革命者イブリス 作:とある後
殿下が野営中に襲われて、そこで助けに来た人が先生になったらしい。
なるほどね。これが先生やな!しかも上手く担任が決まるとかいうピンポイントすぎるタイミング。なるほどなるほどここで加入するから見つけられなかったのね。
名前はベレト先生ね。ちーっす。王国で農民やってたイブリスっす。イブリスっすって言いづらくない?
新しい先生なんですね?いろいろ学びたいっす!頑張るっす!みたいなこと言って媚を売っておいた。
ベレト先生が混迷するフォドラの道標やから!
先生で言うとマヌエラ先生やハンネマン先生が主人公という説もあったけど、ハンネマン先生は如何せん年齢が高すぎるかなと。マヌエラ先生はギリいけるかもしれないけど。ゲームをやる年齢層をターゲットとしてマーケティングをすると考えたら、ベレト先生は納得である。私と歳近いし。
勝ち申した!勝ったな。がはは。そのまま王国の担任をやるんやで、まあこうみえても?ワイ、転生者なんで?まあ転生者のいるクラス選ぶっしょ。
…そんな風に思っていた時期が私にもありました。
「くくく。新任の先生の教え方はなかなか興味深いですな」
「僕としては研究の邪魔さえしなければ関係ないけどね」
ヒューベルトぉぉぉぉぉぉおおおお!リンハルトぉぉぉぉぉぉおおおおおお!お前らのところかい!
あばばばばばば。どうすっぺ!このままじゃ王国滅んでまう!逃げなきゃ!帝国に!
えっ?移籍とかできるの?じゃあ志願します!
はい!移籍!移籍させろ!い・せ・き!い・せ・き!さっさとい・せ・き!
と思ってたらヒューベルトと駄弁ってる時に先生からお誘いいただいた。やったぜ。ヒューベルト!心の友よ!とか言ってたら困惑された。何で?ワイらもう友達やろ?…友達だよね…?
気、気を取り直してですよ。帝国のクラスに移籍しましょうね〜。
お?イングリットも来る?コンスタンツェも?
何々?『帝国のクラスに可愛い女の子が居たのね?』だって?まあみんな可愛いけども。確かにドロテアちゃんとは仲良くしてるし、ペトラちゃんとも。ベルナデッタちゃんとは食虫植物の生育について話しとるで!
えっ?監視?私変なことしてないよ?
ままええわ。このさいだからイングリットさんにもベレト先生の良さを知ってもろて。
お?フェリクスも来る?ならシルヴァンも連れて行こうぜ!後は、メルセデスさんとアネットちゃんも行かへん?
気が向かない?…そっかぁ…。
とか言ってたら、イグナーツ君とマリアンヌちゃんとレオニーちゃんも帝国のクラスに来た。賑やかになってきたな!
リシテアちゃんはどう?帝国のクラスええよ?ワイ貴族やなくて農民扱いしてくれるから居心地が良いわ。
え?普通逆?
こまけえこたぁいいんだよ。
それはそれとして帝国のクラス来ない?今なら私が作ったフルーツサンドイッチが…。あ、来るんだ。
て事でベレト先生人気だねぃ。どんどん移籍してくるよ。やったね!
ーーーーー
ヒューベルトが彼を連れてきてくれた。それは朗報だ。しかし、彼に私の本当の目的を伝えるかどうかが問題だ。
『どうもはじめまして…というわけでもないですがイブリスです。家名はありません。農民です。よろしくお願いします』
彼の最初の挨拶は覚えている。家も貴族という立場すらも捨てる。そういう宣言だ。そこまで覚悟しているというのか…。
「エーデルガルト様…やはりイブリス殿に隠し通すのは不可能でしょう」
「ヒューベルトもそう思う?…そうよね。隠す方がデメリットが大きいわ」
「隠さなかったところで、彼はところ構わず話すような男ではないでしょう」
「わかっているわ。……全てを話さないまでも、少し匂わせる程度にしておきましょう」
「様子見…ですか…」
「ええ。それに匂わせる程度で彼は気がつく可能性があるわ。むしろ…」
ヒューベルトとも話した。
私の理想。
彼は遠からずそこにたどり着く。いや、もう気がついているのかもしれない。だから国を捨て立場を捨て、私たちのクラスに来てくれた。そうでしょう?
