The Arrow of Silver 銀弓の運命は砕け得るか 作:Delphinus
「二アールさんが帰還しました」
「そうか、分かった。休憩を取った後ブリッジに上がるよう伝えてくれ」
ロドスアイランド号のブリッジでは、緊張しているとも、緩んでいるとも取れない微妙な雰囲気が続いている。龍門を出た後からずっとこうした状況だ。ケルシーは二アールの帰還に対して命令を降ろし、通信オペレーターを待機させる。
「今回の事件には、想定外の事態が多過ぎた。カジミエーシュの銀弓家、まさかこのような所にいたとは」
そう呟くケルシーに、黒フードの指揮官はこう答える。
「だけど凄かったな。あの事件を解く方法。ロドスの方法とは全く違う方向性だ」
「よくこれだけ違う答えに辿り着いたな」
「それも否定は出来ない。ドクター」
黒フードのドクター。ロドスアイランド製薬の中心に位置する一人。彼はそう言いながら、銀弓の作戦ログをPARTSに映す。
「今回の事件を通じて、ロドスが得られた彼の作戦記録は少ない。だが、僅かな作戦だけでも彼の考え方は伺い知れる」
「使える物は全て使い、使えない前提は破棄し、敗北すら気にせず次に繋ぐ。その手段を異常なまでに広く取っている」
そう言ったドクターに対して、ケルシーは記録を付けながら伝える。
「だが、そうしたやり方はロドスでは採用出来ない。我々の仕事は、あくまで命を守る事だ」
「その通りかもしれない。だから惜しくもある」
「彼と、彼の出身である銀弓家は、カジミエーシュと言う国家の生み出した最高の戦争機械だ。まるで資本のように貪欲に戦争を遂行する」
ケルシーが少し話し込んでいる間も、ブリッジでは別の会話が進行している。
「レユニオンって、もう俺たちが知ってるレユニオンじゃないんじゃないか」
「でも武装組織なんだろ?」
「でもさ、それを言ったら俺たちも武装してるし……」
「いや、都市を占領してるのとは違うだろ」
「じゃあ、あそこで暮らしてる感染者はどうするんだ?」
一般オペレーターの会話はもっと雑多な物だ。チェルノボーグでレユニオンが学校を再開したらしいとか、捕虜だった人間まで働いているとか、元軍事警察が市警になったとか、農場まであるとか、なのにウルサス軍とはまだ戦争中だとか。
「それに、銀弓と言えばアレだよアレ! 二アールとサルカズ傭兵に同時告白した奴!」
「そうだよな、それが一番訳分かんない。たかが告白で皇帝の利刃を9人も逃げ帰らせたって」
「いや、それだけはいつ聞いても謎だよ。割と真剣に何があったんだ?」
それに第一、レユニオンには目立つゴシップが多過ぎたらしい。
「失礼、ブリッジに上がるよう言っていたな」
そこにやって来た例の二アール。ゴシップの中心人物の登場に、ブリッジは一気に騒がしくなる。
「な、なぁ、銀弓の奴に告白されたって本当なのか?」
「それも二重告白だって、それで皇帝の利刃すら跳ね返したとか!」
「いつ聞いてもとんでもないよね、ねえ、どうなの? 本当に!」
「そ、それは……まあ良いとしてだ」
二アールは気恥ずかしい表情を隠さない。そして、空気を切り替えるように言う。
「レユニオンからロドスに対して、捕虜交換の提案があるそうだ。条件は一つ。サンクトグリファーベルクまでの人員移送、及び現地での護衛任務を引き受ける事」
「つまりウルサスの皇帝が、レユニオンの代表者を直々に呼び出している。それに対して協力を求めると言う内容だ」
「成る程、捕虜交換を盾に使って来たか……」
ドクターはそう言って少しだけ考える。ロドスオペレーターの何人かは、今も捕虜として拘束されている。それを返還する対価に、サンクトグリファーベルクまでの輸送と護衛を引き受けると言う取引。まあ、
「条件としては、悪くない」
そう言って、ドクターはPARTSをスリープモードに入れた。
