___涼しい風が髪を揺らす。
夏特有の疎ましい暑さは感じず、虫の鳴き声は静かで騒音は一切ない。
年々気温が増している昨今、ここ数年の中ではとても過ごしやい温度である。
空を見上げれば青い空が一面に___ない。
青とは相容れない一面の赤、さらには霧。
十丈先も見えない濃い霧だ。
男は言葉にできない気持ちの悪さを感じていた。
「...なんだこの霧、とてもじゃないが普通の霧とは似ても似つかないぞ...」
周囲に誰がいるわけでもないが無意識に声にだしてしまう。
そのぐらい気味の悪いものであった。
「結局あいつら、先走りやがった...」
あいつら__つまり魔理沙と霊夢だ。
準備を整えるや否や、各々出発してしまった。
「さて、私も解決に向かわねばならないが...どこに向かおうか...」
霊夢と魔理沙、二人はこういった異変などを解決することは初めてではない。
霊夢は巫女としての才覚が飛びぬけている。
巫女としての能力なのかは分からないが霊夢の”感”というのはもはや予知の域でありつまるところ、思うが儘行動すればいつか正解にたどりついてしまうのだ。
魔理沙にあっては魔法という未だ男にとってあまり理解できない力を行使することが出来る。
魔法というのは、魔力というエネルギーから様々な効力を得られる術だ。
無から何かを生成したり、物体を浮かせたり、それこそ多少の天候を操作したりなんでもありだ。
ただ魔理沙から言わせれば
そんなに便利なものじゃないんだぜ?
とのことだ。
「私からすれば空を飛べるだけで便利だって...」
そう、男は飛べないのである。
この幻想郷に住まう人間、妖怪その他の種族は方法は違えど基本空を飛べるものだ。
しかし男は違っていた。
巫女や神主といった者が基本的に備える力、霊力。
代々博麗神社の巫女や神主はその力を利用し、結界術などを行使する。
霊夢が空を飛ぶのもこの力だ。
ただ、男はこの力の制御が著しく苦手であった。
使えない訳ではないのだが、簡単に表すと雑なのだ。
空を飛ぼうとすればあらぬ方向に瞬時に放りだされてしまう。
「私も空を自由に飛んでみたいものだよ...」
そんな愚痴をこぼしながら走っていると、目の前にオオカミ___のような化け物が視界に入った。
少年を追い回している__
「マズい!」
男は瞬時に腰を落とし、脚に力を込める。
そして、地面を蹴った__
瞬間男がいた場所の土は抉れ、土煙が舞う。
疾風の如く男は化け物に近づく。
腰を捻り、その力は肩、腕へとつながり拳へ
その拳は化け物の頭部に放られた___
「大丈夫か、少年」
霊夢は気だるげに空を舞う。
「まったく、こんな面倒くさいことを起こしたのはだれなのよ。ただじゃおかないわ」
縁側で茶を啜る、ささやかな幸せを噛みしめる時間を奪った誰かに対し、霊夢は憤りを感じていた。
見つけたらどうしてやろうかなどを考えていると周囲が暗くなっていることに気付いた。
先ほどまで昼である、夜まではまだまだ時間があるはずだ。
しかし周りは夜を思わせるほどに暗くなっていた。
「あんたがこの異変の犯人?」
霊夢は目の前の少女に問う
少女は髪は金色で首元まで伸びている。
頭には小さいリボンをしており、この暗さでは保護色となり見えづらい、そんな色のワンピースを着ていた。
「おねーさんだーれ?」
少女は無邪気に返す
「質問を質問で返すと零点って寺子屋で教わらなかった?」
霊夢は苛立ちを隠せず__隠さずに言う。
「寺子屋?ああ、あの人間の小さい子どもがいるところね」
そして少女は口元を歪ませながら言う。
_____あの美味しそうな人間がいるところ
霊夢は瞬時に構える。
右手には使い古されお祓い棒、左手には呪符を。
「これは異変に関わっているかどうかはおいといて、どの道痛い目見てもらう方がよさそうね」
箒にまたがり空を駆ける少女が一人。
「うう...ちょっとこの辺寒すぎやしないか?」
白と黒を基調とする少女、魔理沙は湖の上を飛んでいた。
ここは霧の湖を言われる場所。
常に霧が立ち込めることからそう呼ばれている。
ただ今日は少し違った___
「いくら霧の湖でも霧が濃すぎるな...」
空一面を紅色に染めている霧の異変は、この湖にも影響を与えていた。
普段から霧が発生しているこの湖の霧をさらに濃くしていたのだ。
おまけに赤色を添えて。
その影響で周囲の気温は夏とは思えないほどに下がっていた。
「半袖でこの気温は厳しいぜ...」
そんな一人事に対して声が返ってきた。
「この程度の気温で音を上げるなんて、人間はびょーじゃくね!」
青色の髪に背には羽のような氷の結晶。
背丈は寺子屋に通う子どもとそう変わらないだろう。
初めて見るものには妖精を思わせる、そんな少女が仁王立ちで立って__浮かんでいた。
「悪いけど妖精さんに構っている暇はないんだ、また今度な、チルノ」
魔理沙は先を急ごうと無視しようとするがそれは透明な壁によって妨げられた。
「アンタになくても私にはあるのよ!」
チルノと呼ばれた少女は魔理沙に言う。
「お前!危ないだろ!いきなり攻撃するな!」
先ほどの壁はチルノが作った氷の壁であった。
「アンタたち魔法使いがこの異変を起こしたんでしょ!?大ちゃん言っていた!魔法使いは天気を操れるって!」
「だからってなんでいきなり私が犯人扱いされなきゃいけないんだよ!?私じゃないし、あとなぁ、皆勘違いしているけど魔法はそんな便利なものじゃ...」
魔理沙の言葉が最後まで言い終わることがないうちにチルノは氷塊をこちらに放ってきた。
「犯人はみんな自分じゃないっていうのよ!」
チルノは聞く耳を持たない。
そこに緑色の髪をしたチルノと同じ背丈の少女__妖精が一人。
「やめよう!チルノちゃん!」
チルノに対して攻撃をやめるように促す。
「なんで!?どう考えても犯人だよ!?」
「先生言ってたでしょ?『疑わしきは罰せず』って、まだ決まってもないし、魔理沙さんがそんなことしてなにになるの?」
大ちゃんと呼ばれている妖精は必死に止めるがチルノは聞く耳をもたない。
「分かった、分かった。そしたら私は全力で否認をするだけだな!」
魔理沙は右手に八角形の魔道具を構える。
ミニ八卦炉 山一つを焼き払う火から一日中じっくり煮込むとろ火
まで火力調節が可能 魔理沙の愛用するマジックアイテムだ。
「本性を現したわね!たいほよたいほ!」
「知っているか、逮捕って三種類あるんだぜ?お前のはどの要件にも当てはまらないけどな、わたしのは”暴行未遂の現行犯”逮捕だぜ!」