革命者イブリス 作:とある後
音楽祭は大盛況でしたね…。
歌姫アウレリアは我が領地では大人気だ。
まあ仕方ない。ここはうちの領地だからね。プライデリの名前があれば基本は人気者だ。そんな中アウェーでありながらもマヌエラ先生とドロテアちゃんのリアル歌姫コンビの共演は、我が領地の住民たちにも大きな影響を与えたようである。
ボーカルはアウレリア、ギターが私、ドラムがアンジェリカのバンドは、我がことながら、場末の酒場での演奏くらいなら金を取れるかもしれないレベルであると自負している。
歌詞は領地周辺の農民が、農作業中に歌っている者を引っ張ってアレンジしたものである。
ガチガチの現代日本のバンドに対して、クラシック路線で攻めてきたガチの歌姫コンビは、リアルで金を貰っていただけあって格が違う。
曲が終わった後は盛大な歓声に包まれていた。
特に酒を飲みながら見ていた既婚者のおじさんたちは、麗しい指定コンビに鼻の下を伸ばし、嫁にもれなくビンタされるというおまけつきだ。
良いよね。綺麗な女性…。
でも私たちも負けていられない。
歌姫の歌を聞くのは良い。だけど聴衆もまた参加者である。ステージに立つ者も立たない者も等しく歌う権利があるのがうちの音楽祭の特徴である。
盛り上がってるかーい!いえーい!のノリをかまして観客を盛り上げる。
歌の一番盛り上がるところでマイクを観客席にアウレリアが向けると、一斉に観客たちがその部分の歌詞を歌ってくれる。
プロがなんぼのもんじゃい!声量が足りなくてもこっちにはマイクがあるんじゃい!
いや、まあ勝負をしているとかそんなのではないから関係ないんですけどね。
イリーナちゃんの実家をはじめとした大商家の皆様がお金を払ってくれるおかげです。
まあ最大の出資はうちなんだけれども。
だからイリーナちゃんもステージに上がって歌う。良いよね。平和で。
後で歌に合わせながら相棒のエレキギターを奏でるとその音を聞いた彼女が少し頬を染めて天使の歌声を披露する。
アウレリアがかっこいい系のボーカルなら彼女は可愛い系のアイドルだ。選曲もそれに見合ったものである。マヌエラ先生とドロテアちゃんの色気の良さは分かる。だけど小さくてかわいい娘が可愛らしく歌うのも良いじゃないか!
気分はまさにアイドルマスター。私の手でアイドルを育てるのだ…。
まあその辺の肉屋のおっちゃんが歌う時もエレキギターで音を出すんですけどね。
禿の癖に歌うめえな!お前!採用!うちの芸術大学の音楽学科に採用な!仕事がある?時間がある時だけ学べばええで!どうや?その声でフォドラの音楽史に名を刻んでみんか?
とまぁ。このように立身出世の道があるので、おっちゃんたちも割と必死に参加している。
マイクランと彼女さんみたいなエンジョイ勢も参加している。
『主より目立って良いのですか?』とか言ってたから『今この場での主役は君なんだから存分に楽しむと良い』と答えておいた。
内容は……ああ。任務中に亡くなった兵士の鎮魂か…。まじめで草。草じゃないが。
聴衆もみんなウルッときている。この辺が人徳よな。ここにいる数千人規模の観客はこいつがプライデリを守っているということを分かっている。だからこそそんな男が失った者たちを忘れないように歌うから観客達はみんな黙って歌を聴くのだ。
亡くなった兵士を悼むことと、生きている人々が笑い合うことは矛盾しない。むしろその両方が成立しているからこそ、祭は祭足り得るのだ。
とは言え終われば、彼女さんとのデュエットを揶揄われたりもする。
つかお前も歌うまいな!考えてみれば元貴族様だったわ。そら一通りの教養は修めとるわな…。さすがやで…。
ちなみに歌を聞いていた父上殿が号泣していた。
領主がそういう弱さを見せるのはどうかと…。まあ情に厚いという触れ込みだからセーフか?
