The Arrow of Silver 銀弓の運命は砕け得るか 作:Delphinus
「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは何で毎回毎回、危険な事ばかりするの?」
「そ、そんな事を言われても、ま、マリアぁっ、うぐぇぇ……」
コーヴァルさんが昔使っていたガレージは、今ではマリアが使っているらしい。
そして僕は現在、そのガレージの仮眠用ベッドにぶち込まれ、金属作業用の固定具でガチガチに拘束されていた。
……どうしてこうなったんでしょう。
「それに、最近のお兄ちゃんにはさ、女の人の影がいっぱい見えるよね。ちゃんと説明してくれないかな?」
「ま、マリア、まずはこれを……」
「ねぇ、Wさんって誰? お姉ちゃんの事はどう思ってるの? まさかヴィヴィアナさんにまで色目使ってないよね?」
「そ、そんな事、言われてもっ、むぐぁぅぅっ」
金属作業用の工具を拘束具に使われると、ちょっと本気で困る。
割と洒落にならない強度がありますから。
しかも、マリアは工具の扱いに慣れている。下手に暴れれば、ますます抜け出せなくなりそうでした。
それに。
「ねぇ、お兄ちゃん。どうなの?」
「どうって、言われても、むぐうぅっ」
マリアの雰囲気が、なんかヤバい。
いえ、ヤバいとしか形容できません。はい。
(ど、どうすればいいんでしょう。……この状態じゃ、まともに答えられな……ぐぇぇぇっ)
「来てみたけど、何なの……この状況」
「えっ、だ、誰?」
(えっ、ええっ? せ、セントーレア?)
よりによって、こんな状況でやって来たのはプラチナだった。
何でこの時に。
……いえ、考えてみれば、マーガレットと燭騎士との対戦がもうすぐでしたね。
標的はマリアでしょうか。耀騎士に対する脅迫の材料としては、十分に考えられます。
それに、僕自身に対する暗殺命令も、まだ取り消されていない筈です。
「はぁ、もう。銀ちゃん。いつまでも縛られてちゃ駄目でしょ」
「は、はぃ……」
プラチナは呆れたように溜息を吐くと、無胄盟が採用している特殊工具、アーミーナイフを取り出した。
そして、僕を拘束していた固定具を手際よく解体していく。
商業連合会の最新モデルが使われるので、凄い高性能なんですよ、これ。
……いえ、今はそんな事を考えている場合ではありませんね。
「銀ちゃん?」
マリアが笑った。
「へえ。銀ちゃんなんだ」
「ねぇ、お兄ちゃん。銀ちゃんって、それどう言う意味なのかな? ねぇ?」
「え、そ、それは、その……」
「銀ちゃんは銀ちゃんでしょ」
プラチナは平然と答えた。
「大体、その子の何を知ってるの? マリア・ニアール」
そう言って、何故か余裕そうに僕の腕を組んでしまう。
マリアの笑顔が、ますます怖くなった気がしました。
(そもそも、何でこうなったんでしょう……)
ニアールの旅仲間だと言う、ナイチンゲールさんとシャイニングさんと別れた後。
マリアに手を引かれて、気が付いたらここにぶち込まれていたんですけど。
Wは、どこへ行ったんでしたっけ。
確か、またやりたい事があると言っていましたね。
(……まあ、良いでしょう)
ひとまず、目の前の問題を片付ける事にします。
「目的はマリアの誘拐ですか? プラチナ」
「ええ、そんな所。商業連合会の連中、よほど耀騎士に勝って欲しくないらしいわよ」
「え、えええっ! 本人の前でそんな事言う!?」
マリアがドン引きした表情で僕たちを見る。
プラチナは肩を竦めただけだった。
なるほど。
それなら、やる事は決まりました。
「分かりました。今から大騎士領でデートと行きましょう」
「……は?」
「状況が落ち着くまで遊びましょう。マリアを連れて街を回れば、誘拐の目的は達成できるでしょう?」
そう言って、僕はプラチナに伝える。
「マリア・ニアールはプラチナの手に落ちた、と言う事で上には報告しておいて下さい」
「おっけー。すぐやっとく」
「え、ええっ、お、お兄ちゃん!?」
「さ、マリア。手を」
僕はさっさと手を差し出した。
マリアは驚いたようだったけれど、やがて、おずおずと僕の手袋越しの手を握った。
