The Arrow of Silver 銀弓の運命は砕け得るか 作:Delphinus
「タルラさんから呼び出しが?」
「どうした? ゴースト」
「いえ、何でも有りませんよ、フロストノヴァさん。今タルラさんから呼び出しを受けてて」
チェルノボーグ占領から、そろそろ2週間が経つ。チェルノボーグの情勢も安定して来た上に、都市警察から良い報告もありました。
「ああ、それとフロストノヴァさん。実はコントロールタワーの中心部でウルサス軍の装備が発見されました」
「……は?」
「言った通り、ウルサス軍の装備が発見されたんです。それも最新モデルになります。新しい都市警察の皆さんが見つけて下さったんですよ」
「ほ、本当なのか……だとしたら」
「ええ、レユニオンによるチェルノボーグ占領その物が、そもそもウルサス軍による仕込みだった。そう考えるのが妥当です」
「な、それは、そんな感染者への裏切りが、本当にあり得るのか?」
「普通なら何かおかしいですが、ウルサスなのであり得ると思います。ウルサスから見れば、金にならない上に反抗的な感染者を処分して、炎国との戦争を起こさせて、何より内政も浄化する。一石三鳥の政策です」
「つまり、ウルサスは最初から感染者の敵なんです」
「そこまで酷いと、空いた口が塞がらないぞ……」
そう言って唖然とした表情のフロストノヴァさん。僕はと言えば、似たような感覚を味わっていた。いえ、これだけ壮大な事件が、最初からウルサス軍の仕込みだとは流石に想定外でした。
「そう言えばご存知ですか? あの龍門と言う都市はウルサスの領土だった時期があります」
「龍門が?」
「ええ、その時の領主はコシチェイと言います。もっとも、当時のウェイ長官や、龍門の鼠王、そしてヴィクトリアのドラコ、エドワード・アルトリウスらの活躍によって、龍門は炎国の手に収められました」
「ヴィクトリアのドラコ?」
「ええ、ヴィクトリアのドラコです。もっとも、彼は既に死んでいます。炎国が身の潔白を証明させる為に、ヴィクトリアからの亡命者である彼に死を要求したのです」
「……それは」
フロストノヴァさんは、何とも言えない様子だった。僕は言う。
「では、そろそろ行かなくては『待て』少しだけ待ちます」
「エドワード・アルトリウスと、タルラの間には何か関係があるのか?」
「いえ、そこまではさっぱり。他人の事情を細かく知っている訳では無いので。僕が知っているのは、エドワード・アルトリウスがヴィクトリアのドラコの王族で、アスラン王族の一派による暗殺の脅威を逃れて龍門に渡り、最後は龍門で死んだと言う話だけです」
「当時あくまで部外者だったカジミエーシュでも把握出来た情報は、それだけですよ」
「……そうか」
そう言って、僕はメインタワーのエレベーターに乗った。パトリオット配下の遊撃隊の重装兵が、僕に手を振っていたから振り返した。
エレベーターを出ると、早速凄まじい熱量が僕を焼き尽くす。銀のアーツを粒子状に整形して熱波の流れを遮って逸らす。銀の粒子がサラサラと流れて行く。
「カジミエーシュの幽霊。貴様のレユニオンに対する裏切りは露見した。もう逃げ場は無いぞ」
「それは良かった。僕は最初から敵ですので」
圧倒的な灼熱が、全てを焼き尽くしては破壊するよう。その上チェルノボーグが異常運転を開始する。
「この移動経路、龍門に向かってる。本性を表しましたか? タルラに巣食う何か」
「それは貴様の方だ。ウルサスに巣食う害毒め」
「お願いします、イネス」
「影はもう踏んでいるわ」
「!??」
イネスさんのアーツが、タルラの内心を捕らえる。僕には結果が見えないので、まあ後で時間があったら聞きましょう。そしてそれより早く、爆弾の爆発がタルラを包み込んだ。そして斬撃が鋭く切り込む。
「W、ヘドリー、貴様ら」
「あら、もう勝手におっ始めちゃったし。全く、こんなんじゃ準備時間が足りないわよ」
「やはりな、このタルラは偽物か」
ヘドリーの剣戟を火炎剣で受け止めるタルラ。そして俄かに、市街地の方が騒がしくなって来る。僕は言った。
「イネスさんは市街地へ。レユニオンにウルサス軍のスパイが入り込んだ可能性があります。アーツで見破ってくれませんか?」
「重労働ね。ボーナスも追加よ」
「ではボーナスも付けときましょう」
さっきからWさんの爆弾は誘爆させられている。タルラさんがタワーの金属固定物を介して熱量を伝わせたらしい。随分と器用な真似をなさいますね。
「この裏切り者がぁっ! 貴様は、感染者を裏切ったのだ。レユニオンを裏切ったのだぞ」
「何が裏切りですか! 僕は単なるウルサスの敵ですよ。早く僕を殺しにいらっしゃい、何時もそうして来たように。ウルサス!」
