孤独な道化ノ魔女裁判   作:月光列車

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原作キャラの出番が少ない第1話です
もっと出すべきだったかと悩みましたね...



今作の投稿ペースは一つの章を書き終わったら順次投稿という形式をとろうと考えています
投稿頻度はかなり不定期になると思いますが、よろしくお願いします


開幕

 

 

 日が落ち闇が広がる時刻に、僕は微かに光る灯りを頼りに廊下を歩いていた。

 廊下には父が集めた幾つもの骨董品が見せびらかすように飾られている。

 余りにも露骨なまでの顕示欲、そんなものを見ていては気が滅入ってしまう。

 脚を止めて視線を骨董品から廊下に付けられた窓、その先へと視線を向ける。

 

「やっぱり、何も見えませんね」

 

 向けた視線の先にあるのは上空で淡く光る月だけ、他には群生する木々があるだけだ。

 何処か味気ない景色にため息を吐いて視線を廊下に戻すと、止めた脚をもう一度動かして再度廊下へと歩を進める。

 そのまま廊下を歩き、階段を上り、とある部屋の前に辿り着く。

 他の部屋よりも重々しい気配を覗かせるその部屋が、僕の目的地だった。

 大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。

 その動作がひと段落してから、扉を軽く叩いて中に居るであろう人物に声をかける。

 

「父さん、言われた通りの時間に来ましたよ。

 入ってもいいですか?」

 

「構わん、入れ」

 

「では、失礼しますね」

 

 部屋の中から返って来た重く冷たい声。

 人によっては気圧されるような重圧を感じるもの、僕にとっては既に慣れたものだった。

 その声に従うままに、扉を開けて部屋の中に入る。

 部屋の中は廊下とは違い、温かみのある灯りに照らされていた。

 周囲には一目で高価と分かる調度品が並んでいる。

 しかし僕の視線は正面のデスクに座る人物、実際に血が繋がる実父に集中していた。

 

「夜分遅くまでご苦労様です。

 何か茶菓子でも用意してくれば良かったようですね。

 もしよければ今から準備しますが、どうしますか?」

 

「お前に求めるものは茶菓子でも無駄話でもない。

 時間の無駄だ、話を始めるぞ」

 

「相変わらず父さんは手厳しいですね。

 えぇ、では用件を教えてください」

 

 僕の軽口に父さんは温度を感じさせない声で応じる。

 それに苦笑してから、僕も気持ちを切り替えて話を聞く態勢を整えた。

 そんな僕の様子を気にした風もなく、父さんは話し始める。

 

「一ヶ月ほど前に行った検査を憶えているな。

 用件はそれの結果についてだ」

 

「検査結果───あぁ、先日の健康診断のことですね。

 何か異常な数値でも出てしまいましたか?」

 

「その認識で間違いない。

 お前は近々、とある場所に隔離される事になる」

 

 隔離、父さんの言葉から出た言葉に思わず瞠目する。

 話の流れから良くない内容なのは察していたが、どうやら思っていたよりも深刻な話のようだ。

 僕は気を持ち直し、口を開く。

 

「隔離される、だから荷物を纏めておけ──これだけではないでしょう。

 それならわざわざこんな夜更けに言う必要はない。

 本題はまだ残っているのでしょう?」

 

「────お前はここ数年発生している失踪事件についてどれほど知っている?」

 

「精々報道で流れている程度の事だけですよ。

 全国各地で突然中高生ぐらいの子供が居なくなる────そして、居なくなった子たちの安否は例外なく一切が不明だとか」

 

「その失踪事件で報じられた当人たちは、ある場所に連れていかれているそうだ」

 

「...まさかそこは────」

 

「予想している通りだ。

 お前もその失踪者たちの名前の列に連なる事になる」

 

 何の感情も見せることなく、父さんはそう言い切った。

 突拍子も無い話題を聞き、頭に手をやって情報を整理していく。

 検査、隔離、失踪と不穏な気配を発する言葉に重点を置き、父さんの話を振り返り気になった部分を言及する。

 

「検査の結果隔離する、と言いましたが...それは病気の類ではないですよね。

 もしそうならわざわざ失踪なんて扱いにする意味がありません。

 それに失踪した子たちの保護者が今も探している話もよく聞いていますし、本来なら当人やその家族にも知らされることなく隔離が行われるのでしょう。

 ですが、父さんは何処からかその情報を手に入れ僕に聞かせている────一体、失踪者たちが集められた場所で何をさせる気なんですか?」

 