「ちゃんと街遊び、してないでしょう? 折角の大騎士領なんですから、これを機に教えてあげましょう」
「そ、それは……そうだけど」
「何か欲しい物があれば、遠慮なく言って下さいね」
「……お兄ちゃん」
マリアは僕の顔をじっと見つめた。
「買い物に連れて行ってくれるのは嬉しいけど、さっきの話が終わった訳じゃないからね?」
「……はい」
それは、そうでしょうね。
「ついでに銀ちゃんのおしゃれもやり直しだからね」
プラチナが僕の服装を眺めながら言った。
「その様子だと、ちゃんと美容院にも行ってないし、トレンドの服も買ってないんでしょ?」
「ああ、それもありました」
「えええ──ーっ!?」
マリアの声が、ガレージに響いた。
「耀騎士対燭騎士! 勝つのはどちらか!」
「敬仰金募集中! 大金を手にするチャンスは今だ!」
「帰還を果たした耀騎士対リターニアの天才騎士! 因縁の試合、間もなく開催予定!」
「うわ、凄い数のモニター」
「観衆も相当な数に及びそうですね。これだけ注目が集まっているんです」
大騎士領の中心街に出て、タクシーを降りた後。
街中では、次の試合に向けた宣伝が絶え間なく流れていた。
巨大なモニターには耀騎士と燭騎士の姿が映し出され、競技騎士の関連商品を扱う店舗にも、大勢の人々が詰め掛けている。
こうした光景を見ると、帰って来た実感がしますね。
この勢いと熱量に満ちた姿が、僕の覚えているカジミエーシュなんです。
「宣伝の量が凄いけど、どうするのお兄ちゃん?」
「そんなの決まっていますよ」
そう言って、僕はセントーレアの方を見る。
プラチナは小さく目を瞑った。
否定はしない、と言う意味でしょう。
それなら、行きましょう。
「まずはガレージショップから回りましょう。とびきりの店が沢山あるんです」
やって来たのは、大騎士領の中心街から数ブロック離れた場所にある、倉庫型の大型店舗だった。
大騎士領らしく、一般工具だけでなく、競技騎士用装備の補修部品、アーツユニット、駆動部、装甲材、工業用工具まで並んでいる。
中々の店構えでしょう。
「お兄ちゃん、これ見て! 新しいトルク制御器!」
「随分小さくなりましたね。耐久性は?」
「前の型より三割くらい上がってるみたい!」
「それは良いですね。小型化して耐久性まで向上しているなら、使い道も広がりそうです」
「でしょ! あっ、こっちも新型だ!」
マリアは目を輝かせて、あちこちの売り場を走り回っている。
どうやら、相当楽しいようですね。
その間に、僕も目当ての部品をしれっと確保しておく事にしました。
ウルサスでは手に入らないパーツが多いですから、今のうちに必要な物を買っておきましょう。
「アーツユニットの補修用パーツに、弓用のグリスや修理機材? これをわざわざ買うの?」
「ウルサスでは、こんなのも貴重なんです。買えるうちに買っておかなければね」
「はあ、銀色。本当にウルサス人になったんだ」
「国籍を変えた覚えはありませんけど……」
プラチナは僕の買い物が気になるようです。
確かに、細々とした物が多いですからね。
とはいえ、こうした消耗品や補修部品は、いざ必要になってから探しても手に入るとは限りません。
カジミエーシュの流通網は、本当にありがたいものです。
「お兄ちゃんっ、次のフロア行くよっ!」
「ええ、分かっていますよ。マリア」
そう言って催促するマリアに続き、僕はプラチナにも手を差し出した。
「さ、行きましょう? セントーレアも」
「う、うん……」
セントーレアの手を引いて、あちこちを回るマリアについて行く。
それにしても、マリアは本当に楽しそうですね。
「お兄ちゃん、どうしよう。あっちもこっちもそっちも欲しいんだけどっ」
「それでは、全部買っちゃいましょう」
「……え?」
「マリアも、そろそろ大人買いを覚える頃合いです」
「ええっ、良いの!?」
少し驚いた表情のマリアに、僕はこう言いました。
「伯爵の報酬は、こう言う時に使う物です」
「で、でも、こんなに沢山……」
「必要な物なんでしょう?」
「うんっ!」
