偽りの英雄を葬りし男、英雄と個性の蔓延る世界に降り立つ   作:遺物

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ニュー・ボーイズ

ブッチャーは、炎を操る男、荼毘の後ろをついて行きながら、その男のことをじっくりと観察していた。荼毘はよく話す男だった。だが、話すことは天気の話や、好きな飯の話で、内容の軽い世間話ばかりだった。彼自身の深い個人情報は、こちらに一切与えない。ふざけた雰囲気を纏っているが、その内奥には、とても強い警戒心が見え隠れしているのが分かった。

 

 

基本的に進むのは、路地裏の中だった。奥へ進めば進むほど、治安が悪くなっていくのが見て取れた。ほぼ全裸で寝ている老人に、泣き叫んでいる女、明らかにキマッている集団。そういった連中が近づいてくるたびに、荼毘が炎をチラつかせて追い払った。

 

 

「これが、ヒーロー社会の…というか、個性社会の実態だ。表面上は、幸せ溢れる社会を装っちゃいるが、ちょっと内側を覗き見れば、こんなもんだ。」

 

 

ヒーロー社会。この現状は、恐らく世界規模の物だろう。そんなことは、ブッチャーは全く気にしていない。それどころか、この世界を楽しんでいる。本人は気付いていないが。人類の全員が能力者、そんな世界は、彼の怒りの矛先を向けるのに、うってつけの状況なのだ。

 

 

「…その、さっきから言ってる、個性ってのは何なんだ?それに、町中にいる能力者、ありゃなんだ?それに、お前の炎も…」

 

 

「あ?お前本当に何も知らねぇのか…まぁいい。そういうのも、ウチのボスは気に入りそうだ。」

 

 

コイツにもボスがいるのか。炎を自在に操るような奴らを纏めあげられるなど、そのボスとやらは、相当の実力者なのだろう。

 

 

「まず、この世界には、個性と呼ばれる特殊能力が存在する。アンタが戦ったチンピラみたいな、動物の力を持った奴や、肉体を金属に変えられたり、炎を操れる奴もいる。俺みたいなな?」

 

 

荼毘が自身の両手を炎に包みながら笑う。ブッチャーは、この出会ってからまだ一時間も経っていないが、彼の能力の使い道を十二通りは考えついていた。

 

 

「いいから説明を続けろ。」

 

 

「チッ…つれねぇな…まぁいい。今、世界人口の八割が特殊能力を持ってる。世界に影響を与えられるレベルの個性を持った奴もいたり、ほぼ無個性と変わらないような、しょうもない個性持ちだっている。つまり、社会から爪弾きにされた強個性持ち、個性を自由に使えず、燻ってる奴、シンプルに暴力や殺しに快楽を感じる奴。そんな奴らも大勢いるってわけだ。そういう奴らが、俺達の勧誘対象だ。」

 

 

なるほど。つまり、危険思想を持った超能力者の集まりってわけだ。俺が使うのに、うってつけのクソ野郎共だ。

 

 

「そんなこと話してると…着いたぜ。気をつけろ?ボスは短気なんだ。もしかしたら、一瞬で塵にされちまうかもなぁ?」

 

 

そう言われた場所は、目立たないバーだった。こんなこじんまりした場所で、本当に社会を敵に回すことが出来るのだろうか。ブッチャーの脳内に、若干の不安が立ち昇る。

 

 

ドアを開けると、中に居たのは、一目見ただけの感想だが、相当のイロモノ集団であった。

 

 

デカい棒を持つ筋肉質な、どこかゲイっぽい男。いかにもな日本人といった感じの女子高生。全身タイツの…たぶん男。ウェイターのような服装なことは、特に気にならないが、肌が黒煙のようなモヤがかかった男。マジシャンのような仮面を被った男。顔に手が付いた、やせ細った不気味な青年。

 

 

これだけ見たら、低俗で、安月給の小劇団のようだ。だが、実際の所は、こいつ等一人一人が、人を容易く殺せるほどの能力を持っているのだろう。

 

 

「…よし……荼毘…コイツには何が出来るんだ……」

 

 

手男が喋り出した。見た目通り、不健康そうな声だ。ブッチャーは、最初に喋り出したことといい、部屋の中心でデカい椅子に座っていることも含めて、コイツがリーダー的存在なのか、と思った。

 

 

「コイツは無個性だ。だが、いいイカレっぷりだ。かなり使えそうだぜ?」

 

 

荼毘がそういうと、手男がいきなり体中をかきむしり始めた。部下が部下ならリーダーもリーダーだ。おそらく、この部屋のいる連中は、全員もれなく、どこかしらイカレているんだろう。

 

 

「何?無個性…無個性だと…冗談だよなぁ荼毘…俺はお前に使えそうな人材を集めるよう命令したんだぜ…それなのに無個性…駄目だ駄目だダメだ…良くない…良くないのは……消さなきゃ…な!」

 

 

「待ってください死柄木!彼はまだ…」

 

 

煙野郎から死柄木と呼ばれた男が、ブッチャーに向かって手のひらを伸ばしてくる。触れたらマズいことになるということは、死柄木の個性を知らない彼でも分かった。ブッチャーは指に触れぬよう、手首をつかみ、顔に付いてる手ごと、二発殴りつける。死柄木は転がりながら倒れこみ、そこに煙野郎が寄り添う。

 

 

気付けば、ブッチャーは囲まれていた。彼に対して、ヴィラン連合の各々が、武器や、手をかざす。ブッチャーは両手をゆっくりと頭の横にやり、面々を順番に見ていく。荼毘を除き、彼らはブッチャーに対して、明確な殺意を向けていた。それはブッチャーにも言えることだった。もし、自分に薄皮一枚でも触れる奴がいるならば、相手がどんな力を持っていようが関係なく、殴り殺すつもりでいた。