「...お前にはその場所の調査をしてもらう」

 

「調査...ですか。

 それをすることで何か利点でも?」

 

「お前がそれを知る必要はない。

 ただ政府が関係している事だけ憶えておけ」

 

「政府が...またきな臭い話ですね」

 

 僕が余りのきな臭さに顎に手をやっていると、父さんの顔が隠し切れない欲望に歪むのが視界に入る。

 それを見て微かに眉を寄せるが、経営者としては色々考える事があるのだろう。

 その考える内容が他人の弱みを握る事なのは────正直どうかと思うけど。

 

「では僕が調査をするとして、手に入れた情報をどうやって伝達するつもりですか。

 そもそも何処に連れていかれるか分からないでしょう」

 

「コレを付けておけばいい」

 

「コレは...イヤリングですか?」

 

 僕の質問を聞いた父さんは、デスクの引き出しからイヤリングを取り出す。

 銀色を基調としたそれは落ち着いた色合いで悪目立ちすることも無いだろう。

 だが、情報の伝達について話していた筈なのに急にアクセサリーを目の前に出された僕は困惑を隠せない。

 何か秘密でもあるのかと置かれたイヤリングを手に取り、注意深く観察することでようやくそれの正体に辿り着いた。

 

「小型のカメラ...よくここまで小さく出来ましたね。

 よく観察してやっと気づけましたよ」

 

「特注で作った代物だ、簡単に気づかれては困る。

 お前はそれを身に着けて情報を集めろ」

 

「ですが隔離、なのでしょう?

 そう簡単に私物を持ち込めるとは思えませんよ」

 

「先ほども言ったはずだ。

 お前はそれを身に着けていればいい」

 

 どうやら既に諸々の準備は終わっているようだ。

 父さんの口ぶりから今回の件をどれだけ本気で調べようとしているかが分かってしまう。

 そのせいか少しだけ苦い顔をしていたのだが、それを見た父さんの眉間に皺が寄る。

 

「話はこれで終わりだ。

 それで、まさか断る気など無いだろうな?」

 

「....最後に一つだけ、聞いておいていいですか」

 

「何だ、これ以上時間を割く気はないぞ」

 

「その情報収集の役割、いつまで続くのですか?

 一週間、一か月、一年......一体どれだけの期間を想定しているのかを教えていただきたのです」

 

「...十分な情報が集まったと私が判断するまでだ。

 帰還の手筈も既に準備している、お前がその事を気にする必要はない。

 ────この答えで十分か?」

 

「────えぇ、勿論。

 失踪事件の実態、その情報確かに集めてきます」

 

「分かったのならいい。

 話は終わりだ、行け」

 

 父さんはその言葉を最後にデスクから立ち上がり部屋を後にする。

 それを見届けた僕も、程なく部屋から出ていく。

 ただし、向かう場所は自室ではなくもっと別の場所だ。

 数分後、僕は暗い道を歩いていた。

 背後にはさっきまで居た屋敷が、前方には夜を照らす街の明かりが広がっている。

 その明かりに引き寄せられるように街へと歩く。

 その最中に、先ほどの父さんとの話し合いを思い返す。

 

「検査の結果、隔離を行う...やっぱり原因はアレでしょうか」

 

 政府が失踪事件に関わる理由を父さんは知っていなかった。

 だが、僕には一つだけ思い当たる節がある。

 幼い頃からこの身体に宿っていた不思議な力。

 恐らくそれこそが、わざわざ政府が関わる理由なのだろう。

 そう考えながら道を歩いていると、ようやく街に出た。

 派手な服を身にまとった人々が、眩しいほどの光が満ちた道を歩いている。

 誰もが何かに酔うように、縋るように、逃げるように過ごす。

 一見醜悪とも取れるその様相が、一人ではないと感じられるようで僕は嫌いではなかった。

 周囲の人々の間をすり抜けながら、裏路地へと入る。

 

「相変わらず治安は良くありませんね」

 

 そう呟く僕の周囲には、表の道とは正反対の異世界が広がっていた。

 派手さは無く、眩しさも無く、光も無い。

 地味で、暗く、闇が広がっている。

 唯一表と同じなのはそこに居る人々も酔い、縋り、逃げている事だけだろう。

 僕はそれに落ち着きを感じながら裏路地を進んでいく。

 そして、ようやく目的地に...廃ビルに到着した。

 外壁に取り付けられた階段を物音ひとつ立てずに上っていく。

 鼻につく錆びの匂いを嗅ぎながら、廃ビルの最上階まで登り切った。

 

