「はじめの一歩」に女の私が転生する需要はあるの?一応、需要はあるらしい 作:SUN'S
出会ったのは、5年か4年前だ。
ダイエット目的の同世代の女の子。鷹村さんに右ストレートを教えられて、手首を痛めていたり、まともに縄跳びもミット打ちも出来ていなかったりもした。
けど、違和感に気付いた。
鷹村さんも人間だ。
何発かたまに試合で受けると痣が残ることもあったのに、アイツが手で触ったり「おまじないです」と言ったりして、肩揉みしてから鷹村さんも青木さんも木村さんも目立った怪我を残さなくなった。
その事を聞けば最初は誤魔化していたが、アイツは人の怪我を治したり、スピードやスタミナをアップさせる超能力を使えることを教えられた。
その秘密を知っているのは、俺だけ。
ちょっとした優越感もあったさ。その1年後、幕之内がジムに入ってきて、アイツと同じ学校で、アイツの友達も鴨川ジムに入ってきた。
盗られた気持ちにもなった。
鷹村さんに指摘されてムカついた。が、アイツに新人王で迎えに行くと伝えた癖に負け、幕之内もそうだ。おめおめと間柴なんぞに渚を盗られやがった。
「シッ!」
ワンツーが、風を切る。
病院の屋上で軽く身体を動かす。暫くは入院だと聞いていたが、父さんが「大事を取って損はない」と2週間の療養を俺に言い渡した。
とっくに痛みは渚のおかげで引いている。
「宮田君、怪我に響くよ?」
「父さんが大袈裟なんだよ。お前のおかげで、とっくに完治しているのに心配しすぎなんだ」
「父親だからじゃない?鷹村さんも悠くんの成長にいっつも一喜一憂しているし」
「あの人が父親になったのが未だに信じられねえよ。いや、東谷と付き合っているのは知っていたが」
そのおかげで、何度も「早く告白しねえと一歩に盗られるぞ?」と煽られまくり、気付けばハナは幕之内とも付き合わず、間柴と付き合っている。
よりによって、俺の負けた相手だ。
約束も女も奪われた気分だ。
「そういえばお前も日本フライ級だったな」
「うん。適正はバンタム級だけど、元々の目的はダイエットだからね。理想の体重を維持するのも、戦いたい相手もフライ級なんだよね」
ベッドシーツを物干し竿に干しながら、そう話す渚が背伸びするたび、見えそうになっていることに気付き、顔を逸らして目を閉じる。
間柴は態度は悪いが、渚を大事にする。
渚も間柴の妹と仲良くしている。リングで出会えないのは縁がなかったからと聞いたことがあるが、少なくとも父さんは過去の試合の秘密に気付いた。
ラッキーパンチではなく、決死のカウンター。
父さんはそれに敗れた。
ただの運任せではなく、相手が奇跡を掴んだ。
しかし、目の前の奇跡に俺の手はもう届かない。
「(後悔先に立たず……だな)」
けど、渚が幸せならそれで構わない。
俺は父さんと幕之内との約束を果たす。
あとは、それだけだ。