「でしたら、問題ありません。使わずに置いておくより、マリアが使った方が工具も喜ぶでしょう」
マリアは嬉しそうに笑った。
それを見ていたプラチナが、呆れたように呟く。
「銀ちゃん、そういうところは昔から変わらないよね」
「何がですか?」
「……別に」
何故か、それ以上は教えてくれませんでした。
「銀ちゃん、次はこっちだから」
「ああ、ちょっと、待って下さいって」
プラチナに手を引かれて、次にやって来たのは競技騎士街のセレクトショップ。
スポーツブランドや騎士モチーフのストリートウェア、都市生活用のジャケット、若者向けブランド、アクセサリー、競技騎士とのコラボ商品などが、一つの巨大店舗に入っている場所です。
「うわ、凄い場所。同じ大騎士領で暮らしてたのに、初めて来たかも」
「そうだろうと思いました。今日は楽しんで下さいね、マリア」
初めて来た店に、マリアは興味を向けている。
ニアール家は競技に参加する側ですから、競技シーンを楽しむ機会は少ないのでしょう。
もっとも、今度は僕が楽しむ側でいられるかどうか、少々怪しくなってきました。
「まずは普通の若い子が着る服から」
「普通?」
「銀ちゃん、今その言葉に引っ掛かったでしょ」
そう言って、僕に新作の服を押し付けるセントーレア。
大騎士領のデザイナーが作った新作で、着やすい素材の上に頑丈。
このまま騎士競技に出られるのが売りだそうです。
なるほど。
実用性とファッション性を両立させるとは、中々良い商品ですね。
「所で、僕は普通では無いのですか?」
「ウルサス伯爵は一回黙って」
……酷い。
その服を試着した僕に、マリアがカメラを向ける。
パシャッ、と音がした。
そしてマリアが、今度は別の服を持って来る。
「はい、お兄ちゃん。次はこれだよっ」
「これ、女性用ですけど……」
見るからに女性用のミニスカート。
白黒灰の色合いで、下品には見えないように相当注意深くデザインされている。
確かに、服としては良い物なのでしょう。
しかし、だからといって僕が着る理由にはなりません。
「それも良いね。上も合わせちゃおう」
プラチナが、さらに別の服を持って来た。
「何でそうなるんですか……」
「はい、これ。試着して」
「ひにゃぁぁっ!」
押し付けられたトップスは、ミニスカートに合わせたデザインの物。
多分、合わせると似合うんでしょうね。
……いえ、だから僕が着る必要はありませんよね?
「はい、お兄ちゃん。試着開始!」
「はえっ、ちょ、ちょっと待って、ひにゃぁぁっ!」
試着室にぶち込まれたのでした。
「うわっ、お兄ちゃん凄い。女装が完璧!」
「素材がいいから、何着ても似合うなぁ。ズルいよ」
「な、何でこんな事にぃぃっ……」
女性用ミニスカートに、女性用デザインのトップス。
ソックスも女性用。
その上、マリアとセントーレアがハイヒールのブーツまで見繕って来た結果、出来上がったのは完璧な女の子のそれでした。
元から可愛い顔立ちだと言われる事はありますが、ここまで来ると、もう言い逃れのしようもありません。
大騎士領でも十分に通用する、ストリートファッションが完成してしまっていました。
「ちょ、ちょっと、恥ずかしいですから。マリア、撮らないで……」
「だって、凄く似合ってるんだもん!」
「似合っていれば良いと言う問題では……」
マリアは楽しそうにカメラを構えていたけれど、ふと、その手を止めた。
「……あ」
彼女の視線が、僕の二の腕に向けられる。
そこには、皮膚から滲出した源石の結晶があった。
普段は服で隠しやすい場所です。
しかし、露出の多い服を着れば、どうしても目立ってしまう。
「こうして見ると、源石が見えちゃうんだ」
「……ええ」
「お兄ちゃん、普段は上手い具合に隠してたんだなぁ」
マリアは僕の腕を見つめていた。
さっきまでの楽しそうな表情は、もうありません。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「何でしょう?」
「何で、こうなっちゃったの」
その声は、小さかった。
「お兄ちゃんは、私より早く死ぬかもしれないんだよね」
「それは……」
すぐには答えられませんでした。
