革命者イブリス 作:とある後
『ダスカーを攻める』
そう父親が告げた。
そこで初めてこの世界がファイアーエムブレム風花雪月の世界であると確信した。
転生した事自体が意味不明なので、そういうこともあるだろう。ただ残念なのが、私はそのゲームをやってはいたが、内容をもう覚えていないことだ。
先生がどの学級の先生になるのかで国の未来が決まるだったような気がする。
いや、確かにああ言う頭を使うゲームは好きだったさ。多少やり込んでもいた。とはいえ私からすれば毎月何十と出るゲームのうちの一つに過ぎなかったのもまた事実だ。
つまり細かい話は覚えていない。後は無双も出ていた気がするが、そっちは尚の事分からない。アクションゲームは不得手である。
「ミハイル。初陣を飾ることになる。しっかりとやれ」
「はい!父上!」
ミハイルはこちらを一瞬見てから返答した。
この義兄、ことあるごとに私に突っかかってくるので、なかなかに鬱陶しい。
ただ気持ちはわかる。
自分は紋章を持たず、妾ですらない平民の女の子供が三人とも紋章を持っていて、しかもその紋章持ちが農地改革で成功を収め、同じく紋章持ちの貴族の娘と許婚の関係になったのだ。そりゃ焦るだろう。
三人である。
あの日初めて(一応、今世の)父に会った日に早速母と三人目を作ったらしい。そしてその女の子は見事に紋章持ちであった。
うちのママが優秀すぎる件。
とは言え、父に対してはどうしても遠慮がちで、正妻からも第二、第三夫人からも露骨に嫌われている。優秀すぎるのも考えものである。
「イブリスは私とミハイルが不在の間の領内の防衛を任せる。大きな揉め事も残っているが、お前なら必ずうまい落としどころを考えるであろう」
「承知いたしました。伯爵様」
私の父に対する言葉遣いは一貫してこれだ。気に食わないというのもあるが、それ以上に『父上』と呼ぼうものならうるさい連中が多い。
この6年の歳月で積み重ねた研究と、育成した人材。そしてその元となった資金。全てが私を領主に押し上げる基盤となりかかっている。
これは嬉しくない状況だ。というかはっきり言って困る。
私は便利で文化的な生活を送りたいだけなのに、勝手に周囲が評価を上げてくるのだ。
「私はこの戦で必ず功を上げる」
「ようございます。プライデリ家の家名も上がることでしょう」
「…ふん。相変わらずしっぽを掴ませんか。汚らわしい農民の子如きが」
父の執務室を出ると義兄がいつものように私に食って掛かってきた。
「何のことやら分かりませんな。私はプライデリ家とその膝下の民を豊かにし、ひいてはファーガス王国に貢献することしか考えておりませぬ」
「大きく出たな!農民の子如きが!」
いや、ファーガスのためかどうかはさておき、領地を豊かにしたいという思い自体は本物だぞ。というか発電機まであんたが作れるなら、喜んで俺はあんたの下にだって付いてやるさ。なんならあんたの靴を舐めても良い。
「紋章を持っているからとは言えこれ以上の!………」
義兄が怒気を発しながら吐こうとした言葉は唐突に消えた。
「あにうえー。今日も視察に行きますよ〜。アンジェリカも一緒です〜」
「兄上と一緒〜」
どうやらこの義兄。我が妹たちに強くは出られない模様。
それはそうだ。プライデリ家の内政の一部を任されるのが私なら、武を司るのはこの妹、アウレリアである。
山では単騎で山賊を撃破し、海に行けば海賊をまたもや単騎で撃破し、空を飛べばドラゴンを狩ってくる妹だ。いや、こいつの方が私より明らかにチートである。
終いには『アウレリアを出すと配下の訓練にならん』と父直々に討伐は禁止される始末だ。これでまだ13歳である。そして13歳でありながらミハイルよりも明らかに身長が高い。
まあそりゃそうなる。自分ではたどり着かない高みにいる化け物の類だ。
「えへへ。アンジェリカをこうやって抱きしめていると私と兄上は夫婦みたいですね」
「だめー。アンジェが兄上のお嫁さん〜」
可愛らしいやり取りに思わず頬が緩むが義兄はそうではなかったらしい。
「ふん!化け物と一緒によろしくやっていればいいものをガラテア家のご息女をものにする必要などそもそも無いのだ」
確かにこの妹は紛れもない化け物であるが、その言い草はどうなのだろう?さすがにフォドラの地に於いて、兄と妹で子をなすなどという風習も無いだろうし。…無いよね?
