この世で淫魔は生きづらい!   作:つれづれ猫

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2話 淫魔、ライセンスを作る

 冒険者ギルドは街のはずれ。

 小高い丘の麓(ふもと)に建てられていた。

 

 その外観はといえば、古風にて荘厳(そうごん)。

 ちょうど入り口に構内図が掲げられていたのでちらりと見ると裏手は鍛冶場や解体場、他にも訓練場のような場所があるらしく敷地自体は結構広い。

 

 今日やってきた場所はこの街に存在する二つのダンジョンのうちの一つ。

 建屋が立派なだけあってこちらがメイン。いわゆる箱庭型という種類のダンジョンで洞窟の中を進んでいく迷宮型と違ってダンジョン内といえども異世界が広がっているような空間らしい。

 

 正直今の俺の心情的には洞窟内でジメジメ探索をしたい。

 そんな気もなくはないのだが、迷うという心配のないこちらのほうが初心者向け。というのを以前なにかのショート動画で見た気がするので素直にこちらを選ぶことにした。

 

 それに今日は平日昼間。

 建屋を出入りする人通りは少なくないが、混雑しているというほどではない。

 それに、そこまで帰宅が遅くならなければ同級生と出くわすこともないだろう。

 学校を退学になってまだ数日。流石に今のメンタルで学校の知り合いなんかにはできれば出くわしたくなかった。

 

 とはいえ、建屋の外でいつまでも尻込みしていても仕方ない。

 俺は意を決して敷地内に入ると、少し重い木製のドアを押した。

 

 中は少し湿った樹のような落ち着く香り。

 照明は明るく、左手は待合室。右にはカフェが併設されていた。

 カフェの入り口にはよく見ると『Drinks Available After Dark』という看板がかかっている。きっと夜は酒場になるのだろう。

 

 ただ、なんというのだろうか。

 役所のような雰囲気は若干あるのだが、治安は決してよくなさそうというか……。

 平日の昼間からこんな場所に来ている俺がいえることでは間違いなくないのだが、髪を明るく染めた、いかつそうな見た目の大人が、くるりと抜き身のナイフを回しながら、数人でテーブルを囲(かこ)っており、ついちらりと視線を向けるとがっつり目が合ってひえってなった。

 

 もちろん全員が全員そんな輩(やから)ではなさそうだが、腐っても冒険者。

 生死隣り合わせの仕事現場ゆえに、多少性格もぎらついている方が多いのかもしれない。

 

 すぐに視線を外して空(す)いている窓口へと並ぶ。

 ちょうど前の受付が終わったようですぐに順番が回ってくる。

 

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 むろん窓口はここだけではないのだが、さすが天下の冒険者ギルドの受付嬢。

 びっくりするほど美人の女性だ。土色ベースの落ち着いた瀟洒な制服姿だった。

 

「あ、ライセンスの登録をお願いします」

「はい、初めての方ですね。では、こちらにお名前とご住所のご記載をお願いします」

 

 ご住所……?

 あの河川敷の……?

 

 と少し思ったが、さすがにそんなことは書けない。

 正直、今俺の住民票がどうなっているのかよくわかっていないのだが、縁は切られたとて、そこまで手を回す親ではないはずだ。

 とりあえず、実家の住所と名前を書いておく。

 どうぞ、と記載した用紙を手渡す。

 

「身分証となるものをお持ちですか?」

 

 俺は財布からマイナカードを取り出して手渡した。

 財布だけは家から持ち出せたのは流石にファインプレーのようだった。

 

「ありがとうございます。ではライセンスをお作りしますので少々お待ちください」

 

 一応、手続きに問題はないらしく、受付の奥に入っていった彼女を2分ほど待つと、戻ってきた彼女の手元のトレーにはブロンズの一枚のカードが乗せられていた。

 その後も少し手続きや注意事項、免責事項の説明をされた後、最後に、と前置きをされる。

 

「では、笹倉様は本日からFランク冒険者となります。あちらの棚に依頼書一覧や地図や分布図、図鑑などもありますのでご自由にご覧になってください」

 

 なんだかんだ十五分ほどかかった受付もようやく終わり。

 

「頑張ってくださいね」

 

 その言葉を最後に、俺はトレーに乗せられたブロンズのライセンスを手に取って席を立つ。

 カードには『SASAKURA SOICHI Rank F』と刻印してある。これ一つで過去の活動実績の記録とギルド個人間での換金口座としての役割を持っているらしい。

 再発行には2千円手数料がかかるそうなので今の俺には特になくせない代物だ。

 

 左手の休憩室奥には本棚が三つほど並び、図書館のようにずらりといくつもの本が収められている。先ほど言われていた依頼書などが並んでいる。ただ、そこにあるのは1層から9層までのものだけのようで、さらに中層、下層は2階と3階が受付になっているようだった。

 

 現代化の波として、スマホからも依頼の受付などはできるようなのだが、ダンジョン内での電子機器は使用できなくなるため持ち込みはできないらしい。

 

 とはいえ、ようやく最初の一歩。

 まずは依頼の選定からだ。財布の中身は千円札と小銭が数枚。

 そして千円割引券が一枚だけ。稼がねばならない下限は7千円。冒険とかではなくその7千円に俺の命がかかっている。

 

 頑張ろう……。

 

 俺は心の中で独り言をぽそり。

 本棚から依頼書の一覧を手に取るところから始めるのだった。

 

 

 

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