革命者イブリス   作:とある後

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嬉しいことよりも困ったことの方が多い

『良いことと悪いことのどちらを先に聞く?』というのは定番の質問だが、良い事に付随して悪いことが起きている場合はどうすれば良いのだろう?

一つ目、人材が増えました。良いことだね!

万年人材不足の我がプライデリ領では幅広い人材を受け入れております。平民、貴族、奴隷、誰でも出世可能です。

出世可能で言うとデオドラが騎士爵を貰った。良かったね。私が鍛造した剣と槍を与えた。ダスカー産の鉱石をふんだんに使った三尖槍である。泣いて喜んでいた。

いや、父上のメンタルケアに、盗賊まで落ちた元騎士の引き抜きと再訓練、何もかもやってくれた有能を逃す訳がないだろ。死んでもこき使ってやるからな。

後は何かやさぐれていたゴーティエ家のマイクラン殿を拾った。うちの流儀で完璧な武将に育ててやるからな。覚悟しろよ?

話してみると戦略眼はかなりのものだった。え?ゴーティエ家はこんな優秀な人を放逐したの?いや、シルヴァンの事は知ってるけどさ。マイクラン殿は大したもんだぞ?演習で私やデオドラの指揮と同等か下手をしたらそれ以上な気がする。勿体ねー。これは教育の必要すらないかもわからんね。

ゴーティエ家に一泡吹かせてやろうぜ!と言ったらやる気になっている。嫌がらせとしてスレンとの戦闘に際して、うちからの友軍としてゴーティエ家に派遣してやった。最初は乗り気じゃなかったぽいけど、取り敢えず頑張れと言っておいた。

あ、でも追い出されたのにそれでも実家を守るんか?とは聞いておく。サボタージュされても困るからね。

『思う所はあるが、スレンの侵攻に脅かされている民には関係のない話だ。何とかしてやりたい』だってさ。普通に良い人だった。

え?こんな人貰っちゃって良いの?許可は取りません。素晴らしい拾い物だったわ。

紋章?そんなもんは飾りや。紋章なんて無くても仕事はできるってところを見せつけてやれ。そう言ったら滅茶苦茶やる気を出してた。ウケる。

この間会ったシルヴァンがびっくりしてて草。しかもきっちりと敵を抑えてやんの。ウケる。あんだけ優秀なんだから当たり前だよなぁ。そう言ったらなんかちょっと嬉しそうだった。

お前の兄貴、うちみたいな小さい領主に顎で使われてんだけど、それでいいのか?……良いんだ…。

敵を倒すのにね。紋章なんて要らんのですよ。紋章があるだけで強いなら、うちのアウレリアと一騎打ちして勝ってみろってんだ。と言ったらマイクラン殿がアウレリアに挑んでて草。案の定負けてるし。いや、無理やで。でもいつか絶対に勝つらしい。お、おう。やる気があるのは結構なことだ…。

 

二つ目、男爵を父上と呼ぶようにした。

こいつクソ野郎かと思ってたけど、意外と子煩悩らしい。最近は家計に余裕があるので、関係のあった平民の娘を引き取って子供もろとも育成しているようにしているらしい。

紋章欲しさに子どもを作ったは良いが、金がないせいで捨扶持になっていたのを後悔していたとのこと。うーん。やっぱりクソだわ。

とは言え紋章持ちが居ないと、貴族家として困窮するからどうにもならなかったんだろう。実際、義兄達はそういった小さな領主のお嬢さんたちとの結婚が決まり、移動したその日から農業三昧らしい。良いなぁ。私もそっち行きたい…。

義兄が婿入りすれば、莫大な金がうちからその領地に入るから引く手あまただとか。でもそいつら農業脳かつ、商業脳だからね。金を稼ぐ能力は高いんだ。そっちの方が大事だと思うけどね。

で、父上が引き取った娘さんやその子どもたちは我々で手分けして教育している。できれば魔法使いが欲しい。

 

三つ目、有能な魔法使いもたくさん手に入った。

特に優秀なのは自分から売り込んできたコンスタンツェというお嬢さん。魔法に関する基礎研究をしつつ、農地や戦時の使い方といった応用についての議論も意欲的だ。

最近はそこにフェリクスも混ざってきて、有意義な議論が行われている。アンジェリカは魔法が得意なので、コンスタンツェに特になついているようだ。

いずれ家を再興する?良いじゃない。ロマンがあって。いずれ出ていく?良いじゃない。お家再興を為した暁にはうちの領と取引しようぜ!

何ならプライデリ男爵を乗っ取っちゃってくれても問題なし。え?どういう意味かって?そのままの意味だけど?

あれ?何?イングリットさん!?頭を掴まないで!潰れる!アウレリア助けて!