まああの人も戦場に居ることが多かったもんな…。区切りをつけるということはなかなか難しくても、どこかで受け入れるしかないものもあると思う。あいつは帰ってこない。だからせめて忘れずに思い出す。だけどしんみりとはしない。死者はそれを望んでいないと思う。多分。
他にも故郷を追われたダスカー人が故郷を思う歌もあった。こういうのって心に来るよね…。終わればみんな拍手喝采だ。あいつも音楽大にスカウトやな。人の心を動かせるのは得難い才能である。
そこからは色々な者たちが出てくる。船乗りは船乗りの、元貴族は元貴族の、ダスカー人はダスカー人の、山賊は山賊の…ってデオドラも居るんかい!だからそんな感じで、皆が思い思いに、自由に音楽を楽しめば良い。
どんなに辛い境遇に居ても、仲間が居なくなっても、再起できる。そういう場にしたい。だからアウレリアやイリーナちゃんみたいな可愛い系が出てきて、みんなを癒す必要があるのだ。マヌエラ先生もドロテアちゃんもこちらの枠…にしてはガチ勢だけど。というかマヌエラ先生はうちの父上殿に見惚れていませんかね?いや、あの人イケメンならぬイケオジだけども。
ままええわ。義理のママが増えたところで今更やしな。
お。同盟の皆さんやないの。どしたん?話聞こか?レオニーちゃんはギター興味あるの?ほなこれやるで!でもアンプとか使い方教えんといかんな…。マリアンヌちゃんは何か欲しいものある?ああこれ?マイク?歌をやるん?ええで。ラファエル君はドラムをたたいてみたい?ええやん!ちょっとでかいけどあげるわ。イグナーツ君とリシテアちゃんは?何かあるなら欲しい?手軽なやつならサックスとかヴァイオリンとか、フルートとかあるで。でも同盟にもあるでしょ?うーん。エレキギターみたいなのならベースがあるわ。後はキーボードかな。まあやるで。同盟にも現代日本のバンドが生まれるんやなって…。感慨深いわ。
こんなことをして損にならないのかって?
ふふふ。協賛してくれた商人の皆様からの金。そして、ここで観客が飲み食いした分の金。これからこの音楽祭が地方に広がった時の経済効果。将来的な面も含めれば間違いなくプラスだね。
将来的な面を含めなければ?……勘の良いガキは嫌いだよ。取り敢えず、残務処理が終わったら士官学校に戻ろうかね。
…士官学校に帰ったら、うちの殿下が盗賊に襲われたとの専らの噂だった…。え?これ大丈夫?罰されたりしないよね?
―――――
「プライデリの豊かさは想像を絶するな」
「本当だ。来るたびに街並みが大きく変わっている」
幼馴染の一人、シルヴァンと俺は同じ結論に達していたらしい。
『広い道は防衛に不向きではないか?』
俺はイブリスにそう尋ねた。
『そもそも防衛など考えていない。危険な獣や盗賊から周辺住民を守るための城壁であり、平時においては広くまっすぐな街道こそが使いやすい。プライデリは物流で勝つのであって、戦で勝つ必要はない』
奴の返してきた答えはこうだ。
なるほど理に適っている。以前の俺なら奴のこの考え方を弱者の考えだと嗤っていただろうか?しかし、その弱者が今では王国の中でも有数の強さを誇る貴族となっている。
「音楽祭と聞いていたが……数千は来ていたって聞いたぜ?やることが剛毅だよな」
「ああ。兵として無理矢理集めずとも、民の方から勝手にプライデリが何かをすれば集まってくる。ただの徳ではない。領民を理で縛っている」
「はぁ。フェリクスもすっかりイブリス側になっちまったか…」
「もとはなんだもとは。イングリットと一緒にするな」
「あいつは夫婦になるんだから良いとしても、お前まであいつに寄るとは思ってもいなかったさ」
「それを言うならお前の兄貴の方だろう?」
「ああ。兄貴なぁ…。まああれはあれでよかったんじゃないか?綺麗な奥さんまで見つけちまってよ。金髪好きは主譲りかねぇ…」
