東方博麗伝   作:Lup

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其の七「悪魔の妹」

____男の師、先代巫女の伝説は数多く存在する。

 

 曰く、年を取らない不老不死である。

 

 曰く、その背中には観音が宿っている。

 

 曰く、人間の何倍もの大きい鬼熊を一撃で屠る。

 

 曰く_______博麗巫女歴代最強。

 

 

 先代はフランに歩み寄る。

 

 その足取りに一切の迷い、恐怖はない。

 

 「おねーさんが遊んでくれるの?」

 

 フランは掌を先代に向ける。

 

 「簡単に壊れないでよね」

 

 そういい終えるとフランはその掌を閉じ始める。

 

 刹那____先代の姿が音もなく消える。

 

 気付けばフランの掌を自身の二本の指でつっかえ棒を作り、掌を閉じさせない。

 

 フランはすぐさま空いた片方の手で殴り掛かる。

 

 先代はその拳を捌き、打つ。

 

 その一連の動作に一切の無駄はなくまるで武道の型を見ているかの様。

 

 使うべきところに使うべき技を、そんな武道の理想形を体現していた。

 

 武というより舞。

 

 そんな美しさがあった。

 

 フランは彼方へ飛ばされる。

 

 その光景を見ていたフランの分身の一体がニヤリの口元を歪ませ、先代に向かって突進する。

 

 右の爪を伸ばし、先代の左の肩口目掛け斜めに薙ぎ払う。

 

 先代は左下へと体を捩じり、躱す。

 

   コォォォォォ......

 

 先代は先ほど男が見せた呼吸をする。 

 

 正確には似ているが明らかに違う。

 

 男のように意識した不自然な呼吸ではない。

 

 まるでその呼吸が本来の呼吸の仕方であるような、自然な呼吸だ。

 

 そして、先代の体は捩じった体を今度は逆に捩じる。

 

 その動きに追従し、拳は左下から右上へと昇りフランの鳩尾にめり込む。

 

 フランの分身は体をくの字に曲げる。

 

 先代はすかさず再び体を捩じり、力を溜める。

 

 同じような軌跡を描き、今度は顎を貫く。

 

 そこで終わらない。

 

 上へと放たれた拳につられるかのように体の昇らせ、そのまま膝が顎を貫く。

 

 そのまま先代は体を回し、上昇する。

 

 

 その光景は昇竜が如く。

 

 先代の攻撃をくらった分身の一人は、灰となって消えた。

 

 フラン”達”は驚愕する。

 

 分身とはいえ、今まで誰かに倒されたことはなかった。

 

 それどころか命を脅かされてすらいる。

 

 それもただの人間に。

 

 フランの分身の内一体が、顔を恐怖に歪ませ宙へと距離をとった。

 

 その一体に先代は視線を向ける。

 

 その眼差しは、獲物を見つけた肉食獣のそれだ。

 

 先代は再び音もなく消える。

 

 フラン、霊夢、そして男。

 

 その場にいる全員が先代を見失う。

 

  タタタタタッ

 

 人が走る音がする。

 

 音がした方に視線を向けると先代がフラン目掛けて走っていた。

 

 

 館の時計台を垂直に。

 

 

 そしてひと際大きい爆発音とともに再び先代が消える。

 

 霊夢が天性の勘で先代を見つける。

 

 なんとか捉えられたのは、宙に逃げたフランの分身の頭上に、踵を落とすところだった。

 

 

 館の屋上にクレーターが出来あがる。

 

 その中央には灰になった残骸があった。

 

 

 フランの分身が激高し、吠える。

 

 

 分身は自身の尻尾をもぎ取る。

 

 そして尾を剣のように構える。

 

 すると尾は赤い光を放ちながら燃え上がる。

 

 その炎は肥大化し、やがて一本の大剣が象られる。

 

 

 禁忌『レーヴァテイン』 

 

 

 分身は大剣を先代の頭目掛け叩きつける。

 

 

 先代は腰を落とし、右手を上に、左手を下に構える。

 

 フランの大剣が先代に触れる刹那、先代の右手と左手が円を描く。

 

 フランの大剣は円運動をしている先代の腕に沿って軌道をそらされ、遂に先代に触れることなく地面に突き刺さる。

 

 

 先代はそのまま両の掌を右腰に持っていく。

 

 やがてその掌には霊力があつまり、一つの青白い球体を生み出していた。

 

 だんだんと輝きを増していく球体の眩しさに霊夢と男が視線をずらした次の瞬間。

 

 先代はフランの分身目掛け、掌を突き出す。

 

 _____破ァアアアアア!

 

 

 先代の怒号と共に掌から光線が放たれる。

 

 地面は揺れ、風圧から霊夢と男は軽く飛ばされる。

 

 光線に直撃した分身は灰一つ残さず消滅する。

 

 

 最初に吹き飛ばされたオリジナルのフランは恐怖に歯を鳴らしていた。

 

 体の震えはとまらず、その足元にはツンとした刺激臭を放つ水溜まりができていた。

 

 怖い__死にたくない___

 

 初めて感じる恐怖と目の前に迫る死。

 

 フランはうずくまるしかなかった。

 

 先代巫女がゆっくりとフランに向かって歩いていく。

 

 そしてついに目の前へと辿り着く。

 

 じっと眺める先代、うずくまるフラン、そして___

 

 「どうかそこまでにして頂きたい」

 

 そこにはフランに弾け飛ばされたはずのレミリアがいた。

 

 片足は捥げ、両腕もない。

 

 自慢の翼も片翼しかない。

 

 フランの攻撃から再生していたが男の波紋により、完全な再生を妨げていた。

 

 レミリアは片足を引きずりながらゆっくり先代に浮遊していく。

 

 そして先代の元にたどり着くと地に足をつけ、頭を垂れる。

 

 「私の首で、勘弁していただきたい」

 

 レミリアは懇願する。

 

 「フランは私の、たった一人の家族だ。フランはその凶暴性故、ずっと地下に幽閉され、いや 幽閉していた。」

 

 レミリアは涙交じりに語りだす。

 

 「今回の異変も真の目的は、フランが自由に動くことができる環境を作りたくてこの霧をだした。

 

フランは......まだなにも知らないんだ!春には優雅に咲き誇る花々を!夏のこの身を焦がす太陽を!秋にはこの館のように紅く染まる紅葉を!冬には辺りを白一辺倒に変える積雪を!まだ......なにも知らないんだ.......」

 

 レミリアの瞳には大粒の涙がたまっていた。

 

 「どうか......慈悲を......」

 

 レミリアの言葉を最後まで聞いた先代は再びフランに向き直る。

 

 うずくまるフランに一歩近づく。

 

 「フラン!」

 

 レミリアが叫ぶ。

 

 先代はフランに____

 

 ____悪いことをしたときはどうするんだ?

 

 言葉をかける。

 

 フランは一瞬何を言われたか理解できなかった。

 

 数秒経ち、フランは言葉の意味を理解する。

 

 そして考える。

 

 「ごめん......なさい......?」

 

 先代はフランの頭にそっと手をかざす。

 

 ___いい子だ。

 

 そう言われたとき、フランの瞳から涙があふれる。

 

 「うあああああああああ!!ごめんなさい!!!!ごめんなさい!!!!!」

 

 フランは先代に抱き着き、何度も何度も謝り続ける。

 

 フランにとって、初めての叱責だった。

 

 初めての感情だった。

 

 先代から向けられた、この感情をフランは知らない。

 

 だが、おそらくこれを____

 

   ________愛情と呼ぶのだろう。

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