The Arrow of Silver 銀弓の運命は砕け得るか   作:Delphinus

14 / 14
14 スターインザライト 或いはアナザーニアーライト

「それにしても、移動都市間を高速道路で移動出来るなんて、随分変わりましたね」

 

「まあな。これも商業連合会の手柄と言えばそうだろう」

 

「ふうん、また快適だこと。あぁっ、あの車に追い越されそうよ、追い越しなさいよ」

 

「そう言う事はマーガレットにお願いします。誰が運転していると思っているんですか」

 

 ぶうぅんっ、と、エンジンの振動を感じながら、追い越された車を見つめる。シンプルな白い塗装の、かなりの高性能車両みたいだ。カジミエーシュ企業の新モデルかと思いましたが、クルビア製ですね、あれ。どこからか買ったみたいです。

 

 征戦騎士の皆さんが滴水村から帰った後、僕たちは修理の完了した定期便のトレーラーを降りた。そして途中の街でレンタカーを借り、カジミエーシュの中心部、大騎士領カヴァレリエルキまでの道を進んでいる。そして僕は、ふと考えた事を呟いた。

 

「僕がカジミエーシュを追放される前は、高速道路は都市内部の環状道路が基本でした。随分と変わったんですね」

 

「ああ、とは言え、基本的には一般道とそう変わらないがな。途中のサービスエリアやインターチェンジだけを、小規模なプラットフォームが担っているんだ」

 

「そうやって移動都市に向かい、最後の接続は移動都市前のリフトが行う。ターミナルで接続リフトに車を乗せたら、後は向こうが引っ張り上げるのを待つだけだ」

 

「へええ、それはまた便利だこと」

 

 Wはそう言いながら、興味を隠せていないようだった。僕はと言えば。

 

(この高速道路。カジミエーシュよりもウルサスの方が実際の有用性は大きいですね)

 

(こう言う輸送システムは、基本的に国土が広ければ広い程効率的になります。広い方が大量輸送の需要が増える上に、鉄道や高速道路と言った設備そのものが、各移動都市の航路を阻害する機会も減りますから。後は、スケールメリットによるコスト削減も無視出来ません)

 

(問題は国土が広がるにつれて、敷設コストも天文学的に上がって行く事ですね。ですが、いつかは必ず実現します)

 

 皇帝陛下にも約束しましたからね。一応僕も、ウルサス帝国の伯爵と言う事ですし。タルラさんのおまけとはいえ。

 

 

 

 

「銀弓の車両はどうだ?」

 

「確認した。ちょうどさっき追い越したぞ。耀騎士に、例のサルカズ傭兵も居るとか。どうやら乗っているのはレンタカーのようだ」

 

「そうか、俺たちは一足早くカヴァレリエルキへ向かう。商業連合会と話を付けるには、時間は早ければ早いだけ良いとの事だ。俺たちを雇ってくれた皇帝陛下のご意向の為にもな」

 

「そうそう、報酬も随分と気前良く貰っちまったしな」

 

 さっき僕たちを追い越した車両の中で、そんな会話が繰り広げられていた事を、僕達は誰一人、ええ、全然気付いていませんでしたとも。

 

 

 

 

 大騎士領カヴァレリエルキに入ったら、車を返却しようかと思っていましたが、マーガレットが言うには、数週間は借りたまま市内で使うつもりとの事です。僕たちは市街地の中心部で車を降りる。そして

 

「勝者、マリア・二ア────ル!!」

 

「うおおお二アール!」

 

「ヒュ──ッやったー!」

 

「二アール家の末娘がまた勝ったってな! 掛け金もたんまりと貰えそうだぜ!」

 

(……この感じ、なんだか懐かしい気がします)

 

 ビルの前に張り出された大型ビジョンを見ていると、眩しい程に生きている都市の匂いがする。僕が生まれ育った場所。余りにも巨大で、巨大過ぎて誰の手にも余ってしまう場所。常に動いている都市の、視界のどこまでも続くビルの群れの姿。それに大型ビジョンの前で、騎士試合の結果に一喜一憂する人たちの姿にも。

 

 昔はどうでも良かったのに、今となっては愛おしさに、懐かしさまで感じますね。それに巨大なビジョンに映る、競技騎士として試合に挑んだマリア・二アールの姿が……は? な、何故? 

