ミラーモンスターたちと征く、俺のヒーローアカデミア ~七人のヤンデレを添えて~   作:グランドスタン

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推薦入試の結果発表回です。

今回で七人のヤンデレの内五人まで揃います。

なにげに、誰に度のモンスターを預けさせるかが一番悩みました。


第6話:カウントダウン

 激動の推薦入試から一週間ほど経過した金曜の夜。

 一足先に入浴を済ませ、ホットミルクを飲みながらリビングのソファで一息ついている俺の鼻腔に、炒められたケチャップの香ばしい香りが漂ってくる。

 三ヶ月ぶりに完全オフの日を迎えた火伊那が、数少ない得意料理(ナポリタンパスタ)を作っているのだ。

 

 

(久しぶりのオフの日だから、ゆっくりしてほしかったんだけど……『久しぶりの休みなんだから、たまにはお母さんにもお母さんらしいことをさせてくれ』って頼まれたらなぁ……。ま、俺も火伊那のナポリタン大好きだからいっか)

 

 

 伊達メガネをかけ、ラフな部屋着で鼻歌を歌いながら菜箸を小気味よく動かす火伊那の背中を眺めていたら、玄関のベルが鳴る。

 

 

「今手が離せない。頼めるか、緋色?」

「お任せあれ♪」

 

 

 口周りに付いたミルクを拭き取って玄関に出た俺は、配達員から書留を受け取る。

 差出人欄には雄英高校と記されており、それが目に入った瞬間、手にした封筒の重さが増した気がした。

 

 

「火伊那、来たよ」

「そうか……食べるのは後にして、先に中身を確認しようか」

 

 

 リビングに戻ると、調理を終えた火伊那がナポリタンを盛りつけた皿を配膳している途中であった。

 緊張のあまりこわばった俺の声色から届け物の正体を悟ったのか、火伊那の柔らかかった目つきも仕事に向かう時のように鋭くなる。

 

 

「じゃあ……開けるよ」

 

 

 雄英の校章が描かれた封蝋を割り、中身を探るとそこには想像していた書類の類は一切なく、代わりに円盤型の正体不明の物体が入っていた。

 

 

「最新の映像端末だな。裏になってるから、こっちを表にすれば……」

『やあ、無事届いたようだね』

 

 

 首を傾げていると、火伊那は見覚えがあるのか物体の上下を逆にする。

 するとそれを待っていたかのように上面が光り出し、スーツを着たネズミのような人物――雄英高校の校長、根津校長の姿が投射される。

 

 

『さて、君の試験結果なんだけど……筆記試験は全教科平均で93点、実技試験は同着二位の好成績。ここまでは充分良い成績さ!最後に面接試験なんだけど…皆に勇気を与えられるヒーローになりたいという君の強い意志……実に良い! 合格だよ筒美緋色君!! 我々教員一同、君を待っているよ!』

 

 

 俺の合格発表と共に映像は終わり、端末が停止する。

 

 

「……やったぜ!」

「よく頑張ったな。緋色」

 

 

 筆記試験の結果が自己採点より若干低かったことを内心悔しく思いつつ、俺は合格したことに安堵しガッツポーズを取る。

 そんな俺の頭を優しく撫でて労ってくれる火伊那に感謝を伝えつつ、俺と火伊那は夕食のナポリタンパスタをいただくのだった。

 

 

 

 

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「何を熱心に調べているんだ?」

「静岡での家。さすがに実家通いは無理だから、向こうで出来るだけ近い物件探さないと」

 

 

 雄英に通うための物件を探していた俺のスマホを、後片付けを済ませた火伊那が背後から覗き込む。

 雄英高校がある静岡の垢離里、および周辺地域には遠方から雄英に通う生徒のための物件が数多くあり、今検索しているのもそういった物件を紹介してくれているサイトなのである。

 

 

「この物件もキッチンが狭いな……。キッチン広めの物件はだいぶ押さえられちまってるのが痛いなぁ」

 

 

 前世の経験から、部屋が狭くてもキッチンが広ければ問題ない――それが俺の物件選びのこだわりだった。

 とはいえ学生の頃から料理する人間は今の時代も珍しいのか、学生向け物件でキッチンが広い住まいは本当に数が少ない。

 

