革命者イブリス   作:とある後

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何故こうも偉い人と繫がりができるのか…

我らがファーガスの王は残念ながら身罷られた。しかし、その王子は生存している。

 

「…だから治療しろと?」

「そうよ」

 

我が婚約者であるイングリットたっての頼みだ。私は彼女のためなら何だってしよう!

…とはならないんだよなぁ。

まず王子殿下とやらの治療に失敗した時のリスク。下手を打てば、うちの家丸ごと消滅しかねない話である。

次にこれがただの『悲しい事件』では済まない可能性。

この事件はかなりきな臭い。色々な伝手をたどって調べずとも、ろくでもない陰謀が蠢いていることは想像に難くない。後ろに立つデオドラに一瞬目をやると、彼は小さく首を横に振った。

…まあそう言う事だろう。ある程度裏社会に通じているデオドラも、この件は厄ネタだと思っているらしい。

今、ディミトリ殿下が生き残ったとして喜ぶ者が居るだろうか?

戦況は圧倒的に有利だそうで、ダスカーでは激しい虐殺が起こっているらしい。我が敬愛する義兄殿もかなりの戦果を挙げていてなによりである。

……ともならないんだよなぁ…。

『うちはダスカーから鉱石を輸入して良質な武器を作って売っているというのに、そのダスカーに住む人間を殺しまくったら、どこに良い鉱脈があるのか分からんだろう。自分の首を自分で絞めるとは…どこまでアレなのだろうか』

等と決して思ってはいない。

我らがファーガスに住まう民の慟哭を、ダスカーの蛮族共に思い知らせてやらねばならぬのだ!……はぁ。らしくない。ため息しか出ない。

幾ら自分が貴族の端くれとは言え、ここで『今すぐ戦闘を止めろ』などと言おうものならそれこそ売国奴のレッテルを貼られかねない。父上殿はそんな戦果の拡大を望む義兄殿を再三止めようとしているらしいが、義兄殿は反発をしているらしい。

そりゃそうだ。うちからすればダスカー人を皆殺しにするメリットよりもデメリットの方が大きい。領地経営をしている父はそれがよく分かっている。交易をしている中で、最も近く、関係も深いのがダスカーである。義兄殿は『皆殺しにして全て奪いつくせばうちのものになる』とでも思っているのだろうか?間違いなくそうはならないだろうし、仮になったところで、鉱石や様々な特産品を得る場所も、そしてそれらを加工する人も居なくなる。しかも奪った土地が全てうちのものになるはずもない。

だからこそ父上殿は無益な戦と判断して余り前に出ないようにしているようだ。しかし、それはそれで『敢闘精神が無い』だの『猛将も老いた』などと酷い言われ様をされ、酒の量が増えていると聞く。

仕方ないので、母やアウレリア、アンジェリカをはじめとして、義姉殿や義母殿勢ぞろいでねぎらいの言葉を交えた手紙を週一で送っている。その重要な仕事を担っているのが、私の後ろにいるデオドラだ。こいつ意外と面倒見が良いんだよな。いつの間にか父上殿とも飲み友達になってるし…。やっぱりこいつに盗賊をさせておくのは勿体ないわ。武器を持てば武将として、平時は外交も任せられる男を使い捨てるなんてありえない。

それはそれとして、我が婚約者殿の無茶ぶりだ。果たしてどうしたものか…。

 

―――――

 

「…どうだった?」

「……手は尽くした。が、酷い目に遭った。もう二度とあそこに行きたくない」

 

婚約者となったイブリスからの答えが以上だった。

『殿下の治療をしてほしい』

そういった時の彼の嫌そうな顔が忘れられない。

殿下は私の幼馴染で、ダスカーで重傷を負った彼を治療できるのは彼しかいないと思ったが故の行動だったが、今にして思うと相当危ない橋を渡ったのだろう。彼の顔面は見事に腫れ上がっていた。

一度は拒否された。そして私は頭に血が上った。

 