「この景色も、もうすぐ見納めですか。

 残念ですけど...仕方ないですね」

 

 最上階に出た僕は、落下防止に取り付けられた柵まで近づいて周囲を見下ろす。

 僕が上った廃ビルは周囲のビルよりも高く作られており、他の建物に視界を遮られることも無かった。

 視界に映るのは、目一杯に広がる光だ。

 目が痛むほどのそれに目を細めて、ポツリと呟く。

 

「帰還の手筈を準備している....か。

 本当に、父さんは嘘を吐くのが下手だなぁ」

 

 そう言って軽く苦笑する。

 さっきの父さんの発言、帰還の手筈をあの人が考えているはずがない。

 その事実をあの人の反応から察していた。

 しかし、僕が父さんの言葉が嘘だと分かったのは別の理由が原因だ。

 

「いくら僕の事が邪魔でも、もう少し取り繕って欲しかったな」

 

 父さんが僕の事を邪魔だと感じているのは昔から知っている。

 僕が親し気に話しかけようと、期待に応えようと尽くしても、父さんが僕を自身の子だと認めることはなかった。

 だからこそ、僕が連れ去られるのが分かっていながら道具として使い潰そうとしているのだろう。

 まぁ、そこに関しては僕も別に構わない...というか別に気にしてはいない。

 邪魔だと思われる理由は、分かり切っていた。

 僕があの屋敷に住んでいるのも、体裁上僕を息子として扱うしかないのも、僕が命を続かせているのも...ただ父さん自身の弱みを隠すためでしかない。

 

「それでも親子としての繋がりがあるならいい...そう思ってる僕も大概ですけどね」

 

 そう呟くとズボンに入れていたイヤリングを取り出す。

 今僕の手の平に乗っているこのアクセサリーが、もうすぐ僕と父さんの繋がりを示す最後の証拠になるだろう。

 それを自覚するとイヤリングを持つ手にも自然と力が入る。

 

「一人は....嫌だ」 

 

 その言葉と同時に、頭の奥底に埋めた記憶が浮かんでくる。

 茹るような暑さに、鼻を挿す刺激臭。

 鬱陶しく喚き散らす蝉の声に、全くと言っていいほどに力の入らない身体。

 そして、寝台に寝ている人物が一人。

 あぁ───苦しいなぁ

 全身から力が抜けるような暑さに襲われながら僕の身体は震えていた。

 あぁ───寒いなぁ

 暑さを感じながら、それ以上の寒さに身を震わせる。

 あぁ────嫌だなぁ

 かつての僕の視線は、眠る人物に向けられる。

 その人の顔を見て、僕は────

 

「っ!これ以上は駄目ですね。

 やっぱり昔の事は思い出さないに限る」

 

 昔の記憶が佳境になった時点で頭を振って記憶を頭の奥深くへと埋めなおす。

 だが、その記憶のせいか息は荒くなり全身に痺れのようなものが走っていた。

 目の前の柵を強く握ることで何とか耐えると、大きく息を吐く。

 そうして調子を整えると、もう一度手の上のイヤリングを見つめる。

 

「期待を裏切るな、為すべきことを違えるな、大切なものを見誤るな。

 大丈夫、きっとやり遂げられる」

 

 以前から自分に言い聞かせていた言葉で己を叱咤する。

 そうして慣れ親しんだ光景に別れを告げて、僕は屋敷へと帰っていった。 

 

 

* * *

 

 

 何処からか聞こえる鉄の音を聞き、ふっと目が覚めた。

 目の前は暗く、石造りの天井が目に入る。

 そして周囲から幾つもの声が耳に届く。

 

「ねぇ、ここどこなのかな!?」

 

「何を考えていますの!?

 わたくしをこんなところに閉じ込めるなんて!」

 

「少女監禁とか、犯罪だよこれ!