王国からも同盟からも、彼が仲のいい人物を説得して私たちのクラスに加入させている。彼は私たちに賭けたのだ。
「重いですな」
「期待が?」
「そうとも言えます」
「…そうね。……来たわ」
私たちのいる部屋がノックされた。
「どうぞ」
「ああ。皇女殿下もいらっしゃいましたか…。ヒューベルト殿。私に用とは?」
入ってきたのは二人。
イブリス=プライデリと元帝国貴族のコンスタンツェ=フォン=ヌーヴェル。いや、王国での地位を捨てるといった旨のイブリス殿の発言から、帝国では事実上の平民である二人だ。
ここでの会話の価値を彼は分かっている。
ガラテア家のご令嬢やフラルダリウス家、ゴーティエ家の嫡男など連れてこられたら腹を割って話せないだろう?
そう語りかけてくるかのような人選とすら言える。
「折角同じクラスになったのです。これからのフォドラについて語らいませんか?……余人を交えずに…ね」
「なるほど。それはとても面白いですね」
夕日に照らされ、彼の怜悧な容貌が妖しく輝く。それが私たちにとって開戦の合図のようにも思えた。
「さて、テーマは今後のフォドラでしたね。しかし、余りにも広範だ。何から話せば良いですか?」
「そうですね。しかしテーマは変わりません。私が聞きたいと思ったのは今後のフォドラの地です。イブリス殿。あなたはどうなるとお考えで?」
ヒューベルトがイブリスに問いかける。彼はいつものように自然体に見えた。
「…いずれ」
「いずれ?」
「民が政を担うようになりましょう」
「…ほう?」
民が?彼らは弱く、知恵もない。通常であれば、突拍子もない考えに聞こえる。
「ピンと来ないようですが、現実的に貴族と平民の違いはなににございます?」
「地位があるかどうか、あるいは知恵があるかどうかですな」
「しかし、それは後天的に獲得可能でもあるわけです。さらに言うなら民の数は貴族の何千倍にもなる。となると貴族だけに教育を行うのは効率が悪い」
「左様。それは貴方が実際に領地でしていることですな」
「貴族を教育する方が早いのは言うまでもありません。ただ、人は時として環境さえ合えば、信じられない速度で成長するものです。そこに身分は…」
「関係ありませんな。つまり、母数を増やせば国は強くなると。単純な話ですな」
「全くもってその通りです」
ヒューベルトの答えに彼は満足げに返す。そうか。数が違うのか。私たちが目指す紋章に頼らない実力主義の世。彼は既に足を踏み入れているのだ。私たちよりも先に…。
「まず戦の主体が民になるでしょう。そうなれば彼らは政に必ずや口を出すようになる」
「当然の結果かと。自分たちが血を流したのです。その苦労を贖う必要があるでしょうな」
ここまでは私たちの共通認識だ。
「つまり国を強くするには教育の母数を増やす必要がある。しかし、それは貴族の支配基盤を弱めることにつながるのです。ここまでは私たちの共通の認識でしょう。ではその先。強い国とは何でしょうか?」
「強い国…ですか…」
ヒューベルトは少し考え込む。強い国。ぱっと思いつくのは戦に強い国。どうなれば強い国と言えるか…。
「…貴族も平民も紋章を持ち、数は平民が上。教育で差がなくなるとして、数の多い平民が兵士として戦う……まさかっ!」
「ふふ。どうなりますかね?」
「…平民をより多く戦に注ぎ込める国が優位に立ちます。それも兵士として働けるだけの教育を、国単位で大規模にできたところからとなるでしょうな」
これは私もイブリス殿のヒントで気がついた。イブリス殿の隣に座るコンスタンツェを見る。
反応はない。つまり、これは既に彼女に共有されているということか。
背筋が震える。
もしこの認識をガラテア家やゴーティエ家、フラルダリウス家を通じて王国に共有されていたら?
