The Arrow of Silver 銀弓の運命は砕け得るか 作:Delphinus
謎の赤騎士の登場によって、バーは突然のように静まり返った。
彼の言葉に、僕はそっと考える。
「バトバヤル……我が同胞、その末裔よ」
(何この言葉。古代語? イントネーションからして、もしかしてナイツモラ辺り?)
あいつの歪な鎧も、ナイツモラの意匠だと思えば納得が行く。
でも、だとしたら彼はどこでこんな言葉を学んだ?
(文化を受け継ぐのは簡単な事ではない。あの鎧も、言語も、思想も。既に消えた物を、彼はどこで身に付けた?)
「お前はなぜ、斯様な場所にいる?」
「……! お主、その名をどこで?」
(狙いはフォーさんみたいですね)
彼の狙いは、どうやらフォーゲルバイデのお爺さんらしい。
僕は静観を決め込んで、ポテトをパクつく事にした。
「お客さん、ご注文は? ……用がないのなら、武器を持った騎士はあんまり歓迎出来ないんだが」
「……それは残念だ」
ナイツモラの騎士。いえ、そもそも歪な鎧の彼を騎士と呼ぶべきでしょうか。
かつてのナイツモラに、騎士という文化は無かった筈です。
彼は店主のマーティンさんに、大して残念でも無さそうな返事をした。
「__コーヴァル、マリアが引き続き工房を借りたいって言うんだけど。て、あ、あなた達!」
「ま、待ってよゾフィア姉さん……きゃっ! て、お、お兄ちゃぁん! こんな所に!?」
「その、すみません。ご無沙汰です、ゾフィアさん。マリアも」
競技騎士を引退したゾフィアさんに、マリア。
まさかこうも役者が揃うなんて。
はぁ、想定外も良い所です。
仕方がないので頬杖を突き、窓の向こうの街灯りを眺める。
するとロイが、無駄にサムズアップしてきた。
うわっ、ウザッ。
そう思っていると、ゾフィアさんが赤い騎士に向き直った。
「銀弓ちゃんの事は後で追及するとして……追魔騎士さん?」
「今回大注目の超新星さんが何をしに来たの? マリアとマーガレットについて、探りを入れに来たのかしら?」
(いや、そんな訳無いでしょうに……)
ゾフィアさんの推理は、僕からすれば少々センスが足りない。
彼がこのカジミエーシュという、せいぜい中堅国家の常識で動くと思うんでしょうか。
「そこまでにするべきです、ゾフィアさん」
「銀弓ちゃん、何を言って」
「それ以上は、彼に失礼ですよ」
「ほう……」
赤い騎士は、何か納得したように僕を見た。
僕としては、これで話が終わればありがたい。
そう思ってポテトに手を伸ばしたところで、追魔騎士が唐突に言った。
「まさかこの場で見えるとは面白い。銀弓のペガサス。この大地で最も戦争に近い騎士よ。貴様はかの凍原で、どのような戦いを経て来た?」
「……は? 僕ですか? バトバヤルさんじゃ無くて?」
「ほら、言われてるぞ。答えてやりなよ、銀弓さん?」
「えぇ……」
何でこっちに来るんですか。
ロイにまで言われて、なんかもう嫌になって来ました。
とはいえ、聞かれた以上は答えましょう。
「この大地には、戦争でなければ解決出来ない問題があります。あの時の僕たちにとってはウルサスの内政問題であり、鉱石病問題の事でした。だから僕たちはそうしたのです」
「それがどんなに悪かろうと、どこが許さないとしても、誰が認めないとしても、そうするのです」
「互いに譲れず、他に解決する方法も無いのなら、最後は戦争で結果を引き受けるしかありませんから」
「ほう……貴様は騎士では無いな」
「それはどうも」
妙な納得をされてしまった。
マーティンさんもコーヴァルさんも、フォーさんも何も言えない様子。
ゾフィアさんは何か言いたげで、マリアは……どうしましょう、目のハイライトが変です。
ロイ?
