The Arrow of Silver 銀弓の運命は砕け得るか 作:Delphinus
「これから第二段階です。四都連合の分解はまだ阻止出来ていません」
罪と虚栄と悪のアーツ砲撃が、クロガネの射撃ポイントを撃ち抜いた直後。僕は叫ぶように言った。そんな僕に誰かが話しかける。
「感動したぜ、黒金を相手に素晴らしいもんじゃねぇか、騎士様方」
「どちら様?」
そこにいたのは見た事の無い人だった。弓は持っているようですが、角も耳も見えず、種族も分からない。ただ、彼は相当に修羅場を潜っている。そんな気がする。
Wが武器を向けた。
ヴィヴィアナが男の顔を見て息を呑み、プラチナが名前を告げる。
「賞金稼ぎ、トーランド・キャッシュ」
(どうやらこの人はトーランドと言うらしい)
僕はただ確信を持った。よく分かりませんが多分、この人は信頼して良い。
「名前も知らない歴戦の方、あなたは相当な場数を踏んだのではありませんか?」
「場数? まあそれなりにはな」
「それは良かった。ではこの場はお任せしますので」
「え、あ、ちょっと、待ってくれって、初対面相手にそれは酷いだろ?」
「さあ、次に行きましょうか」
「あっはは、何それ、あいつの事置いていっちゃう訳?」
そう言って無胄盟のジャケットを翻す。次の目標は商業連合会本部ビル。まだまだ時間が足りません。
「ったくよぉ、いつもながらひでぇもんだよな。銀の弓って奴等は。そうは思わねえか? ムリナールさんよ」
「……トーランドか」
ムリナールは大した感慨も無さそうに言う。構えた剣を崩さないまま。
「銀の弓は、どこまで行っても愚かな奴等だ。その愚かさの為に一度は自滅したにも関わらず、信じられない程何も変わってはいない」
「あいつらは何があっても、自分の為には戦えないのさ。確か、公共の利益に反する作戦には参加出来ません、だったか? いや懐かしいねぇ」
「構えろ」
クロガネの弓が、再びムリナールを狙う。そしてトーランドは言った。
「お、そこにいるな? ワイルドメインさんよ。ほい、商業連合会本部で伸びてた焔尾騎士のソーナだぜ」
「うええぇ、ここは何処? 私は誰えぇ……」
「いや、ちょっと待てよトーランド。面倒見るつったって、そこまでしろとは言ってねえって」
「“Di-di”!!!」
離れた位置で構えていたワイルドメインに対して、トーランドは焔尾騎士ソーナを押し付ける。そしてレイジアン工業製旧型プラットフォーム、ジャスティスナイトがいつも通りの呑気な電子音を鳴らした。
「ここは……商業連合会?」
「惜しい。もう出てきたところだ」
「じゃあ、もう一度入る……」
「寝てろ!」
ワイルドメインはソーナの身柄を引き寄せる。ぶっ倒れたままジャスティスナイトの荷台に乗せられてしまった。
「あーもうしゃあねえ、あいつらを迎え撃つんだろ、ならやってやるよ!」
「おう、そうこねえとな。騎士さん」
「私は騎士では無いぞ」
「へいへい、ムリナールの旦那は気難しくていらっしゃる」
「それにあいつらは、自分のためには戦えないのさ」
トーランドの声に、ムリナールは答えなかった。
銀弓が消えた通路を一度だけ見て、剣を構え直す。
「ならば、あれが自分を捨てずに済むよう、周囲が戦うほかない」
闇の向こうで、クロガネの弦が鳴った。
「構えろ、トーランド」
「突入すると言っても、具体的にどうするの?」
「無胄盟が商業連合会を狙うとしたら、目標はクロガネの素顔を知る少数の個人です。そこを守り切ります」
「はぁぁ、面倒くさい。ビルごと爆破すれば良いじゃない。そう言うの好きでしょ、ダーリン」
「ビルごと爆破するにも手順が必要ですからね。W」
そう言って商業連合会本部ビル付近に到達する。そんな僕達を、早速とばかりに弓が狙う。しかし
「ぷ、プラチナさん!? 、そこで何やってるんですか?」
「私? 私もうプラチナを辞めたよ。今はフリーの狙撃手だから」
「え、えええ!??」
待機していた無胄盟の狙撃手達に動揺が走った。無胄盟のスイープ小隊が何セットか、10数人近くがこの辺りに待機していたようです。
「ど、どうするよ、と、と言うか、おいあそこを見ろって」
「あ、あああっ、あの人もしかしなくてもシルバーですよ、あの超有名人のシルバー!」
「プラチナに並んだと言う伝説の位階、無胄盟史上一人しかいないとんでもない射手だって。しかも今はよりによってウルサスの伯爵!」
(何だか話が変な方向になってますね?)
