏に浮かぶが、そんな訳ないかと変な想像を振り払い床に横になる。
(明日は早いんだ。さっさと寝ないと)
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薄暗い部屋の中で、火伊那はスマホの画面を凝視していた。もう静岡に着いてもおかしくない時間なのに、全く連絡がこない。
何か事件に巻き込まれたんじゃないかと、時が経つにつれて不安が募っていく。
(こうなったら私も静岡に乗り込もう)
そう思った矢先にピロンとスマホの通知音が鳴り、緋色からのメールを受信したと画面に表示される。
間髪入れずにメールを開くと、そこには『駅前の質素なカプセルホテルに着きました』と当たり触りの無い文面が並んでいた。
「カプセルホテル……?」
だが火伊那は、それが偽りであると即座に見抜いた。
「嘘ね……緋色は何かを誤魔化す時、やたら丁寧な物言いになるもの。あの小娘……いったいどこに緋色を連れ込んだ?」
母としてだけでなく、一人の男に重い愛を向ける女としての勘が、波動ねじれの企みを鋭く見抜く。
今すぐにでも沖縄にカチコミを掛けたい衝動に駆られるが、緋色の大事な入試を控えているため、今はぐっと我慢する。
――だが、終わったあとはただじゃおかない。
嫉妬と殺意の黒い炎を目に滾らせながら、火伊那は眠りにつくのだった。
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