もう気にしたく無いよ。
「この場所には、留まる価値などないと思っていた。だが、お前だけは少し違うようだ」
「な、誰に向かって物を言うておる!」
フォーさんがキレ気味に言葉を返した。
しかし追魔騎士は構わず、僕に向けて続ける。
「ウルサスの有り様は、このカジミエーシュにも負けず劣らず惰弱だった。ハガンの功績への不敬に値する。だが、お前は戦争によってそれを正したな」
「それはハガンの偉業に大いに報いる行いだ」
「それは……ありがとうございます」
ちょっと理解出来ません。
理解出来ないまま、ぺこりと頭を下げておく。
こういう時は、理解出来なくても礼ぐらいは言っておく物です。
「貴様の行く道を、我らの言葉で天路と呼ぶ。これからも励むと良い」
「おっ、凄えじゃん。追魔騎士に認められたなんて、なぁ銀弓さん?」
「もう黙ってて下さいよ。ただの騎士競技ファンなんでしょう」
ロイの奴がやたらと突っ込んで来る。
もう、本当にウザいですね。
ええ、そう思っていました。
「お兄ちゃぁぁぁんっ! どういう事? ねえどういう事なの!? 何で追魔騎士さんに認められてるの? そもそも何でここにいるの? と言うかそこの騎士ファンとは何の関係!? ねぇ、ねぇったらぁっ!」
「ぐぇぇぇっ! むぐっ、そ、その、マリアぁっ、ぐえええぇぇ……!」
ぎゅううぅっと抱き締められる。
何と言うか、頭がクラクラして吐きそうになって来ました。
「銀ピカー、今ここにいるんでしょう? て、あら。面白い事になってるじゃない」
そこへ、観光気分全開のWがやって来た。
彼女は僕の席にあるポテトに注目すると、しれっとフォークに刺してしまう。
「はい、あーん」
「えぁっ、あ、W?」
「さっさとしなさい、あーん」
「……は?」
目線が氷点下より下がっていくマリアを前に、Wがフライドポテトを半ば無理矢理押し込んできた。
しょうがないので、そのまま食べる。
「ふむ、ん、んむぐっ」
「それで、お味は?」
「素敵です、W。あなたのお陰でとても美味しかった」
「……は?」
今度はマリアが、ポテトをフォークに刺してこちらに向けた。
目のハイライトが消えている。
「ねぇお兄ちゃん。あちこちに色目を使うの、私良くないと思うなあ」
「そ、それはその──」
「はい、召し上がれ」
「むぐうぅっ!」
ケチャップ付きのフライドポテトを、無理矢理食べさせられてしまった。
そういえば、追魔騎士はもういません。
用事が終わったのでしょう。
それに。
「何これ、最高に面白いじゃん。いやーファンとしては撮りがいがあるなあ」
ロイが写真を撮りまくっている。
もう、本当に無理。
(何で、こうなったんでしょう……)
その後、ジャスティスナイトの改修については同意を頂けました。
ただし、Wにはピザを、マリアにはカジミエーシュの伝統的な煮込み料理、グヤーシュを奢る羽目になりましたね。
「はぁ、またお兄ちゃんの手作り料理が食べたい」
「あれは征戦騎士なら誰でも作れるレシピですよ?」
「それ絶対嘘だから。お兄ちゃんが料理出来過ぎるだけだもん」
まったく。
カジミエーシュに帰って来てから、何だかこういう事ばかり起きています。
「……どうぞ」
「傷はかなり癒えたようだな」
リターニア領内、移動都市ウォルモンド。
議事堂の仮設客室で、天災トランスポーターのビーダーマンは憲兵長セベリンを迎えた。
「いつまでも『私たちはもう終わりだ』とでも言わんばかりの顔をするのはやめろ。たまには、もう少し気楽に考えるべきだ」
「せめてここにいる時くらい安心したらどうだ。議事堂の客室には、誰も押しかけては来ない」
「……私の家は、どうなりましたか?」
ビーダーマンは、そう問いかけた。
セベリンは少し黙った。
「ひどいものだ。知らない方が良い」
「……そうですか」
窓の外には、ウォルモンドの街並みが広がっている。
だが、この街には既に、逃げ道が無かった。
南東への移動経路は、大裂孔によって遮断されている。
進路を変えられなければ、ウォルモンドは北へ進み続けるしかない。
救済協定を結べる都市も見つからず、補給の見通しも立っていなかった。
冬が来れば、飢饉が起こる。
そして、北にはウルサスがある。
「……このままでは、国境を越えてしまいますね」
「ああ」
セベリンは頷いた。
「ウルサス帝国だ。何としても引き返さなければならん」
テラでも有数の軍事国家。
その領土に、リターニアの移動都市が許可なく侵入する。
それが何を意味するのか、二人とも理解していた。
「一つだけ忠告を聞いてくれ。しばらく街に出るのはやめろ」
セベリンは言った。
「今回はただのかすり傷だったが、次はどうなるか分からん」