 

「マーガレット、あれはどう言う事です?」

 

「すまない、私にも分からない」

 

「説明しなさいよ。部外者にも分かりやすく」

 

「あれはマリア・二アール。私の妹だ」

 

「……は? あんたの?」

 

 驚愕した表情のW。そんな中で僕は思っていた。

 

(今回の帰郷では、良くも悪くもカジミエーシュに用がある訳ではありません)

 

(ムリナールおじさんに顔を見せて、暫くしたら帰りましょう)

 

(マリアの事は……まあ気にしない方向で)

 

 ええ、あんな話になるとまでは、まだ思っていなかったんです。

 

 

 

 

 カヴァレリエルキの中心部でお土産を用意して、車で目的地である二アール邸に向かうと、なんだか無性にドキドキして来ます。はあ、今になって帰りたくなくなってきました。

 

(今更どの面下げて帰るんでしょうね、僕って)

 

 こう言う考えは、一度頭を過ぎると止まらない物です。悪い方にばかり考える慣性になって、カヴァレリエルキを一通り回ったら誰にも顔を見せずに帰る案が、急に魅力的になって来ます。

 

「どうした? 不安なのか?」

 

「不安にもなりますよ。僕だってね」

 

 車の窓側に頬杖をついて、僕はふと考える。今更この国が、僕に何の用があるのでしょう。ここは既に、僕を必要としていないのでは無かったでしょうか。

 

(この国は既に、何年も前に結論を出しています。僕も、僕の銀弓の家も、最早必要としてはいないのだと)

 

(今更顔を見せた所で……)

 

「何よ、銀ピカったら何年も過ぎて今更怖がってる訳?」

 

「ええ、そうなります。それこそ今更ですからね」

 

「何よそれ……。自分で認めたらおしまいでしょ」

 

 そう言って、Wさんは窓の外の景色を見ている。僕はふと考えた事を言った。

 

「僕の過去にも精算の時間が来たのでしょうね。まあ彼らの、商業連合会の望むような精算はしませんが」

 

「だって効率が悪いですから」

 

 そうしていると、レンタカーのカーオーディオからこんなニュースが入って来た。

 

「只今、大騎士領カヴァレリエルキのメインポートにロドスアイランド製薬の本艦、ロドスアイランド号が入港しました」

 

「この製薬会社は主に鉱石病遅延薬の製造事業などを行い、商業連合会も新たな企業の出現に注目しています」

 

(……何故、この時期にロドスが?)

 

 この疑問だけは、分からないままでした。

 

 

 

 

 二アール家の前で、マーガレットがレンタカーを停めた。僕は車の外に出て、そっと伸びをする。そしてその光景が目に入った。

 

「あ、懐かしいですね。あのコンビニ」

 

「はあ、コンビニが懐かしいの? あんた」

 

 Wがそう言って疑問符を浮かべる。僕はこう返す。

 

「ええ、懐かしくもなります。あそこ、昔は僕の家の屋敷があったんです」

 

「はあ? 何よそれ」

 

「銀弓家から騎士称号が抹消された後、銀弓家の屋敷跡地はカジミエーシュの土地法で接収され、競売にかけられた」

 

「そして屋敷は取り壊され、今ではコンビニになったのさ」

 

「うわぁ、また趣味悪……」

 

 マーガレットの説明に対して、Wは何とも言えない表情をしていた。僕はと言えば、ああ、無胄盟時代にも結構使ってましたね、このコンビニ。などと適当な事を思い出していた。僕は言う。

 

「コンビニには後で行きましょう。今は屋敷の方に。新しいお客さんも紹介しなくてはね」

 

「ああ、そうだな」

 

 僕たちは3人で歩き出す。今、僕の心臓は動悸がしている。僕は正しくも、綺麗でも、立派でも無い。使える物は全て使って来た存在。この立派な家に、相応しい存在とは言えない。

 

 僕は正しくも、綺麗でも、立派でも無い。

 

 それでも、僕はこの生き方に誇りを持っています。

 

 結果だけは何が何でも出す。そのための誇りです。

 

 それだけは、捨てなくても良い筈です。だから、まあ良いか。

 

 ガチャって、マーガレットが屋敷のドアを開けた。だから、その展開はちょっと予想外だった。

 

「あ、あなたは?」

 

「あなたは、まさか……銀弓の」

 

 いや……誰? 