 誰だか知らないけど、人生終わるよ!?」

 

「ざけんなぶっ殺すぞおらぁ!出せぇ!!」

 

 辺りから聞こえてくる声を聞き、周囲に目線を向ける。

 石壁に囲まれ、鉄格子によって閉ざされた部屋...牢屋の中にある二段ベッドの上段に僕は居た。

 一体何事かと一瞬だけ混乱するが、即座に父さんに伝えられた事を思い出す。

 

(ここが例の隔離場所ですか。

 思っていたよりも古風というか何というか)

 

 周囲を確認してから自分自身をチェックする。

 服は寝る前に来ていたものとは異なり、見慣れないものになっていた。

 白色のシャツに黒色のズボン、そして羽織るように足元まで伸びる黒のロングコートを着ている。

 しかし今重要なのはそれではない。

 すぐに手を耳に伸ばし、付いていた飾りを取る。

 

(ちゃんと付いていてくれましたね。

 少なくとも最初の壁は乗り越えましたか)

 

 手に取ったイヤリングを再度耳に着けなおす。

 計画の要がしっかりと手元にあったことに安堵してから、より周囲の状況を確認するために二段ベッドから飛び降りる。

 すると、すぐ傍から驚いたような声が聞こえてきた。

 反射的にその声の方向を見ると、白色を基調とした修道女のような服を着ている少女と目が合う。

 どうやら急に飛び降りてきた僕に驚いて声が出ないようだったので、出来る限り声色を柔らかくすることを意識して声をかける。

 

「驚かせてしまい申し訳ありません。

 お怪我はありませんか?」

 

「は、はい...大丈夫、です...。

 心配をおかけして、ごめんなさい...」

 

「いえ悪いのは僕ですから気にしないでください。

 それにしても、ここは一体────。

 あなたは何か知りませんか?」

 

「ご、ごめんなさい....私も目が覚めたらここに居て...」

 

「なるほど、あなたも僕と同じ状況でしたか...。

 ...もう少し情報が欲しいですね。

 この鉄格子は開き...ませんね、分かってましたけど」

 

 やけに腰の低い少女に当たり障りのない言葉を幾つかかけてから辺りを調べる。

 その一環で鉄格子を力いっぱい揺らしてみてもガチャガチャと音が鳴るだけで開く様子もない。

 予想通りの結果はすぐに捨て去り、他には何かないかと見回す。

 しかし二段ベッドの上から見た情報と大差ない景色が広がるだけ、強いて目を引くものがあるとすれば壁に掛けられたモニターだ。

 古びた牢屋の中に余りにも場違いなそれに、否が応でも視線が集中してしまう。

 

「あ、あの...何か気になる事でもありましたか?」

 

「ん?

 あぁ、あのモニターを見ていただけですよ。

 周りのものと見比べてもやけに異質ですから」

 

 そう説明していると、突如としてモニターから音が鳴った。

 その音は電源が付いたのが原因だったのか、すぐにモニターに映像が映し出される。

 そこに映っていたのは────

 

「フクロウ...ですよね?」

 

『あー....もしもし....映像って見えてます....?

 何せ古くて故障が多いので....やれやれ』

 

「しかも喋ってるし...」

 

 モニターに映ったのは、人形のようなフクロウだった。

 首は九十度に傾いており、何より喋っている。

 どう見ても怪しい以外の感想が浮かばない。

 

『私、ゴクチョーと申します

 詳しい話がしたいので、ラウンジに集合してください。

 監房の鍵を開けますので、看守の後についてきてください。

 抵抗とか自由なんですが...命とかなくなっちゃうので...はい....』

 

「ゴクチョーに...看守?

 しかも抵抗すれば命はないって...また物騒な」

 

 ゴクチョーと名乗るフクロウの話を聞き、思わず頭に手をやる。

 フクロウは喋り、看守という存在がいて、何より抵抗=死と来た。

 いきなりの情報の羅列に軽い頭痛を感じていると、通路の方から引きずるような重々しい音が近づいてくる。

 件の看守が来たのか、と身構えていると音の主が鉄格子の向こうから姿を現した。

 

「っ!何だアレ...!」

 

 異形、そうとしか形容出来ない存在がそこにいた。

 二、三メートルはあるであろう長身にボロボロの黒衣を纏ったナニか。

 そしてソレから発せられる禍々しい雰囲気に息を吞んでいると、異形はこちらを一瞥すると通路の方へ戻っていった。

 

「あれが看守、ですか.....。

 ────ここに留まっては何をされるか分かりませんし、着いて行くしかないですね。

 あなたも、それで良いですか?」

 

「は、はい...少し、怖いですけど...」

 

