革命者イブリス 作:とある後
これが若かりし頃の私の自慢である。
人数数えてみるか。イグナーツ君でしょ?ラファエル君でしょ。リシテアちゃんにマリアンヌさんにレオニーちゃん。ヒューベルト君に、フェルディナント君、カスパル君にペトラちゃん、ドロテアちゃん。王国はいつメン。イングリット、フェリクス、シルヴァンの三人。
いつメンをノーカウントとしても10人か。もちろん中心メンバーだけでそれなので、他にもマヌエラ先生や、あまりクラスで目立たない生徒も入れるとそれ以上だ。勝ったな!
いや、何と比べてかは知らんけど。
友達が多くて実に良い。…王国の友人が一番少ないのではって?うるせぇ!授業出てないんだから仕方ないだろ!
それはそれとして、皆私の領地風のもてなしに喜んでくれているようで何よりである。
特に、大浴場。
もちろん男性用と女性用に分けている。元日本人としてはこれは譲れない。フォドラの水が硬水でなくて良かった。
士官学校にはサウナしかないのか…。私は耐えられるのだろうか?
『でもお高いんでしょ?』と言われたけど、温泉療法というのがあるからね。知らんけど。
うちの領地では従業員の福利厚生を大事にしています!
ん?風呂に入るだけで長生きできるって本当かって?
まあある程度は効果はあると思うよ。データは無いけど。
リシテアちゃん興味あるの?それならプライデリ家に士官しないかい?毎日お風呂入り放題やで?
あ、でも君の実家は同盟の貴族だっけ?
え?貴族を辞めたら親と一緒に移り住むから良い?…良いのかな?って言うか辞められるの?
良いなぁ。私も貴族辞めたい……。でも、貴族でいないとできないこともある訳で、そこが難しいところやねんな。まあ一応、盟主殿には許可を取ってね。クロード君だっけ?まあ彼なら悪いようにはしないでしょ。あいつなら何とかする。きっと。うちのトップと比べて有能感が漂うよな。
エーデルちゃんも有能そう。うちのは……ノーコメントで。
おう。フェリクス。殿下ってさ。以前のように治癒したらぶん殴ってくる暴れっぷりはないけど、逆にあまりにも丁寧過ぎて怖い。普段からああだったの?
フェリクス?知らんって…。いや、一応幼馴染でしょうに。シルヴァンは?忘れた?
君たちちょっとドライ過ぎませんかね……。イングリットは?
そもそもダスカ―の事があってから、殿下に会ったのが士官学校に入ってから?
そっかぁ。なら無理やな!私とフェリクスくらいか?それで言うと。
むしろお前の方が詳しいんだから教えろって?
うーん。精神的にかなりのダメージを受けたはずなんよな?こういうのは時間が解決するっていうのが定番やと思うけど、表面に出てきてないのは何か怖いよな。思い出さないように記憶に蓋をしているなら、思い出した瞬間が怖いし、逆にしっかりと覚えていてその上で好青年を演じているなら、それはそれで怖い。
うん。どっちにしろヤバいと思うよ。あの人。
何他人事みたいに言ってんだって?いや、うちと王家上手くやれてないからさ…。殿下に近づいたらヤバいかもしれん。
何でかって?考えても見てくれよ。摂政には子供が居なくて、ブレーダット家の血は実質的に、殿下と摂政の二人に絞られた形になっている。
そして現在の摂政の使いをけんもほろろに追い返したのがうちね。この状況で殿下に近づいてみ?私が摂政なら殿下を廃嫡しつつ、うちを潰すように仕向ける策を考えるね。
そんなことができるのかって?できるさ。
『臣下の身でありながら王家の嫡子を誑し込もうとする行為は醜悪である』とでも言えば良い。そうすれば殿下は士官学校にはいられなくなる。以前の王宮からの要求を突っぱねたのだって、他の貴族を味方につけられるだけの大義名分があったからだ。でも、今の状況は逆にまずい。
私が摂政なら、殿下をあえて泳がせて『プライデリは王家の血を手に入れ、フラルダリウス家、ゴーティエ家と謀って、王国の政を壟断しようと企んでいる』とでも密命を貴族たちに送るね。
フラルダリウス家やゴーティエ家がそんな戯言に付き合うはずがない?