『別に婚約破棄でもなんでもすればよろしいでしょう。私を選ぶべきではないと最初から申し上げていたはずです』

 

カッとなって彼に婚約破棄を告げた時、彼は普段と何も変わらない様子でそう答えた。だから私は一瞬で冷静に戻れたのかもしれない。

 

『正式な命令が出ない限り危険です。私だけでなくガラテア家にも塁が及びかねませぬ』

 

私だって貴族としての教育を受けている。だからこそ、今回の事件の不自然さに思い至った。もしかすると王家内部の権力闘争の結果かもしれない。考えてみればプライデリ家だって、お家騒動一歩手前の状態である。

王が亡くなって、その息子も重症。となると一番得をするのは誰か…。これ以上考えるのはやめよう。

 

「体は治した」

「本当!?」

「ああ。だけど心までは治せていない」

「…心」

 

いつも彼はこうだ。

『嫌だ嫌だ』と言いながら結局最後には助けてくれる。

終始仏頂面で文句ばかり言っていたが、最終的には『こっそりと治療して逃げれば良い』と判断したらしい。やっていることが盗賊と同じだ。

 

「治して体が元気になったところで殴られた。『何故生かしたんだ!』と叫ばれた。あれは錯乱状態だったな。殿下に対して言うべき言葉ではないが、正直二度と関わりたくない」

「…ごめんなさい」

「良い。やったのは私だ」

 

気が付くとお互い硬さのあった敬語が取れていた。

 

「それに殴られた分の元は取ったしな」

「……元?」

「まあ慰謝料みたいなもんだ」

 

何故かとても不穏な言葉を残して……。

 

――――――

 

「はは。すげえよなぁ…」

「何がですか?」

「いやさ、あんたの妹だよ。あのフェリクスが手も足も出ないってどうなってんだ?」

「私からすればアウレリアと一度戦って、もう一度挑む人間が居るという事が驚きではあります」

「だよなぁ。明らかに手を抜かれているのに、手も足も出なかった……。はは。もう笑うしかねえよ」

 

俺の目の前では、幼馴染のフェリクスとイングリットが二人で俺と同じくらいの身長の女に必死に立ち向かっていた。

最初は俺も交えて三対一の勝負だったが、早々に一抜けして、今はその女の兄であり、そしてあのイングリットの婚約者となった男と言葉を交わしていた。

 

「しっかし分かんないもんだね」

「何がでしょうか?」

「いや、あんたそのものさ。イングリットが好むタイプとはだいぶ違うなと思ってさ」

「……その件は私としても同意します」

 

こういう所だ。

イングリットのタイプの男なら、ここで怒りなり不快感を示すべきところだろう。

しかし、目の前の男は表情を変えずにこちらに同意する。

身長は高いが、それほどの圧は感じない。

プライデリ家は今や王国で最も裕福な貴族という話をよく聞くが、それをもたらしたのがこの男だというのは恐らく事実だろう。

どこまでも冷静にこちらを観察して、貴族としての序列を崩さないように振舞っている。

功績のある若い貴族なら、もう少し偉ぶったり、自分を高く見せようとするはずだが、この男にはそれらが一切感じられない。ただ聞かれたことに淡々と答えているだけだ。

一方で、グレンのような騎士らしさも微塵も感じない。体は鍛えられているように見えるが、それもほどほどと言ったところだろう。

そして嫌味なくらいに顔が良い。とは言え、イングリットはそういう面を重視するような女ではない。

 

「それにしてもうまいな。この揚げ芋だっけか?」

「あまり体に良いものではありません。ほどほどにしてください」

「そうかい?……まあ油は高価だからな。貴族でもこんなものはなかなか食えるもんじゃないぜ?」

 

薄く切った芋を大量の油で揚げて、そこにプライデリ領ご自慢の塩と交易で手に入れたらしい胡椒。それを挽いて贅沢に芋にかける料理だ。

一枚一枚が口の中でパリパリと心地よい触感を発しながら、程よい塩味を主張してくる。

これがプライデリ領を富裕にしたものと繋がっているだろう。そういえばプライデリ男爵自身は、あまりダスカ―での戦闘に意欲的ではないと聞く。

 

