___吸血鬼。読んで字の如く人々の血を吸う怪物だ。
その歴史は古く、紀元四世紀頃にはその存在を認められたと記録があるほどだ。
古から人々に畏怖され忌み嫌われてきた。
そんな吸血鬼の幼き末裔と男と霊夢は対峙していた。
吸血鬼は自らの腕を鋭い爪で傷付ける。
その腕からは大量の鮮血が溢れ出す。
流れ出た血液はやがて重力に逆らい、吸血鬼の周りを流れ始める。
そして次第に形を変え小さな槍の形をとった。
それが一つ二つと増え、最後には数えられない程の量の槍が吸血鬼の背後に現れる。
パチン
レミリアが指を鳴らすとその槍は尋常でない速さで男と霊夢に襲い掛かった。
男は素早く地を蹴り躱す。
するとすぐさま男がいた場所に槍が突き刺さる。
数コンマ一秒でも遅れていたらその槍は男を貫いていただろう。
さらには槍は放たれた直後から新たに形成され、放たれ続ける。
まさしくそれは槍の弾幕であった。
男は体を屈ませ、脚に力を集中、再び地を蹴り吸血鬼に向かって飛んだ。
吸血鬼の脳天目掛けて蹴りを放つ。
しかしその蹴りはいとも容易く片手で止められる。
そして、吸血鬼はそのまま男の足首を掴み、地面目掛けて投げ飛ばした。
男は宙で体勢を整える。
そして地面に衝突する際、足、脹脛、太もも、尻、背中を順に地につけ回転することで衝撃を分散した。
吸血鬼は男に関心していると、霊夢の針が飛来する。
吸血鬼はそれを片手で防ぐ__否、全てつかみ取った。
そしてその針を霊夢の方に投げ返す。
霊夢は針を避けるのと同時に今度は呪符を放つ。
呪符は吸血鬼のあらゆる場所に貼りつき、爆散。
吸血鬼の四肢は弾け飛ぶ。
霊夢が手応えを感じた束の間。
吸血鬼の手はみるみると再生し、数秒後には完治していた。
吸血鬼の最大の特徴。
確かに鬼に迫る怪力も、天狗に迫る素早さも脅威である。
しかし、真に恐れるべきはその再生力。
仮に頭を吹き飛ばしてもすぐに再生してしまうだろう。
霊夢は直感的に悟った。
「下等生物にしてはなかなかやるではないか、人間」
吸血鬼は余裕の笑みを浮かべながら言う。
「しかし、そう周りを飛び回られと鬱陶しくて敵わん」
吸血鬼は再び自らを傷つけ、今度は鎖のようなものを形成し、霊夢に放つ。
霊夢は鎖を避けるが、鎖は蛇のようにうねりながら霊夢を追尾する。
やがて霊夢は鎖に捕まり動き封じられる。
「やはり人間は地を這ってこそだ」
吸血鬼は鎖を掴み、回す。
霊夢は抵抗できず、鎖の動きに合わせて回される。
やがて吸血鬼は霊夢を捕らえた鎖を地に男目掛けて投げつける。
男は深く腰を落とし、来るべき衝撃に備える。
霊夢を受け止める。
しかしその衝撃はすさまじく、男は踏ん張り切れず後方に霊夢と共に吹き飛ばされる。
「ったく、めんどくさいわね。あの再生能力」
霊夢は揺れている脳味噌を抱えながら起き上がる。
「大丈夫か......霊夢......?」
男は飛ばされた際、背中を強打したことで呼吸が出来なくなっていた。
頭部からは血が流れ、男の顔を赤く染める。
結局男も人の子だ。ほかの種族に比べて脆い人間なのだ。
「アンタはまず人の心配しないで自分の心配をしなさい。息も絶え絶えじゃない」
霊夢はいつもの調子で軽口を叩くが、その声色はどこか心配と罪悪感が含まれていた。
「あんたは休んでなさい......」
そういうと霊夢は再び飛び立つ。
男は呼吸を整えようとするが上手くいかない。
手が震える。
男は僅かながら、しかし確実にあの吸血鬼に恐怖を感じていた。
馬鹿じみた身体能力に再生能力。どちらか一つだけでも十分に脅威なのにセットときた。
どう倒せばいいんだ
男は考える
ふと、師匠の言葉を思いだした。
_____人間賛歌は勇気の賛歌
人間のすばらしさは勇気のすばらしさ_____
まだ男が妖怪を対峙するようになって間もない時である。
男は妖怪に恐怖し、怖気づいてしまった際にかけられた言葉である。
そう、人間は恐怖しながらも立ち向かう”勇気”がある。
恐怖は消えていない。
それでも、体のもう震えていなかった。
息を整える。
呼吸が浅い。
苦しさに任せて息を吸おうとするほど、呼吸は乱れていく。
男は吸うことをやめた。
逆に考えるのだ。
吐き切っちゃえばいいさと__
コォォォォォォ......