 

 

 

 

 ドアを開けると出て来たのは、何だかやたらと美人なエラフィアの方でした。いえ、この人って誰でしょうか、割と真剣に。

 

「ヴィヴィアナ、ここに来ていたのか」

 

「いらっしゃったのですね、あなたも。いえ、マーガレットさん。それにそちらは」

 

「Wよ、今はただの観光客ね」

 

「えっと……あなたはヴィヴィアナさん、と言う名前で宜しいのですか?」

 

「はい、その通りです。お会い出来て光栄です、銀の弓さん。カジミエーシュで最も危険な方」

 

「僕ってこの国にとってそんなに危険でしたか?」

 

 危険視されている自覚はありますけど。そこまで言われるには知名度不足と思っていました。この国って良くも悪くも、話題性至上主義ですからね。

 

 そしてヴィヴィアナさんの後ろから、誰かが僕に向かって突っ込んで来る。

 

「お兄ちゃぁぁぁぁぁんっっっ、うわぁぁんっ」

 

「ウギャッッッアッッ」

 

 ズドォォンッとでも言わんばかりの衝撃。僕はなすすべなくぶっ飛ばされそうになった。銀のアーツで空中に反発場を形成して、まあ何とかカバーする。カバー、出来てます? これ。

 

「うぅ、ぐすん、ゔぇぇぇ、お兄ちゃぁぁんっ。まだアーツで操られた死体じゃないのっ?」

 

「何でそう言う結論が出てくるんですか……、アーツ反応を確認しなさい。マリア」

 

「ぐすんっ、だって、だってそこにサルカズの術師がぁっ」

 

「ああんっ、なんですって!?」

 

「その人は術師じゃありませんよ。それと、失礼な振る舞いは大概に」

 

「こちらはW。僕の尊敬し、愛する人です。あなたも相応の振る舞いをして下さい。ね?」

 

「えっ?」

 

 ガーンッ、とばかりに、目のハイライトが吹っ飛んだマリア。えっと、何でこうなったんでしょうか。

 

「全く、お前達は何を騒いでいる」

 

 そして、ああ、言うまでもなかった。カジミエーシュで最も偉大な俠客。ムリナー……。

 

 PLLLLLLLL……部屋の中に気の抜けた音がした。ガチャッと電話を手に取る。

 

「はい、どうぞ部長。お疲れ様です」

 

(はっ? ……はぇ?)

 

 信じられないとは、こう言う光景の事でしょうか。あのムリナールさんが電話を取って、まるでしがない会社員のように振る舞っている。い、いえ。

 

(な、何で? ムリナールさんに会社員なんて死んでも無理でしょう? 一体何をどうやって……)

 

「はい、その件はこちらで何とかしておきます。ええ、分かりました。……はい。ではまた後日に」

 

 ガチャッ、電話が切れる。二アール家の客間は完璧にシーンとしていた。真っ先に口を開いたのはWだった。

 

「は? いや、何これ。アンタ、何でそれだけ強い奴が会社員なんかしてる訳?」

 

「お前のような部外者には分からないだろうな。このカジミエーシュの事は」

 

(いえ、部外者じゃなくても分かりませんよ、ムリナールさん……)

 

 本当に訳が分からない。そう思っている僕の、ウルサス伯爵位を渡された際に持たされた端末が振動した。躊躇なく手に取る。その相手は。

 

「私だ、フョードル1世だ。聞こえるな? 銀弓」

 

「はい、聞こえています。どうぞ。陛下」

 

 ウルサスの皇帝、フョードル1世が今、僕に話しかけている。僕の中に緊張が走った。序でに二アール家の客間にも激震が走る。

 

