___霊夢の横を銀色の何かが掠める。
一見装飾品のような美しい光沢を放ちながら飛来してきたソレは、相容れないはずの殺意が込めれられていた。
「なかなか物騒な物をお持ちのようで」
霊夢は咲夜の手に握られている銀色に輝くナイフに視線を寄せながら言った。
「食材を刻むことから、お呼びでないお客人のおもてなしまで。メイドにとっては無くてはならない必需品ですわ。」
再び咲夜の手からナイフが放たれる。
熟練された人間から放たれる刃物というのは中々の速さを持つ。
常人が避けるのは困難だろう。
しかし、霊夢は常人の域を優に超えた人間だ。
難なく霊夢は身を翻し避ける___はずだった。
「ッツ!」
霊夢は痛みの場所を確認する。
足の甲には先ほどまで数寸離れた位置にあったはずのナイフが深々と刺さっていた。
霊夢はすぐさまナイフを抜くのと同時に結界術の応用で止血。
最低限の傷で済ませる。
「あなたメイドより奇術師でも名乗ったら?」
「あら、そんな田舎臭い呼び名はよしてください。マジシャンというのですよ。」
霊夢は言葉を投げながら考える。
確かにナイフが自分に当たるまで十分に避けられるまでの距離はあったはず。
距離を見誤った?幻覚系の能力か?
「戦いの最中に考え事だなんて、ずいぶんと余裕ですのね、博麗の巫女」
気付けば、咲夜が視界から消えている。
後ろだ
霊夢の勘が危険信号を鳴らす。
すぐさま霊夢は素早く前転し、回避行動を取る。
どういう理屈だ。
咲夜は目の前にいたはずだ。
無論目は離していない。
幻覚の線を疑って霊力での探知も最大限発動している。
「さて、種も仕掛けもないマジック、楽しんでいただけているようでなによりですわ」
咲夜が軽く微笑みながら言う。
このまま後手に回り相手のペースに乗るのはまずい。
霊夢は呪符を放つ。
それを咲夜は難なくナイフではじき落と____せない。
呪符は濡れた和紙のようにナイフにくっつき、離れない。
咲夜は危険を察知し、ナイフを手放す。
数秒後、呪符は爆発。
霊夢は畳みかける。
爆発に目を奪われた咲夜の足元に針を飛ばす。
命中。
針には特殊な施工がせれており、霊夢の霊力によりさまざまな効力を発揮する。
「っ!足が動かない?」
咲夜は唐突に訪れた足の痺れに驚きを隠せない。
「その針には毒は塗ってあるわ。強いものじゃないけどまぁ五分ほどは動けないんじゃない?」
毒という言葉は人間を本能的に恐怖させる。
そして五分という時間がいかに戦闘中に致命的か、某氷の妖精以外には理解できるだろう。
その動揺が隙を生む、毒という嘘はその隙が生まれることを狙った霊夢のブラフだ。
霊夢は咲夜の能力を”速さ”に関する能力と踏んだ。
先ほどのナイフが霊夢が反応できずに当たってしまったことにも理由が付く
手に持っている銀色のナイフは光が反射し、見えづらくさせたり、分かりやすく視界から消えた後背後に回ったりと、言動から何かしら種のある能力がある___そう思わせその実、単純な能力が本命。
霊夢は今までの戦闘から相手をそう分析した。
故に機動力を削げる効果を付与した。
「なるほど、しかし一つ疑問が浮かびました」
咲夜は言う。
「何?まぁこれから死にゆく者の慈悲として一つくらい答えてやろうじゃないの」
霊夢は嫌味を込めて返す。
「それではお言葉に甘えて」
______どうしてもっと致命的な毒を使わなかったのかしら?
背後から咲夜の声がする。
馬鹿な ありえない
いくら優勢になったとて、完全に油断するほど霊夢は間抜けではない。
目は離していない。
咲夜は霊夢の背後からナイフを突き刺した。
「それほど強力な毒は貴重?はたまた毒事態が嘘で能力の関係で致命的になり得ない?」
霊夢はその場から跳ね、咲夜から距離を取る。
背中が熱い。
再び結界術で応急処置をするが、明らかなダメージを受けた。
「あら、まだそんなに動けるの?」
咲夜は霊夢に歩み寄りながら言う。
「この程度でくたばってちゃ、巫女は務まらないのよ」
霊夢も軽口をたたき、いかにもダメージがないかのようにふるまう。
戦いとは実際の肉体的なダメージの他に、精神を摘む心理戦でもある。
想像してみてほしい。
自分の全力の攻撃がクリティカルヒットしたとしよう。
極端な例えだが相手が怯み、涙を浮かべるのと、ニヤリと笑みを浮かべ構えを取り直す。
同じダメージだが、この後の自分の戦意は天と地の差であろう。
霊夢は咲夜が歩み寄る分だけ距離を取る。
相手の能力が分からない以上、むやみに近づくのは愚策だ。
「あらあら、そんなに逃げちゃって。でもそれ以上は逃げられないわね?」
コツっと霊夢の背中に館の壁が当たる。
おかしい、霊夢は自分がどこにいるか、気にしながら立ち回っていた。
確かにまだ壁まで距離があったはずだ。
自分の中に潜む恐怖心が距離感を狂わせた?