「我々としては、この条件を利用してチェルノボーグの感染者に接触しようと思う。皆はそれで良いか?」
「成る程、それで今度はサンクトグリファーベルクに向かう訳か」
「ええ、そうなります。エンカクさん」
タルラさんと話を終えた後、病室を出た僕をエンカクさんが迎えた。僕は今後の予定について一通り説明し、ロドス製薬を利用して向こう側の暗殺を回避すると言うアイデアも伝える。
「ロドスはこの事件と特に無関係です。無関係な医療企業相手に手は出しづらい筈」
「その医療企業が、バベルの後継者だとしても?」
「ええ、今はカズデルの政治と無関係なようですから。建前でも無関係と言えばウルサス側にも通るでしょう」
「しかし、何故彼らはカズデルを捨てたのでしょうね」
正直に言えば、そこだけが引っかかる。何故ロドスはカズデルを見捨てたのか。見捨てる事が出来たのか。
(それまでサルカズと言う種族の政治史を背負って来た勢力が、歴史を捨てて第三者になる。その為に、彼らは何を捨てたのでしょう。正直に言えば、それが全く分かりません)
「話はまとまったのか?」
「ああ、ヘドリーさん。ええ、取り敢えず今後の方針は固まりました。それと、今回の働きに応じて皆さんの傭兵団にボーナスも振り込んでおきますね」
「ボーナスか、それは良い。あって困る物じゃない」
そう言ってこちらを見つめるヘドリーさんの様子。僕はと言えば、そろそろ逃げる時間もお終いだと分かっていた。
「Wに告白したのは、あれは本気なのか」
「あれは本気です。冗談のつもりでは言っていませんよ」
「……そうか」
ヘドリーさんはそう言って、僕の方を一瞥した。僕はと言えば、流石に申し訳無さを感じる。
「皇帝の利刃が9人も投入されるのは、想定外も良い所だった。それを退けるのがよりによって二股をかけた公開告白と言う事もな」
「その……すみません、はぃ」
「謝らなくとも良い」
ただ……ヘドリーさんは他の方を向いた。そこにはWがいた。
「なーに言ってんのよ。銀ピカ」
「仕方ないでしょう、無駄に光るのはカジミエーシュのお国柄なんです」
「何それ、無駄に光って意味あるの?」
「ええ、だってかっこいいでしょう?」
「……は、それだけ?」
「それだけですよ。その為に光ってしまうのがカジミエーシュと言う国です」
そう言えば、ムリナールさんも昔から苦しんでましたね。アーツが無駄に光って。なんて言っていると。
「昔、僕の生まれた屋敷の隣屋にムリナールと言う方がいました。カジミエーシュでも最強の俠客。無光騎士として知られた人物です。彼のアーツは強力でしたが、無駄に目に眩しく光ります」
「この無駄さが重要なんです」
「……変なのねぇ、あんたの国」
「変なのは、その通りかもしれませんね」
そう言って、僕は一呼吸する。そしてこう言った。
「サンクトグリファーベルクからお呼びが掛かっています。一緒に来てくれませんか?」
「嫌よ、金にならない仕事なんかする訳ないでしょ?」
「来て下さるなら、特別ボーナスも支給しましょう」
「ならやるわ」
「ふふ、それは良かったです」
その後、僕はサンクトグリファーベルクに向かうロドス艦に同乗した。艦に乗り込んだのはタルラさんと、名指しされた僕。パトリオットさんとヘラグ将軍。フロストノヴァも。それとレユニオン内の事務員が何人か。事務員は最近配置しました。W率いるサルカズ小隊と、これは言うまでもないですか、二アールも。
メフィストとファウストはチェルノボーグに残留し、都市の管理を続けるように伝えました。リュドミラさんは、まあ色々あって塞ぎ込んでいます。いえ、チェルノボーグの石棺にあんな過去があって、しかもロドスの指揮官クラスと因縁があったとか。そんなの聞いていませんよ……。
「来たな銀弓。では頼んだぞ」
「それはありがとう、Ace」
