The Arrow of Silver 銀弓の運命は砕け得るか   作:Delphinus

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17 お前は現状に満足しており、物事をやり抜く意思を持っていない

「こんにちは、独立騎士セントーレア。もうすぐ称号騎士になるらしいね、おめでとう」

 

「君は今の仕事にあまり情熱を持っていないようだね。疲れ果てた声をしているよ」

 

「だけれど、私が提供するこの仕事に、そんなつまらない事はないんだ。報酬は同程度。加えて騎士とは比較にならない自由度を約束しよう。」

 

「セントーレア、もし君が望むのなら、君の放つ矢は、大騎士領に降りた夜の帳をも貫くことができる」

 

「良い返事を期待しているよ」

 

(何で、こんな事を思い出したんだろ…)

 

私が独立騎士として名を挙げて来た頃、ある日唐突に掛かってきた電話。思えばアレが、全ての始まりだった気がする。

 

「__私は」

 

「おっと、釈明はいらないぜ、プラチナ。俺たちだって、別にお前をどうこうしようって訳じゃ無いんだ。けどなあ…これは「仕事」だ。わかるだろ?」

 

無胄盟の管理職に当たる位階は、逆ピラミッド型で構成されている。ある例外的な一時期を除いて、クロガネが3人、ラズライトが2人、そしてプラチナ。つまり、私が1人と言う訳。

 

状況の急変を見て仕事から撤した私に、無胄盟のラズライト。ロイが話しかける。見た目からして、如何にも爽やかなクソ野郎だ。そして当然のようにやたらと強い。

 

(銀ちゃんだって爽やかでオシャレだったけど、でも、銀色の方がずっと可愛いかった)

 

「その上俺たちには例のPMCのサポートがある。商業連合会が雇った腕利きって話の奴らさ。実際寄せ集めの割にやる連中だね」

 

「銀色の古巣みたいね、あのサモスアイランドって言う組織」

 

「銀色ねえ。それにしても、いやー想像以上だなぁ。鉱石病で無胄盟を追い出された悲劇の貴公子様が、あんな形で帰って来るだなんて。感動モノだよ。映画にしたら大ヒット飛ばしそうじゃない?」

 

「笑い話にならないでしょ」

 

無胄盟の銀色。かつて無胄盟に入った私が、同じ小隊に配属された相手でもある。それがあんなに可愛い子だなんて。

 

「始めまして、あなたがセントーレアですか?」

 

「アイドル騎士を暗殺者に雇うだなんて、いよいよ世も末ですね」

 

初めて会った銀色は、何というか信じられない程に可愛いかった。可愛い上に信じられないぐらいに腕利き。こんな逸材が今までどこに眠ってたのかって、あの時は思ったし。

 

服装もオシャレで、髪型も美容院でばっちり整えたショートボブ。働いている場所がよりによって無胄盟じゃなければ、相当にモテたんじゃないかな。

 

休日には一緒にゲームしたり、騎士競技の予想に賭けたり、あの子の予想はよく当たってた。初出場した耀騎士の試合に全額ベットしたのは、今でも楽しかった思い出の一つ。

 

(さっき会った銀ちゃん、昔程オシャレじゃ無かったな)

 

(ちゃんと美容院行けて無いのかも)

 

「ま、いい加減過去を振り返るのも良いか。そろそろ今の話をしよう」

 

「分かってる。次の任務まで部隊を待機させとく」

 

そして一通り話して、ロイが帰って行った後、私はふとこう思っていたの。

 

「あの時君と一緒に逃げていれば、何か変わったのかな?」

 

 

 

 

「ねぇ、なんで、何でお兄ちゃんはそうやって危険な事ばかりするの?ねぇ、ねぇ?」

 

「ぐぇぇぇっ、んむぐぃぃっんぅ、むぐっぅぅぅ、うごええぇ…」

 

二アール家の柱にロープでグルグル巻きにされた後、目からハイライトが消えたマリアに激詰めを食らっている。無胄盟とイカレPMCの襲撃を躱して、レッドパイン騎士団の皆さんと幾つか約束を交わした後。僕は柱に拘束されたままひんひん言わされていた。この態勢のまま何十分も過ぎて、そろそろ息が上がりそうな、気が、する。

 

「その辺りにしてやれ、マリア」

 

「ひにゃっ」

 

そのグルグル巻きにしていたロープが金色の一閃で細切れになった。そのままマーガレットの腕の中に収められて、あ、これお姫様抱っこ…。

 

と、思ってました。

 

「駄目ええぇっ」

 

「うええぇっ、な、何ぃっおぐえぇぇ」

 