無胄盟の隊員達の話が少しおかしい。侵入者への抑えに配置されたんだと思いますけど。
「よし決めた、俺も無胄盟なんかやめてやる!」
「お、それ良いな、俺も俺も!」
「商業連合会とか言う頭のおかしい組織より、伯爵様に雇って貰った方が金になるって! そうだって、そうに決まってる!」
「え、えええ……」
突然始まった仕事を辞めるコール。と言うか、僕ってそこまで有名だったんですね。
「と言うわけで宜しくシルバー。今日からお前が俺達の雇い主だ!」
「ええ、では今日から宜しく、皆さん」
「無敵なんですか、この人達……」
ヴィヴィアナさんは、そんな唐突なノリに若干ドン引き状態だった。
「そう言う訳で、早速皆さんにお願い何ですが……『ドゴォォォォンンッッ』ああ、もう!」
今度は、天穹から再び矢が降り注ぐ。無胄盟の隊員には退避を命令して撤退させ、僕は矢を番えて、降り注ぐ黒金の矢を迎え撃つ。隣にはプラチナがいる。
「行くよ、銀ちゃん」
「ええ、当たり前です!」
ビュゥゥゥンンッッ、と、ばかりに、閃光を放つ二つの矢が解き放たれる。銀と白金のアーツの光が螺旋を描き、圧倒的な弓撃となって、威力ではるかに上回る筈の黒金の矢を弾き飛ばした。
「覚悟を決めたようだな、プラチナ。そしてシルバーよ」
「如何にも、覚悟は出来ています。クロガネ」
クロガネの矢の射程は、大騎士領の全域に及ぶ。逃げ場なんて無い。ムリナールさん達を釘付けにして、余力をこちらに割く事すら可能なのでしょうね。カジミエーシュ最強の騎士……いえ、騎士ではありませんでしたね、その、最強の会社員を手玉に取るとは、恐ろしい話ですが。
「これから我々は標的を狙う。無胄盟の明日の為にな。望むなら阻止してみせろ」
「あーもう、どうすんのよ銀ピカ。何だか色々言われてるけど?」
「シルバー。それが銀弓さんの、無胄盟での名前なんですね」
Wとヴィヴィアナさんがそれぞれに言う。僕は答える。
「ここからは手を分けます。標的を守るにはその方が好都合です」
「標的を守って、その上で大騎士領も守ります。商業連合会はこの街の心臓部です。やらせる気なんてありません!」
無胄盟の隊員を分けて配置し、矢の実力でクロガネに勝てない分は数と隠密能力で補う。その上でヴィヴィアナさんとWを別方向に配置。Wは動力の防衛に、ヴィヴィアナさんには代弁者の説得をお願いする。そして僕は。
「よりによって屋上に出るとはな。わざわざ死にに来たのか? シルバー」
「まさか、死んでやる気はありませんよ、クロガネ」
商業連合会本部ビルの屋上で、無胄盟式の長弓を構えた。隣にはプラチナがいる。無胄盟の都市迷彩ジャケットと、遠射用の長弓。これを構えていたら、少し懐かしさを感じる。
「銀ちゃんの装備、やっぱり古いね」
「仕方無いんです、ウルサスの雪原では変えが効かなくて。これも年代モノですから」
「雪原だと、着ていたのは雪原迷彩だったの?」
「ええ、そうですよ。スノーデビル小隊、えっと、ウルサスの感染者遊撃隊の中でも、雪原の遊撃戦が得意な部隊員に縫って貰ったんです」
「そっか、いっぱい教えてね。銀ちゃんの昔話」
ぎゅっと、プラチナの手を握った。クロガネの矢が番えられる。
「耐えて見せろ、シルバー! プラチナ!」
「プラチナ、ジップラインを!」
「うん、準備出来てるから!」
プラチナがジップライン生成機(商業連合会の最新モデルです)を射出。隣のビルに向けて光のラインが形成される。源石を原動力とするエネルギーの道に向けて、僕は躊躇なく手を伸ばした。
片手にジップラインのレール、もう片手にプラチナの手を握って、一瞬の内に機動開始。ビルとビルの間をラインに沿って移動する。
「そうか、よりによってジップラインとはな。よく考える」
「それはどうでしょう、クロガネ!」
ジップラインの移動地点を更に予測して降り注ぐクロガネの矢に対して、プラチナが更なるジップラインを形成。ジップラインから次のジップラインに乗り継いで回避。そして前のジップラインは僕が生成機で巻き取っておく。
「あーもう、ジップラインの移動先を狙うなんて、容赦無さすぎでしょっ」
「その程度想定の範囲内です、プラチナ!」
「うんっ」
ジップラインの移動経路を更に見切ったクロガネの弓射に対して、僕達は手を握ってジップラインから飛び降りる。飛び降りたまま白銀と銀の光を走らせ、摩天楼の頂点をアーツの爆発力で飛び回る。