 

四つ目、王国上層部から詰問の使者が来た。

これは父上だけに任せるのは申し訳ないので私も対応する。

元騎士を雇い、軍を強化するなんて王都への反逆かだって?はぁ?バカなの?

お前らが何の考えもなしに貴族家を取り潰すからそうなったんでしょ。うちが元騎士雇わなかったら王国全土の治安が終わって物流網が完全に死んでたと思うんだけど、その自覚ある?文句があるならお前らが対処しろよ。無能がよ。怒った?怒っちゃった?でもお前らが悪いんだよ?

ていうかさぁ。中央集権したいというのは分かるけど、今のお前らにそんな実力あるの?うちみたいな小さい領を目の敵にした結果がこの間の反乱なんだけど自覚ある?全部お前らのせいで、お前らの尻拭いを小領の私たちがしているの。理解したか?できないならずいぶん小さい脳みそだな?

 

そんなことを言ったら何かブチギレて帰っていった。コルネリアだっけ?おもしれーババア。ウケる。

珍しく強気に出たけど大丈夫だと思う。今の王国にうちを征伐できるだけの力はない。何よりフラルダリウスやガラテアあたりがそれを許さない。東部と西部で仲が悪いらしいけど、うちはそうじゃないんだ。ゴーティエとも仲良くしているからな。下手をしたら王都を逆に包囲してリュファスを強制的に排除し、ディミトリ王子を王としてすげ替えるということもやろうと思えばできるかもしれない。

いや、やらんけどね。

そんな博打を打たなくても、プライデリ家は十分影響力を持ったし、このままさらに経済圏を拡大するだけでいい。時間は私たちの味方である。焦ることはない。だから父上、あんなババアにビビる必要はないですよ?

 

まだある。五つ目、そのディミトリ王子と帝国のエーデルガルト皇女は同じ年の生まれらしい。

これ絶対何か起こるでしょ。

ファイアーエムブレム風花雪月はプレイしていた。でも内容は覚えていない。ただ先生がいて生徒がいた気がする。そして先生が選んだところが勝つ。私が覚えているのはこの程度だ。

先生がいて生徒がいるとしたらそこは学校。だが、この世界に学校は幾つかある。何ならうちの領だって学校を各地に作って人材育成をしている。でも、たぶんこれではないだろう。怪しいのはガルグ・マク修道院の士官学校。

あそこは3か国の有力者を呼び込んでいる。先生が居るとしたら多分ここ。

となるとここを調べるのにうってつけの人材が居る。というかもう既にある程度調べている。新しく教師になった者は居ないそうなので、世界を動かす先生は居ないということだ。

あれ?フェリクスにシルヴァン?どしたん?え?学園に行く?イングリットも?あ、私もですか。あ、はい。

ううむ。アウレリアを連れて行くと母上とアンジェリカが不安である。

とは言っても、もはやプライデリ家でうちの母上やアンジェリカに危害を加えようとする者は居ないだろう。

あるとするなら義兄のミハイルかその実の母か。

一応不穏分子がいるから備えたいんだよね。年齢的にはアウレリアが学園に行って私が備えるべきだが……。

あ、そうですか。フェリクスさん。私も来いと。拒否権は……あ、無いのね。

まあ私も先生を見極めないといけないから学園には行きたかったし、まあ良いよ。しかし、そうなると領地の事はどうするかなぁ…。いずれ独立する気のコンスタンツェは箔をつけるために入学させたいところだし、アウレリアはママンとアンジェ、後は男爵領の人たちを守ってくれ。良いの?すまんね。デオドラは…また連絡役だな。出来るだけ各国の情報を抜くから父上に報告を頼んだ。

あ、連絡役はアウレリアがする?代わりに母上とアンジェには指一本触れさせない?お、おう。やる気があって助かる。

 

更にまだある。六つ目。

うちの農業専門の魔法使い部隊は、戦場の陣地構築をする工兵隊に進化しました。

いや。これはでかいですよ?平地であっても準備さえすれば、相手の兵種の情報を知った上で、こちらに有利な地形に改編して戦える。

農業専門部隊からの分派で、ある程度戦えるか、逃げ足の速い連中を集めた。工兵隊は戦うのが仕事じゃないからね。寧ろ死んだらダメな部隊だ。命大事に。それがうちのモットーです。

お前ら育てるのに金がいくらかかったと思ってんだ…勝手に死ぬんじゃないよ…

と言ったら何かやる気上がっててウケる。

忠誠?いらんいらん。要らんから仕事をしてくれ。お前らの仕事は死ぬことではなく死ぬほど働くことだ!