甘いね。私ならその二家に対してわざと片方の家を外した文章を送るよ。
フラルダリウスには『ゴーティエ家とプライデリ家が悪しき謀を練っている。王国の忠臣であるフラルダリウスゆえに忠告をするが、決してその企みには乗るな』とでも手紙を送れば良い。
ゴーティエには『フラルダリウスとプライデリが組んだ』と逆の内容を流す。それだけでこの二家は互いを牽制して動けなくなるだろうから、王家は安心してプライデリを討ちに行けるという寸法さ。私ならそうする。
性格が悪すぎるって?政治なんてそんなもんだよ。
…だからアウレリアやアンジェリカを殿下に会わせるわけにはいかないんだよ。
何でかって?西方貴族の征伐で顔を合わせたって?でも直接お声は頂いていないでしょ?私が出さなかったんだよ。
あれはお前が自分の功績を取られたくないからだって口さがない奴が言っていた?
良いね。シルヴァン。是非ともそう言う噂をどんどん流してほしいものだ。
なんでかって?
殿下と自分の血のつながった妹を会わせるという事がどういうことか。さっきの話と総合して考えてみ?どういう意図があろうがそんなことは関係ない。
『プライデリは年頃の娘を殿下に近づけている。つまりプライデリは王家を乗っ取ろうとしているのだ』
これで全て説明は付くでしょ。しかもだ。うちの義兄たちがさ、色々な王国貴族のお嬢さんと結婚してんのよ。これはヤバいっすね!貴族家の多く。特に西部の貴族は、何らかの形でプライデリとそれなりに強いつながりがある。これを中央がどう見るかな?
でも他の貴族が束になって戦ってもプライデリには勝つのは容易ではない?
まあそれだけの人材を集めて育ててきたのは事実だよ。私の想定以上にうちの兵は強い。
だけどプライデリが強い兵を多く養えるのは、広い交易網があるからで、そのうちの半分以上が王国を通る陸路からの利益だ。
極端な話をすると、王家は戦わなくていい。貴族同士を牽制させて、プライデリに対する包囲網を敷くだけで良い。後は荷留めをするとか、危険物が無いかの調査だとか、いろいろと名目を付けて細かい嫌がらせをすれば、それだけでうちの経済網は崩壊する。明確に敵とは言っていないが、嫌がらせはする。そうすることで他の貴族たちへの見せしめになるし、同時に王家の影響力も高められる。さらにプライデリの経済基盤を弱めることができる上に、反乱を誘発できれば私たちを滅ぼす大義名分ができる。その前にうちで育てた人材を、他貴族家と協力してごっそりと引き抜いてから戦いを挑めば良い。そうすれば少なくとも負けはしないよね。
ただ、そんなことをすれば王国全土に交易網が接続できないという悪影響が出るから、自分たちも火だるまになるだろうさ。まさに諸刃の剣だね。
私はそんな我慢比べしたくないよ?我慢弱いんだもん。
じゃあどうするんだって?フェリクス君よ。私が何のためにこんな空を飛べる船を出してきて、これだけ人目に触れさせたと思う?
さっきの問題は陸路での物資の運搬に支障が出るという話だったが、空を経由すれば関係ないだろ?
でも分量が減るのは確実?良いところに目を付けるね。その通り。輸送量は確実に減る。だけどそんなことは実際に乗って、その性質に気付けるくらい賢い者でないと分からない。でもね。それだけじゃないよ。
今回なんで私が我儘を言って音楽祭を速めてもらったか分かる?シルヴァンは?分からないか。
イングリットは?……正解。え?将来嫁になるんだからあなたの事くらいわかるわよだって?
お、おう……。
まあイングリットが言った通りだね。他の国の有力者と繋がりを持つことで、王家にくさびを打ち込むのが本当の目的。
邪険に扱えば西方に位置する貴族たちをそそのかして帝国に走るぞという脅迫だね。西側の貴族は東側ほど王家を信用しきれていない。…ヒューベルト君がついてきてくれたおかげで本当に話が早く進むよ。
それはさっき言った王家がプライデリの邪魔をする大義名分を与えることになるのではって?
まあそう言う難癖をつけることもできる。でもね。私たちは学生だよ?学生同士が国という垣根を超えて友情をはぐくみ、将来の国際秩序を担うための勉学に励んでいるだけさ。しかも教師であるマヌエラ先生まで来ている。これは士官学校が認めた正当な勉学のための行動に過ぎないんだよ。殿下に年頃の娘を会わせて繋がりを持つことに比べれば、はるかに安全。少なくとも難癖をつけられたところで、それに対する反論は出来るわけだ。
ただのバカかと思ったけどちゃんと考えていたのかだって?フェリクス君や。さすがにそれはひどすぎるんじゃない?私は自分の領地の事を常に考えて行動していますよ?