「銀ちゃん、次、逃げられない」
「散会です、プラチナ!」
握った両手を離し、手を離した時の反発力も利用して勢いを付ける。二人で別方向に分かれて別のビルの屋上に着地。そしてクロガネの射撃方向に、更に矢を番えて解き放った。
「良い連携だ。やはりお前達は惜しいな」
「それはどうも、もし良ければまた協力しません?」
「協力を求めるなら、それに相応しい力を見せてみろ」
ビュウウウゥゥンッッ、何発もの黒金の矢を、建物の陰を利用して回避する。都市迷彩ジャケットを利用して姿を隠し、屋根の下側に身を隠して走り回りながら矢を向ける。
「ああ、もうっやっぱり射手としては向こうが上ですね!」
「銀ちゃん、こっち!」
プラチナが伸ばしたジップラインを躊躇なく掴む。ラインに沿ってビルの狭間を移動し、高層ビルの影を利用して射線を遮った。
「んむうぅっ、う、プ、プラチナぁッ」
「こうするの、久しぶりだね、銀ちゃん」
ぎゅっと、再び接触したプラチナに抱き締められる。そしてそのままジップラインで移動を継続。クロガネの射線を何度も切りながら、隙を見ては弓撃を繰り返した。
「でも、そろそろジリ貧だよ、銀ちゃん」
「分かってます。良い加減勝負に出ましょう」
射手の数でも、質でも向こうが上回る以上、長く持つ訳ではありません。ビルの屋上で、再びクロガネの矢を迎える。そしてクロガネは言う。
「シルバーよ。お前には何度も助けを求める機会があった筈だ。私がお前に電話をかけた時、お前には隣屋のニアール家に駆け込む機会があった」
「……それは」
その言葉を言われて、僕は少しの間何も言えなかった。クロガネは続ける。
「それだけではない。あの鉱石病に感染した任務。もしあれが無ければ、お前は今頃クロガネに、いや、商業連合会の理事会にすら上げられていただろう」
「お前には本来、大騎士領の夜の管理人となる資格と、その使命があったのだ」
「それはこの国にとって最も危険な、そして最も栄誉ある仕事だ。騎士でもサラリーマンでも無く、カジミエーシュと言う国家の国益の為に働くのだからな」
「そこまで持ち上げて頂けるのは光栄ですね」
僕がクロガネに、いや、商業連合会の理事会にすら上げられるかもしれなかった。その言葉を、僕は平静に聞いた。正直、薄々そうなるかもしれないとは思っていた。鉱石病さえ無ければ、或いはって。
「ふざけないでよ、銀ちゃんのキャリアを勝手に決めないでくれる?」
そう言って、プラチナが僕の一歩前に出る。
「ええ、そうですね。プラチナ」
「お前がニアール家に助けを求めなかったのは」
そしてクロガネは言う。
「お前が正しい道を嫌ったからでは無いか? 正しい生き方は犠牲を強いる。家族を失い、孤立した子供が過去の軋轢を捨てて隣屋に逃げ込む。それは正しい道だ。如何にも、この国の騎士道に則っている」
「だが、正しい道は拘束でもある。正しい生き方は一度始まれば降りられず、何より正しさによって傷つけられる者は守る事が出来ない」
「正しさとは悪を討つ道だ。どんな理由があれ敵を討つ以上は犠牲を伴う。だからお前は正しい道を嫌い、無胄盟に入ってでも悪を倒すのでは無く、あくまで矯正する道を選んだ。そうでは無いのか?」
「悪の存在を認め、その効用を受け入れつつも、害性だけを取り除く。それが銀弓の騎士家の生き方だからだ」
「それは、全くその通りとしか言えませんね。僕の思考でも覗いていますか? クロガネか」
「銀ちゃん?」
プラチナは驚愕した表情で僕を見る。その上で、僕は言う。
「その上で、僕は正しい生き方を好ましい物だと思っています」
「僕は光を愛します。ニアールを、プラチナを、Wを、ヴィヴィアナさんを」
「そしてタルラを!」
「……タルラって誰?」
プラチナは若干引いた表情だった。若干引いた感じと、光と名指しされた気恥ずかしさが混じって、ものすごい複雑な感じの表情。
「やはりな。それこそが、お前が理事会に入るべきだった理由なのだ」
「お前とお前の一族のせいで、カジミエーシュは随分と損害を被ったぞ」
「それはどうも!」
ズドォォォォォ──ーンンンッッッ、クロガネの弓撃が、遂に三重の弧を描いて飛ぶ。そろそろ、限界みたいです。
「銀ちゃぁぁんっ!」
「ぷ、プラチナぁッッ!」
三本の矢を束ねれば、折れない矢は存在しない。クロガネの矢とは、そう言う物なのですから。足場を崩されて、僕は空中に投げ出された。手を伸ばしたプラチナの手に、僕の手は遂に届かなかった。
