The Allow of Silver 銀弓の運命は砕け得るか 作:Delphinus
「初めましてと、そう言って良いだろうな。あなたの家の事は嫌になる程知っているとも。銀槍のペガサス」
「そ、それはどうも。僕はペガサスじゃないですけど」
作戦が終わった後。チェルノボーグの路地の一角。僕を呼び止めたリーベリの老人はそう言った。パトリオットさんと僕、そして路地裏でなんか気絶しているロドスの兵士。何と言うか、物凄く気まずい。
「引くべき時に引き、攻めるべき時に攻める。例え弱い騎士であっても無理はさせず、的確な指揮によって着実に成果を上げて来た。君の家はウルサスにとって、どんな征戦騎士よりも恐ろしい存在だ。まさに怨敵にも等しかった」
「そんなに言うほどでは無いですから。それに、もう壊滅しましたし」
「そうかね? だが、君はこうして生きている」
「カジミエーシュは、元々こう言う国なんです。容赦か無い割にだらし無くて、だから変な要素が、いつまで経っても生き残ります」
「成る程、変な要素か。では、何故君は故郷である筈のカジミエーシュを捨てて、このウルサスにいる?」
「それは成り行きです。鉱石病でカジミエーシュを追われた後、暫くの間国境外で活動するPMCの世話になっていました」
「……言ってみろ」
パトリオットがそう言う。はあ、緊張する。あ、その辺の寝ていたロドス兵が起きましたね。
「このPMCが中々碌でもなくて、ヴィクトリア製の旧式艦を本拠地にしていたんですが、どうしようも無い汚れ仕事ばっかり受注するんです。ボリバルで連合政府やシンガス王朝に雇われて、政治的反対者の粛清とか、ヴィクトリアでは公爵達の世話になって、他の公爵家にちょっかいをかけたり」
「ウルサスでは、軍の下請けとして感染者を匿った村を襲撃する仕事をしていました」
「……それは最低だな」
「ええ、だからやる気が起きなくて、でも、だからと言って他に行く宛も無いんですよね」
「なので中途半端に仕事をするふりぐらいはしていたんですけど。元々無胄盟なので、仕事のふりは得意なんです」
「仮にも征戦騎士の家系にこのような仕事をやらせるとは、世も末だ」
そう言って肩を竦める将軍。何でもパトリオットが仰るにはへラグと言うらしいです。……え? それってウルサスの大将軍の名前では? 何でこんな所に? 、て、僕が言う事じゃ無いですね、正直。
「その後、PMCがウルサス軍の下請けで行った作戦で、レユニオンの部隊に遭遇しました。戦えば勝てないと分かった上に、やる気の無かった僕は、適当に戦うふりをしてから雑に投降しました。PMCの部隊は壊滅しましたが、ざまあみろと思います」
「そんな人生でいいのかね? 君は」
へラグ将軍はそう仰った。僕はと言えば、ああ、否定の余地が全く有りません。
「本当は、僕だってマーガレットと結婚したかったです。マーガレットの騎士道を僕の力で支えたかった。正直に言えば、商業連合会がシーズンを通じてマーガレットに仕掛けた難癖ぐらいなら、突破出来る自信がありますから」
「僕の手で、初恋の人を最強の座に押し上げたかったんです。でも、そんな願いは叶わないので、もう良いと思っています」
「判断の速さは……、銀の騎士家の長所だ。だがこの場合は、優れた素質のせいで希望まで潰している」
パトリオットはそう言って総括した。僕はと言えば、まあ、もう少しだけ話します。
「それに、今ここにいるから出来る事もあるんです」
そう言って僕は、その辺で転倒していたロドス兵士を起こした。兵士は驚愕して武器を向けようとしたから、雑に腕を握って阻止する。
「う、うわぁぁっ『大丈夫ですよ、別に死にはしません』し、死にはしないって」
「それより、お名前を聞いても構いませんか?」
そう言って僕は微笑みかける。その人はポツポツと話し出した。
「お、俺は、Guardと言います……はい」
「成る程、Guardさんですね。ああ、そのすみません。コードネーム文化に疎くて。取り敢えず、はい、お酒でもどうぞお近づきの印に」
Guardと言うらしいその人に、取り敢えず手元の酒を差し出した。えええっ、と言って驚愕するGuardさんに対して、僕はスキットルを向けて言う。
「生きてる事に乾杯!」
「え、えええ……」
そう言ってゴクッと飲み干した。うん、別に美味しく無い!