「あまり食べてしまうとフェリクス様とイングリット様の分がなくなります」

「おっと。確かに、食い物の恨みは恐ろしいって言うしな」

 

イングリットが再び婚約をしたと聞いた時にはかなり驚いた。しかし、これはこれでいい相手だったのではとも思う。

最初は貧しいガラテア家から、金でもって紋章持ちのイングリットとの婚姻を強要したのではと疑っていた。いや、今も少しは疑っているが、この男からは家格を上げるだとかそういう野望を感じられない。隠しているのであれば相当の狸だろう。

そして仮に金でイングリットを買ったにしては、やけに彼女が大人しい。プライデリ家はガラテア家の食糧事情から手を加えるとのことだった。

 

「そういえばイングリットからガラテア家の食糧事情に手を入れるって聞いたけど、具体的にどうするつもりだ?」

「まずはガラテア領の状況把握からでしょう。とは言え、既にある程度の情報は集まっています。土がどのような状態で、水はどれだけ使えるのか。これらが分からない限り、そもそもどのような作物を育てるべきかが決まりませぬ」

「プライデリでは農地に魔法を使うとのことだけど」

「よくご存じで」

「まあ貴族っていうのは色々と伝手があるからな。で、その辺どうなのよ?パパッと魔法を使って終わり?」

「できればそのような方法は取りたくありませんね」

「へぇ…」

 

意外だ。

『取り敢えず魔法を使っとけばいい』的に考えているのかと思っていたが、意外と深く考えているようだ。まあそうでもなければプライデリがここまで裕福になることもなかっただろう。

 

「魔法使いを動員するとして、その魔法を使う者もガラテア家で育成しなければなりませんし、それにも金と時間がかかります。勿論、農業に従事させるための者たちなので、戦に使うなどは以ての外です。我が領地からも農業専門の魔法使いを派遣しておりますが、戦には絶対に使わないとの契約をしております」

「…戦で使い物にならない魔法使いを育成するってなかなかに狂ってるぞ。まともな貴族ならそんなことはしない」

「私の母は農家の娘ですので。貴族というよりはむしろ農民として考えていただけると分かりやすいかと」

「ああ。そういえばそうだったな」

「ええ。ですからイングリット様とは身分が違いすぎます。本来であれば婚約者はおろか、同じ空気を吸うこともなかったでしょう」

 

それはさすがに言い過ぎなのではないだろうか。

 

「そうか?能力があるなら関係ないだろう?」

「貴族を名乗るのであれば格が必要です。私にはそれがありませぬ。男爵様もその辺りをよく考えていただきたいと常々考えております。……失礼。今のは聞かなかったことにしていただきたい」

「ただ農民と言っても紋章持ちなんだろ?それだけで価値があるって普通の貴族なら考えるものだぜ?」

「紋章で土地が豊かになるわけではありませぬ」

「は?」

「事実でしょう?私はどうすれば作物が豊かに育ち、ひいては人々が飢えずに暮らせるかを考えて行動しております。そこに紋章は関係ございますか?」

 

その言葉を聞いた時、非常に痛快に感じた。

 

「は、はは。ははははは!あんた!最高だな!」

「よく分かりませんな」

「いや、はは。今の言葉で大多数の貴族を敵に回したぜ?は、腹が痛え。はははは」

「私としては事実を述べたまでですが」

「いや、良いんだ。あんたは紛れもない貴族だ。うん。その方が良い。前言撤回だ。あんた、イングリットにぴったりだぜ?」

「……そのお言葉に恥じぬよう精進いたしましょう」

「ああ。精進してくれ」

 

気が付くと、俺は自分より高い位置にある男の肩を遠慮なく叩いていたのだった。




予約投稿間違えたんでね。消しといた。ちら裏に移動。表で公開するには粗があり過ぎるんでね
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