マーガレットにお姫様抱っこされたまま、マリアが上から押し倒して来る。え、そ、それ、そんなの、ひにゃぁぁっ。

 

「お兄ちゃんを取ったら駄目だもん、お兄ちゃんとは私が付き合うんだからぁっ」

 

「な、マリア、そ、そんな事を思ってっ!?」

 

「だって折角生きてたんだもん。絶対諦めてなんかやらないんだからっ、お兄ちゃんは私のだもんっ」

 

「へえぇ、面白い事言ってるじゃない」

 

「ぐ、ぐぇぇぇっ、むぐぅゥいぃっ」

 

マリアに加えてWまで抱きついて来て、いよいよ限界かもしれません。ああ、僕ってこんな所で死ぬんだなぁ、と適当に思っていました。

 

「全く…お前達。その辺りにしておけ」

 

「はーい、おじさん。ほら、お姉ちゃんもWさんも、抱きついたら駄目だから」

 

「ちょっと待て、いつ私のせいという話になった」

 

ムリナールさんの言葉で、3人の腕が離される。はぁ、はぁぁ、まだ、動悸がしています。

 

「だが、それにしてもお前は余計な真似をし過ぎだ。このカジミエーシュは他国とは勝手が違うんだぞ」

 

「それは、分かっていますけど。問題が多いのでつい首を突っ込んでしまうんです」

 

「全く、銀の病はまるで治っていないようだ。問題があれば何処であっても首を突っ込みたがる」

 

「仕方がない。そこまで言うならば剣を抜くがいい、銀弓」

 

「…そんな事を言われましても」

 

ムリナールさんの言葉に僕は思う。そして言う。

 

「会社から電話が『PLLLLLLLL』…来ても、知りませんよ」

 

いえ、本当に来るとは思わなかったですけど。唐突にかかった電話に応対して、ぺこぺことトーンが下がるムリナールさん。何というか、もう、見ていられないレベルで悲惨な光景です。そうですよね。

 

「まあ良い、今度こそ剣を『それは構いませんが』ほう」

 

「あなたは会社員です。ですから剣に頼らず、あくまで会社員としての生き方を示すべきです」

 

「あなたの無限大より高いプライドに付き合える人間は、この大地に1人たりとも存在しませんからね。物理的に」

 

「うわ、お兄ちゃんの毒舌。懐かしいけどキツいかも」

 

そう言って、マリアは何とも言えない表情をしていました。

 

「だが、お前は銀弓である事を全くと言って良い程止めていないな。まだ懲りていないのか。国を追われ、ウルサスの凍原まで追い立てられておきながら」

 

「そのウルサスの凍原で勢力を回復して、今ではウルサスから伯爵扱いされている点も一応は考慮して頂きたいですね。ムリナール閣下」

 

「全く、そう言うあたりが銀弓だな」

 

「そう言う事はもう良い」

 

「ひにゃんっ」

 

ぎゅっ、て、マーガレットに抱き締められる。あ、これ無理な奴です。きゅんってしちゃう。

 

「もう一人で背負うのはやめろ。私達も支えるから」

 

「は、ひゃぃっ…」

 

「あっちょっと待ちなさいよ、何一人抜けしてるのよ金ピカぁっ」

 

「そうだよっ、お兄ちゃんは私の物おっ」

 

何というか、総括するならその日は色々と大変でしたね、はい。

 

 

 

 

「完璧に正解よ。アンソニーさんに関する情報をサリアさんに伝えたのはあたし」

 

「ジェッセルトンはその後、偽の看守である事がバレて収監された筈だから、あたしも彼に関する情報は受け取っていない」

 

「確かにサリアさんに一杯食わされたわ……ま、あたしも最初から、彼女が最初から大人しくアンソニーさんを渡してくれるとは思ってなかったけどね」

 

クルビア某所のバーで、ライン生命生態課主任、ミュルジスはそう語る。この場にいるのは構造課を去ったサイレンス、そして協力者にあたる、エンジニア課のメイヤーの3人。

 

「でも、そこで問題が発生したわ。クルビア国外で活動するPMCが、マンスフィールド監獄に接触したそうなの」

 

「PMC?それはアンソニーに関係が」

 

「関係は特に無さそうだわ。監獄に接触した理由も不明。そもそも、事件を理解していない可能性だって高いわね。それと名前はサモス・アイランドって言うそうよ。サモス・アイランド・トラスト」

 

サイレンスはその言葉について考える。答えが出ない。そのPMCは何を考えていたのか。一体アンソニーとは何の関係が。ハイドブラザーズの雇った増援?考え込んでいたサイレンスに対して、メイヤーが伝える。