Guardさんもちびちびと飲み始める。わあ、そこそこ美味しい。と言った彼に対して、僕はこう言う。
「あなたの身柄は、我々レユニオンが責任を持って保護します。取り敢えず、捕虜交換の日まで生き残りましょう!」
「こ、こんな方法で良いんですか……」
そう言って項垂れた様子のGuardさん。へラグ将軍はこう仰った。
「やはり、彼は銀槍のペガサスだな。過去の戦場でも、捕虜の待遇に秀でたと言う」
「ああ、我らの、自慢の将軍だ」
「さて、Guardさんには今日から、水耕栽培用キャンピングカーの管理をお願いします」
「へぇ、凄い。これ全部畑を作っているんですか?」
ビッグボブの農場の一角に設置している、水耕栽培用キャンピングカーの様子を見せる。クルビアからの輸入車にクルビアから輸入した水耕栽培システムを搭載した物。キャンピングカーなので移動も楽と言う寸法です。
「と言うか、クルビア車なんて良く買えましたね」
「正確には、クルビア国外の荒野で買ったんですよ。国家が管理していない土地には、案外多くのマーケットがあるんです。クルビアの商品の一部は、そうした場所で取引されています。僕もPMC時代に覚えました」
馴染みの商人であるキャノットさんにお願いして、購入したキャンピングカーに、クルビアから輸入した種子を元手に始めたこの簡易農業。地味に見えて凄い生産力なんですよね。
「ああ、来ていたのかい? 出迎えが遅れてすまないね」
「ええ、ですが出迎えまではいりませんよ、ビッグボブさん。こっちの都合ですから」
そうしている僕たちを出迎えたビッグボブ。レユニオンの農園担当です。レユニオンが消費する食料の大半は、こうした農園で生産されています。畑だけじゃなくて、将来的には畜産にも手を出したいとか。そのうちマーケットで家畜と畜舎も購入しないといけませんね。
「こちらはロドスのGuardです。ロドスが作戦から置いて行ったせいで帰れないらしくて、暫く農場で預かってくれませんか? 僕としては、水耕栽培用のキャンピングカーを任せようと思いまして」
「成る程、キャンピングカーの管理か。それは有りだな。私としても人手が増えるのは大歓迎だよ」
「え、えええっ、ほ、本当にやるんですか?」
そう言って驚愕するGuardさん。僕はこう言った。
「武器を持つより、こう言う仕事の方が有益な物です。ね?」
そんな僕に対して、Guardさんはこう言った。
「所でAceさんや、部隊のみんなが倉庫に放り込まれたと言うのは、本当なんですか?」
「? 、Aceさんって誰ですか?」
「……何でも無いです、はい」
(Aceですか、マークしておきましょう)
ロドスと言う組織にとって、Aceの名前はかなり重要らしい。あの時に捕らえた無駄に強い盾兵でしょうね。縛っておけば捕虜交換にも使えそうです。
「聞いたぞ、幽霊。龍門への侵攻に反対しているようだな」
「ええ、実はそうなんです。フロストノヴァさん」
Guardさんの処遇をビッグボブに一任した後、亡霊部隊の部隊長に戻った僕をフロストノヴァが出迎えた。レユニオンの内部は現状、龍門へ侵攻するか、或いは計画を取りやめて、チェルノボーグを拠点化するかで二分している。
(それにしても、タルラさんは何故こんな命令を?)