そして僕はと言えば、ロドスの前衛オペレーターだと言うAceと、訓練室に付き合わされていた。弓を構えて、ロドスが常備している訓練用の、装甲盾の構造上脆弱なポイントに、銀のアーツを載せた弓撃を乱射し続ける。
(何というか、正直申し訳無いのですけど)
自分の部隊で制圧して、1週間近くチェルノボーグの倉庫にぶち込んでいた相手です。それなのに気にしない様子で、僕を訓練に誘うAceさんを、何と言うか……その、非常に人格者だと思います。人間出来てますよね。
「やはり強いな、征戦騎士の家系と言うのは冗談でも何でもないようだ」
「それはありがとうございます。でもマーガレットの方がずっと強いですよ?」
「だが、戦争になればお前の方がやるんだろう?」
「戦争と言う状況に甘える時点で、騎士としては落第です」
こちらの弓撃に対しても落ち着いて対応し、ジリジリ距離を詰めて来るAce。やはり、小細工抜きの一対一では勝ちきれませんね。
「僕は騎士では無いので、そんな事は関係無いと言うだけです」
そう言って、仕込んだブービートラップを一斉に起爆。銀のアーツが仕込まれた矢尻が、全方位からAceを撃つ。それすら押し込んで耐えるAceに対して、僕は弓をその辺に捨てて、袖裏に隠していたナイフを抜刀した。思いっきり銀光のアーツを充填する。そして
「行けえええええ!」
渾身のナイフアタック、に見せかけて思いっきりナイフを投げ付ける。投げ付けられたナイフは銀の輝きを纏って突撃。それすら防ごうとしたAceの盾を、手首のスナップを使った変化球の原理でギリギリ回避する。
「ナイフの、変化球か、中々の技巧派だ」
そうして、Aceの装甲服に、確かに刺さる寸前でポトンと落ちて行った。訓練用ナイフなので、投げても刺さりません。
「嘘、Aceが撃破判定、信じられないっ」
「あの銀のアーツ、物凄く応用性が広い。記録しておけ。二アールの光とは似て非なるタイプだ」
訓練室を見ていた外部席から、そんな言葉が聞こえて来る。僕はと言えば、弓を拾い直しているとAceさんから声をかけられた。
「流石だな、カジミエーシュの銀の弓は。戦争の騎士とはこう言う物と言う訳か」
「別に褒める必要はありませんよ。個人戦の強さなんて、誇っても仕方ない物です。それに」
「へえ、じゃあ今度は私とやって貰おうかな。Aceの仇討ちと行こうじゃん」
そう言って、次は別の誰かが訓練室に入場する。名前も顔も知りませんが、チェーンソーを構えた女性でした。アーツユニットの形状からして、扱うのは恐らく高熱系のアーツと思われます。
「僕はそろそろ帰りたいのですが。Blazeさん、ですか?」
「へえぇ、私の名前が分かったんだ。Silver arrowさん?」
「その肩に掛けた名札に書いてあっただけですよ。と言うか、付けた覚えの無いコードネームを付けないでくれません?」
付けた覚えのないコードネームを呼ばれると、色々と困りますね。主に覚えきれないとか、主にそう言う意味です。
「ほう、やっているな」
「あー、中々暑くなってるわねえ。部屋まで」
そう思っていると、観客席にぞろぞろと人が集まっているのが見えて来る。知らない人が沢山いますが、知っているのはタルラさんに、二アールも。Wもいる。なんと言うか、そろそろ恥ずかしくなって来ましたよ。
「さて、Silver arrow君。私が勝ったら監視も兼ねてロドスに入る事。序でにエリートオペレーターにする為に、徹底的にビシバシ鍛えるから」
「何でそんな事しなくちゃいけないんですか……」
その後、紆余曲折あって僕は疲れて倒れました。そして今、ロドスの客室で寝込みながら日誌を書いています。話はおしまい。オーバー。
オペレーター名 Silver arrow
職分 速射手
主人公の感想…何でこうなったんでしょう
入職したらエリートオペレーターにする為に無駄にあちこちから鍛えられる。そしてエリート化した場合、異格Silver fateとして実装されるらしい。