マリアが何を聞きたいのかは、分かります。
けれど、今更どうにもならない事もありますから。
「強いて言えば、運命の悪戯ですよ。マリア」
「……そんなの」
マリアは何かを言いかけて、口を閉じた。
その表情を見ていると、少し困ってしまいます。
僕としては、マリアにこんな顔をさせたかった訳ではないんですけどね。
「ああもうっ、焦れったい!」
突然、プラチナが割り込んで来た。
そして僕に、次の服を押し付ける。
……また女性用なんですけど。
「こうなったら片っ端から試すんだから。今までおしゃれして来なかった分、きっちり取り戻すよ!」
「ま、待って下さい。それ、また女性用っ!」
「んー、良し。それもあり!」
「良くないですからぁっ!」
そう言って、何度も服を押し付けられました。
マリアはしばらく僕の腕を気にしていたけれど、やがてプラチナに促されて、また服を選び始めた。
もっとも、時々こちらを見る目は、さっきまでとは少し違っていました。
……やっぱり、心配させてしまったんでしょうね。
それにしても、大変なセレクトショップになりました。
僕だけではありません。
マリアまで服を押し付けられ、セントーレアが片っ端から吟味しては、あれでもない、これでもないと悩んでいる。
そして何度も着替えた後。
そろそろ女装にも慣れて来た自分が、少々恐ろしくなりながら、僕はまた試着室のカーテンを開けました。
すると、そこには。
「……え、ぎ、銀色?」
「は、あ、え? ……」
如何にもオフですとでも言わんばかりの、おしゃれな私服。
そして、備え付けの買い物カゴを下げた女性。
ラズライトのモニークがいました。
……な、何故?
「お兄ちゃーん、そろそろ着替えたっ? ……て、誰その人?」
「銀ちゃん、次の服の候補はこれなんだけど……って、え?」
驚愕するプラチナと、何も分かっていない表情のマリア。
モニークも、何も言えなさそうな表情をしている。
僕は言いました。
「マリア、こちらの方は僕の昔の知り合いです。今は仕事がオフみたいなので、ただの一般人だと思って下さい」
「そ、そうよ。私はただの通りすがりの買い物客だもの」
モニークは慌てた様子を正し、買い物カゴを持ち直した。
「……で、あんた何で女装してるの?」
「な、何故でしょうか……。それが僕にも分かりません」
「と言うか、女装なのに似合い過ぎ。こんなの女の子じゃない。ズルいわ」
「そ、その……すみません」
僕はそう言って、セレクトショップで昔の上司にペコペコしていた。
何故こうなったんでしょう。
「……それで、何してるの? セントーレア」
「銀ちゃんのおしゃれをやり直してるところ」
「ふうん」
モニークは僕を上から下まで眺めた。
そして、何かを思い付いたように笑った。
「だったら、もっと良い店があるわよ」
「……え?」
「この辺の服も悪くないけど、銀色ならもっと良い物を着られるでしょ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。僕はもう十分……」
「決まりね。行くわよ」
……聞いていませんね、この人。
「銀色はモノが良いから、こっちの服の方が良いわ」
「え、こっちを? 幾ら何でも攻めすぎじゃない?」
「あ、それ良いかも。お兄ちゃんの新しい扉が開きそうっ!」
はい、と言う訳でこれよ。
そう言ってモニークに渡されたのは、思いっきりセクシーなドレスでした。
大騎士領でも腕の良い職人が加工した、一点物。
……こ、これ、百万は下りませんよ。
セレクトショップでの買い物を終えて、今は高級店舗にいます。
モニークまで加わった事で、いよいよ着せ替え人形も止まらなくなった気がします。
「こ、この服、百万はかかりますよ?」
「百万? 端金じゃない。ほら、さっさと着た」
「うわ、凄い。この人、百万を端金って言っちゃった」
マリアが目を丸くした。
「ニアール家なんか足元にも及ばない金銭感覚だよっ!」
「……マリア、それはあまり大きな声で言わない方が」
「だって、お兄ちゃん。百万だよ?」
「ええ、分かっています」
分かっているからこそ、困っているんですけどね。