それとも____
「さて、これで終わりにしましょう」
咲夜はナイフを宙に放った。
一本、五本、十本、二十本...
一体何本あるだろうか。
そこにはナイフの群れがあった。
メイド秘技『殺人ドール』
それが一斉に霊夢向かって放たれる。
さすがにいくら霊夢といえどこの量のナイフを躱しきることは不可能。
咲夜が勝利を確信した次の瞬間
霊符『夢想封印』
霊夢の周りからまばゆい閃光が放たれる。
その閃光はあまりにまばゆく、咲夜の視界を遮る。
咲夜が霊夢の姿を認識したとき、ナイフは全て地に落ちていた。
「お見事、でも状況は変わりませんわ」
以前咲夜の優勢
追い詰めた霊夢をゆっくりじっくり攻撃し命を絶つだけ。
「いえ、終わりよ」
気でも違ったか、死を目前にそうなる者は多い。
人間は命の危機などに瀕したとき、その状況は危険でないと思い込もうとする。
生存性バイアスというやつだ。
咲夜が霊夢に攻撃しようナイフを投げる。
しかし霊夢には届かず、見えない壁に阻まれる。
「何!?」
咲夜はこの戦闘において初めて動揺をみせた。
周囲を見ると咲夜を中心に、立方体の角に位置するところに呪符があった。
「最初はただただ速さを操るとかそんな能力かと思ったのだけれど。まさか時間を飛ばしたり止めたりしていたなんてね......どういう理屈よ」
霊夢は普段の落ち着きを取り戻し、咲夜に言った。
「......いつ気付いたの?」
「さっきよさっき。決定打だったのは壁に背が当たった時ね」
時を操るということは空間を操るに同意義である。
昔、紫からそんな話を聞いていたことを霊夢は思い出す。
あの時は
何言ってんだコイツ
ぐらいにしか思わなかったが実際に体験し、天性の勘が理解を可能とした。
「言い残すことはあるかしら?」
霊夢は咲夜に問いかける
「......この先にいるお嬢様に言伝を、『申し訳ございません』と」
「あっそ」
霊夢は結界に霊力を注ぎ___結界内は爆発した。
咲夜は満身創痍で地に伏せていた。
全身は軽度の火傷、さらには先ほどの痺れが全身ある。
しかし確実に生きていた。
「......なぜ殺さない?」
咲夜は霊夢に問う
「嫌よ、言伝なんてめんどくさいこと。しかも謝罪でしょ?自分でしなさいよ」
霊夢はそう咲夜に言い残し、その場を後にした。
「......ずいぶんとお優しいことで」
咲夜は掠れた声で呟き、意識を絶った。
◇◇◇
魔理沙は館の地下にいた。
「なんだ、ここ...すっげぇ...」
魔理沙は一面に広がる魔導書を見て思わず言葉を漏らす。
「これなんか私がずっと読みたかったヤツじゃないか」
魔理沙は魔法使いとしての本能に逆らえず魔導書に釘付けである。
「これだけあるなら一つぐらい拝借しても」
「いいわけないでしょ、コソ泥」
声の方に視線を向ける。
そこにいたのは紫を基調とした服に身を包む魔女は一人。
魔女と一目見て分かるのは体から魔力が発されているからだ。
しかも発されている魔力が通常の魔法使いのそれではない。
正真正銘、大魔法使い。
魔理沙は生唾を飲む。
「どいつもこいつも私を犯罪者にしやがって。まだ盗んでねーよ」
「まだ、ということは盗む意思はあったのね。窃盗の未遂よ」
魔理沙は自分の失言に後悔した。
昔から自分は口数が多い方でこの前も
口は災いの元って言葉、知っているかい魔理沙
などと説教を受けたばかりだ。
引きこもり店主の言葉を魔理沙は思い返していた。
「じゃあ正式に許可を得て、読ませてもらう事にしますか」
「私がなんでそんなこと許さないといけないのよ」
魔女は咳き込みながら言う
「じゃあ、許可が出るまで痛い目見てもらうぜ!」
魔法を操る者同士の戦いが、今始まる___