「少なくとも指示に従っていれば危害は加えてこない筈です。

 あまり怖がらなくても大丈夫だと思いますよ。

 まぁこんな状況で怖がらない方がどうかしてると思いますけど」

 

 大した励ましにもならない言葉を吐いて鉄格子を開け通路へと出る。

 通路には牢屋から今しがた出てきた人たちが重い足取りで先行する看守の後に着いて行く。

 僕と白い少女も遅れないように歩いていると、突如通路に少女の声が響いた。

 その場に居た全員の視線が、その声を発した少女へと注がれる。

 何やら白髪の少女が黒髪の少女に何か言っているようだが、如何せん空気がよろしくない。

 仲裁すべきか悩んでいると、黒髪の少女が白髪の少女を突き飛ばす。

 そのまま黒髪の少女は何かを言った後、看守の後に着いて行ってしまった。

 白髪の少女もまたすぐに立ち上がり黒髪の少女を追いかけていく。

 

「あの子、派手に転んでいたようですけど大丈夫でしょうか」

 

「そ、そうですね...。

 もし怪我をしているのなら、治さないと...」

 

「治す...ですか?

 って行ってしまった」

 

 手当、ではなく治すという言葉に若干の違和感を感じる。

 しかしそれを確認する前に白い少女は駆け足で先ほどの少女を追って行ってしまう。

 まぁ後で聞けばいいかと折り合いをつけ、僕も彼女たちの後に続いて行った。

 そうして辿り着いたのは場所は華美な空間だった。

 天井に据え付けられたシャンデリア、床には古びてこそいるが絨毯も敷かれている。

 他にもソファや暖炉と先ほどまで居た牢屋とは全くの別物だった。

 しかし、兎に角飾られているものの趣味が悪い。

 本物かは分からないが頭蓋骨や山羊の頭、壁に飾ってあるボウガンなどがいい例だろう。

 僕が辺りを見渡していると看守が通路に続く扉の前に立ち、扉を完全に閉ざしてしまった。

 

(逃がさないように、ですか。

 まぁそれは置いておくとして────)

 

 逃げ道が潰されても最初から逃げる気が無い以上は大して意味もない。

 そんな事よりも、僕の視線はラウンジに集められた人物たちに向いていた。

 同じ牢屋に捕まっていた白い少女。

 突き飛ばされていた白髪の少女。

 突き飛ばしていた黒髪の少女。

 周囲を興味深そうに見渡す水色髪の少女。

 お嬢様然としながらも焦りを隠しきれていない少女。

 鼻をつまんでいる猫耳を付けた少女。

 ため息を漏らす露出度が高い少女。

 部屋の隅でうずくまっている少女。

 鼻歌混じりに室内の配置を変えている少女。

 苛立ちを顕わに大声を出す少女。

 部屋の端で周囲を観察する妖艶な気配を放つ少女。

 特に背が高く凛々しい立ち姿の少女。

 そして──背に大きな銃を背負った少女。

 僕を含めて集められたのは全部で十四名。

 彼女たちを見て、僕はある事実に打ちのめされていた。

 

(男女比偏り過ぎでは?)

 

 今この場に集まっている十四人の内、女性は十三人。

 対して男は僕一人だ。

 ここまで偏っていると主犯である政府に対して恨み言の一つや二つ吐きたくもなってくる。

 これでは目立ちやすくなってしまうのは避けられない。

 より一層気を付けて情報収集に挑もうと改めて覚悟を決めていると、長身の少女が自己紹介を提案したことで各々が自らの名前を皆に伝えていく。

 僕はその様子を見ながら、自分の順番が回ってくるのを待つ。

 そして、その時は来た。

 

「それじゃあ君が最後だね。

 自己紹介、お願いできるかな?」

 

「──えぇ、分かりました」

 

 長身の少女に促され、一歩前に出る。

 周囲の少女たちの目線には疑念や不安といった感情が色濃く見えた。

 余りにも妥当なその感情に対して僕は意識して顔を笑顔の形に整える。

 声色は先ほどのように柔らかく、態度は丁寧かつ不快感を与えないように。

 『作った』動作で僕の目的を覆い隠す。

 

「僕は凪原イオリ。

 以後、よろしくお願いします」

 

 こうして僕と少女たちのお話の幕が開く。

 疑念、後悔、苦難、絶望、裏切りに満ちたその道程。

 僕はその道を、確かに歩き始めた。

 

 

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