ガラテア家、イングリットの事は不可抗力である。
というかまた義兄がぶつくさうるさくなるのは分かっているのだから、最初から『私を婚約者に選ばないほうがいい』という忠告をしたのだ。
それを何を勘違いしたのか、あんないいところの娘さんが、私のような農民の息子との婚姻を了承するなんて思わないだろう。
むしろ、この義兄の方がイングリットの理想とする騎士に近いとおも……うーん。やっぱり無理だな。
「何ですか?兄上。視察に行きますよ」
となると理想の騎士はこいつなのだろうかと、妹を見つめる。いや、こいつはこいつでただ強いだけだ。三国志で言うなら呂布、楚漢戦争で言うなら項羽だ。何ならそいつらを出して2をかけかねない強さではあるが、それは強いだけだ。呂布を騎士と捉える人は居ないだろう。
ーーーーーー
「お屋敷は息が詰まります!」
「まあまあそう言ってやるなよ」
アウレリアが言う視察というのは取り敢えず『私に構え』というものだ。いつぞや狩ったドラゴン君の背は、専らアウレリアと私が空のデートに出るための専用シートとなっている。ちなみにアンジェリカはおいて来た。かなりぶーたれていたが、今日は街に降りてのデートではない。危険だ。
「最近はディノ様とエラ様がお母さんとアンジェリカの様子を見てくれるから兄上とよく出かけられますね!」
「本当にそうだ。お二人には感謝してもし切れないよ」
ディノとエラは第二夫人と第三夫人の名である。
かつて屋敷に来たばかりの頃は、第一から第三夫人まで全てが『俺たち一家の敵!』と言っても過言ではなかった。
いや、文官も武官も、屋敷に仕える人間すべてが信用しきれなかった。当然、今でも彼女らを信用しているわけではない。ただ、彼女らも、そしてその息子も娘も最近は私やアウレリアに近しい立場を取る傾向にある。だからこそミハイルは焦っているのだろう。
それはそれとして、母とアンジェリカには私から護衛用に秘密の道具をいくつも渡してある。ドラゴンの背に乗って片道三時間以内。それが母と幼いアンジェを置いておける限界時間であり、アウレリアとのデートの時間の限界である。
当然、母やアンジェリカに手を掛けるような愚かな真似をするものなど今の伯爵家には存在しない。そのような事をすればどうなるのか、身をもって体験した者が居るのだから。
幾らミハイルが愚かであろうと、次期後継者の首が物理的に挿げ替えられるという体験はしたくないはずだ。
前に座る妹の肩に厚手の衣をかけてやる。
恥ずかしながら、ドラゴン君の背中に乗る時は、私は妹の後ろに座り、彼女の腰を強く抱きしめなければならないのだ。高所恐怖症にはつらいよ…。いや、落ちてもアウレリアが拾ってくれるし、もし仮に拾えなくても落下の衝撃を和らげるための魔道具もちゃんと作っているから問題ないんだけどね。安全装置は何重にも用意しないと気が済まない質なので。
「ありがとう。兄上」
「空は冷えるのだからちゃんと暖かいものを用意しておけと言っているだろうに」
「ふふふ。兄上の体温が伝わってくるからそれで充分かなって……あ、あそこの村かな?」
彼女が指さした先には、そこまで高くない山の中腹に構えられた村があった。いや、よくあんなの見つけたな。望遠鏡が無いと私にもわからなかったよ……。
「ああ。あれが訴えにあった村だ。一度行ったことがあるから分かる。……空からだと分かりやすいな」
本当。グーグルマップが恋しい。写真を作ってフォドラの地理を丸裸にしてやろうか。
ーーーーー
『デオドラ山賊団は神出鬼没』
プライデリ領において恐れられる山賊の煽り文句である。
後にダスカ―の悲劇と呼ばれる事件から始まった王国の混乱を突いて、規模を大きくしたのがこのデオドラ山賊団だ。
元々戦い慣れた者が多かったが、そこに貴族家の取り潰しが相次いだことで、職にあぶれた騎士が増加。次の道が見つかった者は良いが、そうでない者も多く出た。そのようなあぶれ者たちを引き受けた山賊の一つがデオドラ山賊団である。
そして彼らが神出鬼没と言われる所以は、峻険な土地であるプライデリ領を縦横無尽に移動できるドラゴンにあった。
「何?ドラゴンが飛んできているだと?」
「へい!ものすごい速さでこっちに来てまさぁ!」
「俺たちがここにいることに気付いたか?」
「いや、お頭さんよ。それはないと思うぜ?」
「そうだな。討伐に来るとしたら男爵だ。だが、男爵はダスカ―攻撃のために兵を集めている。こちらに兵を寄越す余裕はないはずだ」
「それにドラゴン一匹ではあまりにも少なすぎる」
デオドラ山賊団のトップ、イェン・デオドラが周囲を固める元騎士たちに尋ねると次のような答えが返ってきた。半ば予測された答えではあるが、それを聞いてデオドラは安心する。丸太のように太い腕に、成人男性の1.5倍はありそうな太さの胴を持つ大柄な彼は、体格に反して非常に慎重な男だった。
「取り敢えず様子見だ。だが、ドラゴンに乗ってるっつぅことはだ…」