シルヴァンの兄は一時期かなり荒れていたと聞く。しかし、今ではそんな様子の方が想像がつかない。どこからどう見ても立派な兵士だ。
「…なぁフェリクスよ」
「何だ?」
「失礼かもしれんが、殿下はプライデリの領地に平民として生まれた方が幸せだったんじゃないか?」
それは何度か思った事がある。
あいつもあいつで苦しんでいるというのは分かるし、イブリスの奴が心に傷を負ったというのも分かる。
実際俺も初めて人に手をかけた時、同じように感じた。
人の体に刃が入る瞬間。相手の表情。その手応え。どれもが俺の心に大きな爪跡を残している。
だからこそ俺はあいつを信じられずにいた。何故そんなに楽しそうに人を殺す?理解ができない。
イブリスは露骨に人を殺すのを嫌がる。俺としてはそちらの方がまだ納得できる反応だ。
もちろん、奴のその甘さは、いずれ命取りになりかねないとも思ってもいる。どこかで矯正しなければとも思う。
『殿下を一人にするべきではない』
イブリスの言葉を思い出す。
それは分かる。分かるが、奴は変わりすぎた。俺にはもはやどう接すれば良いのか分からん。
言いたいことは分かる。だが、それを実行できるとはどうしても思えなかった。
「…王家に生まれたのならそれもまた義務の一つだったと思うぞ。イブリスだって元はただの農民だったのに貴族としての仕事をさせられている。それを見ていると甘えにしか見えんな」
「…手厳しいことで…」
「お前に言われたくない」
もし、ダスカーの悲劇の黒幕が分かったとしたら、かつての幼馴染はどうするだろうか?
これについては自分の領地にいた時に、親父と話した事がある。
父は断定しなかったし、寧ろぼかして話しているようにも見えた。さすが貴族だと言ったところか。
『…怪しいのは誰か…それは流石に言えない』
イブリスですらそう答える。しかし、言えないというのが答えになっているようなものだ。
さらに奴と話したことを思い出してみる。
『お前ならあの件を明らかにするとしたらどうする?』
『…明らかにまでは出来ないけど、私が殿下なら忠義を掲げて、自分の言う事に何でも賛同する貴族こそを怪しむね』
『それは何故だ?』
『余りにも上手く行きすぎているからさ。…まあこれじゃ納得しないだろうね。中央集権を目指していたのが先代の王。そしてそれを疎ましく思ったのが西方を中心とした地方貴族達だ。だから彼らは排除された。このプライデリを除いてね』
『それは知っている』
『つまりあの西方貴族の反乱は、口封じととらえることもできるわけだね』
『…仲間割れか』
『そうそう。ただ、この手の人事を差配した側だって、そんな利害関係から推測されることは百も承知なわけだ』
『…つまり、お前がプライデリ家の取り分を減らして、よくわからん芸術作品を持っていったのは!?』
『ふふふ。さて。どうかな?私としては芸術を広めたいという考えがあったし、実際にうちがもたもたしていたせいで功を得られなかったというのも事実さ。…領地をもらってもたぶん統治できなかっただろうしね』
そして今、奴は芸術にこだわってこんな祭を開いた。
…ただの言い訳作りにしては出来すぎているように見える。これが奴の言う『上手く行きすぎているから』というものだろうか?
相変わらず食えないやつだ。
…あの猪がここまで考えて動く人間なら、どうなっていただろうか?考えるのは辞めにしよう。
これ以上考えるのは色々と良くない結果を生みそうだ。
幸いなことに今は平穏を保っている。それで良いということにしておくことにした。
実はミスって最初はチラ裏ではなく、普通に投稿していたという事実。非公開でこっそり加筆してたところだったのに…。
あまりストーリーも慣れていない上に、オリキャラまみれなのはいかがなものかと思ってチラ裏に移動。決して私がヘタレな訳では無い