ビーダーマンは、何も答えなかった。
七日後。
「こんにちは〜。誰かいますか?」
聞き慣れない若い女性の声がした。
「ウォルモンドの天災トランスポーターがここにいるって聞いて来ました。いますかー?」
ビーダーマンは、扉の向こうを見つめた。
彼女は、自分が天災トランスポーターであることを知っている。
「……どなたですか?」
「ロドスから来ました! ちょっとお話があるんですけど!」
「ロドス……?」
「ドアは開けられますか?」
「今は、その……」
扉の向こうで、何やら相談する声が聞こえた。
「___ドアを蹴破るのよ」
「こんななりだけど、私だって素手でオリジムシを退治できるんだから___」
「おらぁー!」
「えっ?」
次の瞬間、扉が蹴破られた。
「こんにちは!」
「…………」
ロドスのオペレーター、アント。
彼女は開始早々、ドアを蹴破って私を訪ねて来た。
私の協力を得る為に。
今となっては、少々懐かしい気もするね。
「ドアは開けるな。そのまま話を聞け」
アント先生の手伝いを始めて間もない頃、再び私の部屋を訪ねて来た人物がいた。
トールワルドだった。
「おっと、そこまで警戒しなくていい。ただ諸々の失敗を取り戻そうとしているだけだ」
「……用件は何だ」
「ウォルモンドの危機に際して、救済協定の締結を提案した都市が現れた」
「何だと!?」
思わず立ち上がりかけた。
このウォルモンドを救済する?
南東への道は大裂孔に塞がれ、リターニア本国との連絡も難しい。
外国からの救援を受けるにしても、周囲の状況を考えれば容易ではない。
いや、まさか。
「その都市の名はチェルノボーグ」
トールワルドは言った。
「ウルサス最新の貴族、タルラ公爵が擁する、ウルサス最東部の自由都市だ」
「……よりによって、そこか」
チェルノボーグ。
感染者の暴徒がウルサスの都市を占領した。
その報せだけでも、リターニアには激震が走った。
私自身、耳を疑ったものだ。
ところが、その占領はなぜか皇帝によって追認された。
今では自由都市を名乗り、クルビア企業との取引まで始めているという。
そんな都市が、ウォルモンドを救おうとしている。
「チェルノボーグから、タルラ公爵の署名が入った書簡が届けられた。ツヴィリングトゥルムにも、ここウォルモンドにもな」
「……何と?」
「チェルノボーグはウォルモンドを救援する用意がある。そのために、ウルサス南部への移動と、リターニアへの一時的な入国許可を求めている」
「入国許可……?」
「ああ。ウォルモンドにも、ウルサス国境付近まで北進を続けてほしいそうだ」
ビーダーマンは言葉を失った。
ウォルモンドが北へ進めば、ウルサスとの国境に近づく。
それは、この街が最も恐れていたことだった。
だが、今度は違う。
国境の向こうから、救援が来るという。
「……本当に、来るのか?」
「さあな」
トールワルドは肩をすくめた。
「だが、書簡は正式なものだ。リターニア中が面白いほど大慌てしている。貴族同士の結婚式など、もう霞みそうなくらいだよ」
「お前は、チェルノボーグを……ウルサスを信じているのか?」
私は尋ねた。
感染者が占領した都市。
それを承認したウルサス皇帝。
そんな相手に、ウォルモンドの命運を預けるのかと。
「信じるか否かは……どうでも良い」
トールワルドは答えた。
「使えるか否かだ」
「…………」
「ウォルモンドはこのまま進路を維持し、ウルサスとの国境付近まで北進する」
彼は続けた。
「それだけだ。覚えておけ、全ては……より多くの命を救う為だ」
「……トールワルド」
私は、もう何も言えなかった。
救援が来る。
それも、ウルサスから。
数日前まで、我々はウルサスの国境を恐れていた。
その国境に向かって進むことが、今ではウォルモンドを救う唯一の道になろうとしている。
「……ここがウォルモンドか」
クルビア製の輸送機から降りたタルラは、眼前に広がる移動都市を見渡した。
リターニア、ウォルモンド。
チェルノボーグからの救援部隊が到着したのだ。
「そんな、本当にこの街に救援が来た……」
「あれが都市を制圧した感染者達って本当なの!?」
「しかも今は、ウルサスの皇帝が認めた公爵様だって!」
周囲には、早くも人だかりができている。
(やはり目立っているな)
タルラは苦笑した。
もっとも、目立つことには慣れている。
かつてはレユニオンの指導者として、今はウルサスの公爵として。
立場こそ変わったが、人々の視線を集めること自体は珍しくない。
問題は、その視線の中に何が混じっているかだ。
(……あれは、まさか)
群衆の中に、一人の人物を見つけた。