 

「何だそんなことか。それなら心配いらないぞ」

 

 

 うんうん唸っていた俺に、火伊那があっけらかんと告げる。

 どういうことだと聞き返す俺の前に、彼女はどこからか数枚の資料を持ってきた。

 

 

「前々から話は進めていたんだ。お前が雄英に受かったから、これで心置きなく引っ越すことができる」

 

 

 火伊那が持ってきた資料には西洋の城としか思えない壮麗な洋館が載っており、不動産に関しては素人の自分でも、金額だけでなく広さにおいても無駄に豪華すぎると一目で分かる代物だった。

 

 

「なあ火伊那……俺ら引っ越し多かったし、これからも引っ越しする可能性を考えたらこれ豪華すぎないか?」

「その心配はいらないぞ。これが私たちの終の棲家だ」

「だとしても屋内外の両方にプールがあって、テニスコートも完備とか贅沢すぎでしょ。……これいくらするの?」

 

 

 雄英高校から北に在来線で駅三つほど離れた郊外。そこに立つ大きな青銅の門と、花畑の中心に設けられた大きな噴水。その奥に構える西洋の館――まさに西洋貴族の別荘としか思えない豪邸に、前世から続く一般小市民としての価値観が悲鳴をあげ始める。

 そんな俺の気苦労を知ってか知らずか、火伊那は自慢げに胸を張りながら値段を口にする。

 

 

「別に大したものじゃないさ。諸々の改修費や、新たに導入するセキュリティ費用込みでざっと30億だ」

「さんじゅっ!?」

 

 

 値段を聞かされ、その規格外さに顎が外れたんじゃないかと錯覚するほど驚く。

 

 

「そんなに驚くことか? No.2ヒーローのエンデヴァーの住まいは広さも価格もここの三倍はあるんだぞ」

 

 

 火伊那のさり気ない追撃に、俺の脳は限界を迎えてショートし、意識がシャットダウンする。

 目の前が真っ暗になっていく間、俺を心配する火伊那の声が聞こえたような気がしたが、今の俺に返事をする余力は残っていなかった。

 

 

 

 

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 『30億円の豪邸』という特大の爆弾の衝撃から立ち直った俺は、自室のパソコンで調べ物をしていた。

 No.2ヒーローのエンデヴァーが推定90億円超えの豪邸に住んでいるなら、平和の象徴であるオールマイトはどんな家に住んでいるのか気になったのだ。

 

 

(情報なし……か。やっぱり平和の象徴レベルになると、その命を狙う敵(ヴィラン)も多くなるからプライベートは秘匿されるのか?)

 

 

 前世で愛した特撮ヒーローたちが正体を隠す理由の一つに、身内が敵に狙われるリスクがあるから――というのがあったような気がする。

 結局一番信憑性の高い情報は、六本木にあるヒーロー事務所が自宅を兼ねているという、ファンの間で共有されている憶測だった。

 

 

(六本木ヒルズみたいな建物丸々一棟が自宅とか……スケールがデカすぎでしょ平和の象徴)

 

 

 いったいどこにそんなお金があるのか――敵(ヴィラン)退治の報酬で維持費や税金、生活費を賄えるのかと首を傾げていると、サイトの端に表示された広告が目に入る。

 それは、海外の有名なバイクメーカーが先月から販売しているフラッグシップモデルのPVだった。

 荒野に敷かれた道路を、エンジンの唸り声を響かせながら駆け抜ける大型バイク。それに跨り、意のままに操っているのは、イメージキャラクターとしてライダースーツを身に纏った火伊那だ。

 

 

(そっか。人気のあるヒーローならCM出演やテレビ出演、それにグッズの売り上げとかでも稼げるんだったな)

 

 

 プロヒーローは公務員という立ち位置だが、副業が認められている。

 

 それを思い出した瞬間、俺の脳内でデビュー後の副業計画が練り上げられていく。

 

 

(火伊那やオールマイトたちみたいにぬいぐるみはもちろんだけど、俺の場合はVバックルやカードデッキに、ドラグバイザーを前世のDX玩具みたいなポジションで売れる)

(ミラーモンスターたちも活躍次第で人気になればソフビにできるだろうし、女児向けにデフォルメするのも良し。プレミアムバンダイみたいにお金を持ってる大人向けモデルも展開できれば……かなり稼げるんじゃないか!)