男は肺の中の空気を吐き切る。
もうこれ以上は1ccもでないというところまで吐き切る。
スゥーーーー......
次に男は息を吸う。
吸った酸素が体中に巡るのをイメージし、ほんの少したりとも無駄にはしないように丁寧に息を吸う。
コォォォォォォ.......
男はこれを繰り返す。
この呼吸法は男の師がやっているのを真似たものだ。
何回か繰り返すと男は体に起きている異変に気付く。
ドクン
自分の心臓が鼓動するのが分かる。
その鼓動はやがて全身に”波紋”を流す。
全身にピリッ稲妻が流れたかのような感覚が巡る。
体の痛みは遠のく。
疲労で重かった身体に再び力がみなぎる。
頭部から流れていた血も勢いを失っていった。
男は吸血鬼の元に駆けだした。
霊夢はかつてないほどに苦戦していた。
出来ることは片っ端から試していた。
針による行動の阻害、無効
呪符による攻撃、すぐさま再生。
結界術による封印、当たらない。
霊夢は袖から陰陽玉をだす。
博麗の巫女に代々受け継がれていくアイテム。
それを吸血鬼に投げつける。
難なくそれを避ける吸血鬼。
陰陽玉が吸血鬼の横を通りすぎた瞬間、陰陽玉があった場所に霊夢が瞬間的に移動する。
結界術の応用した霊夢の移動方法だ。
霊夢は吸血鬼の懐に入り、そして抱き着く
「おやおや、私の魅力にあてられたか?眷属にしてやろうではないか」
「生憎誰かに仕えるのまっぴらごめんよ」
神に仕える立場の巫女から発せられたものとは思えない言葉を吐く。
そして次の瞬間。
神技『八方鬼縛陣』
霊夢を中心に立方体の結界が張られる。
そしてたちまち結界内は霊力で充満され吸血鬼の身を焦がし続ける。
霊夢の必殺技の一つ八方鬼縛陣
結界内に閉じ込めた相手を霊力で焼き続け、縛る技。
まさしく鬼を縛り付けておく陣なのだ。
霊夢は吸血鬼を焼き続ける。
このまま塵芥に成り果てるまで焼くつもりだ。
しかし、この技は大量の霊力を消費し続ける。
遂に霊夢の限界が訪れ、結界は砕ける。
吸血鬼は木端微塵だ。
霊夢は力を出し切り自由落下し始める。
やったか
そう思った次の瞬間。
塵となったはずの吸血鬼の破片が集まり始める。
やがてそれは人の形を形成し
____再生した。
「ふむ...今のは少々痛かったぞ......」
吸血鬼は手を開いたり閉じたりし、体の具合を確かめる。
「今のは! 痛かったぞ!!!!」
吸血鬼は霊夢に向かって飛ぶ。
まるで一本の矢の如く霊夢に向かって飛んでいく。
鋭い爪をだし、霊夢に切りかかろうとした瞬間___
男の右拳が吸血鬼のこめかみに炸裂した。
すぐさま男は霊夢を抱え、着地する。
意識を失った霊夢を隅で寝かせ、吸血鬼に視線をやる。
吸血鬼の頭部は一部欠けていた。
しかし結局は再生し___なかった。
欠けた部分の表面が灼爛れ、再生を阻害していた。
「......人間、なにをした?」
吸血鬼の表情が歪む。
「しいて言うなら、人間の誇りを拳に込めたとでも言っておこうか」
「ふざけるなぁ!」
吸血鬼は激高し男に襲い掛かる。
しかしこの冷静さを欠いた行動が命取りだった。
そう、今男は地上におり、地上戦は男の土俵だ。
怒りに任せた大振りの一撃を男は半身になり、躱す。
隙だらけとなった吸血鬼の鳩尾に、強烈な膝蹴りを喰らわす。
「ガハッ!」
吸血鬼の体はくの字に曲がり、動きをとめた。
コォォォォォォォ!
