二次創作を書いてて毎回思いますけどエミュがムズイ!
自己紹介を済ませた僕は一人一人の反応を伺う。
彼女たちの視線には猜疑心や警戒が多分に含まれていた。
あまりにも妥当なその反応に内心ため息を吐いてしまう。
すると少女たちの中から一人、探偵のような服を着た青髪の少女が前に出てきた。
「え~っと凪原イオリさん、でしたよね!
あなたは私たちがこうして集められていることについて何かご存じですか?」
「いえ、皆さんと同じように僕も何一つ知りませんよ。
外には出さないようにしていますけど、正直混乱しっぱなしです」
「うーん、おかしいですね...女の子たちが集められた中、一人だけいる男の子!
何か知っていてもおかしくないと思ったんですけどね」
「あはは...僕の立場は誰がどう見ても怪しいですからね。
そう思うのも当然だと思います」
「ですよね!
私の探偵としての勘もそう囁いているんです!
あなたは何か重要な秘密を握っていると!」
元気よく言い切る少女...橘シェリーさん。
彼女の瞳には隠し切れない好奇心が渦巻いていて笑顔のまま詰め寄って来る。
そのまま声高に僕が怪しいと断言しているが、今この状況で彼女の行動はありがたいものだった。
(このまま疑われ続ければ、後で必ず歪みが生じる。
その点、怪しいと主張してくれた橘さんには感謝ですね。
...とはいえ彼女を止めるのは中々骨が折れそうですけど)
僕が考え事をしている間にも、橘さんは流れるように質問を投げかけて来る。
何とか無難な返答を返しはするが、一向に橘さんの質問攻めが止まる様子はない。
『作った』笑顔が引きつりそうになる中、先ほどまで皆を主導していた少女...蓮見レイアさんがよく通る声で橘さんを呼びかけた。
「シェリーくん、そこまでにしてくれないか」
「えー、今いい所だったんですよー。
それにレイアさんだって彼のことが気になるでしょう?」
「それは否定しないけど彼だって困ってる。
一度落ち着いてから話し合った方が互いにとっていい話し合いになるんじゃないかな?」
「うーん...それもそうですね!
ではまた後でお話を聞かせてください!」
蓮見さんの説得の結果、思いのほか橘さんはあっさりと退いてくれた。
あの押しの強さからは想像出来なかったが、意外と道理を説けば理解してくれるらしい。
僕は安堵の息を吐きつつ蓮見さんに向き直った。
「ありがとうございます、蓮見さん。
あの質問攻めには参っていたので本当に助かりました」
「気にしないでくれ、イオリくん。
困っている人がいるのなら、助けるのが人情というものだろう?」
「ふふ、確かにそうですね」
蓮見さんの言い分に小さく笑う。
だがそれは微笑ましさから来たものではない。
ただ単純に自分とは縁のないものだったから、つい笑ってしまっただけだ。
しかし────
(困っている人がいれば助ける、か。
怪しまれないよう『良い人』としてやっていくのなら、そうすることも必要かもしれませんね)
ただでさえ注目されやすい今の立場は一朝一夕では覆せないだろう。
ならば今まで縁のないことだったとしても、信用を得るためならやる必要があった。
最初は間違えることもあるだろうが、幸い手本になる人物はいる。
(まずは信用を得るために行動する。
確実に、ゆっくり学ぶとしましょう)
当面の行動方針を決め、僕は蓮見さんを手本にすることにした。
先ほどの発言の真意はどうあれ、彼女の言動には学ぶべきものがある。
それを学ぶことが出来ればきっと、情報収集もやりやすくなるはずだ。
胸中でそう考えていると、何かが羽ばたくような音が聞こえてくる。
反射的にそちらを見ると先ほど牢屋のモニターで見たフクロウのようなナニカが部屋の中に入ってきていた。
「あっ、人がいっぱい...。
えっと、改めまして...この屋敷で管理を任されているかわいいフクロウ、ゴクチョーと申します。
定時とかもあるのでさっさと説明していきますね」
(フクロウに...定時?)
それからゴクチョーと名乗るフクロウは説明を始める。
なんでも僕たちがここに集められたのは魔女因子と呼ばれるものが、人より大きく検出されたためだそうだ。
その魔女因子を持っていると魔女、要は危険な存在になると言う。
(魔女...絵本に出てくるような存在、というよりもっと怪物のような存在...。
そんなものになると言われても...今一つ、実感が湧きませんね。
それにしても魔女って...僕は男なんですけど)
胸の内で愚痴を零しつつ魔女と呼ばれる存在について考える。
ゴクチョーの言い分を信じるのなら、今までも魔女因子が大きく検出された人がこの屋敷に集められてきたのだろう。
恐らくそれが度々起こる失踪事件の概要と考えるべきだ。
(しかも失踪事件の被害者が見つかっていないことを考えるに、誰もこの屋敷から逃げられていない。
...いや寧ろ全員ここで死んでいる、と考えるべきか?)