 

「ねぇ、みんなこれを見て。凄い事になってるよ」

 

「これは…カジミエーシュメジャーの様子ね。あら、あの銀弓君の復活試合じゃない。ウルサスの凍原で大暴れしたって奴。クルビアでも散々話題になってるのよ。チェルノボーグから大口の取引契約が持ち込まれたって話もあるし」

 

「カジミエーシュメジャー?、そんな物がアンソニーに何の関係があるの?」

 

サイレンスはその映像を訝しんでいる。ミュルジスは興味津々らしい。そして

 

「所でサイレンス主任、何かあったのですか?予想外の事態が起きたようですが」

 

「アンソニー、今来たら駄目よ。すぐに戻って」

 

「アハハ、アンソニーがこんな所にいるだなんて、そう言うからくりだったのね。まあ良いわ。アンソニーさんもご覧になって行かない?とても面白くなってるわよ」

 

「私も見ていく、とは?」

 

「つまりこう言う事」

 

ミュルジスはアンソニーに向けてモニターを方向転換する。すると

 

「レディース&ジェントルメン!ようこそニューイヤー競技場へ。カジミエーシュを追われた先に、ウルサスの氷原から奇跡の帰還を果たした我らが止まらない台風の目、銀弓の騎士の名誉回復をかけた騎士試合が始まります!」

 

「初戦のお相手はこちら!クルビアよりやって来たピーチブレラ社の尖兵!ビーチブレラ社で5年間最優秀社員!鉄を操ると言うクルビア最高の暗殺者!」

 

「ジェッセルトン・ウィリアームズ!」

 

「…は?」

 

サイレンスは、アンソニーもメイヤーも驚愕した。ミュルジスだけが面白そうに笑う。

 

「アハハ、何これ、最高に面白いじゃない。カジミエーシュ」

 

「ねぇ、銀色……」

 

プラチナはプレミアム席から競技場を見下ろしていた。

 

ニューイヤー競技場。カジミエーシュメジャーの開催地であり、大騎士領でも指折りの巨大競技場。その観客席を埋め尽くす人々の視線は、今まさに入場して来た二人の騎士に向けられている。

 

「いやー、凄い人気ね。銀ちゃん」

 

隣の席から声がした。

 

「……何であんたがいるのよ」

 

「休日だからよ。何か問題でも?」

 

モニークだった。おまけにロイもいる。

 

普段は暗殺稼業に忙しいラズライトが、今日は何食わぬ顔で競技場に座っている。

 

「問題だらけでしょ。私達、あいつを暗殺する仕事を受けてるんだけど」

 

「今は仕事してないもの」

 

「……そう」

 

それは確かにそうだった。

 

「ところで、銀色の対戦相手って誰なの?」

 

「知らないわよ。クルビアの企業騎士でしょ」

 

「ジェッセルトン・ウィリアムズ。ピーチブレラ社の最優秀社員、だそうよ」

 

「ふうん」

 

モニークは端末を操作していた。

 

「……何してるの?」

 

「銀色に賭けてるの」

 

「……あんたも?」

 

「も?」

 

プラチナは何も答えなかった。

 

「ちょっと、まさかあんた、無胄盟の報酬を全部?」

 

「別にいいでしょ。私のお金なんだから」

 

「……馬鹿じゃないの」

 

「銀ちゃんの予想はよく当たるのよ」

 

「本人が出場してるんだけど」

 

「だから勝つでしょ」

 

モニークはしばらく黙った後、端末に表示された賭け金を増額した。

 

「……何してるの?」

 

「私のお金だからいいでしょ」

 

「馬鹿じゃないの」

 

「うるさいわね」

 

その頃、競技場の別の一角では。

 

「お兄ちゃん、頑張ってぇぇっ!」

 

マリアが全力で手を振っていた。

 

「マリア、まだ試合は始まっていないぞ」

 

「だってお姉ちゃん! お兄ちゃんが騎士競技に出るんだよ!?」

 

「分かっている」

 

「それに相手、クルビアの暗殺者なんでしょ!? 大丈夫なの!?」

 

「……おそらく」

 

マーガレットは競技場を見下ろした。銀弓は、対戦相手に何か話しかけている。その様子はあまりにも普段通り。

 

「……少なくとも、本人は緊張していないようだ」

 

「そういう問題じゃないよぉっ!」

 

「落ち着け、マリア」

 

ムリナールが新聞を畳んだ。

 

「そもそも、あいつはウルサス軍と戦って帰って来た男だ。企業騎士一人を相手に、そう簡単に後れを取るものか」

 