男は先ほどの呼吸で力をためる。
心臓がふるえる
くの字になりバランスを崩した吸血鬼の頭に再び膝蹴りを浴びせ、膝を引く力を利用しそのまま地面に投げつける。
体が燃えるように熱くなる
すかさず顔面に拳を振り下ろす。
血液が心地よいリズムを刻む
男は吸血鬼に馬乗りになり、拳を何度も振り下ろす。
何度も、何度も、連打。
その男の姿は、山吹色に光っていた。
____吸血鬼は仰向けで倒れていた。
男の打撃によって体の一部は欠け、独特な呼吸法による効果で吸血鬼の再生を阻害していた。
_____決着
人間の勝利
誰が見てもそう認識する光景だった。
「やるじゃない、あんた」
気が付くと意識を取り戻した霊夢が隣にいた。
「ああ...ありがとう。だがまだ終わってない...」
男は最後の力を振り絞り、吸血鬼にトドメを刺そうした次の瞬間____
ドドドドドドドドド..........
地面、もとい館全体が揺れ始める。
地震か
そう思った束の間。
ドゴン!
館の天井を壊し、何者かが宙に飛び出す。
「なーに楽しそうなことしているの?レミリアお姉さま?」
宙に浮かんだ少女は問う
先ほどの吸血鬼と似た容姿の少女。
その深紅の瞳はまさしく瓜二つだ。
髪色は金色に輝き、背中には貴族が好みそうなきらきらと輝く鉱石のようなもので構成された翼があった。
「...フラン...」
男に敗北した吸血鬼、レミリアはその人物の名前をこぼす。
「ってなになに、おねーさま人間に負けたのー?うけるー」
フランと呼ばれる吸血鬼はケタケタと甲高い声で笑う。
「フラン......おとなしくしてなさい......」
レミリアはフランに館に戻るよう促す。
「うるさいなぁ」
フランは手を前に出し、何かを握りこむ動作をする。
次の瞬間、レミリアが爆発した。
「おねーさまばっかりずるいよねー。そこの人間さん、”私達”とあそびましょう?」
そう言い終えると、少女は四人に分裂した____
ぞわっ
霊夢と男に嫌な汗が浮かぶ
こいつはマズイ。二人の生物としての本能が危険信号を発している。
子どもというのは時に残酷だ。
カエルを投げて遊んだり、トンボの羽を千切ったり。
しかしやがて子どもは命の尊さを知り、成長していく。
目の前の少女にはそれがない。
倫理観を持ち合わせず、力をもった少女。
「...さすがに限界だぞ」
「あたしもよ...」
二人はすでに満身創痍だった。
「え?なに?おねーさまとは遊んだのに私達とは遊んでくれないの?」
瞬間、フランから殺意が溢れ出す。
「じゃあ、あなたたち。いらない」
少女は右手を二人に向ける
____では、私が相手をしよう。
一人の人間が答えた。
「あなたはだーれ?」
フランは声が発せられた方に視線を向ける。
背丈は男とそう変わらない。
長い黒髪は腰下まで伸びているだろうか。
歩く姿は軸か少したりともブレない。
まるで中心に棒でも刺しているのではと錯覚する。
霊夢に似た紅白の巫女服に身を包んでいる。
体には無数の傷跡があり、何度も危険な戦場に身を置き、そして生還してきたことを物語る。
両手は特に傷がひどく、何度裂け、骨が折れたのか想像できない。
____二人とも安心しなさい 『私が来た』
突如二人は安心感に包まれた。
まるで誰もが知る、皆の英雄が助けに来てくれたような錯覚を覚えたのだ。
「師匠!?」
「母さん!?」
と同時に予想していなかった人物の登場に二人は驚きを隠せなかった____
祝!UA400突破!
やはりこう、目に見えて
「読んでくれている人がいるんだなぁ」
と思えるのは嬉しいですね!
他にもお気に入り登録してくださった方々、ありがとうございます!
一応まだまだ続ける予定ですので評価とか感想などいただけるとモチベーションに繋がるので、してくださると嬉しいです!(笑)