少なくとも今の時点で僕たち以外の人間をこの屋敷で見ていなかった。
もしかしたら単に会わなかっただけかもしれないし、こことはまた別に収容する施設があるのかもしれない。
だが、楽観的な考えよりも嫌な考えの方が強く前に出てきてしまっていた。
僕は一度落ち着くため、周囲の少女たちの様子を伺う。
誰もが不安や混乱、怒りや無理解といった感情に押し潰されている......何故か目を輝かせている橘さんを除いて。
「ちなみに看守は昔ここに収容された者が魔女になってしまった『なれはて』です。
魔女は処刑されるのですが、与しやすい者はマインドコントロールで私の命令に従うようになっています。
もしも逆らったら殺すように洗脳してしまったので...すいません、逆らったら死んでください」
(死んでください、とはまた随分と直球ですね...。
『なれはて』...逆らうのは避けた方が無難か)
ゴクチョーの言葉を聞いて、周囲の空気が重くなる。
自分たちは危険な存在になる、これから先の人生をこの屋敷で過ごす、そして自分たちの末路が今目の前にいるのだ。
空気が重くなるのも当然だろう。
しかし、そんな中一人の少女...二階堂ヒロと名乗った少女が一歩前に出た。
「間違っています、私は悪ではない。
災厄を招く危険な存在はこの子の方だ」
二階堂さんはそう言って指をある方向に向ける。
その指の先には二階堂さんに突き飛ばされていた少女、桜羽エマさんに向けられていた。
彼女は息を飲んだ様子で縮こまっているが、全体的に白い少女、氷上メルルさんに支えられている。
捕らえられた少女が、もう一人の少女を告発する...そんな状況に周囲の空気は張りつめていた。
そんな空気を無視してゴクチョーは心底面倒くさそうなため息を吐きながら二階堂さんを説得している。
しかし、僕は周囲の少女たちとはまったく別のことを考えていた。
(二階堂ヒロ......聞いた覚えのない名前...の筈ですよね?
彼女とは、何処かで会ったことがあるような...)
二階堂さんとは今日初めて会った...その筈だ。
彼女の容姿も声も僕には一切覚えがない。
だというのに何故彼女と初めてあった気がしないのだろうか。
そうやって記憶を掘り返す中、僕の意識は一気に現実に引き戻されることになる。
二階堂さんが突如、暖炉脇に立てかけられていた細長いものを手に取ったからだ。
(火かき棒...いえ、今気にかけるべきはそこじゃない。
今は二階堂さんの視線の先が問題ですね)
火かき棒という凶器を握った二階堂さんの視線は、桜羽さんに向けられていた。
彼女の瞳は濁っており、これから何をする気なのかが嫌でも分かってしまう。
部屋の張りつめた空気が今や悲鳴を上げているようにすら聞こえていた。
そして、二階堂さんが火かき棒を握り直し勢いよく床を蹴ろうとする────
「待ってください二階堂さん」
「!?っ君は...?」
その直前、僕は二階堂さんの腕を掴んでいた。
急に腕を掴まれ、勢いを殺された彼女の瞳が驚きの色に染まる。
しかし、驚きという意味では僕だって同じことだ。
誰がどう見ても危険な状況、そもそも凶器を手にした人物に自ら近寄るなんて愚行もいい所だ。
だというのに僕の身体は勝手に動き、二階堂さんを止めている。
自分でも理解できない行動に混乱しながらも、何とか声を絞り出す。
「今誰を狙っていたのかは聞きません。
ですが、今暴れたところでそこの看守に制圧されて終わりでしょう。
その時、あなたの命があるとは限りませんよ」
「...忠告には感謝する。
だが、私は間違いを正さなければならない。
邪魔をしないでくれるかな」
「っ...ですが───「聞こえなかったかな」」
「邪魔をしないでくれ、と言ったんだ!」
「え...う、わ!?」
静かに圧をかけられ、一瞬それに気圧される。
それでも何とか声をかけ続けようとするが、彼女は僕の遮って大きく掴まれた腕を振るう。
すると次の瞬間、僕は強い浮遊感と共に投げ飛ばされていた。
急な状況の変化に驚き声を上げるが、それからすぐに背中に強い衝撃が走る。
「っ...!!