「例の計画を実行に移す時が来た。お前の帰還によってカジミエーシュが揺れている機会を利用し、カジミエーシュに対して大規模な宣伝戦を仕掛ける」

 

「お前には、その広告塔となって貰う。済まないとは思うが」

 

「いえ、叛逆の汚名を雪ぐ為であれば、安い仕事です。僕は既に、どんな仕事でもこなす覚悟をしています」

 

 二アール家の客間が更に凍りつく。僕は一旦気にしないふり。そして皇帝陛下は仰った。

 

「やる事は単純だ。まずは派遣済みのトランスポーターを介して、銀弓の名を感染者騎士として登録する。その後余の名代として、銀弓の騎士に対し騎士競技におけるウルサスの全権を委任。カジミエーシュと商業連合会に対し、試合を通じて銀弓の騎士家の名誉回復を要求する」

 

「この試合では、余の名を背負って貰うぞ」

 

「はい、とても光栄です、必ずこなしてみせます。フョードル1世陛下」

 

「そして伯爵に叙して頂いた際にお約束した通り。ウルサスの凍土に生きる、全人民の腹を満たしてご覧に入れましょう」

 

 二アール家の客間は、完璧にカチンコチンと化した。まるでウルサスの凍土みたいでしたね、と僕は呑気に思っていました。

 




スターインザライト…この世界におけるニアーライト。最早ニアールだけの光では無い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

明日へ至る銃声(作者:イズモ様 カワ(・∀・)イイ!!)(原作:アークナイツ)

*清書にAI使ってます▼彼がわたしに語っていたとき、わたしはうつ伏せになり、深い眠りに落ちて地についた。しかし、彼はわたしに触れ、わたしを元の場所に立ち上がらせた。


総合評価:676/評価:8.95/連載:12話/更新日時:2026年09月20日(日) 00:05 小説情報

好きと言わせてくれない(作者:布団は友達)(原作:アークナイツ)

ロドス随一の戦闘力を誇るナハツェーラーのオペレーター。▼そんな彼の訃報に関するロドス一同のお話。▼以下、オペレーターの悪評。▼『テレジア殿下に一目惚れして求婚し、テレシス殿下に一日中斬り刻まれた』▼『バンシーの王子を姫と勘違いして求婚、河谷のすべてに呪われた』▼『戦争の一族ながら戦ではなく愛に生きた穢れしナハツェーラー』▼『戦神の恥』……etc▼


総合評価:4951/評価:9.05/連載:29話/更新日時:2026年09月15日(火) 01:40 小説情報

よろしい、ならば脱いで貰おうか(作者:チャーリィ)(原作:アークナイツ)

フロストノヴァを末長く幸せにしたい一心で書き殴った結果、彼女に脱衣を迫るオリ主が爆誕した。なんでやねん。


総合評価:2630/評価:8.87/連載:3話/更新日時:2026年06月23日(火) 12:00 小説情報

アークナイツ「慈悲光塔」RTA 1098年10ヶ月(作者:おじさん)(原作:アークナイツ)

テラ歴元年から慈悲光塔クリアまでを走ります。▼時系列や地理などは、白wiki、大地を巡る旅、たくさんの考察などを参考にしています。▼淫夢要素はないです(ヒント:ホモはうそつき)▼見落としゆえすべてにガバが発生するかと思いますが、細けぇこたぁいいんだよ!の精神と、誤りをやさしく指摘する慈悲の精神でお願いします(懇願)▼すいません許してください!なんでもしますか…


総合評価:1091/評価:8.88/連載:13話/更新日時:2026年06月22日(月) 17:53 小説情報

テラの自販機さん(作者:匿名のカタリナ飛行艇)(原作:アークナイツ)

デカグラマトンがテラ世界に来て、スローライフ(?)をする話。▼ケルシー×デカグラマトンとかいう誰得展開▼は?ケルドクだろ?という方はご遠慮ください


総合評価:1742/評価:8.82/連載:5話/更新日時:2026年09月04日(金) 20:53 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>