考えすぎて明らかにおかしい方向に走っている?ま、まぁ、それは否定しきれんところが辛いねんな…。
とにかく王家が貴族同士を牽制させようとしたところで、そんなことをすれば他国に走られかねないと察するはずさ。内憂外患に導くバカは居ない。仮にうちの事が気に食わなくてもだ。……居ないよね?コルネリアのバカさ加減を知っているから自信がなくなってきたな。どうしよう…。
はぁ…。妹たちの嫁ぎ先がなくなっていく件について。王国内はほぼ無理やね。うちの妹を娶ったら王家に目をつけられるし、フラルダリウスやゴーティエみたいなデカい家だと、そこと繋がって良からぬことを企んでいるとか言われそうだし…。帝国の貴族に嫁がせるのは反逆を疑われかねない。
もう疑われているって?だとしても疑いは最小限にしておくべきではある。本当に裏切るつもりはないからね。
同盟が妥当なところかな?
イングリットさん?何故ため息を?フェリクスさん?妹達はお前が責任持って一生面倒を見ろ?シルヴァンは?笑って誤魔化すな!
まあ確かに外には出せないから家中で探すしかないが、マイクラン殿は平民の女性となんか上手くいってるらしいし…。
イングリットは知らない?ああ。あれよ。男風呂で恋バナしたからな。シルヴァンと違ってもう真剣交際よ。いいよね…。若者の恋愛…。
でもそこに妹を娶せたら感じ悪いじゃん?彼からすれば、主家の娘を側室にするわけにもいかんしさ…。
ダメ元で妹のどっちかはどうか聞いてみたら『俺はただのマイクランです。ここに来た時から死ぬまでずっと』だってよ。あいつのセリフいちいちカッコいいの何なん?名言製造機よな。何なら実力も伴ってるしさ。
真面目か!まあ彼女さん一人を愛するつもりなんだろうな。イングリットさん?あなたとは大違いねって?イリーナちゃんのことはさ。まあお付き合いだからそう言う事もあるでしょ?何か隠してる?な、何の話カナー?
ま、まあ、そんなわけで久しぶりのプライデリだし、取り敢えず今日は色々見て回ると良いよ。
それでやることが模擬戦なのはびっくりするほど脳筋だけど、王国やしな。しゃーない。
あ、シルヴァンがマイクラン殿に戦いを挑みやがった。祝ってやるって?フェリクスもイングリットと一緒にアウレリアと戦う?
君達さ。本当に好きねぇ…。
お。ヒューベルト君にカスパル君。後はフェルディナント君とペトラちゃんじゃん。おはよー。
えっ?ああ。王国勢は模擬戦やね。
デカい女の子は私の妹よ?顔似てる?可愛いでしょ。二人相手に余裕?まあ、アウレリアだし。カスパル君も戦う?いや、やめておくって?そっかぁ…。親父より強いかもしれないって?親父さんは…ああ。なるほど。
身内贔屓かもしれんが、相手がベルグリーズ伯でもアウレリアが負けるとは思えんね。年を考えたら、アウレリアはまだ強くなれるし。
ペトラちゃんは?教えを乞いたい?どんどん聞いてやってよ。私には教えてくれないんだ。
いや、私と戦いたがらないのよ。あの娘。
おわったね。かなりもったんじゃない?時間がだよ。アウレリアはつよいからなー。レオニーちゃんじゃん。あんたの妹化物かって?うーん。否定できない。
でもあの娘は最前線には出せないよ。指揮も上手いけど、常に最前線だと消耗がね。消耗を減らすのが上手いのはマイクラン殿だよなぁ。だから先鋒はマイクラン殿。中盤にデオドラ。その後ろくらいにおいて一気に突破してもらうという戦術やね。さらに後方から私とコンスタンツェ、アンジェリカが魔法使いを率いて遠距離の攻撃。長距離の狙撃ができる弓部隊が欲しいところだね。
というか士官学校の生徒なだけあって、訓練に興味あるんだね。
あそこで教えるのって戦いの知識ばっかじゃね?大丈夫なん?もうちょっとこう…何と言うか…国際交流とかですね…された方が良いと思いますよ。
冗談抜きでうちでやってる学校のほうが、まだ国際関係は学べると思う。戦いのテクとかマナーとかは負けるかもしれないけど、人間それだけじゃないでしょ?というか人殺しにマナーを語られてもなぁ…。
私も実は国際関係の授業してる一人である。他の講師は紋章がないからという理由で追放された元貴族とか、貴族家の粛清で野に放たれた元貴族とか。紋章って悪さしかせんな。うちからすればラッキーだが。毎回カリキュラムは、マイクラン殿の文官バージョンの人たちとしっかりと相談して決めている。うちの領地は他家の人材で構成されています。情けないことに!