痛ぅ...一体何が...?」
白と黒に点滅する視界、身体に響く鈍痛を感じながらなんとか意識を持ち直す。
そして真っ先に視界に入ってきた光景を前にして僕は言葉を失った。
そう、二階堂さんが手に持った火かき棒で看守を殴り倒す...そんな光景を目にして。
「なっ...」
「悪は死ね!死ね!!死ねぇ!!!」
二階堂さんは半狂乱の状態で火かき棒を振り回す。
殴られた看守からは血肉が飛び散り、骨を砕く音が響き、カーペットや二階堂さん自身も赤く染め上げていった。
この場にいる誰もが声を上げられず、ただ惨劇が繰り広げられる。
しかし突然始まった惨劇の終わりは、始まりと同じように突然だった。
火かき棒で原型を留めないほどに身体を崩されても死んでいなかった看守、その手に握られていた鎌の一振りによって二階堂さんの首と胴体は両断されてしまったのだ。
「────」
切り落とされ転がる首、頭部をなくしても立ったままフラフラと揺れる胴体、静寂に包まれる空間。
その静寂は揺れていた胴体が倒れた瞬間に決壊した。
甲高い悲鳴が部屋に響き渡る。
僕も他の少女たちと同じように呆然としていた。
(......死んだ?
あの一瞬で?
あんなに...あっけなく...)
別に人が死ぬのを見るのは初めてではない。
しかし、それは決して慣れたわけではないことを今こうして痛感させられた。
だが、ゴクチョーにとっては僕たちの様子など気にするようなことでもないらしい。
二階堂さんに殴られた様子もなく、最初と同じ姿に戻っていた看守に掃除を命じていた。
「あぁ言い忘れていましたが魔女はこの程度では死にません。
彼女は魔女ではないと証明されましたことになります、良かったですね」
(良かった....?
あのフクロウ...口調が穏やかなだけで看守と似たり寄ったりのバケモノですね)
「──あっ、あと一つ大切なことをお伝えしておきます。
魔女になりつつある者は、抑えきれない殺意や妄執につかれてしまいます。
面倒なことに、いずれこの屋敷で殺人事件が起きるんですよ」
「殺人...事件」
ゴクチョーの説明を聞いて皆の顔を見回す。
殺人事件というのなら犯人は当然、この中の誰かがなるということだ。
しかも説明を聞く限りその事実からは逃れようがないようにも思える。
(いつ、誰に襲われるかも分からない状況で情報収集を...?
難しいどころの話じゃないですよ、父さん...)
「ですが皆さんも殺人を起こすような危険人物とは一緒に生活できませんよねぇ。
なので殺人事件が起こり次第、『魔女裁判』を開廷します。
裁判で魔女になった囚人は...その......処刑しますので。
詳しくは『魔女図鑑』を見といてください」
そう言い残してゴクチョーは部屋の通気口の中へと飛んで行ってしまった。
少女たちは先が見えない不安に表情を暗くし、僕もまたこれからの動向に意識を走らせる。
暫くの間、誰も動く事が出来なかった。
* * *
僕たちが動けない間、看守は死体の片づけに勤しんでいた。
部屋のあちこちを行き来しながら緩慢な動作で徘徊する。
そんな中、恐怖に耐えかねたのか紫藤アリサと名乗った少女が部屋の出口に向かって走り出した。
(!っそれは悪手でしょう!)
僕が胸中で叫んだ通り、看守は逃亡者を猛烈な勢いで追いかけ始める。
そして当然その手には未だ赤く濡れた鎌が握られていた。
再び訪れる悲劇を予感して、少女たちは悲鳴を上げ目を覆う。
「待ちたまえ!」
堂々とした声が響き、部屋にいた全員の視線が声の主に集まった。
声の主である蓮見さんは携えていたレイピアを抜き、看守と紫藤さんの間に割って入っていた。
しかし、看守にはまったく止まる様子が見られない。
看守は大きく鎌を振りかぶり、紫藤さんを庇う蓮見さんごと切り裂こうとする。
そんな中、僕は痛む身体を動かしてある少女の腕を掴んだ。
「待ってください、桜羽さん。
今動いても危険なだけです」
「えっ!?