 

 

だが、そんなことにはならなかった。部屋に置いてある机の上には、一台のパソコンがあった。そのパソコンの画面は、ただ砂嵐の映像が再生されているだけだった。ブッチャーが来る前から、あるいは、もっと前から、砂嵐は続いていた。その砂嵐の奥にいる、邪悪な者が声を出した。

 

 

「…やめなさい君たち。」

 

 

身体の芯まで響く声だった。耳の穴から、直接脳へと届いているようだ。彼が声をあげた瞬間、連合のメンバーは、ブッチャーから離れていった。コイツの言葉が、そこまでの影響力を持つものなのか。ブッチャーは、コイツに似たクソ野郎を知っていた。一言聞いただけで、この男に、奴の片鱗を見た。中身が無いくせに、力とカリスマ性だけがある。分厚い面の皮を持ち、少し切り口を入れて覗き込めば、果てしなく空洞が続いているような、薄っぺらい人間だ。

 

 

「君の名前を教えてくれ。」

 

 

「ビリーだ。ビリー・ブッチャー。」

 

 

ブッチャーは、毅然とした態度でパソコンへと一歩、また一歩と近づいて行った。コイツに対して、一切の弱みも見せてはいけない。少しでも傷を見せれば、コイツは一瞬で食いつき、傷口を無理やりかっぴらいてくるだろう。同じクズとして、精神力で負けるわけにはいかない。

 

 

「ここに来た目的は?」

 

 

「勧誘を受けたんでな。元締めがどんなツラしてるか拝みに来たんだが…まさか、放送禁止コードに引っかかっているとはな。ここに居る連中も、顔出しNGの奴の方が多いみたいだぜ。」

 

 

ブッチャーはパソコンを片手で持ち上げ、カウンターに座り、自分の真横に置く。棚に手を伸ばし、ボトルを一本拝借する。煙野郎が一瞬止めようとしてきたが、無視してグラスに酒を注ぐ。

 

 

「ふふふ…いいね君!これからは弔と、死柄木と共に行動すると良い。リーダーは彼だからね。」

 

 

「一つ…聞きたいことがある。お前らの最終目標を教えてくれ。ヒーローを潰すなんて、そんな漠然としたものじゃない、もっと深い目標だ。それが、俺と反りが合うかどうかで、今後どうするか決める。そこんとこよく分かってといて貰いたい、ミスターFワード。」

 

 

画面の中から、意地汚い笑い声が響く。少しでも情報を引き出したい。自分の面接の場に姿を見せないほどだ。よほどの警戒心の持ち主だ。この様子じゃ、自分の部下にすら大した情報を与えていないと見た。いずれ、コイツも俺が利用することになる。その為にも、まずは情報だ。

 

 

「…アハハ!やっぱり君は、一介のチンピラや犯罪者とは一味違うね!新鮮さ、と言えばいいのかな。はっきり言って、僕も、少しばかり嬉しいのさ。君に興味を持ってもらえてさ。いいよ。君には話してあげよう…」

 

 

不気味な男だ。だが、次を読むことは出来る。ブッチャーは黙ったまま、空になったグラスに酒を注ぎ足す。他の連中も、押し黙ったままだ。

 

 

「僕は、魔王になりたいんだ。希望を摘み取り、絶望を振りまく、コミックの中みたいな、だけど、決して正義に屈することのない、そんな魔王に。ヒーローが人の未来を紡ぎ出すように、僕は世界中の人の未来を阻みたいんだ。」

 

 

なるほど。思った通り、中々のクソ野郎だ。だが、コイツは使える。コイツの野望にあやかり、全てのヒーローを根絶する。利用するのは俺の方だ。お前じゃない。そのことを、はっきりとさせておかないとな。

 

 

「魔王か…この世界には、力が無いだけで、お前みたいな考え方の奴はごまんと居る。だが、お前にはそれを実行するだけの力がある、だろ?お前のくだらねぇお伽話の、愉快な仲間たちの一人になってやる。お前の目的が叶ったなら、その次は俺の望みだ。それが分かったなら…」

 

 

そう言うと、ブッチャーは残ったボトルの酒を飲み干し、ドン、と乱暴にテーブルに置いた。パソコンの画面に向かい、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ…

 

 

ドガシャン!

 

 

ボトルでパソコンを叩き壊した。液晶パネルの破片や、内部の部品が床に散らばる。ヴィラン連合は、驚いて立ち上がった。ブッチャーも、コートに付いたガラス片を払いながら、ゆっくりと立ち上がる。そして、立ち尽くす連合メンバーを指さし、パソコンの残骸を踏みつける。

 

 

「お前らもよく聞け…これからは、俺のやり方でやらせてもらう。」

 

 

死柄木は、面白くなかった。この、出会ってからほんの数分で先生に気に入られた男。気に入らない。だが、少しだけ、自分と近しいものを感じた。自分の憎む全てを壊さんとする気概。その思いに、少しだけ、ほんの少しだけ、共感していた。

 

 

「……お前…何を始める気だ…?」

 

 

死柄木に聞かれたブッチャーは、やはり笑みを崩さない。連合メンバーも、次第に懐疑心よりも、好奇心が勝っていった。AFOも知らない、全く新しい来訪者。この男が、自分たちにどのようなブッ飛んだ未来を示すのか。ブッチャーは胸元から煙草を取り出し、口にくわえた。

 

 

「ヒーロー狩りだ。」

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