___人々は自ら得た経験、感情、知識を書物に書き写し、それらを共有する。
読書というのは人間の持つ知的好奇心を満たす代表的な方法と言っていいだろう。
本にのめり込むとまるで著者や本の登場人物に成り代わり、実際に経験したかのよう錯覚する事は読書が好きである者であればだれもが一度は経験するだろう。
故に、読書する場というのは第三者の介入がなく、本を読む一点以外の情報が入ってはいけないのだ。
図書館ではお静かに。誰でも知っている常識である。
ただし、現在この紅の館に存在する図書館は静けさとは最もかけ離れた場所となっていた。
「おいおい!二対一とは魔法使いとして恥とかないのか!?」
「そういうのは騎士様相手に言いなさい。魔法使いは狡猾、卑怯でナンボよ」
魔理沙は図書館の主、パチュリー・ノーレッジと交戦していた。
一体の悪魔を加えて。
「パチュリー様、あくまで私は図書館の管理をサポートする契約で召喚されているので、戦闘に参加させられるのは契約違反かと思うのですが?」
白いシャツ、黒色のベストとロングスカートを履き、この館の住民に相応しい紅の髪を腰まで伸ばした女性は言う。
頭部と背中から生えている蝙蝠の様な翼は、一見して悪魔であることを認識させる。
「図書館の管理で契約したのだから、その図書館を荒らす者の鎮圧は契約の対象内でしょ?」
パチュリーは気だるそうに答える。
悪魔はパチュリーに言いくるめられ、反論するのをやめた。
自分の今やるべきことを改めて認識した悪魔は魔理沙に向かって飛翔する。
「そういうわけなので早めにやられていただけると助かります」
そう言い終えると悪魔は鋭い爪を魔理沙に向けて振る。
魔理沙はバランスを崩しながらもなんとか攻撃を避けて距離を取る。
「それは悪手よ、見習い魔法使い」
パチュリーは魔理沙に向けて言う。
すると今度はパチュリーから魔理沙目掛けて炎でできた波を放つ。
パチュリーとその使い魔の阿吽の攻撃に魔理沙は苦しめられていた。
悪魔の攻撃を避けようと距離をとれば、パチュリーからの遠距離攻撃。
自分と目の前の魔女では魔法使いとしての力量が雲泥の差なのは嫌でも実感した。
故に遠距離での魔法の攻防に勝ち目はない。
自分が生かせるのは箒の移動による機動力。
自身に魔法をかけ、飛翔するのとは違い、箒という体より軽いものを操作し飛翔することにより、少ない魔力でより大きな出力を得ていた。
単純な飛行速度で言えば、魔理沙は霊夢より速く飛ぶことが出来る。
その機動力で接近し、高出力の攻撃を当てる。
これが魔理沙の見出した打開策であった。
しかし、パチュリーに接近すると今度は使い魔が攻撃を阻害する。
魔理沙は現状の打開方法を思い浮かべられずにいた。
魔理沙は牽制で魔力をレーザーのように放つ。
しかしレーザーはパチュリーが生成した鏡のような正方形の物体に反射され、あらぬ方向へ消えていく。
そして再びパチュリーの炎が魔理沙を襲う。
魔理沙はパチュリーの攻撃を必死に避ける。
しかし炎の波は激しく、遂には魔理沙の帽子を焦がす。
「熱っ!!」
魔理沙は体に引火することを恐れ、帽子を投げ捨てる。
なんとかこれまで炎の直撃を防げているが、その炎の熱は魔理沙の息を乱し、体内の水分を奪う。
魔理沙は徐々に、だが確実に体力を奪われていた。
「そろそろ疲れが出てきた頃合いね」
パチュリーの魔法の質が変わる。
パチュリーの周りに植物の枝のようなものが浮遊する。
そして次の瞬間、その枝は魔理沙目掛けて飛来する。
先ほどまでの炎の魔法とは比べものにならない速度だ。
魔理沙はその速度の変化に追いつけず、一つ、また一つと体に枝が突き刺さる。
「がぁ!」
思わず痛みから声が漏れる。
パチュリーは枝が命中したことを確認し、再び魔法の質を変える。
今度は魔法でできた巨大な水球を魔理沙の頭上に配置、追尾させる。
その水球からは水が雨のように魔理沙に降り注ぐ。
もはや避ける避けないの次元ではない。
空から降る雨粒を避けきれる人間はいない。
魔理沙は瞬時に魔法の雨にさらされる。
___そして
メキッ メキッ
嫌な音を立てながら魔理沙に刺さった枝が成長する。
「あああああ!!!!!」
魔理沙は痛みから絶叫する。
