日本刀___世界中の武器の中でもその切れ味は類を見ない。
製造方法も特殊で鋼を叩いて伸ばしては折り曲げるを何度も何度も繰り返す。
その果てに、折れず、曲がらず、よく切れる刀が出来上がる。
しかし、切れ味が良いと言ってもその効果は持ち主の練度に依存する。
巻藁五本をバターのように切ってしまう者もいれば一本すらも切れない者もいる。
それほど練度によって差が出る武器なのだ。
しかし言い換えれば熟練者が持てば刀は比類なき強さを発揮する。
_____男は体中に切り傷を作っていた。
もはや男の体に切り傷がない部位はないだろう。
妖夢は日本の刀を構える。
右手に大刀、左手に小刀。
二つの刀から繰り出される連撃に男は苦しめられていた。
妖夢の腰が落ちる。
次の瞬間、大刀による横薙ぎの一閃が男の首元に迫る。
男は瞬時に腰を落として躱すが、すぐさま小刀が下から迫る。
男は体を反らす。
切っ先が顎先を掠め、鮮血が散る。
男は後方へ跳び、距離を取る。
妖夢は追撃しない。
その場で二刀を構え、出方を窺っている。
男は地面を蹴った。
男は踏み込み、妖夢の懐に入ろうとするが、二本の刀がそれを許さない。
男の踏み込みに合わせて大刀が横から迫る。
男は跳び、大刀の攻撃を躱す。
すぐさま小刀が宙にいる男の胴を目掛けて迫る。
半身になることで何とか躱すが、着地を狙ってすぐさま大刀が頭を目掛けて迫る。
何とか大刀の側面を蹴ることで躱す。
妖夢は弾かれた大刀につられてバランスを崩す。
好機___
男は妖夢の頭部目掛けて拳を放つが、拳を放った腕に横から小刀が迫る。
すぐさま男は拳を引き、小刀のカウンターを躱す。
男は後方に下がり、一度息を整える。
まったく隙が無いのだ。
「どうしました?威勢が良かったのは最初だけですか?」
妖夢は挑発してくるが、それに答える余力は男にはなかった。
男は視線を横に向ける。
妖夢との戦いで桜の枝が切られている。
男は枝を手に取り武器にする。
武器に対抗するには武器で対抗する他ない。
男はそう考えた。
「......正気ですか?」
妖夢は不機嫌そうに言った。
男は枝を妖夢に上から下へと叩きつける。
しかし、枝が妖夢に達する前にいとも容易く枝は切られてしまう。
「あなた、武器の扱い慣れていませんよね?攻撃が単調で何を狙っているかすぐ分かります」
男が杖術を学び始めたのはまだ数か月前だ。
そんな付け焼刃の技術が達人に通用するわけもなかった。
万事休すか___
男がそう思っていると。
「やれやれ、私の教えはどうしたんですか」
後方から声が聞こえた。
声の方を見るとそこには、青龍刀を持った美鈴がいた。
「美鈴!?なぜここに!?」
「お嬢様からの命令です。博麗の者どもを助けてやれとのことです」
「どういうことだ?」
男は質問を続ける。
「何やらあの紫とか言いましたっけ?その妖怪と交わした契約らしいですよ」
紫は異変の後、レミリアに課した規則がある。
一つ、“賢者”の許可なく人間を殺害、傷つけることを禁ずる。
一つ、眷属を作ることを禁ずる。
一つ、正当な理由なく、他種族との敵対を禁ずる。
そして最後の一文、レミリアが驚きを隠せなかった一文だ。
一つ、今後の異変解決に協力する事。
「行きますよ神主さん、『まず、対武器の基本を思い出して』」
◇◇◇
霊夢は石段の頂上にたどり着いていた。
そこには貴族が住むような立派な日本庭園があった。
庭の手入れは行き届いており、その景観に目を奪われる。
その庭園にひと際異彩を放つ桜が一つ。
他の桜の木とは比較にならない大きい桜の木だ。
「きれいな桜でしょ、まだ六分咲きなんだけどね」
霊夢が桜に見惚れていると、横から声がする。
視線を移すと桜色の髪に水色の着物を着た女性が立っていた。
「ええ......思わず見とれてしまったわ」
霊夢は答える。
「桜の木の下には死体が埋まっているって話知っているかしら?」
「いいえ、初めて聞いたわ」
「ある人が言ったの。美しい桜はその下に死体が埋まっていて、そこから養分を吸い取るから美しく咲くのですって」
「......その話を聞いたのが花見の時じゃなくてよかったわ」
霊夢は苦虫を嚙み潰したような表情をする。
「その人が言いたいのはつまるところ、美しいものの影には醜さがあるってことみたいわ。光があれば影がある。勝者がいれば敗者がいる。生があれば必ず死がある。」
「なるほどね、一理あるわ」
着物の女性が霊夢の方を見る。
「これだけ美しいこの桜、西行妖の下には一体何が埋まっているのかしらね。」
「さぁね、徳の高い僧でも埋まっているんじゃない?」
霊夢はあっさりと答える。
「私はそれが知りたくて春を集めたの。この桜は満開にならないように封印がされているの。恐らくだけどその封印の媒体となっているものがこの桜の下に埋まっているわ。だから逆に考えたのよ。この桜を力ずくで満開にすればこの下に埋まっているのが何なのか分かるんじゃないかってね」
着物の女性は神妙な面持ちで言った。
「つまるところ、自分の好奇心を満たすために幻想郷の春を奪ったってことでいいかしら?」
「ふふ、そういう事になるわね」
着物の女性は軽く笑い、先ほどまでの真剣な表情見る影もなくなっていた。
「どちらにせよ私がやることは変わらないわ。幻想郷の春を返しなさい」
霊夢は構える。
「私はあなたが持っている春を使ってこの桜を満開にする」
着物の女性___白玉楼の主、西行寺幽々子は霊夢に宣言した。
「花の下に還るがいいわ、春の亡霊!」
「花の下で眠るがいいわ、紅白の蝶!」