「おじさん、そういうこと言ってるとお兄ちゃん、また無茶するよ!」

 

「……それは否定できんな」

 

「でしょう!?」

 

マリアは再び競技場に向かって手を振った。

 

「お兄ちゃん! 無茶しないでねぇぇっ!」

 

その声は、観客の歓声に呑み込まれて消えていった。

 

一方、クルビアでは。

 

「……何でジェッセルトンがあそこにいるのよ」

 

サイレンスが頭を抱えていた。

 

「おかしいわね。確かに収監されたはずなんだけど」

 

ミュルジスは楽しそうに画面を眺めている。

 

「何がおかしいのよ!」

 

「いえ、あたしだって知らないわよ。まさか騎士競技に出場するなんて」

 

「そういう問題じゃないでしょう!」

 

「まあまあ、落ち着いて。せっかくだし試合を見ましょうよ」

 

「……アンソニー」

 

「はい」

 

「あなたは、あの男について何か知ってる?」

 

アンソニーは画面に映ったジェッセルトンを見つめた。

 

「彼が監獄で看守を装っていたことは知っています。しかし、その後については……」

 

「そうよね……」

 

「ただ」

 

「ただ?」

 

「彼が騎士競技に出場する人物だとは、思っていませんでした」

 

「私もよ!」

 

メイヤーが端末を操作しながら言った。

 

「ねぇ、これ見て。銀弓って人、ウルサスの伯爵なんだって」

 

「それはさっき聞いたわ」

 

「それで、チェルノボーグの再建に関わってるんだって」

 

「それも聞いた」

 

「しかも、カジミエーシュで感染者騎士として出場するらしいよ」

 

「……それは」

 

サイレンスは少し考えた。

 

「……確かに、珍しいわね」

 

「でしょ?」

 

ミュルジスが笑った。

 

「面白いじゃない。クルビアの元看守と、ウルサスの伯爵が、カジミエーシュで騎士競技をするのよ」

 

「……何なのよ、その組み合わせ」

 

「それがカジミエーシュなんでしょうね」

 

そして競技場では。

 

「お会い出来て光栄ですよ、カジミエーシュの銀弓様。いえ、ウルサスの新伯爵と呼べば良いでしょうか」

 

ジェッセルトン・ウィリアムズは、丁寧に一礼した。

 

「私のことは、ジェッセルトン・ウィリアムズと」

 

「失礼ですが、どちら様?」

 

「…………」

 

ジェッセルトンの笑顔が止まった。

 

「……ジェッセルトン・ウィリアムズです」

 

「ええ、お名前は伺いました。それで、どちらの方ですか?」

 

「…………」

 

観客席では、プラチナが吹き出した。

 

「ぶっ……あははっ!」

 

「何よ、あれ」

 

モニークが呆れた。

 

「相手のこと調べてないの?」

 

「銀ちゃん、そういうところあるから」

 

「……本当に?」

 

「うん」

 

その頃、クルビアでは。

 

「知らないの!?」

 

サイレンスが思わず叫んだ。

 

「何で知らないのよ! あんなに有名になった事件なのに!」

 

「まあまあ」

 

ミュルジスが肩を震わせて笑っている。

 

「本人には関係ない事件だったんじゃない?」

 

「関係ないって、あの男……!」

 

「少なくとも、銀弓君はそう思ってるみたいね」

 

そして、銀弓は。

 

「……それで、試合はいつ始まるのでしょうか」

 

「…………」

 

ジェッセルトンは、しばらく何も言わなかった。

 

その様子を見て、銀弓は少し首を傾げた。

 

「……何か失礼なことを言いましたか?」

 

観客席では、マリアが顔を覆っていた。

 

「お兄ちゃん……!」

 

マーガレットは苦笑していた。

 

ムリナールは、もう何も言わなかった。

 

そしてプラチナは、笑いながら思った。

 

(……変わってないなぁ、銀ちゃん)

 

あの頃と同じだ。誰が相手でも、何が起きても。銀ちゃんは銀ちゃんのままだった。




祝・暗殺失敗おじさん、競技騎士おじさんに転向する。就活失敗騎士脱却、商業連合会に就活成功なるか!?
17章、遂に日本版でも実装されますね。でも内の所のロドス15章で止まってるんですけど…。この際危地作戦捨てるか?

それと、そろそろ文体が硬くて、各部の関連がわかりづらいと感じて来たので、AIを導入して対応してみました。何か気になる事があればコメントでも伝えて下さい。その際AIの是非も再検討します。
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