___金属がぶつかる音が響く。
美鈴の青龍刀と妖夢の日本刀が激しくぶつかる。
「私がこの辻斬りの相手をしている間に相手の癖を見切ってください!」
「誰が辻斬りですか!」
妖夢は声を荒らげながら美鈴に斬りかかる。
「二人掛かりじゃダメなのか!?」
「得物持っている状態だと邪魔です!誤って斬ってしまってもいいならどうぞ!」
男は大人しくすることにした。
こうして客観的に見ているといくつか分かることがある。
まず基本責めの起点は大刀__楼観剣の方だ。
小刀である白楼剣は二撃目か防御、またはカウンターに使っている。
そして二つ目。
休みなく繰り出される二刀の連撃、一見隙の無いように見えたが一本の刀を片手で扱う特性上、振り始めが若干遅めである。
付け入る隙はここだろう。
男は脳内でシミュレーションする。
そのシミュレーションが終わったその時。
____カキン
美鈴の青龍刀が彼方に弾かれる。
「さぁ、神主さん。出番です」
美鈴は後方に下がり、男が前に出る。
「懲りずに来ましたね」
妖夢は二刀を構える。
「結構しつこい男なんだ、私は」
男も構える。
妖夢が斬りかかる。
大刀による袈裟斬り。
男は体捌きで躱す。
すぐさま小刀による首目掛けた横からの一閃。
男は腰を落とし避ける。
そして次に楼観剣の頭への振り下ろし。
__ここだ。
男はすぐさま踏み込み間合いを詰める。
そして妖夢が刀を振り下ろし始めた瞬間、男は左腕を差し出し、その手首を迎えた。
対武器の教え___攻撃の出始めを抑える。
そして、男は攻撃を受けるのと同時に手首で“返し”を作り、妖夢の手がすぐに引けないようにする。
男はすぐさま右の手で楼観剣を持っている手を包み込み、さらに上から左手で包む。
そしてその手首を男の左側に捻りながら奥へ倒す。
「っつ!?」
次の瞬間、妖夢の体が反時計周りに宙を舞った。
否、妖夢は自ら跳んだのだ。
そうしなければ、妖夢の手首が壊されていただろう。
そのまま妖夢は地面に落とされる。
さらに手首に圧を掛けられたことにより妖夢は楼観剣を落とす。
すかさず男は蹴りを放ち楼観剣を彼方へ飛ばす。
合気道の技の一つ“小手返し”
逮捕術等の様々な護身術に取り入れられる制圧技。
合気道の中でも序盤に習う基本技、故に原理もシンプルでとっさに技を掛けることが出来る。
『まだやるかい』
男は妖夢に問う。
「まだまだ!」
妖夢はすぐさま立ち
白楼剣で反撃する。
男は容易く攻撃を受け止め、白楼剣を持っている腕に自身の左腕に絡める。
そして妖夢の胴に膝を入れる。
「ぐっ!?」
妖夢の横隔膜が痙攣、呼吸が出来なくなる。
男は右手で妖夢の髪を掴み、膝を後ろに引く勢いを利用し、手前に倒す。
妖夢がうつ伏せの姿勢で地に伏せる。
すぐさま男は妖夢の背中に膝を乗せ、体重を掛ける。
妖夢の左手首を極め、白楼剣を取り上げ、制圧。
『まだやるかい?』
男は再び問う。
「......参り......ました」
こうして妖夢と男の戦いは幕を閉じた。
◇◇◇
___桜の木の下で紅白の蝶が舞う。
紅白の蝶こと霊夢は幽々子から繰り出される濃密な死の弾幕を躱す。
幽々子が放つ攻撃は蝶のような形をしており、その攻撃は決して速度の速いものではなかった。
しかし速度が速くないから避けやすいかというとそうではない。
蝶の形をしたエネルギーの塊は不規則に舞い、その軌道は読めない。
また速度が遅いことからその密度は濃く、避ける場所がどんどんなくなる。
そして何より、この攻撃は異質だ。
先ほどから霊夢の勘が警鐘を鳴らし続ける。
この攻撃には当たるな__
生死に直結する、霊夢は全力で警戒する。
更に問題なのが幽々子の倒し方だ。
西行寺幽々子。
種族、亡霊。
幽々子には生命がない。
故に命を刈り取る事での勝利はない。
そうなると方法は限られてくる。
霊夢が選んだのは結界術による封印。
霊夢は呪符を飛ばし結界を張ろうとする。
しかし、幽々子の出す蝶の攻撃に結界が触れた瞬間、結界が割れる。
「チッ!」
霊夢は苛立ちを隠せず舌打ちした。
蝶による攻撃のエネルギーに結界が耐えられないのだ。
「もっと強固に練りこまないと......」
しかし、いくら天才と謳われる霊夢でもこれ以上に強固な結界を張るには時間が必要になる。
「くそっ、時間が足りない!」
珍しく霊夢が表に出る形で焦燥する。
無理もない。
霊夢は掠るだけでも死に直結する攻撃を避けながら、強固な結界を張らなければならない。
いくら天才でも人間であることには変わらないのだ。
更に霊夢は幽々子の攻撃を避けることに相当な集中力を割いている。
霊夢の集中力が途切れかけた瞬間、どこからか声がする。
「どうやら“時間”が欲しいみたいですね。巫女さん」
声の方を見るとそこには完璧で瀟洒なメイド、咲夜がいた。
「あらあら、悪魔のお犬さん。ここは畜生が来ていい場所ではなくてよ?」
幽々子は咲夜に挑発するが__
「あいにく死人に耳を貸す主義はなくてよ。死人に口なしって言葉ご存じかしら?」
___咲夜は幽々子に倍で返す。
「何の用よ、咲夜」
「お嬢様のご命令で、助太刀致しますわ。」
「ああ、そう。感謝するわ」
「ふふ、今回は私の時間は貴方の物、十六夜咲夜をどうぞ上手にお使いください」
紅霧異変で命を賭けて戦った二人が、命を賭けて幽々子に戦いを挑む。
◇◇◇
___幻想郷のどこか。
八雲紫は冬の間眠りにつく。
紫程の大妖怪とはいえ休息は必要なのだ。
活動している間、妖怪の賢者と称えられる頭脳を最大限活用し、幻想郷を管理している。
その負担は大きく、冬の間は体を休ませるのだ。
その間、紫の式である八雲藍が職務を代行する。
八雲の居城に、本来いるべきではないネズミ___もとい人間が一人。
「......何の用だ、先代」
藍は先代を睨み、不機嫌そうに尋ねる。
「紫に伝えたいことがあって来た」
九尾の狐とは国をも傾ける力がある大妖怪だ。
普通の人間であれば、睨まれただけでも失神してしまう。
しかし、先代は少しも怯まず答える。
「そうか、今紫様はお休みになられている。早急に立ち去れ」
取り付く島もないとはこのことだろう。
しかし、先代は言葉を続けた。
「このままだと西行寺幽々子は____
___消滅するぞ」