ドスンッ、と、衝撃がする。閃光のように空中を飛んで来た光。それを僕は知っている。
「全く、無茶をし過ぎだ、お前は」
「ふふ、ごめんなさい、ニアール」
ニアールの腕の中で、僕はペコリと頭を下げた。
「今、私以外の名前も随分聞こえたのだが」
「気のせいではありませんか?」
「銀ちゃん、後で説明してね」
「……はい」
頭を下げるでは、ちょっとばかり済まなくなって来ましたね。
「銀弓さん、代弁者様が緊急停止権限を行使しました。四都連合の分離命令は撤回、連結部も維持しています!」
「銀ピカ、本部ビルの動力も無事。爆薬は全部外したわよ。そっちは?」
「ええ、こっちは大丈夫です。ヴィヴィアナさん、W」
ヴィヴィアナさんと、Wからそれぞれ連絡が来る。僕は答えながら天穹に向けた矢を降ろす。背中に固定していた折り畳み式の騎士槍、僕が持ち出せた数少ない銀弓家の遺産。銀槍のペガサスの槍を外し、展開する
今夜初めて、僕はその封印を解いた。
「私の男が世話になったなクロガネ、これ以上はやらせん」
「わ、私の男って、そんな事、言ったらダメですから」
ニアールの腕の中から離れて、空中で銀のアーツを出力する。そしてビルの壁側に着地。壁に足を押し付けて騎士槍を構え、跳躍態勢に。
「良いだろう、ならば一度だけ許してやる。お前達の力を示すが良い!」
ズドォォォォォ──ーンンンッッッ、と、激しい閃光と共に、クロガネの矢が三度放たれる。
「プラチナ、最後に一本だけお願いします!」
「分かった。銀ちゃんの道を作ればいいんでしょ」
プラチナの矢が、クロガネの三本目を僅かに外へ逸らす。同時に、最後のジップラインが夜空へ伸びた。
「行って、銀ちゃん!」
「はい!」
僕はジップラインを蹴り、ニアールと並んでアーツを全開に構えた。今、僕の隣にはニアールがいる。
「最初から全力で行く。私に追いついて来い」
「はい、ニアール!」
そして騎士槍を構えて跳躍突撃態勢に。征戦騎士の標準的な突撃戦術の一つ。それをニアールと合わせて、アーツを更に全開に引き上げる。
「突撃陣形、Silver Lance Pegasus! 行けえええぇっっっ!」
金銀の二重螺旋塔が、クロガネの三重の矢を打ち砕く。圧倒的な光が大騎士領の空を覆った。
「見事だシルバー。そして耀騎士。間も無く夜が明ける。勝利を持って行くが良い」
「ええ、ありがとう、クロガネ」
何故か、感謝の言葉が出てしまいましたね。ふふ、敵じゃ無いって分かっているからでしょうか。
「何で敵に感謝するんだ、お前は」
「だって敵じゃないですから、当然でしょう?」
「全く、そんなだから変に甘いんだぞ……」
大騎士領の空の中心で、ニアールと並んで朝焼けを見た。
「四都連合の分離停止を確認」
「都市中枢の動力及び行政機能、共に維持」
「国家騎士団出動規定に該当する緊急事態は確認されず」
「前隊に告ぐ。偽装を解除し、撤退せよ」
そして、監査会が大騎士領の外に待機させていた本物の銀槍のペガサス。シルバーランス騎士団は、介入の根拠を失った。
四都連合の分離が成功するか、都市機能が崩壊していれば、彼らは商業連合会を制圧する名目を得られた。
けれど、僕たちは街を守り切ってしまった。
その結果、監査会の切り札まで撤退させてしまったらしい。
……これは正直、僕のやらかしですね。
…散々引っ張って何だろう、このオチ。跳躍突撃が征戦騎士の標準戦術って本気ですか?
この作品のR-18需要はありますか?もしあるなら、ヒロインは誰が良い?
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ニアール
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W
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マリア
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プラチナ
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タルラ!?
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