 

 

 今はまだ取らぬ狸の皮算用でしかないが、デビューして人気を得られれば夢物語ではなくなる。

 湧いてくるやる気に身震いしていると、キーボードの手前に置いていたスマホからピロンと通知音が三度続いて鳴った。

 画面を開くと、去年の四月にアドレス交換した友人三人からのメッセージが表示される。

 

 

【三奈ちゃん】:ヒロ君元気? 

【三奈ちゃん】:私雄英受かったんだ! ヒロ君は推薦どうだった?

 

【梅雨ちゃん】:緋色ちゃん、元気にしていたかしら?

【梅雨ちゃん】:私、今雄英から合格通知が届いたの。緋色ちゃんが落ちるとは思ってないけど、推薦どうだったか聞きたいわ

 

【お茶子ちゃん】:緋色君!

【お茶子ちゃん】:私、雄英合格したんだ! 緋色君も合格してるよね?

 

 

「あいつらも合格できたのか」

 

 

 引っ越しの際にモンスターを預けるほど仲が良かった友人たち皆が無事に雄英に合格できたことに安心した俺は、『俺も無事に受かったぜ! 一緒のクラスになれたらいいな』と個別に返信する。

 時計を見て夜が少し深くなっているのに気づいた俺は、パソコンとスマホの電源を切り、ベッドに横になる。

 瞼の裏に、雄英で再会できるであろう友人たちの姿を思い浮かべながら眠りに落ちる俺は、この時送ったメッセージのせいでとんでもない高校生活を送ることになるとは微塵も思っていなかった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 同時刻千葉県某所。

 極彩色のカーテンやカーペットでコーディネートされた部屋のベッドで、髪も肌もピンク色の少女がスマホの画面を一心不乱に見つめていた。

 メッセージアプリのトークルームで、既読のついたメッセージの返信を食い入るように待つこと三分。待ち焦がれた相手からの返信が表示される。

 

 

【ヒロ君】:俺も無事に受かったぜ!

【ヒロ君】:一緒のクラスになれたらいいな!

 

 

「ふふ…ふふふふふ……そっかあ、ヒロ君も受かったんだぁ♡」

 

 

 うつ伏せから仰向けに体を変えた少女――芦戸三奈は、何年も離れていた愛しい人を抱きしめるようにスマホをぎゅっと胸に押し付け、くすくすと笑い出した。

 

 

(ねえヒロ君……私、あれからすっごくいっぱい頑張ったんだよ。私をからかってくる子たちにも立ち向かったし、ヒロ君以外のどーでもいい連中と友達のふりだってたくさんした)

(全部、ヒロ君のおかげなんだよ? ヒロ君が私のこと大好きだって言ってくれたから……また絶対に会えるって信じさせてくれたからなんだよ)

 

 

 芦戸三奈の脳裏に、緋色との思い出が次々と浮かび上がる。

 

 幼稚園入園から間もない頃、全身ピンク色なのをからかわれて泣いていた自分の前に颯爽と現れ、助けてくれたヒロ君。

 誰よりも大切な存在になって、毎日いっぱい遊んだ宝物のような日々。

 親の都合で引っ越すと聞いて、離れたくない悲しさのあまりひどいことを言ってしまった小学二年の夏。

 それでも優しく笑って許してくれて、再会のためのおまじないだと渡してくれたモンスター。

 

 

「離れちゃったぶん、これからはずーっと一緒にいようね。『一緒のクラスになれたらいいな』って……ヒロ君がそう言ってくれたんだから、もう誰にも遠慮しなくていいってことなんだよね……そうだよね、ベノスネーカー?」

 

 

 芦戸三奈の部屋にある姿見――その鏡面からぬっと現れた紫色のコブラ型モンスター、ベノスネーカーが、彼女の深く歪んだ愛と狂気を肯定するように、静かに首をもたげた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 同時刻愛知県某所。

 やや湿度が高く保たれた部屋の勉強机で、学校の宿題を片付けていたカエルっぽい少女のスマホからピロンッと通知音が鳴った。

 ペンを置き、スマホを手に取った少女――蛙吹梅雨が画面を開く。

 

 

【緋色ちゃん】:俺も無事に受かったぜ!