「男爵家の手のものである可能性が高い」
「だとすると……俺たちのことがバレちまったら?」
「殺すしかないでしょうな」
「だよな。……まぁ良い。穏便に帰ってもらえ。俺たちはあくまで普通の村人だ」
「へい!」
デオドラの指示で普通の村民のような格好をした者たちが、村の、いや元を付けたほうが良いかもしれない。
今は山賊の塒となった元村に散って、男爵に存在が露見しないように隠蔽工作を働く。さすがに男爵とやり合うにはまだ早いのだというのが頭から団員までの共通認識だった。
「男爵の使いである。下流の村の訴えで参った!村長は居るか?」
高速で飛んできたドラゴンから落ちてきたものはなんと人間だった。
地面に大穴をあけつつ、砂ぼこりとともに大きな体を起こしたことでようやく山賊たちにも分かったのだ。
体格の割に声は高い。まるで女のような声だ。
「だ、男爵様の使いが、な、何用でしょうか?」
見れば見目麗しい乙女だ。しかし大きい。頭ほどではないが、少なくとも幾人かの騎士よりは大きい女が、武器はおろか鎧すらもつけずに男たちを睥睨する。
「下流の村より訴えがあった。この村が水を止めているとな。なぜ斯様な真似をする?」
それは彼らにとって金のなる木になるはずだった。
水を留めて下流の村に流さず、痛い目を見せて金品を強奪する。そしていざとなれば、狭い道を封鎖し男爵軍を抑えて、空から金品を運び出して逃走する。それがデオドラ山賊団の戦略だった。
まさかこんなに早く下流の村の訴えを貴族が聞くと思わなかったのが敗因である。
「どうした?答えよ?」
「あ、あっしのような下っ端ではわからねえです…」
「では村長を出せ」
「へ、へい!」
男が男爵の使いとやらのそばを離れるや否や、完全武装した槍兵が背後から女に襲い掛かった。
「んなぁ!」
果たして声を上げたのは襲いかかった側である。
突き出した槍は見向きもされずに掴まれ、一瞬のうちに持っている腕ごと体が宙に持ち上げられた。何が起きているのか分からず足をバタつかせるが、地面の感触がしない。女の体を支点に、やりごと持ち上げられたと気がついた頃には、遠心力に任せてあらぬ方向へ吹き飛ばされた後だった。
「私は男爵の使者であるぞ。もてなし方を知らんか?」
「でええええい!」
「ぬりゃああああああ!」
異常さを目にした元騎士たちは、相手を侮ることなどしなかった。手を抜くなどできようはずがない。元から賊だった者も呆気にとられながらも、戦闘態勢を取る。山賊にしてはかなり統制が取れていることが分かる。
真っ先に女に近づいた二人の元騎士が裂帛の気合で持って、斧を真上から女に叩きつけようとした。
「…はっ!?」
またも声を上げたのは武器を持った方だった。
やたらと硬い感触が手に伝わり、痛みに顔をしかめたのもつかの間、二つの刃は、申し訳程度に籠手で守られていた女の両手に掴まれていて、ミシミシと今にも砕けそうな嫌な音を発している。
「ば、ばかなっ…」
「何と…!」
「敵対行為と見做し、貴様らは捕縛する。悪く思うなよ」
その口上と同時に耐えきれなくなった斧の刃が砕け散り、男たちの意識は途絶えた。
「ば、化け物!」
「く、くそっ!」
素手でありながらこれだけの力の差を見せつけられ、山賊たちは既に腰が引けていた。それでも心を奮い立たせて、大きな女に斬りかかる。
「あまりその呼ばれ方は好きではないな」
足元に落ちていた槍を拾い上げ、無造作に一閃すると数人の男たちが、それまで来ていた方向に吹き飛ばされる。
「とても勝てねぇ!逃げろ!」
「クソ!何故飛ばない!?」
「あー。今そいつらが飛ぶための揚力を奪ってるから、いくら飛ばそうとしても無駄だよ?取り敢えず大人しくしててくれない?」
「訳分かんねえこと言いやがって!」
「飛べよ!飛べって!」
「……うん。しばらく寝とこうか」
ドラゴンに乗って逃走しようとした者も居たが、男の声がすると、その場に倒れ込み、動かなくなる。
「…てめぇ……!俺さまがここまで集めた戦力を…!」
「殺しちゃいない。……本当に殺してないかな?アウレリア?大丈夫?……まあ殺してないと思うから大丈夫だって。……多分」
「このデオドラ様に勝てると思うな!女ぁ!」
ドラゴンに乗ろうとしていたデオドラだが、男の言った通りどんなにドラゴンに命令をしても飛び立てないでいた。
仕方なしに自慢の肉体での突破を試みる。
大丈夫だ。今まで自分は一騎打ちで一度も負けたことがない。現役の騎士にすら打ち勝ったこともある。無敗だ。だから今回も大丈夫。
そう思って使い慣れた斧を振り上げ、女に振り下ろした。
「ば…ばかなっ!」
女は面倒くさそうに素手で斧を受け止めていた。
「あまり相手を傷つけると兄上に嫌われちゃうからね」
斧を引き戻そうとするも、びくともしない。何が起きたのかも分からないままに、デオドラの意識は闇に沈んだのだった。
パワーバランスがおかしいけど、思いついたことを適当に描いてるだけなんで許し亭許して