「う、ええぇ、ここはどこ? 僕は誰?」
「やっと起きたのか。鍛え方が足りないんじゃ無いか?」
Wさんの爆弾が、タルラさんの爆炎で巻き添えになった時の爆発に巻き込まれて、階下に仲良く落下して行ったのは覚えている。僕は、あんな高さから、落ちて生き残れる程、頑丈では、ぐええぇ……。
「二アール……、Wさん」
僕の他に、仲良く気絶しているWさんがいる。コントロールタワーは、今どうなったんでしょう。ヘッドセットで調べる。ヘドリーさんは独自判断で撤退済み。今階上にいるのはフロストノヴァさんと、パトリオットさん。そしてへラグ将軍の3人。階下にはメフィストがファウストと一緒に布陣して、ウルサス軍の侵入者を迎撃中。クラウンスレイヤーは石棺の守備に入った。ロドスは? 本隊はまだチェルノボーグに入っていない。二アールは……ああ成る程、外壁を登ったんですね。二アールなら余裕です。
「う、ううぅ、あの爆炎女ぁっ、やってくれるじゃない……」
「でも、まだ生きているじゃないですか。僕達、立派にくたばりぞこないですよ」
「くたばり損ないなどと言うな。お前の命は、お前だけの物だ」
「え? 、あ……」
ぎゅうぅっ、て、柔らかい感触がした。え? 僕って今、二アールに膝枕されてる? え、あ、ぁ……、うぅ。
「あぁっ、ちょっと、何やってんのよこの金ピカ無駄光り女ぁっ」
「何ってただの膝枕だが?」
「え、あ、ちょ、ちょっとふにゃぁっ」
ドギャァァァンッ、と盛大に何かが爆破され、爆風で軽く吹っ飛んだ僕を今度はWさんが受け取った。そして、また膝枕を、……え?
「Wさん、嬉しいです。クランタだからとか、気にしないでください」
「そ、そんなんじゃ無いわよっ、そこのやたら目に眩しい金ピカに懐かれたら困るってだけで」
「ま、待てっ、何をやっているお前はぁっ」
「あんたにはヴィクトリアにも来てもらわなきゃいけないの。これはその、そう、事前投資よ」
「え? ヴィクトリアに? ……、何でですか?」
「そんなの便利だからに決まってるじゃないっ、役に立つなら何だって使うのよ、傭兵は」
「おい、待て、こいつをヴィクトリアに行かせるなんて聞いてないぞ」
「ひゃぁぁぁっ」
ぎゅううぅって、今度は金ピカでやたらと眩しいアーツで僕の手を奪った二アールが、半ば無理矢理膝の上に僕の頭を詰め込んだ。うう、今が人生で一番幸せかも。
「そ、その、二アール」
「もう良いんだ。事が済んだらカジミエーシュに帰ろう。おじさんも心配している」
「おじさんとは、ムリナールの事ですか? あの人なら、何が起きても大丈夫ですよ」
「ああっ、ちょっと、何二人で良い雰囲気になってんのよっ」
「隊長っ、やっと見つけましたよ。こんな所にいるなんて」
「ヒューッ、美女二人に膝枕させて、やるじゃないですか」
「ああ、すみません皆さん。こんな形になって、急な開戦で、命令する暇が」
ゾロゾロとやって来た、レユニオンの一般兵士達。僕の部隊には作戦中、一般兵の仮面を付けるよう徹底してある。素性や能力が何であろうとね。それが亡霊部隊と言う一組織の特徴。
「見つけたぞゴースト。早く起きろ。こんな所で何をしている」
「ええ、ありがとうエンカク」
そしてエンカクの言葉を聞いて、僕は膝枕からよろよろと起きだした。そして思った事を伝えておく。
「亡霊部隊へ通達します。消火装備でコントロールタワーの階下に集合。ありったけの水と消火器をかき集めて下さい」
「敵は、タルラさんではありません。あくまでウルサスです。ウルサスという国家と軍の野望が、タルラさんを動かしているんです」
「それと最大の対処目標は……」
「クソッ、もう限界か」
「駄目だ、熱量攻撃に対して金属装備は脆弱だ。一度下がれ」
金属製の重装甲は圧倒的な火力に対して不利になる。遊撃隊重装兵にとっては、苦しい展開が続いた。
「ここが踏ん張りどころだ、俺たちで支えるぞ!」
「今頑張れなくて何がスノーデビル小隊だ、一度でも良い、何が何でも温度を下げるんだよ!」
「ヒョウバクムシ、追加突入、ドローンも行けぇ!」
それに対して、スノーデビル小隊が奮戦している。一度でも温度を下げるべく、これまで2週間かけて温存して来た、ありったけのドローンやヒョウバクムシを注ぎ込み、爆撃のように氷柱を浴びせる。
「皆、ここを耐えれば勝機が開くぞ。決して諦めるな」
「はい、へラグ将軍」
「何だか将軍がいると気力が湧いて来る、うおおぉやれるぞ!」
それに、チェルノボーグを退去しなかったへラグが、今こうして前線を支えている。
「クソッ、忌々しいな。レユニオンは、一体いつからここまで厄介になった」