というか、王国って脳筋なせいか全体的に知的な人が冷遇される傾向にある。勿体ないね。
ーーーーー
心臓を直接握られるような感覚。
もしそんな感覚があるとするなら、あの女と目があった時に感じたものがそれだろう。
ヒューベルトに誘われて他国の領地にお邪魔することになった。そこで見るものは何もかもが初めてのものばかりだった。
「何だぁ!あのでっかい建物は!?」
「あれは区の庁舎ですね。人が増えたので出入りを記録するだけで一手間ですよ」
プライデリは意外と気さくなやつだった。リンハルトみたいになよなよしているという印象があったが、意外とそうでもないらしい。
「オデと筋肉勝負だと!?やってやろうじゃねえか!」
「…さすがにラファエル君相手は…分が悪いですね」
そうは言いながらも、夜に腕相撲で勝負をしてみると意外にも強かった。同盟のデカい男には負けていたが、弱い訳では無いらしい。
ただ、親父とは真逆な男で、ヘヴリング伯寄りの男だろうから、自分とは相性が悪いだろうなとも思った。
ヒューベルトは何故俺を誘ったんだろうか?こいつと俺に共通点はないような気がするが…。そう思って、飯を食ってから模擬戦が始まると、やたらデカい女が王国の二人を圧倒していた。
アレは何だ?親父に睨まれた時と同じかそれ以上の圧がある。背筋が震えているのに、何故かピンと張る。あいつは強い。たぶん王国の二人が戦っていなくても分かったと思う。
力も相当強いのだろうが、二人からの攻撃を同時にさばく得物の扱いの巧みさ。同時に攻撃を受けないように位置取りをする素早さと強かさ。
アレが親父と戦ったらどうなるだろう?
分からない。
親父が負けるところは想像つかないが、あの女が負けるところも想像がつかない。どちらも人の枠を外れた強さとしか言えない。
「どうですか?彼女の強さは?」
ヒューベルトが俺の耳元で囁く。そんなの分かんねえよ!
「…つまりどちらが勝つか分からないと?一番近くでベルグリーズ伯を見てきた貴方でさえも?」
「……分かんねえ…。親父が負けるとは思えねえ。だけど、あいつが負けるとも思えねえ」
「彼女はイブリス殿の妹君だとか。歳は17。私には強さは分からないので、貴方の見立てを知りたかったのです」
親父は帝国が誇る軍神だ。その親父が勝てないとなると、こちらの士気はどれだけ落ちるだろうか。
「やはりプライデリと事を構えるべきではありませんな」
ヒューベルトが言う。多分、最初からその気は無かったのだろう。ただの確認作業に見えた。
「仮に実力が拮抗していたとしても、ベルグリーズ伯は全体の指揮を取る必要がある。一方で、彼女は数いる軍団長の中の一人に過ぎない。部の悪い賭けだ。しかも相手の総指揮はイブリス殿が執る。厳しいでしょうな」
「そんなことは…」
ないとは言えない。少なくとも、親父が一時的に指揮を執れなくなるレベルの敵だ。その間に全体を冷徹な目で見ている奴がこちらの戦力を的確に削ってくるとしたら?
帝国軍からすれば悪夢だ。
「親父とヘヴリング伯が仲が良くて、その上でヘヴリング伯が上手く指揮が出来て、親父がその言う事を聞くような軍と考えれば良いか?」
「そうですな。考えるだけで恐ろしい軍団です」
なるほど。イブリス=プライデリは仲間とするか…確かにその方が良さそうだ。
戦っても得がないし、奴自身は結構気のいい奴だと思う。何よりここは飯が上手い。色々な国から人や物が集まるせいだろうか?料理が洗練されている。そこがなくなるのは単純につまらない。
次はペトラが彼女に挑むらしい。単騎では難しいだろう。案の定ころりとやられてしまったようだ。
「ダメ…でした。岩、叩いた感じします。とても硬いです」
「ただの木の棒のはずなんだけどな…」
親父の事となると目の色が変わるこいつの事だ。恨みがあるというのは分かっている。自分がそれを止めなければならないというのも。だけど、同じ学級の仲間だという意識もある。なかなか難しいところだ。
オリキャラまみれですまんな。でもこいつ一人だと、多分フォドラ世界では、表舞台に出てこずに終わると思うんよ。
じゃけん柵を作りましょうね〜
それはそれとして、この主人公、マリアンヌとの相性が最高に良い。イングリットと比べものにならないくらい。イブリス=悪魔。悪魔のタロットカードといえば獣の紋章。ついでに転生者なので紋章なんてお守り程度にしか思っていない。まあ紋章に対して否定的なら大体どうにかなる世界観だからね。仕方ないね