「はじめの一歩」に女の私が転生する需要はあるの?一応、需要はあるらしい 作:SUN'S
「おはよう、幕之内君」
コトコトと動く鍋の蓋を開け、味噌を溶かして、しっかりとカロリーを抑えているのに腹持ちの良さそうな朝御飯の並ぶ食卓にぎこちなく座る。
花咲さん、高校の頃に出会った初めて出来た対等な異性の友達であり、三年間を通して少しずつ彼女への恋心を理解したけど。
宮田君も同じように花咲さんに好意を向け、新人王の決勝戦で勝った方が告白するという約束を交わしていた。けど、間柴さんとの試合で宮田君は負け、僕がフェザー級新人王になった。
告白するタイミングはあった。
だけど。宮田君への後ろめたさと間柴さんの妹さんにもちょっと可愛い女の子だと思ってしまった不誠実さに対し、僕は「保留」を選んでしまった。
呆れて怒るところを花咲さんは「誰かを先に好きになるかもしれない」と言ってくれた。
「一歩、花咲の朝飯が冷めるぞ?」
「え、あっ、いただきます!」
「はい。どうぞ」
手を合わせて、ご飯を食べる。
母さんが倒れたって聞いたとき、怖くて怖くて仕方なかった。僕のせいだと、今度は僕が支えるんだとジムの合宿を諦めて、釣り船を優先しようとした。
そんなときにいきなりやって来た花咲さんは「今日から私も此処に住むからね!」と、とんでもないことを言い出してきた。
船舶免許。
花咲さんは母さんに聞いて、勉強して、すでに取っていた免許を印籠みたいに掲げた。
「友達を見捨てるなんてそんなことするわけないでしょう。それから幕之内君は合宿に行ってきなさい」
断っても花咲さんは思ったよりも頑固で、釣り船を続けていた二日目からは梅沢君も加わり、母さんはいないのに、梅沢君と花咲さんが家にいるようになった。
エサを解凍し、朝イチの団体客を船に乗せて、沖に出発する花咲さんの運転は安定している。それに彼女が船に乗っているときは、魚群に遭遇しやすい。
「一歩君の奥さんはすごいね」
「奥さんじゃないですよ!?」
「ああ、まだ恋人だった?」
教授の言葉に花咲さんは困ったように笑っていたとき、ゴトンと船体が揺れた。こんなところで座礁しないし、ゴミか漂流中かと海面を覗く。
「サメだぁ!!」
梅沢君の叫びに慌ただしくなる船内で花咲さんはエンジンを切り、ものすごく怒ったようにゴム手袋を嵌めた右拳を握り込んだ。
───その時、2メートル、いや、2メートル30センチを超えているサメが海面を突き抜けて船体に向かってきたところに花咲さんが右拳を内側にねじり、溜める。
「TPOを弁えろぉ!!」
ドバァンッ!
サメの白いボディーに花咲さんの右拳がめり込み、サメの身体がくの字に曲がり、水しぶきを上げ、ビクビクと痙攣して動かなくなった。
「コークスクリュー・ブロー!?」
「教授先生、こういうサメって何処に行けば買い取ってくれますか?フカヒレ、食べたいです!」
花咲さんの食い気に、サメが負けた。
尾の方に縄を巻き付け、連れていく。心臓だけを狙って打つという、伊達さんのハートブレイクショットを花咲さんは見ただけで使った。
いや、僕とのスパーリングのためだ。
負けられない理由が、出来た気がする。
「花咲って、そういや何でも出来てたよな」
「うん、苦手科目とか聞いたことない」
「サメの急所、一目で見抜いたのか」
梅沢君の呟きに僕は頷くしかなかった。
芦田選手が、花咲さんを勧誘するわけだ。
彼女は、鷹村さんみたいだ。
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