グレーシルクハット。
銀の弓から聞かされていた、ヴィクトリアの諜報機関だ。
『カスター公爵のグレーシルクハットにはお気を付けて下さい。ヴィクトリアが動く場合、真っ先に動いて来ます』
『彼らの強みは組織力と技術力です。もし敵に回すなら、カスター公爵そのものを敵に回す覚悟が必要ですよ』
(ヴィクトリアまで、この街に注目しているのか)
ウォルモンドは今、リターニアの一地方都市というだけでは済まない状況にある。
ウルサスの自由都市が救援に乗り出し、両国の間で移動都市の進路を巡る交渉が行われている。
他国が関心を持つのも無理はない。
(……それに、あのループス)
道端に、酔っ払ったような男がいる。
本当に酔っているだけなのか、それとも別の何者かなのか。
銀の弓は、以前こんなことも言っていた。
『シラクーザの「関係無い」男と、本当に関係無い男を見間違えないようにしてください』
『商業連合会は、そこで何度も痛い目を見たんです』
(本当に何をやったんだ、商業連合会……)
タルラは内心で呆れた。
だが、見知らぬ人物を片端から疑っていても仕方がない。
それに、炎国のズオ・ラウまでいる。
司歳台なら、目的はおおよそ想像がつく。
(余計なことをしない限り、放っておこう)
タルラは周囲の様子を頭に留め、議事堂へ向かった。
まずは、ウォルモンドの人々と話をしなければならない。
この街を救うために来たのだ。
「初めまして。私はタルラと言う。あなたの名前を聞いても?」
「お会い出来て光栄だ、タルラ公爵。私はセベリン。憲兵長ということになっている」
出迎えた男は、いかにも疲れた顔をしていた。
無理もない。
この街は、今も危機の最中にある。
「遠路はるばる、ご苦労だった」
「いや、礼には及ばない。まずはウォルモンドの現状を聞かせてほしい。こちらも、できる限りの準備はしてきた」
「ありがたい。では、議事堂へ──」
そう言いかけたセベリンの背後から、妙に賑やかな声が聞こえてきた。
「頑張れ、頑張ってビーダーマン! そこ、行けぇ、やっちゃえぇっ!」
「いや、む、無茶ですって、うぐうぅっ!」
大きな荷物を抱えた男が、よろよろと歩いている。
その傍らでは、ロドスの制服を着た女性が、やたらと元気よく応援していた。
(……何というか、これは良いのか?)
タルラは思わず足を止めた。
どう見ても、荷物を運んでいる男より、応援している女性の方が元気そうだった。
「……セベリン殿」
「何だ?」
「あちらは?」
「……ああ」
セベリンは、深いため息をついた。
「あれはビーダーマンだ。ウォルモンドの天災トランスポーターを務めている」
「天災トランスポーター?」
「ああ。今のウォルモンドにとって、重要な人材だ」
タルラは、もう一度二人を見た。
「頑張れー! あとちょっと!」
「ま、待って、もう少し休ませて……!」
(……重要な人材、か)
確かに、この街には色々と事情があるらしい。
タルラは小さく笑った。
「それでは、まずは話を聞かせてもらおう」
ウォルモンドの救援は、まだ始まったばかりだった。
追魔騎士…ニアーライトのチョイ役。でもナイツモラ周りの設定を開示する超重要人物。
ビーダーマン…ウォルモンドの薄暮れより、天災トランスポーター。酷い死に方をした。
セベリン…ウォルモンドの薄暮れの中心人物。ウォルモンドを守らなければならないのに、全方位から妨害されて流石に可哀想になって来る人。
アント…ウォルモンド駐在のロドスオペレーター。開幕早々に死亡済みの凄い奴。
トールワルド…ウォルモンドにおける殺人事件の元凶。ウォルモンドの薄暮れをサスペンスとしてとらえるなら、真犯人と言う事になる。全てはより多くの命を救う為に、と言う危機契約のコンセプトを説明した存在。
この作品のR-18需要はありますか?もしあるなら、ヒロインは誰が良い?
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ニアール
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W
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マリア
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プラチナ
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タルラ!?
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