そしてバランスを崩し、箒と共に落下する。
地面に衝突する直前、何とか体に浮遊魔法をかけ、衝撃を緩和する。
何とか立ち上がり箒を手に取ろうとするが、痛みからか動けない。
魔理沙に突き刺さった枝の成長は止まらない。
枝は太くなり、やがてそれは蔓を伸ばし、魔理沙を雁字搦めにし、完全に動きを封じた。
動きを封じられた魔理沙にパチュリーがゆっくりと近づく。
「まあ見習いにしては頑張った方よ」
魔理沙に哀れみに似た表情を浮かべながら言う。
魔理沙はわずかに残った全ての力を振り絞る。
____じゃあ、最後まで私の努力。見てもらおうか。
魔理沙は足元のにある箒に浮遊魔法をかけ、穂先を浮かせる。
箒の穂先には、魔理沙の愛用するミニ八卦炉が嵌っていた。
魔理沙は機動力を上げるために、箒の穂先に八卦炉を仕込んでいたのだ。
そこから魔力を放つことで推進力を得ていた。
そして今、八卦炉の役割は推進力から攻撃へと変わった。
魔理沙は全魔力を八卦炉に込める。
恋符『マスタースパーク』
瞬間、八卦炉からエネルギーの塊としか形容できない光の柱が放たれる。
柱はパチュリーの全身を包む。
数秒経ち、ようやく光の柱は細くなっていき、そして消えた。
魔理沙の今持てる最大火力の攻撃だ。
しかし
光が収まると、そこには巨大な土壁がそびえたっていた。
やがてそれは砂と化し、崩れる。
____パチュリーは立っていた。
「ちくしょう、化け物め......」
「まあ人間を辞めているという点ではそうかもね」
パチュリーは魔理沙の攻撃によって立ちのぼった土煙にむせながら答える。
土符『レイジィトリリトン』
自身の前方に巨大な土の壁を形成する防御魔法だ。
「さて、今あなたの体内で成長しているその植物は魔力を吸い取り成長していくわ。そのままゆっくりお休みなさい」
魔理沙は全身の脱力を感じながら、意識を失った。
◇◇◇
___男と霊夢は館の最上階を目指し、進んでいた。
「あまりその傷で無茶をするな、霊夢」
「うるさいわね、あんたに心配される程、やわな人生を送っていないわ」
軽口を叩きながら進んでいく。
「そういえば魔理沙を見かけないが......」
「あいつならなんだかんだうまいことやっているわよ」
男の心配に対し霊夢は魔理沙に対する信頼で答えた。
気付けば館の最上階についていた。
目の前には二人の身長を優に超える巨大な扉があった。
意を決して進むと、そこは屋上であった。
周囲は暗く、時刻は夜になっていたことを表す。
証拠に空を見上げれば、満月が浮かんでいる。
____紅く輝く深紅の月が
そして、紅い月の中心に、一つの影が浮かんでいた。
「よくぞここまで辿り着いた、人間」
背丈は十歳の子どもほどであろうか、幼さを感じる。
しかし、幼さが残る容姿とは裏腹に、深紅に輝く瞳からは禍々しさが。
背中に広げた巨大な翼からは、人ならざる者の威容が。
そして、月を背負い、悠然と宙に佇むその姿からは、万人の頂点に立つカリスマが滲みでていた。
「なぜこのような異変を起こす!?」
男は問う。
「吸血鬼という種族はまさしく頂点に立つ種族!鬼の怪力を持ち、天狗の素早さを持つ!
......ただこの体にとって日光は毒でな.......鬱陶しいから遮ったまで。人間も日差しの厳しさを感じれば日傘を差すだろう?」
吸血鬼は自分は一切悪いことはしていないと言わんばかりに答える。
「だからといって他人を巻き込んでいい理由にはならないと思うけど?」
霊夢が問う
「お前らは歩くときにいちいち蟻を踏まないようにと気を使うのか?なぜ私が下等の生物のことまで気を回さねばならんのだ?」
つくづく自分以外を下に見ている態度に霊夢は苛立ちを覚える。
「さて、会話はこのあたりでいいだろう?お前らは私の行いが気に入らないから倒しに来た。私は貴様らをひれ伏させる。単純なことだろう」
吸血鬼は構える。
両手を胸の前に持って行き脱力。
構えと呼ぶにはあまりにも傲慢、強者のみが許される余裕がにじみ出る構え。
「今夜は実に気分がいい!こんなにも美しい満月だ!さらには私好み色に染まっているときた!」
男と霊夢も構える。
ここから先は瞬き一瞬が命取りだと。二人は感じた。
「こんなにも月が紅いから____
______本気で殺すわよ」