「最初からそうだっただろう、タルラぁ!」
キイィィンッ、その上に斬線が何度も重なる。フロストノヴァの氷剣が、タルラの炎剣を何度も遮る。圧倒的な筈の炎は、しかしその総力を出しきれていない。ジリジリとした消耗戦に陥っている。
「このままでは不利と言うのか。くっ、たかが感染者共がぁっ」
「そうさ、これが感染者の力だ!」
「ふざけるなぁっ、この叛徒共が!」
「いい加減、口を噤め。タルラの口で、穢らわしい事を言うな。ウルサスの悪霊」
ズドォォォォォ──ーンンンッッッ、槍投げの一撃がタルラの手元を打ち抜く。ただの一閃だけで圧倒的な轟音と衝撃。パトリオットの槍撃が熱量で溶けた大気を吹き飛ばす。
「クソッ、ふざけるなよ、何故ウルサスは何時もこんな目に遭わなければならない。これでは都市一つを感染者に奪われて、無様に逃げ帰るしか無いとでも、ぐぁぁっ」
「お前は誰だ、何故ウルサスの名を口にする。お前にとってウルサスとは何だ。何なんだタルラぁっ」
ガキイイィッ、更なる斬撃が、遂にタルラの炎剣をも凍らせた。炎の勢いが見るからに失われる。タルラは。
「クソッ、忌々しい感染者共が。何故ウルサスに逆らう。ウルサスを、国家を舐めるのもいい加減にしろぉっ」
「それは、国家が自己統治に失敗したからですよ。ウルサス」
エレベーターが上がった。忌々しい亡霊。元はと言えば、全てはお前のせいだ。お前のせいで全ての計画が狂った。お前が。
「カジミエーシュの銀の弓。お前は、お前の一族はこれまで30度もウルサスに逆らったな。そして今、ここで31度目を迎えようとしている。忌々しいカジミエーシュの亡霊め。何故そうまでしてウルサスの道を阻む」
「それは偶然です。何度も繰り返し同じ形で敵対していれば、まるで彼我の間に、本質的な敵対関係があるような気がして来ます。ですが、それはやはり偶然の結果なのです」
「それに、国家はいざ統治に失敗すれば、洒落にならない程のリスクを抱える事になります。あなたは今ウルサスと言う国家の、統治の失敗を押し付けられている」
「要するにあなたはスケープゴートです」
「はっ第一、自分が国だと思い込むなんて気に入らないのよ。このクソ女」
「お前はウルサスを支配する闇だ。私は苦難と闇を恐れない」
「ふ、ふざけるなよ。この頭のイかれた感染者共がぁぁぁっ」
「苦難と闇は道を阻まず。僕の家の格言ですよ!」
苦難と闇の底であっても、探索をやめてはならない。探索を続けてさえいれば、意外と道は開く物だ。そんな意味がこもった言葉。タルラが更なる爆炎を放つ。フロストノヴァが食らいつこうとして、吹き飛ばされてしまったそこに、僕は二アールと手袋越しに手を結んだ。そして二人のアーツを極限まで集約する。金と銀の光の螺旋が、天頂高くまで立ち昇る。そしてWがもう片手を握って言った。
「行って来なさいよ、この大馬鹿!」
「行って来ます、W」
「ああ、分かっている」
騎士槍を抜剣。そして突撃。視界の全てを覆い尽くすような圧倒的な火力の爆炎が僕達二人を飲み込む。でもそんな事は、もうどうでも良い。そうですよね、二アール。
「はぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっっっ」
「行けえええええええええぇぇぇっっっ」
金と銀の無駄に輝く光の槍撃が、遂にタルラの腹部を撃ち貫いた。
「ぐぁぁっぁぁぁっ、う、ウルサスは、決して滅びない、滅びる、事は無っぁ、ウギャァァァァッッ」
「はて、ウルサスがいつ滅びましたか?」
光の螺旋が僕達二人を包み込んだ。いつまでも輝いて瞬きをやめない。カジミエーシュっていつもこうですよね。無駄に目に眩しく映るんです。タルラは、一体どうなったのだろう。何だか光の中に倒れていました。ああ、早く医務室に連れて行かないと。
「何をやっていると言うのだ! この反逆者どもがぁぁぁっ」
「!!??? ……本丸のお出まし、ですか」
今回の陰謀の本当の元凶が、来るとは思っていませんでした。
「確か、皇帝の利刃でしたか? はあ、そこまで覚えてませんよ」
フロストノヴァがパワーダウンした理由…スノーデビル小隊が健在だから。タルラ+コシチェイに対して地力の差が露骨に出た結果。それに冬痕ノヴァとは別物の強化形態が欲しいと思って。
パトリオットの援護が最低限の理由…パトリオットはウルサスの影が迫ると確信していた。
ヘラグ将軍は…今この時は手を貸そうと言ったらしい。
主人公の銀のアーツ…銀の光を支配するアーツ。二アールの金のアーツとは互いに増幅しあう関係にある。単純な出力では一歩足りない代わりに運用の柔軟性が高い。