 

―――――

 

『プライデリ家のやり口は目に余る』

 

そのような風評を流してしまえばそれで終わりかと思っていた。

元はただの男爵。塩が取れること以外には特段何の変哲もないところだったはずだ。

先の西方貴族の反乱のように、反乱を起こさせて暴発させてしまえば良い。それだけでどうにかなると。

 

『プライデリ家のどのあたりのやり口が気に食わぬので?』

 

ガラテア伯爵が反論をする。奴は娘をあそこに嫁がせたからそう来るのは予想済みだった。

 

『左様。かの領の産物はとても良いものです』

『スレンとの戦で派遣された将兵は優秀だったな。兵もよく訓練されている。貴族としての務めを果たしている者を何故突き上げる必要がある?』

 

フラルダリウスとゴーティエもその流れに賛同する。

会議の流れは一気にプライデリ家擁護の流れになった。

何と言う事だ。この国の摂政ですら一介の男爵家すらも思い通りにできないとは。

特にフラルダリウス家は私を敵視しているようにすら見える。一貫してディミトリを守ろうとしてきたのだからそれは当然か。

 

『しかし勝手に戦力を強化しているのは問題ではないか?』

 

それを言われると確かにという反応が増えてくる。ここにいる限られた諸侯たちの中には、プライデリの躍進を妬ましく思っている者もいる。しかし、それ以上に敵に回すべきではないとも考えているようだ。

ディミトリとその周りばかりに注目していたせいで、貴族の統制が疎かになっていた事にほぞを噛む思いだ。

 

『反乱の意があるのか使者を送れば良いのでは?』

 

それが最終的な結論だ。

使者にはコルネリアを送る。やつなら上手く図るであろう。

そのはずだった。

 

ーーーーー

 

『これは……』

 

プライデリ家について調べれば調べるほど、明るみになる事実に震えていた。

 

『これは…潰せないではないか…』

 

まず目を引くのが農業生産高の大幅な増加だ。そして彼らと関わりのある地方は全て同様に農業生産量の増加が見受けられる。

顕著なのがガラテア家で、貧困に喘いでいたはずの家が、逆に他家に金貸しをしている有様だ。しかも利率は非常に低い。

さらにプライデリを中心に広がる交易網。ゴーティエに気を遣ってか、スレンとの交易こそしていないようだが、海を使って帝国、そしてさらに南のダグザ、アルビネ、遠いところだとパルミラやモルフィスとすらも交易をしていた。

しかもその品物が王都にまで流れてきて、一部は自分自身が使っているものすらある。例えば今執務をこなしているための机はモルフィス産だった。

あのプライデリ家がもたらしたものだ。

そして私の口に入る香辛料から珍しい乾燥させたフルーツの数々もだ。

コルネリアは送った後だ。詰問をして、それでどうする?もう少し情報を精査すると、気になる情報も載っていた。そこを突くか?考えはまとまらない。

 

ーーーーー

 

「プライデリ家は何故軍備を増強していますの?」

「軍備の増強などとんでもない。治安維持のための人材が足りておりませぬ」

 

 

小賢しい小僧だ。20にもならないであろうくせに言い訳だけは一級品なのが腹が立つ。

 

「しかし、王都ではプライデリに叛意があるのかともっぱらの噂で」

「はて。当家にそのような意図はございませぬが、誰がそのような噂を立てたので」

「世の中の風評です。誰がということはありません」

「ほう?王家ともあろうものが、忠誠厚い当家よりも世のいい加減な風評を信じると?」

 

狸め!内心で罵倒する。

小僧の横に居る男爵は、表情に焦りがでているが、代理で話を進めている小僧の目に感情の揺れはない。

 

「しかし、プライデリ家ではダスカー人を保護しているとか…」

「彼らは家を失い、当家を頼った者たちです。見捨てれば当家が軽く見られましょう。見捨てられませぬ」

「しかしダスカー人は王国の敵で…」

「そのようなことを誰が決めたので?」

「は?」

「私、王国の法に目を通しておりますが、ダスカーの民を見たら打ち殺せなどという文言は、寡聞にして見たことはございませぬな」

「では今すぐその法とやらを作りましょう」

「…はぁ」

 

腹が立つ。

小僧があからさまにこちらを見下して鼻を鳴らす姿をみると、頭に血が上るのが分かった。

 

「ああ、書記官どの?一度記録のすり合わせをお願いしますよ?」

 

やりにくいことこの上ない。

机の上には妙な機材が置かれ、互いに用意した書記官が会談の内容を逐一メモし、一定期間ごとに齟齬がないか確認をすることになっている。

 

「ここの部分はかなり感情的になっていませんか?事実を記録してください」

「こちらの記録と違います」

 

相手の書記官はひたすらこれを続けてくる上に極めつけはこれだ。

 