「理由を聞いても良いか?」
「当然ながら、理由は二正面作戦を強いられるからです。チェルノボーグも固まっていないのに、龍門にまで突入するだなんて、論理的に不条理な策ですよ」
「僕たちはもう、ウルサスとの戦争を始めたんですから」
「成る程、では、龍門の感染者についてはどう考えている?」
「それはそうですね。レユニオンと言う組織にとって対処不能な事です」
「対処不能?」
訝しむフロストノヴァ。僕はこう言う。
「僕たちの組織には明確な出来る事と、出来ない事があります。ウルサスとの戦争に勝つ事は出来ますが、炎国を敵に回してまで生き残る事は不可能です」
「不可能な事は、逆立ちしても無理なんです」
「と言うか、そもそもウルサスに勝つつもりだったのか……お前」
「ええ、当然でしょう? 僕に言わせれば、本格的な戦争以外に戦う価値なんてありません」
そう言って僕は頭を上げる。と言うか、みんな本格的な戦争には妙に躊躇しますよね。僕に言わせれば、本格的な戦争以外戦う価値なんて無いのに。
「それに、東部に派遣した偵察隊から情報が上がりました。ロドスは現在龍門に停泊中。恐らく龍門の執政官、ウェイ・イェンウと手を結ぶつもりです」
「つまりロドスは龍門と共同し、進出する筈のレユニオンを迎え撃つ構えを取っているんです」
「逆に言うと龍門に進出しなければ、ロドスの狙いは不発に終わります」
「待ち伏せに対しては、そもそも待っている場所に行かなければ良い。そう言う意味だな」
「ええ。とてもシンプルでしょう?」
そう言って僕はロドス艦の移動経路図を共有する。外部からの偵察情報から作成したので、精度は少々粗いですが。
「ロドスだけで無く、龍門もこちらの攻撃を待っています。つまり、龍門は無視すれば良い。ウェイ・イェンウは炎国でも切れ者と評判です。ウルサスとの戦争を極度に警戒している以上、どうせ向こうから仕掛けて来るつもりはありません」
「なんならチェルノボーグ全域に、ウルサス領のコードを発信しても良さそうです。こうすれば龍門からは手出し出来ないでしょう。それにそんな事より、ウルサスのチェルノボーグ奪還軍を警戒して軍備を揃えないと」
「チェルノボーグ全域に、ウルサス領のコードを発信する? カジミエーシュの亡霊は恐ろしい策を考えるな。相変わらず」
「ふふ、それは良かったです。スノーデビル小隊は引き続き、市内のレユニオン兵が軍規を乱さないか見張って下さい。市民がレユニオンを攻撃する場合にも注意を。その場合は縛って倉庫にぶち込んで下さい」
「全く、倉庫を便利に使いすぎじゃないか」
そう言って、フロストノヴァさんは向こう側を見る。コントロールタワーの方を。そして言う。
「どう考えてもいる筈の無いお前がよりによってウルサスにいる事は、ウルサスにとってどれだけ不幸なんだろうな」
「勿論、まだ徹底的に不幸にするつもりです。不幸のどん底で死に絶えて貰わないと。ウルサスの支配体制には」
「全く、そう言う所が最低なんだ」
その後、僕はそっとシュミレーションの内容を反芻した。
「ロドスの戦力と正面からぶつかった場合、大損害は確実。おまけに切り札を何枚隠しているかも不明。その上に龍門まで乗って来る」
「ですが、ロドスが想定しているのはあくまで局地戦の筈。ならばこちらは、戦争の規模を引き上げれば良い」
「その時が来たなら、対応力の物理的限界を突きましょうか」
ロドスに対するには、戦争の規模を引き上げるのが一番でしょう。その上で部隊は無視して艦から落とす。その策は出来ています。
「後は、ロドスがどう動くつもりなのか。こちらが龍門に向かわなくても、向こうから来るなら、話が一気に厄介になりますね」
ドクター:レユニオンの新幹部?攻略法は…
「まずは艦から撃沈します」
「盤面戦では全力撤退します」
「ドクターが指揮していない分隊だけを狙います」
「消耗戦に持ち込んで破産するまで射撃し続けます」
ドクター:何でそんな事するんですか…