私たちの目的の達成は難しいのでは?
「しかし、一つ問題があります」
「というと?」
「平民が学を身に着けたとします。戦に行きたくない者も当然出てくるでしょう。士気の低い軍は数が多くとも役には立ちません。どうしますか?」
「…むっ」
ヒューベルトは虚を突かれたように声を上げた。確かにそんなにうまく行ってばかりではないだろう。どうするか…。
「コンスタンツェは分かる?」
「いえ…」
「ヒューベルト殿も来てくれましたが、私の領地で行われた音楽祭にヒントがあります。あるいはダスカーの悲劇を思い出してみると良いでしょう」
私はそこには行けなかった。
残念だ。ヒューベルトはそこで何を見たのだろう?その彼も悩んでいる。
「プライデリ家がどこかに攻め込まれたとします。プライデリ領の税率は、他の貴族の領地の半分です。そして、平民たちは教育によってその事実を知っているという前提も付け加えましょうか。さて、どうなりますか?」
「…負ければ税率が上がるから、全力で戦に馳せ参じる」
ヒューベルトが呻くように言った。
「その通りです。しかし、国同士の戦となると少々これでも弱い。であればどうするか……王国は美しい!王国民は賢い!王国は偉い!王国は何から何まで他の国より優れているのだ!」
イブリス殿の勢いに三人とも呆気にとられる。
「王国の平民がこのような教育を受けていたとしたら?」
「…つまり国を守るということが、そして敵を殺すということが正義であると認識される」
「その通り。教育によって手軽に死をも恐れない兵士が生産できるわけです」
効率と反比例するかのような倫理観の無さ。まさに悪魔的な頭脳。いや、徹底的に感情を排して考えた結果か。
「しかし、教育はセイロス教団の専売特許ですな。どうします?」
「民が救いを求め、教団がそれに応えるならば否定をする意味はないでしょう」
模範的な答えだ。これを突き崩すの難しい。
少なくとも彼は現時点で教団を敵対視してはいないようだ。彼の出身地をまとめる教団の司祭を調べたことがある。貴族、平民問わず、分け隔てなく接し、難しい対立も彼が仲介すればまとまるという公明正大を絵に描いた者らしい。
そして、その人物が彼が師と仰ぐ者で、彼らはお互いにつよい信頼関係を持っているとか。
未だに出生した地に帰るのは、この司祭に会うためだとも聞く。
一方で、司祭も彼の危険性は承知しているだろう。いや、むしろ司祭そのものが彼の思考を形作った人間かもしれない。
出会って間もない私たちに語った彼の思想は、一本の線で結ばれていて、筋の通った理論のように聞こえる。それは幼いころから彼が考えて、彼一人の知識の下で辿りついたものではないだろう。
そして、彼の思想はセイロス教を揺るがしかねない新たな火種となりうる。よりにもよってセイロス教の司祭がそれを容認したのかどうかは分からない。しかし、公明正大という評判から判断するに、地元住民の生活を優先して彼の思想を育てたのであれば、それも不自然ではない。
考えれば考えるほど分からなくなってきた。
しかし、一つだけ分かることもある。
彼はセイロス教を敵視していないようだが、紋章を絶対視しない彼は教団から警戒される対象でもあるだろう。
貴族が民を統べ、その統治に疑問を抱かせないのがセイロス教の存在だ。彼の思想はその構造を否定するものにしか私には見えない。ゆえに彼は私たちの本当の目的を理解しても尚、私の元から去ることは出来ないだろう。
それにこうして早い時期に王国クラスから引き抜きもできた。時間はたっぷりとある。彼を口説き落とすだけの時間も、理屈も十分に。
教はもう遅い。彼の思想を探るのは、このあたりで良しとしよう。