「良いでしょう。議論の記録があるのでもう一度聞き直しますか?」

 

一度話した内容はあのバカでかい機材で完璧に記録されるらしい。何というものを作ったのか。言った言わない論争は古来より権力者の都合の良いように使われてきた経緯がある。それが通用しない。

 

「言っておきますが、記録は少なくとも百年は残りますからね。ああ。壊すようなことをすれば、国に弁済を求めますよ。これだけのものです。賠償金がいくらになるか考えたくもありませぬな?」

「しかし…」

「王国法では人のものを勝手に破壊すれば罪に問われたはずですが、違いましたかな?ああ。勿論このやり取りも記録されておりますな。これを聞いた諸侯の皆様方がどのように考えられましょうや」

 

クソっ。こんなものがあるなんて聞いていない。しかもご丁寧に記録まで再生してきやがった。見事に互いの会話が記録されている。

そして相手は言質を取らせない。逆に言質を取らせない証拠まで取ってくる。その上、その証拠を各貴族家に公表するとまで言うのだ。

 

「プライデリ家が王国に対して叛意がないことは分かりました。しかし、王家、並びに周辺貴族はプライデリ家が力を持つことを恐れております」

「力を持つとはどのようなことで?」

「まずは騎士たちを雇用したことが問題です」

「王国法に元騎士を雇う場合、誰を雇い、どのくらいの数を雇ったか知らせる義務はありましたかな?」

 

これだ。

私は唇を噛む。勿論そんな法は無い。

 

「それに我々は王国の治安維持のために元騎士たちを雇っているのです。このご時世、多くの貴族が困窮するなかで、戦にしか使えない騎士を雇える家は限られております。それも悪さをしてしまえば、人となりを調べる手間が出るため、余計に採用も難しい。彼らとて、好きで悪を為しているわけではありませぬ。盗みや殺しをせずに生活できるならそれを望むでしょう。ゆえに我々はそのために元騎士たちを優先して雇っているのです」

「しかし、それでは…」

「そもそも王家が見境なく西部貴族をはじめ、多くの貴族を取り潰したからこのような浪人が増えたのでございます。勿論取り潰される側にも問題があるでしょう。しかし、それで職にあぶれたものをどうするのか考えた上での処置でしたかな?」

「……それでも反乱は見過ごせません」

「そうでしょうとも。それは我々も否定はしませぬ。しかし、それで職にあぶれた者たちをどう扱うのか、事後処理をきちんとされましたかと聞いておるのです。はっきり言って、さんざん散らかしたまま後始末をしないのでは子どもの遊びと何らかわりませぬ」

「ご政道を子どもの遊びと言うか!無礼な!」

「無礼だなどと怒る前に、きちんと始末をつけろと言っております。現にダスカーの件以降の我々の領で出た被害額、犠牲者の数、それ以前の2倍の数では足りませぬぞ?この始末をどうつけるおつもりか?それもせずに見て見ぬふりをする方が無礼でございましょう。それに我々は迷惑しておるのです。中央集権を目指されるのは結構ですが、法制度も領主の役割も明確にされないのでは困るのは地方領主です。誰が異民族や帝国、同盟と対峙しているとお思いか?それとも王家が戦に関して、全ての責務を負ってくださるのか?」

「しかし、戦力の拡充を勝手にするのは…」

「であれば当家が雇った人材を相応の待遇で王国で雇いなさればよろしい。勿論当家で召し抱えた条件以上を保証していただきたい」

 

ガキがそう言いながら出してきた書面には、新規で召し抱えた騎士たちの待遇が丁寧に記載されていた。

 

「このような条件で雇えるわけがなかろう!」

 

一般的な王国の騎士の3倍の扶持に、仕事中の怪我や死亡時には見舞金が上乗せで支払われ、騎士の家族に至るまで、病にかかった場合の治療にまで言及が及んでいる。

その条件を見て、王都から連れてきた文官が怒りの声を上げた。

 

「であれば当家が雇うしかありませぬな?これは当家が出している最低の条件でございます。これを下回るようでは、当家が吝嗇なせいで王家に人材を押し付けたのだと見られてしまいます。それは許せませぬ」

 

それで詰問のはずだった使者が逆に詰問をされるという失態を犯したのだった。

 

「ああ。今回の会談は全ての領主に内容を送らせていただきます」

「何!?」

「当然でしょう?他家の領主の皆様とて、どこまで人を雇えば軍備増強と判断されるのか知りたいでしょうな。王国の法に明記されておりませんから」

 

この後のゴタゴタを想像して王国の文官達は顔を青くする。これは完全に我々の敗北だった。




口調変わってるけど、ちら裏だし。良いよね?
ダメ?
知らんわ(手のひら返し)
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