「うぅ、ハイヒールなんて、履いた事ありません……」
「ハイヒールぐらい慣れなさい。女の子なんだから」
「僕は女の子じゃありません……」
モニークにまで言われると、頭が沸騰するくらい恥ずかしくなって来る。
可愛らしいハイヒールに、黒を基調としたドレス。
下は思い切って短く、脚を見せる一方、上半身の露出は抑え、フリルで補っている。
あえてバランスを崩し、全体を調和させるタイプのファッションですね。
服そのものは、確かに良い物だと思います。
ただし、僕が着る必要はないと思うんです。
「うわっ、お兄ちゃん、私より可愛い。うぅ、ズルい」
「銀ちゃんって、ここまで可愛くなれたのね……困ったなぁ。もっと早くやっとけば良かった」
「う、うぅ……」
僕はもう、顔を上げるのも恥ずかしくなって来ました。
するとモニークが、僕の髪に目を向ける。
「……服はいいけど、髪が惜しいわね」
「髪、ですか?」
「そう。長さは良いけど、もう少し整えた方が映えるわ」
「髪なら自分で切っていますけど」
「……自分で?」
「ええ」
「何年も?」
「……ええ、これでも。PMCにいた頃からですから」
モニークが、何とも言えない表情になった。
プラチナも、僕の髪をじっと見ている。
「銀ちゃん、まさかずっと美容院に行ってなかったの?」
「自分で切れますから」
「そういう問題じゃないんだけど……」
何が問題なのでしょう。
今のところ、特に困った事はないんですけどね。
「まあ、いいわ。髪はまた今度ね」
モニークはそう言うと、改めて僕の姿を眺めた。
「よし。この服、私の奢りで買ってあげる。感謝しなさい」
「えっ、いえ、そんな高い物を……」
「決めたから。遠慮しない」
「いえーい、やったー! 誰だか知らない人、ありがとっ!」
マリアが両手を上げて喜んだ。
……僕が着る服なんですけど。
「何でこうなったんでしょうか……」
「何年もカジミエーシュを留守にするからじゃない? 銀ちゃん」
「好きで留守にした訳ではありません」
その日のショッピングは、そろそろ終わりそうでした。
僕は最後まで、恥ずかしいままでしたね。
買い物を終えた頃には、耀騎士と燭騎士の試合開始も近付いていました。
モニークは満足した様子で別れを告げ、プラチナもそろそろ仕事に戻ると言い出した。
マリアはと言えば、購入した部品を早く試したくて仕方がない様子。
「ごめんね、お兄ちゃん。私、ガレージに戻っても良い?」
「ええ、構いませんよ。折角買ったんですから、存分に試して下さい」
「うんっ! ありがとう、お兄ちゃん!」
マリアは嬉しそうに笑った。
しかし、すぐに少しだけ真面目な顔になる。
「……でも、さっきの話は忘れないでね」
「……ええ」
「ちゃんと、また聞くから」
そう言って、マリアは僕の手をぎゅっと握った。
「無茶ばっかりしないでよ。お兄ちゃん」
「……気を付けます」
それ以上、上手い返事は思い付きませんでした。
マリアは少し不満そうだったけれど、やがて手を離し、ガレージへ向かって駆けて行った。
その背中を見送っていると、プラチナが何かを思い出したように声を上げる。
「……あれ、銀ちゃん。美容院は?」
「行っていませんけど」
「……忘れてた」
「僕は最初から行くつもりありませんでしたよ?」
「そういうところ!」
プラチナは額に手を当てた。
「もう。次にカジミエーシュへ帰って来たら、絶対美容院だからね」
「ええ、覚えておきますから」
「本当でしょうね?」
「約束は守りますよ」
そう答えると、プラチナはようやく納得したようだった。
……もっとも、美容院に行く必要があるのかどうかは、未だによく分かりません。
それからプラチナも、仕事に戻ると言って去って行きました。
こうして、マリアの誘拐騒動はひと段落したのでした。
……いえ、僕がこんな格好をしているのは、少々問題ですけど。
そして現在。
僕は、マーガレットとヴィヴィアナさんの試合が始まる直前のスタジアムにいます。
試合そのものは軽く見たら帰るつもりだったのですが、会場でヴィヴィアナさんに見つかってしまい、控室までご一緒する事になりました。