で、でもレイアちゃんたちが...!」
「えぇ、分かっています。
その上で言わせてもらいますが、二人を庇えばあなたも死にますよ」
「っ...!」
看守が鎌を振り上げるのを見て、咄嗟に動こうとした桜羽さんの腕を掴んで止める。
それでも動こうとするのを強い語気で抑えた。
彼女も先ほどの二階堂さんの末路を思い出したのか顔を青くして抵抗をやめる。
僕はそれを確認してから蓮見さんたちに視線を向けた。
どうやらあちらはあちらで振るわれる鎌を躱したようで、二人とも怪我を負った様子は見受けられない。
「あちらは大丈夫みたいですね」
「良かった...」
桜羽さんと共に安堵の息を吐く。
どうやら看守も本気ではなかったようで、蓮見さんの訴えを聞いてか元の作業に戻っていった。
そして看守が片づけを終えてから蓮見さんが皆の中央に立って話し始めた。
「私たちはこれから共同生活を強いられることになるようだ。
いつまで続くのかは分からないが、今は大人しく従おう」
そう言って蓮見さんはこれからの生活についての方針を皆に伝える。
看守には逆らわないようにする、このような決まりを筆頭に『魔女図鑑』に記されているルールを遵守するようにと。
僕もその意見には概ね賛同している。
しかし、紫藤さんは違ったようで苛立ちを隠さないままに一人で部屋から出て行ってしまった。
蓮見さんはそれを見て肩をすくめ、残った皆に呼びかける。
「アリサくんは行ってしまったね...。
他のみんなは協力してくれるだろう?」
「ボクも...嫌だ。
ヒロちゃんを殺したあいつらに従うなんて嫌だ!」
蓮見さんの提案を断わったのは意外にも桜羽さんだった。
彼女はこのような場で反対するような性格には見えなかったのだが、その瞳には涙と共に怒りが滲んでいる。
どうやら二階堂さんとは顔見知りだったようだ。
しかしこうなってくると少し面倒なことになってくる。
桜羽さんの宣言を皮切りに、橘さん、遠野さん、氷上さんの三人が一緒に行動すると言い始めた。
そうなると残りの蓮見さんを始めとする七人とは別行動を取ることになる。
つまりは囚人間でグループが二分してしまったのだ。
(はぁ...面倒なことになってしまった...。
どちらかのグループに加わってしまえば、もう片方のグループとは接する機会が減るかもしれない。
そうなると信用を得るのが難しくなりそうですね。
......というか分裂するのが早すぎるでしょう)
「イオリくん、キミはどうするんだい?
どちらを選んだとしても、私は否定はしないよ」
「...そうですね、僕は────」
考え込んでいる様子を目敏く見られてしまい、蓮見さんにどちらに同行するか確認されてしまう。
一気に考える時間が制限されてしまった。
僕は咄嗟に頭を回転させ、答えを選ぶ。
「すみません、まだ頭が混乱していて答えが出そうにありません。
それに先ほどぶつけた背中が少し痛んでしまって...出来れば早めに休みたいのですが...」
「あぁ、それは大変だね。
そういう理由ならすぐにでも休むべきだ、一人で戻れそうかい?
それが難しいようなら手伝うよ」
「ありがとうございます。
ですが大丈夫ですよ、戻るぐらいなら一人でも問題ありません」
僕が選んだ答え、それは引き伸ばしだった。
今関わる人を制限するべきではない、そう判断したが故の保留。
どっちつかずの対応は心象的にもよくない結果を招くこともあるが、背中の痛みを理由に何とかこの場を脱することに成功する。
そして一人で部屋...というより牢屋に戻ってきた僕は二段ベッドに寝転がりポケットに入っていたスマホ────その中にある『魔女図鑑』に目を通していた。
「牢屋敷の規則に地図、それに皆さんの情報と随分と数がありますね。
はぁ...全部把握しておくとなると少し面倒くさそうだ」
そうため息を吐きながら規則に目を通してある部分に目をつける。
それは規則の監房滞在の欄、そこにはこれからの行動を考えるに重要なことが書かれていた。
「自由時間以外は自らの監房で過ごすこと...時間外に監房外で見つかった場合二日間の懲罰房行き、ですか。
やはりこういったペナルティはありますよね。
懲罰房で何をされるのかが分かるまで時間外に出歩くのは避けた方が無難、か。
まぁ、今の背中の痛みじゃ好きに探索することも難しいですけど」
自由時間以外を監房以外で過ごすことのペナルティ、僕が気になったのはそこだった。
別に看守やゴクチョーに気づかれないように動く事は僕にとってさほど難しくはない。
だが万が一、ということもある。
「信用を得て、情報を集め、出来ればペナルティの細かい内容を調べる...やることが多いなぁ」
そう呟きながらイヤリングを手に取る。
父さんとの最後の『繋がり』を手の内に感じながら、小さく笑った。
ついさっきあれだけの惨状を見ておきながら、未だに僕は父さんからの指示に従っている。
己の歪さに嘲笑を零しながら、僕の意識は微睡みに沈んでいく。
(そういえば...どうしてあの時桜羽さんの腕を掴んだんだろう。
二階堂さんとは違って何処かで会った気もしなかった筈なのに...)
ふと、小さな引っ掛かりが頭の片隅に出来ていた。
その疑問の答えを出す前に、意識は完全に暗闇に落ちて行った。