【緋色ちゃん】:一緒のクラスになれたらいいな!

 

 

「ケロケロ……良かったわ緋色ちゃん。またあなたに会えるのね」

 

 

 普段はポーカーフェイスな彼女の唇が柔らかく緩み、愛おしさに満ちた微笑みが浮かぶ。

 

 

(私、あなたにたくさんのものをもらったわ……一生かけても返しきれないほどに)

 

 

 小学二年の夏、河原で探し物をしていた私の手伝いを、初対面にもかかわらず嫌な顔一つせず引き受けてくれた緋色ちゃん。

 表情の変化が乏しく、なかなか友達を作れずにいた私とクラスメイトたちの間に、当たり前のように立ってくれた緋色ちゃん。

 小学三年の夏、療養のために学校に来られなくなった緋色ちゃんが、再会と友達の証として預けてくれたモンスター。

 

 

「『一緒のクラスになれたらいいな』なんて……そんなの、絶対に一緒のクラスになるに決まっているじゃない。私からあなたに渡せるものなんて、もう私自身くらいしかないの……でも緋色ちゃんなら、きっと喜んで受け取ってくれるわよね。だって昔、私のこと大好きだって言ってくれたもの……バイオグリーザも、そう思うわよね?」

 

 机に置かれていた手鏡――その透明なガラスの奥から、空間に溶け込んでいた二足歩行のカメレオン型モンスター、バイオグリーザが静かに姿を現し、彼女の問いかけに深々と頷いた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 同時刻、三重県某所。

 敷布団に横になっていた茶髪のショートボブの少女のスマホから、ピロンッと通知音が鳴った。

 瞼をこすりながらスマホに手を伸ばした少女――麗日お茶子の眠気は、画面を開くと同時にきれいさっぱり吹き飛んだ。

 

 

【緋色君】:俺も無事に受かったぜ!

【緋色君】:一緒のクラスになれたらいいな!

 

 

「ホントに!? また緋色君と一緒にいられるん!?」

 

 

 空腹で腹の虫が鳴くのを抑えるために心がけている早寝も、この時ばかりは完全に忘れてスマホの画面に釘付けになる。

 

 

「そっかあ……また会えるんやね。ふふっ……ふふふ……っ」

 

 

 勉強机の上に置かれていた『マル秘』と表紙に書かれた分厚いノートを大事そうに抱え込み、緋色との愛おしい過去に思いを馳せる。

 

 小四の春、通学路でぶつかったことがきっかけで始まった大切な出会い。

 ミラーモンスターの力を貸してくれて、実家の建築業の仕事を助けてくれた緋色君。

 お金のためにヒーローになろうとしている私を、『家族思いで優しい』と褒めてくれた緋色君。

 私と緋色君の仲を引き裂こうとした意地悪な子たちに毅然と立ち向かい、私を優しく守ってくれた緋色君。

 『離れていてもこの子が守ってくれるよ』と言って、大切なモンスターを託してくれた緋色君。

 

 

「『一緒のクラスになれたらいいな』なんて……当たり前やんか。離れ離れにされた四年分、これからはずーっと一緒におらんとね。……ねえ、メタルゲラスも緋色君に会えるのが楽しみだよね? これでノートに書いてた子どもの名前とか、ペットの犬の名前、新居の間取りも一緒に決められるし……それに、将来のお嫁さんを四年もほったらかしにするなんて、緋色君は意地悪でひどい旦那さんやで。……だから、ちょっとくらい仕返しのおねだりをしても許されるよね?」

 

 

 大切に持ち歩いているひび割れた手鏡――その奥から、重厚な足音とともに二足歩行のサイ型モンスター、メタルゲラスがぬっと顔を出し、彼女の重すぎる愛を肯定するように重々しく頷いた。




裏話
お茶子ちゃんがスマホを持っていますが、これは第1話で緋色からの手紙が届いた後Hineアプリを入れるため滅茶苦茶おねだりしてゲットした物です。
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