「どうしましたか?」
「どうも、しません、けど……」
控室で、ヴィヴィアナさんにじっと見つめられている。
……やっぱり、この服は恥ずかしいですね。
「実は、お礼を言いたかったんです」
「お礼、ですか?」
「危機にあるウォルモンドに、あなた方の都市が救援に向かったと聞きましたから」
「ああ、その事ですか」
なるほど。
しかし、僕としては少々困ります。
「それを決めたのは、僕ではありませんから」
「それでもです」
そう言って譲らないヴィヴィアナさん。
僕はと言えば、女装したままの服が気になって仕方ありません。
「所で、その服は?」
「……先程買いました。いえ、選んで貰ったと言うべきでしょうか」
「似合っていますよ。とても可愛い」
「それは、ありがとう……ございます」
ヴィヴィアナさんにそう言われると、少々困りました。
……と言うか、どうして皆さん、僕の服装ばかり気にするのでしょう。
いえ、気にされるのも当然かもしれませんけど。
僕は話題を変える事にしました。
「所で、マーガレットとの試合ですが」
「ええ」
「ニアールさんのアーツは、闇を払う光のアーツです。カジミエーシュの過去を切り開いて来た光を、容易に見るべきではありません」
ヴィヴィアナさんは、静かに僕の話を聞いている。
「ただ闇を展開するだけでは、光によって切り払われてしまいます。アーツをより能動的に振るい、闇で光を払う事で、勝利を見出せる筈です」
「……それを言っても良いのですか?」
「構いませんよ。この程度で臆するマーガレットじゃありませんから」
ヴィヴィアナさんが、少しだけ微笑んだ。
「信頼しているんですね」
「ええ。昔から、あの人は強いですから」
僕はそう答えた。
もちろん、だからといってヴィヴィアナさんが勝てないとは思っていません。
騎士競技は、実際に戦ってみなければ分からないものです。
控室の外が、少しずつ慌ただしくなって来た。
どうやら、試合開始が近付いているようですね。
僕は席を立った。
「商業連合会の事ですから、どうせあなたが勝つように八百長を仕組んでいるのかもしれません」
「……」
「ですが、そんな事は気にしなくて良いんです」
ヴィヴィアナさんの顔を見て、僕は続ける。
「そんな事とは無関係に、僕はあなたに勝って欲しいと思っています」
マーガレットを信頼している事と、ヴィヴィアナさんの勝利を願う事。
僕にとっては、別に矛盾する話ではありません。
「では、お気を付けて」
「……銀の弓は、誑しなんですね」
「は、はい?」
何故か、そんな事を言われてしまいました。
……どうしてでしょう。
ヴィヴィアナさんのマネージャーが入って来る前に、僕はビシッと騎士礼を立てて退出する。
すると、背後からヴィヴィアナさんの声が聞こえました。
「そのハイヒールに、騎士礼は合いませんよ」
「……それは、仕方ないんです。はい」
少し恥ずかしい思いで、僕は控室を後にしたのでした。
15章と16章を通しでクリアしていると投稿遅れますね。文量多過ぎて読みきれないよ。ハイパーグリフって鷲じゃなくて、Hyper Graphって意味を捩ってたりしません?文量が死ぬ程多いって言う意味で。
この作品のR-18需要はありますか?もしあるなら、ヒロインは誰が良い?
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ニアール
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W
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マリア
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プラチナ
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タルラ!?
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その他(感想やメッセージで伝えて下さい)